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【前半】
割り切りのスライドで完成度アップ
どこで話したかは覚えていないが、自分は今季のプレミアの注目ポイントの一つとして「ビック6とそのほかのチームの差が縮まっているかどうか?」を挙げた記憶がある。この問いの答えはすでに明白。ビック6という言葉は今季で死後になるかもしれない。あるいは便宜上言葉としては残ったとしてもそれが「本当に強い6チーム」という意味合いとは異なるものになるだろう。
そんな死にゆくビック6のなかでは新興勢力なのが今回対戦する両チーム。彼らが4強時代に風穴を空けたことで誕生したのがビック6。昨季のCLでの直接対決に加えて、モウリーニョとグアルディオラの再会となると若干因縁のようなものが出てきた感のあるカードである。
モウリーニョ×グアルディオラのカードでは常にボールはグアルディオラのチームの手元にあった。この試合でもそれは同じである。まずはシティのボール保持から試合は幕を開ける。シティの4-3-3に対して、スパーズのプレス隊は2枚でボールホルダーとロドリを監視する形を選択。ボールサイドが変われば、ロドリ番を変える形でアンカーに常にボールを入れさせないように気を配る形にした。
リバプール戦ではイマイチに思えたスパーズの4-4-2だが、この試合ではより整理されているように見えた。捨てるスペースと塞ぐスペースの取捨選択がだいぶ理にかなったように見えた。
シティのやり方は後述するが、ざっくりいうと左ハーフスペースを中心に密集を作る形だったので、中盤も含めてそこにスライド。逆サイドはある程度捨てるというやり方であった。
4-4-2のセントラルとしてはひ弱に思えたウィンクスとロ・チェルソの組み合わせだが、シティの攻撃のメカニズムにも頑張ってくらいついていたように思う。17分のロ・チェルソのボール奪取とか、うまくポジションとっているのが活きていていい感じでした。まぁ、このコンビで通用したのは、シティの中盤がフィジカルに長けたタイプではないということもあるだろうけども。
ただ、ボール保持の局面はふわふわしていたスパーズ。ウィンクスから時折ラインを超えるパスは出るものの、その後ろからは効果的な配球は行われない。前線もケインがいないことで流動性は高まっているのだが、ポジションを入れ替えたりボールを受けに降りてくる動きをした先に何を見ているか?の点では同じ画を共有しているようには見えず、感覚を合わせるのに苦労しているように見えた。
何も考えなくていいカウンターは相変わらず鋭かったし、ボール保持で前に出てきてくれるシティ相手ならばそれで何とかなるのもまた事実。フィニッシュに近いところプレー選択がイマイチという問題はあったけども、基本的なやり方としては対シティとして効果的なものを選択したように思う。
【前半】-(2)
密集の左、孤高の右
さて、シティである。この日、目についたのはまずはアグエロの動き。ここ最近シティの試合は見れていないので、この試合に限ったことではないのかもしれないが、非常に中盤に降りてくる頻度が高かった。その降りてくるアグエロを組み込んだ攻撃の形として多く見られたのは左のハーフスペースを使う多角形形成。比較的時間を与えられたフェルナンジーニョからギュンドアンにパスが入ると、そこを頂点にアグエロ、スターリング、ジンチェンコで四角形を形成。
もちろん、これは一例。後方からフェルナンジーニョが押し上げてきたり、パス交換を繰り返すうちにマークから解き放たれたロドリが流れてきたりして多角形の一角を担うこともあった。こうなった場合はギュンドアンが押し出されるように前に出たり、スターリングが外に出たり、頂点の数をそもそも増やしたりなど変化は自在。形は変化するが、左のハーフスペース付近に密集して短いパスをつなぎながら、抜け出してチャンスメイクを狙いたい!というコンセプトはこの試合の序盤のシティの一貫した狙いだったように思う。21分のアグエロの抜け出しとか、こういうことをやりたいんだろうなっていう感じである。
