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「『果たし状』で飲み込んだ雰囲気」~2020.3.1 ラ・リーガ 第26節 レアル・マドリー×バルセロナ レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
バルベルデとカゼミーロのカバー範囲

 首位攻防戦となったベルナベウでのエル・クラシコ。マドリーはシティとの試合を終えてから3日、中4日のバルセロナもナポリ遠征帰り。共にCLを戦った直後というタフなタイミングでの対戦となった。まぁ、どちらか一方だけというよりはフェアなのかもしれないけども。

 CLのシティ戦でマドリーが見せたオールコートマンツーマンは、国王杯でのクラシコがベースになっていると風のうわさで聞いた。となると、この日のマドリーもそのやり方で臨んでくる可能性はあるはず。まずはマドリーがどう入るのか?が注目ポイントだった。結論から言えば前半のマドリーの守り方はオールコートマンツーマンではなかった。

 最もマンマークの要素が全くなかったわけではない。マドリーはシティ戦からイスコとバルベルデの位置を変更した。イスコを右からセントラルに、バルベルデをセントラルから右に変更したのだが、右サイドハーフに入ったバルベルデはマンマーク色が比較的強い役割。

    イスコとバルベルデを入れ替えた要因の一つは負傷から復帰したジョルディ・アルバを放っておくわけにいかなかったからだろう。深い位置まで追いかけまわすことを命じられたバルベルデは時には最終ラインに組み込まれることもあった。マドリーの右サイドの守備は内に絞ってトップに張ることが多いグリーズマンはCBに任せて、デ・ヨングとアルバをカルバハルと協力して監視する形だった。

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 メッシが流れることが多い逆サイド側の守備はより手厚かった。盤面上は中盤中央のアンカーの位置にいるカゼミーロだが、ベースポジションは真ん中から少し左よりで、メッシが好むスペースをカバーする仕事だった。インサイドハーフのイスコとクロースがそれぞれアルトゥールとブスケッツなどを監視することが多かったため、このスペースの管理はカゼミーロに丸投げ。カゼミーロはこのスペースに入ってきた選手をつぶす役割だった。

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 カゼミーロが留守の場合はこのスペースをつぶす役割はラモスになる。こちらのサイドのSHのヴィニシウスが逆サイドのバルベルデに比べて戻りを厳命されていないのは、攻撃における役割の違いもあるだろうが、後方でケアしてくれるカゼミーロがいるからというものも無視できない要素だろう。

    逆サイドのDFラインの前のスペースは空っぽになることもあるので、カルバハルやヴァランが出ていくこともある。バルベルデが低い位置まで戻るのは最終ラインの頭数が足りなくなった時にカバーリングを行えるようするためかもしれない。

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 バルセロナ目線で見ると、ミッドウィークに戦ったナポリに比べればハーフスペースの管理はマドリーの方が厳しくはない。特に狙い目はバルセロナの右サイド側。IHもSHも戻りはナポリほど献身的ではなかった。ナポリ戦ではこのスペースがめちゃめちゃ狭かったため、メッシが右手前のブロックの外から出し手の役割を担い、ビダルが高い位置から裏を狙っていた。

  しかし、この試合ではメッシもビダルもDF-MF間のハーフスペースで受ける意識が強かった。おそらく、このスペースならば間で受ける余裕があり、十分起点になれるという判断からだろう。カゼミーロという化け物はいるが、スペースの広さ自体が彼1人ではカバーしきれない範囲になることもしばしば。バルセロナの攻撃はここでビダルやメッシが前を向いたことでスイッチが入る印象だった。

【前半】-(2)
テンポアップで流れを掴んだのは…

 非保持におけるバルセロナはこの日は4-4-2。自由なメッシがいる以上、この日の攻撃時のバルセロナの並びが4-3-3というのが正しいのかはわからないし、そこを特定にこだわる意味はないだろうけど、守備時は4-4-2の並びといっていいだろう。メッシとグリーズマンが前に残り、ビダルとデ・ヨングがSHを担う。マドリーに比べれば前プレには積極的。仮に抜けられてしまったらミドルゾーンで4-4ブロックを敷いて立て直しを図る。

 バルセロナが警戒していたのはマドリーの左サイドの深い位置。ちょうどクロースが落ちてゲームメイクを狙う前方位置である。今のマドリーのチャンスメイクの主役は紛れもなくヴィニシウス。マドリーとしてはここを使いたいし、バルセロナとしてはここを使わせたくないのは至極当然である。

