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「冬休み明けの上がり目」~2020.2.17 プレミアリーグ 第26節 チェルシー×マンチェスター・ユナイテッド レビュー

スタメンはこちら。

図3

目次

【前半】
相手に合わせたボール保持

 プレミアリーグファンにとっては馴染みのないウィンターブレイク。2週にわけて変則的に確保された休暇期間においては多くの出来事があった。あるチームはアヤックスから期待のウインガーを獲得し、丸1年間補強なしで不満を溜めていたファンの溜飲を下げていたし、あるチームはようやくつかんだ「CL常連」という地位を揺るがされる事態に陥っている。ドバイのキャンプでアフロの若手が指揮官とトラブルを起こしたチームもあるようだ。

 悲喜こもごもの冬休みの間、比較的静かだったマンチェスター・ユナイテッドが休暇明けのこのゲームで提供したニュースが3バックへのシフトである。『transfermarket』によれば、今季3バックに挑戦したリーグ戦は3試合。うち2試合がリバプールとの試合だったことを考えれば、対症療法的な要素が強いことが推察できる。チェルシー相手の5-2-1-2が対策かどうかはわからないが、ユナイテッドが冬休み明けの試合で新しいことにチャレンジするのは確かである。

 ユナイテッドの5-2-1-2に対して、チェルシーはいつもの4-3-3。ハイプレス志向が強かったチェルシーなのでユナイテッドのボール保持時には、3バックは3トップが見る意識が強かった。フレッジとマティッチのCHコンビに対しては、カンテとコバチッチが見るのがオーソドックス。となるとチェルシーが判断をする必要があるのはWBのところ。ここを誰がケアするのかが難しいところである。

図4

 前に出ていくのがプレスの基本理念ならば、SBが出ていくことが王道のやり口のような気もする。しかし、ここでチェルシーにとって厄介な存在になったのはマルシャルの存在。ユナイテッドのビルドアップ経路は大きく左に偏っていたのだが、マルシャルがサイドに張ることでSBのジェームズをピン止めしていた。

図5

 ユナイテッドのFW陣は引いた相手にどうやって点をとるねん!という問題はあるものの、こういう役割は彼らの機動力を生かす方策として申し分ないだろう。ユナイテッドの左サイドの前進は前プレするウィリアンと、マルシャルにピン止めされたR・ジェームズの間に存在するウィリアムズがフリーになるところからスタート。チェルシーは割とすぐに問題点に気付いた感じ。ウィリアンがWBの監視役を始めれば、今度はショーが持ち上がりフレッジが開くなどのパターンを披露する。

図6

 ここからはウィリアンとR・ジェームズの動きに対して、ユナイテッドが仕掛けるアクションのいたちごっこだった。仮にR・ジェームズがウィリアムズについていけば、広いスペースで1対1が可能なマルシャルに裏へのボールを送る。

図7

 ここはマッチアップ相手のクリステンセンがよく粘って決定的な仕事をさせなかったが、広いスペースでマルシャルと対面するのは守備側としてはあまりうれしくないだろう。ユナイテッドの攻撃時の左偏重は特に序盤はかなり顕著で、フォーメーション図上では右サイドに位置するマティッチやD・ジェームズも、中央かあるいは左サイドまで流れていくことは頻繁にあった。

 そんな左サイドの崩しの中で異彩を放っていたのがブルーノ・フェルナンデス。広い行動範囲でチェルシーの守備網を乱していた。相手をひきつけたうえで裏をかくパスとワンツーでのエリア侵入がお得意の様子。相手を見ながらキーパスを刺せる能力は、このビルドアップにおいて欠かせない部分である。フレッジのシュートをアシストしたシーンのようにパス交換で相手陣へ侵入することで、引いているブロックに穴を開けるのに貢献していた。

 中でも効果的だったのはマルシャルと入れ替わって外に開き、マルシャルの抜け出しを壁パスでアシストしたシーン。マルシャルが外に張って対面のR・ジェームズをピン止めするのは「こうかはばつぐんだ!」なのだが、ユナイテッドにはフィニッシャーが多くないという問題点がある。なので貴重なスコアラーであるマルシャルがフィニッシュに絡める形から逆算されたこの形は優秀。内側に絞ってジョルジーニョとマッチアップすればスプリントで振り切れる確率もグッと上がる。