もちろん、シティなのでそれ以外にも上乗せする要素もある。密集して左サイド側にスパーズを寄せておけば、右には大きなスペースができる。マフレズへのサイドチェンジで広いスペースでタンガンガとの1対1というのも、シティにとってのやり方の1つ。マフレズはタンガンガ相手に連戦連勝というわけではなかったが、デ・ブライネやウォーカーと連携しながら、エリア内で勝負するところまではこぎつけていた。時間が経つにつれて多角形よりもこちらのやり方の比重が高まっていった印象。徐々にお得意の大外+ハーフスペースの走り込みorマイナス方向へのカットインなどのシーンが増えていく。前述のとおり、スパーズの守備はそこまで悪くなかったと思うので、ここはエリア内に迫る手段を豊富に持っているシティを素直に褒めていい部分なのではないだろうか。
試合が動いたのは35分過ぎから。この試合で一番のロリスからフィードを起点に先にチャンスを作りかけたのはスパーズ。しかし、すぐにひっくり返したのはシティ。スパーズのミスも手伝って、ゴールに迫るシーンがふえてきた時間帯。最大のチャンスであるPKはギュンドアンが決められなかった。2つのPKをめぐる判定で最後はやや小競り合いが増えてきた印象。VARからの介入、もう少し早いタイミングでできなかったかね。
試合はスコアレスでハーフタイムを迎える。
【後半】
シティ痛恨のショートコーナー
PKのシーン以降はわちゃわちゃしたが、ハーフタイムを挟んで落ち着きを取り戻した両チーム。特に静的な印象を受けたのはスパーズの振る舞いで、前線のプレス隊の位置を一段階下げたように見えた。これによりシティのCBはノープレッシャーになるものの、逆に人口密度が高まった多角形での崩しはやや難しくなった印象である。というわけでシティは徐々にマフレズへの依存度が高まっていく。ウィンクスがサボらずタンガンガのカバーに入る姿が印象的だった。
したがって試合のテンポとしては前半よりもややスローになった印象の後半の立ち上がり。時折展開が早くなる場面はトランジッションの局面から。互いのミスも前半よりは若干増えた印象で、パスミスや連係ミスからのチャンスもそこそこあった。
典型的な例は48分。裏抜けの処理に出てきたロリスとタンガンガの交錯からシティにボールが渡った一連のプレー。ゴールが無人の時間は結構長かったが、最後のクロスに飛び込んだギュンドアンのシュートは大きく外れてしまう。まさにこの試合のシティを象徴するようなシーン。いい崩しを見せて前半からクジを引く機会を多く得ていたシティだったが、どのクジも当たりではないといった具合だった。
当たりを引けないシティ。ジェズスの投入でフィニッシュ局面の強化に動こうとしている矢先に試合は急転直下。ショートコーナーを読み切ったウィンクスがボールを奪取して独走のカウンターが発動。警告を受けていたジンチェンコがこれを止めて退場になる。
確かに思わず止めてしまう場面といえばそうなのだが、ジンチェンコの前で(警告を受けていなかった)ギュンドアンが止めきれなかったこと、最後尾にすでにカードをもらっているジンチェンコをおいてしまったこと、起点となってしまったショートコーナーのミスなどいくつかやりようがあった点は悔いが残りそう。ジンチェンコ自身のしょうもない1枚目の警告(PKのわちゃわちゃのくだりで受けたもの)も考えればシティファンはやり切れないだろう。
逆にスパーズは好機1つと引き換えに、相手をうまく10人に追いやったという表現がぴったり。抜け目なくボール奪取して警告を誘ったウィンクスはこの試合の立役者の一人である。波に乗るスパーズはここから先制点。ベルフワインがホームのファンに盛大な新加入のご挨拶をして見せた。
10人になり、先に当たりクジを引かれてしまったシティ。アグエロ→カンセロを投入することで後方ブロックの枚数は維持することを選択。中央にはスターリングが移動し、ギュンドアンは左サイドとインサイドハーフの兼任のような形になる。そうなるといよいよ本格的に崩しはマフレズ頼みの右偏重になる。スパーズも守りどころとしてしっかりマフレズを複数人で捕まえていたので、この時間帯のマフレズは非常に厳しいことになっていた。
交代で入ったエンドンベレも効いていた。中盤のフィジカル要素が少なめだった試合において、彼の登場はシティサイドにとってめんどくさかったかもしれない。そのエンドンベレが追加点の立役者。ラメラへの楔を予測して前に出てきたオタメンディをあざ笑うかのように裏抜けするソンにボールを送り、ゴールをアシスト。試合展開を考えると決定的な2点目が入る。
