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「展開は驚き、課題は必然」~2020.1.7 FA杯 3回戦 アーセナル×リーズ・ユナイテッド レビュー

スタメンはこちら。

図2

目次

【前半】
ハイプレス+リトリート

 一言で言えば観戦者が虚を突かれつづけた前半だった。まず1つ目に驚かされたのはターンオーバーが想定されたアーセナルのメンバーである。

図3

 「なるほど、メンバーの入れ替えを最小限に抑えてオプションのテストをFA杯で行うのか!なかなか積極的にいろいろ試すんだなぁ」と勝手に思ってしまっていたので、キックオフで4-2-3-1であることを確認したのが2つ目の驚きとなる。

 リーズのメンバーについてはこのジェイさんの記事をみんなで読もう!

 この試合の前半のペースを決めたのは両チームのプレッシング、そしてそれに対するビルドアップの耐久度である。なんか、いざ文字にしてしまうとそりゃそうだろって感じになりますねこれ。

 先述の通り、アーセナルの並びは4-2-3-1。ボール保持においても、シンプルにこの並びを踏襲したビルドアップになっていた。リーズの守備は非常に前から人を捕まえに行く志向が強い。とりわけマンマークの意識が強かったのはアーセナルの中盤3枚、ラカゼット、そして両SHの6枚の部分。

 リーズの並びは4-3-3という1トップ式。したがってCBが2人いるアーセナルに対してがっちり前から捕まえに行くには、2列目から援軍が必要になる。しかし、中盤はそれぞれがマンマーク。というわけでリーズが前からスイッチを入れるためにプレス隊に加わるのはSHのお仕事になる。

図4

 後方はマンマーク、前方はハイプレス。ハイプレスを仕掛けてきているリーズに対して深さを取ることで対抗するアーセナルだが、個々人のミスでペースを握れない。特に、連携によるパスミスが多かったホールディング、パススピードの感覚がつかめていなかったゲンドゥージ、そしてビルドアップの出口になり切れなかったソクラティスはややぎこちなさが目立った印象である。

 後方がマークを外せないまま、前方に無理やりボールを預けた結果、ラカゼットやペペは相手を背負いながらプレーする展開が頻発。前を向いてプレーすることができず、ボールロストを繰り返してしまう。

 ビルドアップに困ったアーセナルのあるあるといえば、エジルが列を降りて対応することだが、ここはフィリップスが徹底マンマークでどこまでもついてくる。こうして、マンマークとハイプレスによるビルドアップの阻害でリーズはアーセナルの攻撃を許さない。

【前半】-(2)
閉じ込めきれないプレス

 アーセナルがうまくいかなかったのはボールを持たない局面も同じである。アーセナルの非保持はここ数試合、人を過剰にかけすぎずに相手をサイドに閉じ込めるプレスとリトリートの組み合わせ。

 とりわけ序盤でうまくいかなかったのは、プレスの方である。これまでの試合ではラカゼットとエジルの2枚でCBとアンカーの3枚を監視するのがデフォルト。しかし、この試合では全くこれがハマらなかった。なぜなら、リーズは数的有利を生かした後方からのビルドアップにたけていたから。特にアンカーのフィリップスの行動範囲が広く、エジルからうまく逃げ続けた。フィリップスは攻撃ではエジルを捕まえて、守備ではエジルから逃げ回る役割。中央のリンクマンとしてボールの落ち着けどころになることで、リーズの後方でのボール循環を安定させた。

図5

 もう1つ、リーズのボール回しが安定した要因はGKのメスリエの優れたキック精度である。アーセナルのプレスは下図のようにサイドに閉じ込めるように前方がポジショニングすることが多い。

図6

 しかし、リーズは最後方のメスリエに預けることをためらわなかった。個のメスリエから、高い位置のサイドに張るSBのアイリングに展開。こうしてプレスを回避する場面は再現性をもって見られた。メスリエ、今季トップチーム初出場なんだってね。

図7

 相手を押し込んだ局面において、リーズはサイドから攻略を挑む。右は先ほど示したようなメスリエからの展開でボールホルダーがフリーになる場面が多かった。リーズはホルダーを中心に多角形を形成。パスコースを複数作ったり、ポジションチェンジでアーセナルの基準を惑わせる。アーセナルは、ネルソンの戻りが間に合わない場合はジャカがサイドに出ていって対応するため、バイタルが手薄に。ここを潰しにCBが出てくると、今度は裏を使われてしまうというジレンマに陥る。

図8

 逆サイドはよりシンプル。ゴッツが内側で受ける係となり、外はアリオスキがクロスを上げたり、ニアのハーフスペースの裏に抜けだす選手にスルーパスを出したり。

 どちらのサイドからもPAまでは到達できていたリーズ。特に陣形ごとアーセナルを崩していたリーズの右サイド側からの攻撃からは決定機を迎えるケースが多かった。数ある決定機を1つでも仕留めていたら、後半の試合展開は違ったものになっただろう。

 試合前から驚きが多かった試合だが、前半のほとんどの時間をリーズが主導権を握って進めたというのはこの試合の最大の驚きかもしれない。

 試合は0-0でハーフタイムを迎える。

【後半】
一手先の道を整備する

 前半をまとめると、配置で勝負するアーセナルに対して、後方マンマークで対抗するリーズ。その結果、リーズが優勢になったというのが大まかな流れだった。

 アーセナルとしてはマンマークへの方策を見つけなければいけない。後半から優勢に転じるためにアーセナルが利用したのはラカゼット周辺のスペース。前半の項で書いたように、エジルやラカゼットに対してリーズはどこまでもついてくる。というわけでアーセナルはこの修正を利用。降りてくる動きと上がっていく動きを組み合わせることで、ラカゼットのワンタッチポストに裏抜けで決定機を作る。