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 クロースを封じてヴィニシウスへの供給源を絶とうとするバルセロナ。マドリーもバルセロナのWGまで進出したマルセロを使って、なんとかヴィニシウスへの供給ルートを確保しようとする。12分のようにパスワークでプレス回避に成功するケースもあったし、バルセロナの守備もマドリー同様盤石ではなかった。

 ヴィニシウスに加えて、トランジッション局面でのバルベルデの持ち運びもマドリーのカウンターのパターンの1つだった。この日のバルベルデは攻守にど根性だったぜ。ただ、攻めてくるが左にせよ右にせよ、マドリーの攻撃の問題点は攻撃を完結させたいPA内にベンゼマしか残っていないケースが非常に多いことである。

 したがって、バルセロナの方がより攻め込んだ時の迫力は十分であった。

 前半の風向きが変わったのは30分過ぎのこと。きっかけはレアル・マドリーが前目にプレスにいったことのように思う。時には前からのマンマークプレスが発動するときもあった。これによって試合のテンポは少し上がる。しかし、これによって歪みが出てきたのもまたレアル・マドリー。右サイドのバルベルデが低い位置を取るため空いてしまう前方のスペースをウムティティやアルトゥールが使い始める。

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 シティ戦でも見られたイスコの戻りが遅れる現象も手伝って、左サイドに寄っていたカゼミーロがカバーのために中央に徐々にシフトする機会が増加する。これによってカゼミーロのカバー範囲は増加。バルセロナが使いたいアンカー脇のスペースが広がっていくことになる。前をケアしなければいけない頻度が増えたマドリーのDF陣は、バルセロナに徐々に裏を取られだすパターンが出てくるようになる。

 マドリーもベンゼマのタメが徐々に効くようになる。マルセロが押し上がり、ヴィニシウスがエリア内に顔を出せるシーンも出てくるようになった。しかし、決定機がより多かったのはバルセロナ。クルトワのファインセーブがなければ、マドリーは無失点で前半を折り返すことは不可能だっただろう。

 前半は0-0で終了。笛がなった瞬間に右サイドの守備に奔走していたベンゼマはマドリーの前半終盤の前線の守備の混乱を象徴していたように思う。

【後半】
ジダンが仕掛けた果たし状

 後半にやり方を変えてきたのは、前半劣勢だったマドリーの方だった。ざっくりとした方向性でいえば、高い位置からのプレッシングの意識を高めた。まず、インサイドハーフの一角だったイスコは守備時は最前線に固定する。ベンゼマとイスコのタスクはバルセロナの両CBを監視することである。中盤はクロース、カゼミーロ、バルベルデの3枚がバルセロナの3センター相手にマンマークを敢行する。

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 バルセロナのCB2枚、CH3枚にマンマークを付けたマドリー。これによって、テア=シュテーゲンがボールの出しどころを考える時間が発生。テア=シュテーゲンがボールを触りながらどこにボールを蹴ろうかと思案する間は前半には存在しなかったものである。

 ご存じの通り、この試合はレアル・マドリーの勝利に終わる。「マドリーは後半からやり方を変えた+レアル・マドリーの勝利」という組み合わせは、マドリーが後半の戦術変更で優位に立ったことを示唆する流れのような気もするが、このやり方の変更はどこまでそういった要素を含んでいるかは微妙なところである。

    実際、後半開始10分くらいはバルセロナは非常にうまくマドリーのプレスを回避していた。マドリーのプレッシングで空きどころとなるのはバルセロナのSBの位置。テア=シュテーゲンがたっぷりとした間からここへのフィードを飛ばすことで、マドリーを撤退させて4-4-2ブロックを自陣で敷くことを強いる場面は何回かあった。

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   それならば!と、より前に出ていく意識を強めたマドリー。徐々に安全地帯だったバルセロナのSBの位置にもプレッシャーがかかるように。プレッシャーが強まるにつれて、だんだんと乱れが出るようになってきたバルセロナのパスワーク。

    中盤だけでなく最終ラインも前に出てプレスをかけるようになったマドリーはここのデュエルに対して腹をくくった様子。体と体のぶつかり合いになれば、分があるのはマドリーの方。たまに仙人のような身のこなしを見せるブスケッツを除けば、ほとんどのバルセロナの選手がマドリーのプレスの網にかかってしまった。実際に仙人の身のこなしは見たことないけどね。