図8

 入れ替わり立ち替わりで左の内外のゾーンを使い分けていたユナイテッドだったが、フェルナンデスが外に開く形はシュートを目指すまでのモデルとしては一番効果的だったかもしれない。この試合で「ユナイテッドが前半に点を取る。どの形からか当てなさい。」と言われたら、自分ならこの形を選ぶ。チェルシーとしては気合で2人を監視する場面もあったカンテの負傷交代からさらに守勢に回ると苦しい状況になっていった。

 しかし、得点が入るのは右サイドから上がったクロスが起点。前半の終盤からフレッジやフェルナンデスが右に流れる場面が増えてきたとはいえ、自分だったら上の賭けには一生かかっても当たらないことになる。試合勘に不安のあるバイリーの足元、守備が非常にうまくバイリーとワン=ビサカを両にらみしていたペドロの存在、そして後方をカバーするアスピリクエタなど、ユナイテッドの右からの前進はあまりうまくいっていなかった。それだけに値千金の先制点を生み出したワン=ビサカのクロスは価値がある。

【前半】-(2)
光は見えるが・・・

 ボールを持たない局面では非常に苦労させられたチェルシーだが、ボール保持では活路を見いだせなかったわけではなかった。ユナイテッドの5-2-3のブロックは、チェルシーと比べると撤退志向が強いのだが、比較的前3人が特攻してプレスをかけるため、全体の陣形が間延びするケースが非常に多い。ユナイテッドの守備においてどう守るかの選択が迫られるのは中盤の「2」の脇である。

図9

 チェルシーから見て右サイドは行動範囲が広いフレッジがいるので、まだユナイテッドは何とかなっていたが、左サイドのマティッチの外側の脇はうまくカバーできなかった様子。連携構築はまだ不十分でバイリー、ワン=ビサカ、マティッチはチェルシーのポジションチェンジに対応できていなかったように見える。コバチッチは左サイド低い位置からボールを持ち運ぶことでビルドアップに関与する。逆サイドのカンテが降りて受けるシーンがあまりなかったのとは対照的であった。

図10

 ユナイテッドの3枚の単騎プレスを交わした後は、中盤の「2」の脇をコバチッチやペドロを軸に使うことで、チェルシーはユナイテッドのブロックを攻め立てることに成功していた。バチュアイが全然決めてくれなかったけど。チェルシーの攻撃機会はロングカウンターとユナイテッドの後方7枚ブロック攻略の2本軸だった。ただ、ブロック守備攻略において重要なジョルジーニョがパスの精度を欠いていたのは気になる。流れをつかめそうなところで彼のパスミスでボールがタッチラインを割ってしまうと、ランパードとしては頭を抱えるしかないだろう。

 光はあるが、流れは掴めそうでつかめない。そんな矢先に先述の通り、ユナイテッドに先制点が入ることになってしまうのだった。

 試合は0-1。アウェイのユナイテッドリードでハーフタイムを迎える。

【後半】
セットプレーで明暗が

 鼻を負傷していたクリステンセンをズマに代えたチェルシー。前半早々に負傷交代したカンテを含めて、すでに交代枠は2枚使った形になってしまう。スールシャールの腹の中は押して図るべしだが、1点リードしたユナイテッドが前半より激しくプレッシングに行ったのはすでに2枚交代したチェルシーを見て「走り勝てるかも!」と踏んだからかもしれない。

 ビハインドのチェルシーも当然それに対抗。というわけで後半は非常にピンボール的な展開での立ち上がりになった。こういう言い方があっているかはわからないけども、すごく前半っぽい後半だった。ユナイテッドはメンバー変更こそなかったが、マティッチとフレッジの左右を入れ替えてスタート。前半も流れの中でポジションを入れ替えることはあったが、後半キックオフ時の配置を見る限りはベースのポジションを変更したようである。おそらく、前半やられていたマティッチ周りを手当てするためだろうか。高い位置からボールサイドによっていき、サイドに押し込む動きを見せていたフレッジ。ユナイテッドの陣形が全体的にフレッジのサイドに引っ張られるようになっていくと、チェルシーとしては逆サイドが狙い目になる。

図11

 したがって、再び前進の活路として使えそうになった来たマティッチ周辺。前半はコバチッチが周辺を動き回っていたが、後半にその役割を見せたのはウィリアン。降りてくる動きで最終ラインをつり出し、やや広がった右サイドからドリブルを仕掛けていく。

 ユナイテッドも前半に見せた左サイドからのアタックで応戦。試合は両チームのDFが体を張る場面が目立つようになってきた。そんな中で先にCKからネットを揺らしたのはチェルシー。しかし、これはファウルで取り消される。ちょっと厳しかったようにも思うけど、取られてしまったのだから仕方がない。

