スタメンはこちら。
【前半】
奇策の狙いとは?
プレミア勢のCLの航海は困難を極めたスタートになった。クロップはアトレティコのど根性の前に屈し、モウリーニョは「空のピストル」でライプツィヒに立ち向かうハメになった。ランパードはバイエルン相手に終始自分たちの色を出せず、ホームの観客を落胆させてしまった。ノックアウトラウンドのプレミア勢はここまで勝ち点はおろか、得点すら取れていない状況だ。
そんなプレミア勢の最後に登場することとなったのがグアルディオラである。彼がレアル・マドリー相手に選んだ戦い方は一風変わったものだった。現地の予想フォーメーション通りの並びで挑んだのは初め1-2分だけ。その後は下記のフォーメーションで挑んだ。
ジェズスのサイド起用+ベルナルド、デ・ブライネのトップ起用のコンボというだから驚きである。「引き出し多いんだなぁ。どれだけのパターンを仕込んでいるのだろう。」と思っていたら、選手も戸惑っていそうだったのは笑った。
さて、奇策について重要なのは狙いである。というわけでグアルディオラがどういう狙いをもってこの4-4-2を放り込んだのかを想像してみる。大元にあったコンセプトはおそらく「マドリーのCB陣との勝負を避ける」ことではないかと思う。この試合のマドリーのプレスはオールコートマンツーマンといっていいハイプレス。シティはこれまでオールコートマンツーマンが来るチームに対しては、前線が広い範囲で躍動できるというメリットを生かすことに終始してきた。エデルソンを起点にスピード豊かなアタッカー陣をダイレクトに生かせるぜ!という考え方である。
しかし、マドリーのCBはセルヒオ・ラモスとヴァランのコンビ。アンカーのカゼミーロまで合わせれば、ピッチの上の大体のことを理不尽さでお掃除できる凶悪ユニットである。そういう意味ではレアル・マドリー側のハイプレスでのアプローチは理に適っている。ハイプレスでシティが長いボール蹴りこんでくれば、かなりの確率で後方の選手が処理できると踏んだのだろう。シティが欲しい前での優位を取り上げる形だ。
そこで冒頭の配置転換である。デ・ブライネを中央において、降りてきた位置で起点とする。ラモスが引いてくれば、その裏を斜めからジェズスが強襲する。これにより、ジェズスが対峙するのはヴァラン1人。凶悪ユニット祭りよりははるかに負荷は軽い。
ダイレクトにゴールを陥れるシティの左サイドに対して、右サイドはマフレズが絞り、ベルナルドが流れることでポジションチェンジ。CBの基準点を乱す試みである。
この試合でアグエロを使わなかった理由はいくつか考えられる。デ・ブライネのポジションはおとりになるので、何よりここから次の勝負に移るための展開力が最重要。低い位置でも仕事ができるデ・ブライネのが適当そうだし、ベルナルドは右とのポジションチェンジも多く、中央で勝負する役割ではない。ストライカータスクのジェズスは非保持では4-4-2のサイドハーフとして守備に汗をかいていたし、アグエロにこれを求めるのはいささかハードすぎる気もする。というわけでアグエロを使わない理由は何となく腑に落ちないこともない。
試合を見て思いついた自分なりのシティの奇策の解釈はざっとこんな感じである。ただ、あくまで奇策は奇策である。基本的にはこの試合はマドリーの思うように試合は進んでいた。ジェズスが斜めから切り込むような動きでゴールに迫った機会はほんのわずか。右に流れるベルナルドとマフレズのポジションチェンジにはマドリーが落ち着いて対応しており、マドリーを常に苦しめたとは言い難い。
【前半】-(2)
優位をもたらした恒常的な数的有利
シティにとってより困難だったのは非保持の局面である。4-4-2でマドリーの4-3-3相手にどうビルドアップを阻害するか?という問題にシティは直面した。マドリーのビルドアップは2CB+1である。中盤から手助けに降りてくる選手はアンカーのカゼミーロか、右のインサイドハーフに入ったモドリッチが多かった。