 徐々にマドリーに向かう流れを食い止めるためにまずバルセロナが投入したのはブラースワイト。緊急補強という謎ルールでバルセロナにやってきたこのFWは献身的な裏抜けが得意技のようである。ビダルに代わり、右サイドに入ったブラースワイトは投入後、即時裏抜けでチャンスを生み出す。角度は難しかったが、クルトワとの1対1という局面を作り出した。

 スコアが動いたのはその直後の話。左サイドでボールを持ったクロースが裏に走るヴィニシウスに大きく局面を進めるパスを送る。ここからヴィニシウスがフィニッシュまで持ち込んでマドリーに先制点が入る。セメドが空けた裏のスペースを、先ほどの決定機を決められなかったブラースワイトがカバーしきれなかった形。クロースのパスはお見事だったが、バルセロナとしてはもう少し距離を詰めて彼の選択肢を制限したかったところだ。

 セティエンはここからアンス・ファティ、ラキティッチを投入して反撃を試みるが、フィジカル漬けにしてくるマドリー相手に流れを取り戻すことができなかった。逆にジダンは1点リードの最終盤、今季初出場となるマリアーノを投入するという摩訶不思議な采配を敢行したが、なんとこれが的中。投入直後にDFを剥がしながらフィニッシュまで持って行く荒業を披露する。なんでその交代やろうと思ったんだろ。

 試合は2-0でホームのマドリーが勝利。アウェイゲームに続いてバルセロナを完封し、首位奪還に成功した。

あとがき

セティエンの三重苦

 ブスケッツが試合後に語ったのは悔しい敗戦の弁に加えて、「ボールをつなぐことができなかった」という反省である。後半のマドリーのプレッシングに対して、今の自分たちには解決策が見当たらなかったようにも受け取れる趣旨である。

    このブスケッツの発言に従うのならば、この試合のバルセロナに勝利のチャンスがあったのは後半開始10分程度まで。ブラースワイトの決定機がラストチャンスだったように思える。それ以降のマドリーとの試合展開はブスケッツ自身が認めるようにバルセロナの土俵ではないし、この日の彼らにはそれをいなす力はなかった。交代選手も流れを大きく変えることはできず、逆に終盤の流れはベンチに退いたグリーズマンやビダルが得意なタフな展開だったように思う。

    今のバルセロナが取り戻すべきものが「バルセロナらしさ」というとても志が高いものだとしたら、彼らがここから歩む道のりは非常にハードなものになりそうだ。仮にCLでナポリ相手に敗れるようなことがあれば、セティエンにとってはいつまで腰を据えて仕事ができる環境が与えられるかは不透明になる。セティエンのバルセロナの現状がそこまで悪いものとは思わないけど、バルベルデの退任、山場を迎えるシーズン、そしてチームが目指すべき姿などの事情が合わさって、非常に難しい状況になっているように思う。

■マドリーの恐ろしさ、痛感

 マドリーから見るととても不思議な試合だった。前半はバルセロナのゲームだったし、後半のプラン変更も導入後、即時効果を得られたわけではない。それでもふとしたタイミングで流れをつかみ、そこから一気に攻め立てて自分たちのペースに持ち込んだのは見事の一言。配置的な優位とか用意した戦術がどうこうとか、そうじゃないところでバルセロナを飲み込んでいく姿は、本当のレアル・マドリーの恐ろしさをよく表していると思う。

 スコアが動かなかったうえに、劣勢の前半を経てからの後半のプランはジダンにとっては賭けだったように思う。高いプレッシャーをかけ続けるというバルセロナ相手の果たし状はヴィニシウスのゴールを突破口に実を結んだ。本文中で触れたようにマリアーノの投入が実ったことも含めてやっぱりどことなく不思議な試合だ。

 絶好調のヴィニシウスに求められるのは継続的な得点だろう。直近のパフォーマンスは素晴らしいが、リーグではまだ2ゴール。PA内で怖さを見せられる人材があまり多くないことと、戦線復帰後はポジションを争うライバルになるであろうアザールがチャンスメイクもスコアも両方できる人材であることを踏まえれば、この時期にヴィニシウスが継続して得点を奪えるかどうかはマドリーでの未来を決めることになるかもしれない。逆に、この日の決闘を仕上げた彼の今後の出来が、今季のマドリーの到達点を決めるということも十分にあり得るだろう。

試合結果
リーガエスパニョーラ
第26節
レアル・マドリー 2-0 バルセロナ
エスタディオ・サンチャゴ・ベルナベウ
【得点者】
RMA: 71’ ヴィニシウス, 90+2’ マリアーノ
主審:アントニオ・マテウ・ラオス

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