 セットプレーで悲しみがあるのならば、喜びもある。といっても喜んだのはチェルシーではなくユナイテッドの方だけど。大きな追加点となった2点目はCKから。マグワイアはこのシーンに限らず、チェルシーのDF陣に競り勝ちまくっていた。そしてブルーノ・フェルナンデス、プレースキッカーとしても優秀なんですね。このシーンとは関係ないけど、やたら浮き球のパスを使うのがポルトガルの魔術師感あっていいと思います。

 2点を取られたところでようやくジルーが登場するチェルシー。「おせぇよ!」と言ったらチェルシーファンの多くから賛同の声は得られそうである。直後のコバチッチの決定機のお膳立てと自らがネットを揺らしたシュート(オフサイド判定)でランパードの中での今後の序列は変わるだろうか。

 0-2になってからも反撃の機会はあったが、ユナイテッドがアンドレアス・ペレイラを入れて5-3-2にシフトして2列目の脇を埋めるようになってからはなかなかチャンスを作れなくなる。

 最後は「夢」だったイガーロのマンチェスター・ユナイテッドのデビューが試合を締める。32年ぶりにユナイテッドがチェルシー相手にシーズンダブルを立っ制した。

あとがき

■ひびきだしたスカッドの薄さ

 マンチェスター・ユナイテッド相手に連敗を喫したチェルシー。この試合に限って言えば2人の負傷者と判定に泣かされた部分もあるだろうが、調子が上がる兆しが見えないのが気がかりである。個人でいえばセンターラインに出来が気になる選手がちらほら。パスミスを繰り返していたジョルジーニョは特に普段の出来から程遠いように感じた。

 ファンがフラストレーションを溜めていくスタメンチョイスのポジションも多い。特にケパをベンチに座らせ続けるのならば、そろそろカバジェロには説得力のあるパフォーマンスを見せたいところだろう。例えば、試合開始後すぐにカバジェロが低い位置からのビルドアップを諦めて、バチュアイに蹴りこんだ結果、マグワイアに簡単に跳ね返されるシーンとかを見ると、チームとしてどういう形で前進するのがベストなのかが共有されているのかは気になったところである。もう少しショートパスでつなぐトライをしなくていいのかな?とかは気になった。

 最終局面でもボール保持時の崩しのクオリティは序盤戦と比べると幾分スケールダウンしている気がする。このあたりはエイブラハムの不在が色濃く出ている印象だ。率直に言えば、スカッドは勤続疲労と代役の力不足のダブルパンチを食らっているように見える。多くの懸念を抱えたままスパーズ、バイエルンとの連戦に挑むことになってしまった。間違いなくランパード・チェルシー今季最大の正念場である。

■目を見張るボール保持での新機軸

 5-2-3という新しいやり方はチェルシー相手には一定の効果を結んだ。特にボール保持に関して言えば、スールシャールのユナイテッドの中ではかなり工夫が見られたといっていいと思う。特に印象的だったのは新戦力のブルーノ・フェルナンデス。大物でも苦戦する冬のプレミア初挑戦において、早々にインパクトを残したといっていいだろう。ボールリリースのタイミングが絶妙でこれまでのユナイテッドにはないスパイスを加えてくれそうだ。

 ただし、守備に関しては懸念が残る。前3枚と連動しない後方7枚のブロックはやや力任せな感じがあった。バイリーが慣れてくれば違うのかもしれないけど。個々人が体を張ってはいるものの、組織としての成熟度には疑問の余地が残るところ。単純な放り込みには強いだろうが、上下動でラインの駆け引きをしてくる相手にはどうかは未知数だ。さすがに5-3ブロックにしてからは安定したけども、そうなると攻守のバランスが難しくなりそう。

 プレスに関してもマクトミネイやリンガードと比べるとこの日のメンバーはやや勢いが劣る印象。いわゆる強豪相手のいい時のユナイテッドほどの勢いはなかったように思う。支配率ではチェルシーを下回った試合だったが、どちらかというと前半のボール保持に特徴があったユナイテッド。ここからまさかの保持型に進化していくのか、それともただのチェルシー対策だったのかは気になるところ。スールシャールのユナイテッドがまだ伸びしろを残しているのか注目していきたい。

試合結果
プレミアリーグ
第26節
チェルシー 0-2 マンチェスター・ユナイテッド
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
Man Utd: 45’ マルシャル, 66’ マグワイア
主審:アンソニー・テイラー

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