右サイドはモドリッチが落ちてプレーする機会が多い分、WGに入ったイスコがスライド。バルベルデと並ぶようにして中盤のボール回しに加わる。これでマドリーはシティのCH2枚に対してイスコ、バルベルデ+モドリッチorカゼミーロという3枚を用意できることになる。
ベンゼマを加えた中央のパス回し以上に、ビルドアップの終着点になったのは左サイドに張るヴィニシウス。対面するウォーカーはなんとか対応していたが、それに伴って空くSB-CB間のカバーなど、シティはかなり右往左往しているように見えた。
試合が進むにつれ、中に絞るヴィニシウスのスペースメイクによって、大外からメンディがクロスを上げられるように。エリア内のベンゼマやヴィニシウスに向かう彼のクロスからは数回の決定機が生まれた。
シティはビルドアップ阻害で後手に回った上に、本来得意じゃない撤退型4-4-2で迎え撃つ局面が続く状態に。攻撃では広いスペースでマドリーのDFにつぶされる展開が続くし、自分たちのスタイルであるショートパスでもミスからマドリーにカウンターを食らう状態が続くことになる。この試合だけでいえば、シティの奇策はマイナスの面の方が大きかったように見える。
30分が過ぎたあたりからはシティがボールを保持するとジェズスがデ・ブライネとポジションを入れ替えるシーンが出てくる。この移動ででデ・ブライネがハーフスペース付近で受けられる機会が増加。攻撃的な選手が降りてくる機会の増加に合わせて、徐々にシティがボールを運べるシーンが増えてくる。長いレンジのパスでマドリーのDFユニットを一気に飛ばすのがシティの初めの狙いだとしたら、出し手の1人であるラポルトが負傷交代になってしまったのはシティにとって痛手。シティの選手の動きが増えてきたのは、この選手交代も一因である可能性もある。
両チームとも決定機は数回。マドリーの方が頻度は上だったが、共にネットを揺らすことはできず。試合はハーフタイムを迎える
【後半】
高い自由度の功罪
シティのキックオフはおなじみのウォーカーへのロングボールでスタートする。スタートポジションはジェズスが左になった4-4-2を維持。ただ、後半頭は前半とは異なり、マドリーのビルドアップをシティはハイプレスでつぶしに行くようになった。こちらの方がブロックで構えるよりはシティっぽいふるまいである。
まったり守っていたシティがプレスの積極性を上げることで試合のテンポはアップ。中盤はデュエルが頻発するようになる。ハイプレスで試合を進めていたマドリーにとってトランジッションが増えるような展開がありがたかったかはわからない。中盤は軽量級が多いし、モドリッチやバルベルデは実際に後半の早い時間に警告を受けていたし。
のんびり持てる状態ではシティは再び長いレンジのパスを狙うように。パスを受けに降りてくる動きは減り、前線の選手は一気にゴールを陥れることを狙っていく。ひょっとすると、前半の終盤、相手陣に押し込んだ後のマドリーCB陣の守りの堅さを見て、やはり一気に攻めて切った方がいいと考えたのかもしれない。後半の抜け出しの主役はジェズスではなくマフレズで、クルトワに冷や汗をかかせるようなシュートに行けたシーンもあった。
そういった中で先制点の分かれ道になったのはミスである。低い位置でのシティのパスミスをかっさらったマドリー。ヴィニシウスのドリブルから一気に攻め立てると、最後はイスコ。ここまでの試合を優位に進めていたマドリーが、シティのミスからショートカウンターで先制する。オタメンディはもう少しパスに愛がほしいシーンだった。
後半のマドリーについてちょっと気になったのは、イスコのポジションの自由度が上がっていたこと。前半は左右のサイドの高い位置に顔を出す程度だったのだが、後半は左右問わず低い位置でビルドアップに顔を出すようになっていた。後半頭からのシティのハイプレスを受けてのことかもしれないけど。
非保持においても、イスコはWGかトップ下かわからないようなファジーなポジションを取ることもあり、攻守にポジションのフリーダム感が増した印象である。モドリッチとバルベルデが左右を入れ替えたのも、イスコが留守にする右サイドをバルベルデの方がうまく走りこんだりして使えるし、守備のカバーもできるという考えからかもしれない。