このまま、試合は終焉に向かうのだが、ゲームクローズは少しわちゃわちゃしたスパーズ。マフレズ→ジェズスの交代で右偏重がなくなると、徐々にシティにチャンスができ始めたのは面白い。スパーズとしては、終盤完全にメルトダウンした感のあったオーリエと軽率なパスミスを繰り返したロ・チェルソが非常に目についた。カンセロが決定的な仕事ができれば、もう一段鋭い反撃になっていたかもしれない。スパーズには試合のテンポを制御するプレイヤーもおらず、シティから数的不利を感じさせない反撃を受けていた。もっと楽に試合を着陸させられたはずである。
それでもクリーンシートで勝利をつかんだスパーズ。試合終了直前に不敵にほほ笑んだモウリーニョが印象的であった。
あとがき
■全てを決めるCLへ…
敗れてしまったシティだが、試合内容としては悪くはなかった。グアルディオラの試合後のコメントからしても選手たちのパフォーマンスを称賛しており、内容に関しては一定の評価を与えているように思える。目下の目標であるCLに関してもレアル・マドリーの出来を考慮すれば、ある程度チャンス創出はできると考えるのが自然だろう。今のマドリーがシティを完璧に封じ込めるのは難易度がかなり高いように思える。
ただ、チャンスは作るもののいかんせんゴールが遠い。これで2試合連続のスコアレス。グアルディオラがシティの監督に就任してからは初めてのことである。グアルディオラは選手たちを称えると同時に「It’s difficult to find a solution. What do we have to do? I don’t know.」と述べている。こちらはもはや称賛ではなく嘆きである。
シティは未だに強いチームであると思う。しかしながら、ブロック守備やネガトラなどわかりやすい弱点を抱えたまま、今季ここまで進んでいるのも事実。ストロングポイントである攻撃で点が入らなければ、CLでも同じことを繰り返す可能性がある。仮に今季もCLでしくじれば、いくら内容がよくても、グアルディオラとともにもう1周サイクルを回す気概が選手やフロントにあるかは微妙なところ。シティの今季のCLの結果は向こう数年の運命を決めるものになるかもしれない。
■課題を乗り越える勢いをつけられたか
CL権確保に向けて大きな一勝を挙げたスパーズ。リバプール戦と比べれば、ブロック守備の精度は確かに上がったが、水を漏らさないブロックとまではいかず、シティにチャンスを多く作ることは許してしまっていた。
それでも今のスカッドの状態を考えれば、全力を尽くしてシティに立ち向かったというべきだろう。ゲームクローズの拙さには課題が残るし、コンビネーションに目を光るものがまだ見えてこないケイン負傷後の前線はまだまだ組み合わせを模索し続けることになるはず。それでも要所の踏ん張りで勝利をモノにしたパフォーマンスは選手の自信になりそうだ。
冒頭でグアルディオラ×モウリーニョと銘打ったが、この試合では2人の対立構造はほとんど見られず。それぞれのコミカルな振る舞いは往年のバチバチした対立構造が嘘のようだった。特にモウリーニョは試合中の振る舞いがやや柔和になったようにも映る。
そんなことを思いながらモウリーニョを眺めていた矢先の3枚目の交代カード(ルーカス→ダイアー)には笑ってしまった。バス止める気満々じゃん。全然変わってないところもまだまだあるじゃん!って思った。ちょっと騒がしくなった試合において彼がピッチに送るメッセージはかつてと変わらず非常に明白だった。
両チームが人事を尽くした結果、自陣に転がってきた天命をつかんで離すものか!という姿勢を見せたスパーズ。天命をつかむという表現が一般的に正しいのかはわからないが、「天命を受け入れる」よりは「天命をつかむ」という表現の方がモウリーニョらしいのだろうなとも思う。
試合結果
プレミアリーグ
第25節
トッテナム 2-0 マンチェスター・シティ
トッテナム・ホットスパー・スタジアム
【得点者】
TOT: 63′ ベルフワイン, 71′ ソン
主審: マイク・ディーン