図9

 後半開始早々にまずはネルソンが、続いてジャカがラカゼットの落としに走りこんで、ドリブルで決定機を創出。リーズのCB2人は片方がラカゼットへのマーク、片方が遊軍で後方待機という分担になっていたのだが、後方のCBはかなり広い範囲をカバーしなければならない。ポジショナルプレーに対してマンマークは配置的優位を消すために有効であるが、後方がカバーする範囲が広くなりがちなのが弱点。アルテタはラカゼットが背負った先の道筋を作ることで、その弱点を突いた形になるだろう。

 マンマークの弱点のもう1つは、単純にマッチアップで不利なところが出てきてしまったら防ぐのが難しいところ。マッチアップ相手を強引にこじ開けたのがペペ。対面相手を背負って反転すると、サイドに流れたラカゼットにパス。ホワイトをサイドに引っ張り出したラカゼットが中央にパス。跳ね返ったボールがネルソンの前に転がってきて先制点になる。

 跳ね返ったボールがネルソンの前に来たのはラッキーだが、中央では同数の選手。パスを出したラカゼットにも、エリア内のアーセナルの選手もリーズは捕まえきれてなかったことを考えれば、いい形を作れたといっていいだろう。やはり、設計で言えばリーズはペペのマンマークのところで捕まえなければいけないのだろう。そこで後手に回るとチームとして危うい形になるのは仕方がない。

 ラカゼットの周辺は使われ始めるし、前半は封じることができていたペペのマンマークは破られる可能性が出てくる。となるとリーズとしては強気なプレスに行きにくくなる。加えて、アーセナルはリーズとは対照的に前から積極的なプレスに出ていく。特にジャカ、ゲンドゥージ、ルイスは積極的に前に出てボールを刈り取る。前半は特にCHの出足のためらいがリーズに自由を与えてしまっていたが、後半は前半のリーズのように相手を捕まえに行く。アンソニー・テイラーが早めの警告を出さなかったこともアーセナルにとっては幸運。ジャカに早い段階でカードが出れば、アーセナルとしては戦い方を維持するのが難しかったかもしれなかったけど。というわけで戦況は前半から綺麗に逆転。アーセナルがリーズを押し込む展開になった。

 前方で人を背負って頑張るのがペペとラカゼットなら、後方で頑張るのはゲンドゥージ。時間を作ってファウルをもらえるのは、他のMFにはない特色である。後半追加タイムのファウルはダイブだったけど。

 リーズは後半の攻撃は停滞気味。斜めに走る動きに対してはアーセナルの対応は若干戸惑いは見えたが、そもそも後半はそういった攻め込まれる局面が少なかった。守備が怪しくなると、攻撃まで歯車が狂うのは不思議だけどあるある。アーセナルのプレッシャーを非常に強く感じていたのだろうか。一度リズムが狂うと、前半うまくいっていたように見える距離感でもミスが出るから不思議である。前半はオーバーペースだったのだろうか。

 というわけで逃げ切りに成功したアーセナル。FA杯4回戦進出を決めた。

あとがき

■昇格した際の課題は

 チャンピオンシップの首位ということで、来年昇格の可能性があるリーズ。二部ではこのボール回しにプレスをかけられるチームもなかなかいないだろうし、リーズのハイプレス&マンマークに耐えてボールを取り上げられるチームもあまりないのではないだろうか。

 昇格を決めたとしたら課題になりそう点はいくつか見受けられた。まずは非常に体力を使いそうな戦い方であること。決定力に難があったFWも含めて、昇格した場合は補強が見込めるのかもしれないが、スカッドの質の優位がないプレミアで年間を通して安定した戦いができるのかどうか。それ以上に気になったのはセットプレーの守備の拙さ。エリア内でルイスやソクラティスなど、セットプレーのキーマンに気持ちよくヘディングさせているようでは山のように失点を重ねてしまうだろう。おそらく昇格時の最重要改善ポイントではないだろうか。

 近年プレミアは中位チームでもボール回しに特徴が出てきている。ビエルサ率いるリーズは来季その仲間入りを果たすことができるだろうか。

■当然ぶつかる課題

 巻き返して勝利を得たアーセナル。アルテタ就任後、上昇気流に乗るアーセナルが前半かなり押し込まれたのは意外だったかもしれないが「後方でプレスが回避できるチームとの対戦はどうなるのだろう?」というのは、ここまでの試合で直面してなかったものの非常に気になる命題だった。リーズのこの日の出来を見れば苦戦は納得である。

 同様にマンマークを駆使してのハイプレスの守備と対峙するのも、配置で勝負するサッカーを志向するうえでは避けては通れない道。この試合のアーセナルは「どうボールを奪い返すか?」「ボールを守りつつ、どう敵陣に侵入するか」という近代型ボール保持チームがぶち当たる壁を攻守ともに体験する試合になったといってもいいかもしれない。

 「ボールを守りつつどう敵陣に侵入するか?」の方は後半の修正によって解決したが、「どうボールを奪い返すか?」についてはセットされた局面自体を減らし、即時奪回を志向することによって、問題点を露呈しにくくするアプローチをしたように見えた。局面を減らすことが叶わない場合は再度この課題に巡り合う可能性はありそうだ。

    順調な船出に見えるアルテタ・アーセナルだが、未知数な部分はまだある。ただ、課題にぶち当たりながらもそれにチーム全体で解決に向けて取り組む姿勢が見れるのは非常にポジティブ。もちろん、勝ちながら課題に取り組めるのもポジティブだ。

試合結果
FA杯 3回戦
アーセナル 1-0 リーズ・ユナイテッド
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS: 55′ ネルソン
主審: アンソニー・テイラー

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