シティの同点シーンは、そのマドリーの右サイドを崩したところから。カルバハルの裏を取ったのは交代で入ったスターリング。ヴァランを引っ張り出すと、ニアに走りこんだデ・ブライネにパス。エリア内でラモスと対峙するジェズスに点で合わせるクロス。手法が適切だったかは別だけど、とりあえずエリア内でマドリーCB2人まとめてとの勝負を避けるという、前半のシティの奇策のコンセプトは正しかったんだろうなと思う。このシーンはデ・ブライネの点で合わせるクロスがやばいけど。
そして、シティの2点目もマドリーの右サイドを崩されたところから。スターリングがカルバハルとの1対1を制した格好だが、ここへのパスルートを見るとやはりマドリーの中盤の陣形がいびつなように見える。ロドリ、デ・ブライネにはプレッシャーがかかっておらず、あまりにも簡単に1on1の舞台を受け入れてしまったように見える。イスコの位置がやや内側に入っている分、3センターの距離が遠くなり、ロドリとデ・ブライネに簡単に間で受けることを許してしまった印象だ。
この日最後の大きな出来事はもちろんセルヒオ・ラモスの退場である。この日数回あったカゼミーロの軽率なパスミスに加えて、慌てて出ていきあっさり交わされたヴァランのツケをラモスが払った印象。2ndレグに向けてマドリーは手痛いダメージを負うことになったし、退場を誘発したジェズスは殊勲の活躍といえるだろう。
試合はそのまま終了。ベルナベウで2つのアウェイゴールで逆転勝ちを収めたシティが突破に向けて一歩前進した。
あとがき
■2つのツケが敗戦に直結
試合の多くの時間を優位に進めながら、敗れてしまったマドリー。攻撃面で核となる働きをしていたヴィニシウスを下げたことも推進力が最終盤に物足りなくなった一因ではあるだろう。しかしながら、失点に関しては徐々に自由度を増していったイスコ起点の歪みが、スターリング投入で爆発してしまったような印象を受けた。ここの手打ちが遅れたのも、この日のジダンの采配について議論するポイントになりそうだ。
2失点目はこの日複数回見られたカゼミーロのパスミスから。カゼミーロ、ラモス、ヴァランの3人をどう乗り越えるか?はマドリー攻略における重要なミッションだと思うのだが、この日のカゼミーロはパスミスで自らがフィルターになれない状況を作り出してしまうことが何回かあった。その最後の一回がラモスの退場につながった形だ。ゆがんだ右サイド、軽率なミスの繰り返し。この日の2失点は、そこまでの試合で見られたマドリーの気になる部分のツケを払ったように見えた。
■我慢を利かせた立役者
奇策がうまくいったか?はさておき、2ndレグに向けて十分すぎる結果を手にしたシティ。ラポルトの負傷も相まって立ち上がりはどうなるかと思ったが、なんとかうまくまとめることができた。苦しかった前半に踏みとどまれた要素の1つはウォーカーの存在だろう。好調のヴィニシウスを向こうに回して、大きく決壊しなかったのは彼の対人能力の高さのおかげだ。カバーリングも含めて、今季故障者続出のシティの最終ラインを支えている。異端な仕事を任されたジェズスもこの日のヒーローである。アグエロの陰に隠れることも少なくはないが、彼とは異なるやり方で存在感を示した日となった。
苦悩が続くプレミア勢の中で唯一笑顔で1stレグを終えることができたグアルディオラ。びっくりの奇策はそこまでハマらなかったものの、見ている側としてはわくわくできたのは確か。シティファンはたまったものではないかもしれないが、外野としては2ndレグでどんな仕掛けを施すのか今から楽しみである。
試合結果
UEFA Champions League
Round 16 1st leg
レアル・マドリー 1-2 マンチェスター・シティ
エスタディオ・サンチャゴ・ベルナベウ
【得点者】
RMA: 60′ イスコ
Man City: 78′ ジェズス, 83′ デ・ブライネ(PK)
主審: ダニエレ・オルサト