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「目的ごと奪う横綱相撲」~2019.12.26 プレミアリーグ 第19節 レスター×リバプール レビュー

スタメンはこちら。

図1

目次

【前半】
時間を与える余裕

 アーノルドの強襲ミドルにマネの決定機。両チームの配置、狙い等々を読み取る前に早速リバプールがレスターに殴りかかる立ち上がりになった。

 と書くと、リバプールは立ち上がりからハイプレスハイテンポモードにギアを入れて、ガンガン行こうぜ!路線を打ち出していたのか?と思うかもしれないけど、個人的にはそれはあんまりイメージに合わない。

 レスターのボール保持を整理する。CBは距離を取る。アンカーのエンディディとGKで菱形を取るような形。SBは高い位置をとって、マネとサラーの裏側を狙う。エンディディ1枚だと、フィルミーノの背中に消されてしまう!ということもあり、試合が進むにつれてティーレマンスがエンディディと並ぶ位置に下りることでビルドアップをお手伝いする。

図3

 マネとサラーの外側にボールの逃げ場としてSBを置くこと、アンカーと並列の選手としてMFが降りてくること。どちらもリバプール対策としても、レスターのプレースタイルを考えても合理的な選択に見えた。

 それにリバプールはどう対応したか。まず、代名詞であるWGが外から相手のSBへのパスコースを切りながら絞り込むプレスはあんまりやらなかった。WGは一番やらせたくない(あるいは奪った時に一番チャンスになる)中央を締める意識が強め。

 レスターのSBにはリバプールのインサイドハーフが出ていくことが多かったけど、そこで奪い切る!というほど狙いを定めていたわけではなかった。

図4

 自分の印象を言えば、リバプールの非保持はレスターのやりたいようにやらせていたように見える。強いて言えば内側からはやらせたくない!というようには見えたけど。あとはテンポもお任せします。外は自由に使って攻めていいですからね。みたいな。

プレミアリーグ 第14.15.16節リヴァプールを中心に雑感 | サッカーの面白い戦術分析を心がけますbuilding-up.com

 らいかーるとさんの言うところの「プレッシングはそこまで頑張りません。どうぞかかってきてください。かかってくるなら僕らの得意なトランジッションの機会が増えます。後ろもデュエルで負けませんし!」的な話。

 立ち上がりはそのリバプールからの果たし状を受けて立つ準備ができなかったレスター。開始直後のマネの決定機はシュマイケルのキックミスからだし、その後もエバンスにエンディディなど普段のレスターからすると少しクオリティが落ちるミスから、リバプールのショートカウンターを喰らう立ち上がりとなった。

 試合が進むにつれて落ち着きを取り戻したレスター。降りてきたティーレマンスを使って中央からリバプールをかち割るやり方は悪くなかった。徐々に対応されて潰されていったけど。

 一方でSBからの攻撃は上手く丸め込まれた感じ。レスターのSBからの攻撃は3人が一直線に並ぶスリーオンライン(下図)が多かったけど、徐々に読み切られてカウンターで上がったSBの裏から進撃を許す場面が増えてくる。

図7

ナポリが駆使するユニット戦術 ”3オンライン”と”サイ” とは?こんにちは。今回はナポリが駆使するユニット戦術 “3オンライン” の紹介です。 ちなみにこの”3 (players) onbirdseyefc.com

 スリーオンラインについてはとんとんさんの記事を読んでください。

 試合展開としてはレスターがここ!って決めたところを「そこね!」とつぶすリバプール。ゴールまで行けそうで、最後のところでDFに潰されてシュートまでいけないレスター。シュートまで持ち込むシーンすら作れなかった。どこからでもどうとなるわけじゃないレスターは勝てるデュエルが見当たらなくてつらい。

【前半】-(2)
悩ましさは非保持でも

 レスターの悩みは非保持でも続く。前節のシティ戦ではアンカーにマンマークを付ける形で迎え撃った。

図8

 その結果、ボールサイドと逆サイドでそれぞれ相手を捕まえきれずにシティに好き放題やらせてしまった。というわけで、今節はボールサイドにスライド作戦を決行。アンカーはボールサイドと逆側のインサイドハーフがスライドしながら見る。CBと逆サイドのSBは捨てて片側に集約する役割である。

図5

 しかし、この形を脱出するのはリバプールの十八番。SB→SBの精度と速度は鉄板。ピッチを広く使うのが世界でいま最も上手なチームといっていいだろう。開始直後のアーノルドのミドルも、ロングスローから上がったゴメスがリンクマンとなり逆サイドへの展開を補助したのが起点。レスターの片側圧縮を開始して見せた。

 この逆サイドへの脱出とカウンターでリバプールは攻撃の手段を見つけた形になる。特にクロスに対する入り方はうまかった。サイドに振った後にファーを狙うクロスを両サイドから高頻度で狙い撃ち。多くの決定機はスライドしたDFラインの逆を取る形でファーを狙ったクロスからだし、先制点のセットプレーからの流れも同じもの。アレクサンダー=アーノルドの機械のような右足から放たれたクロスの先にはフィルミーノとサラーの2人が待ち構えてクロスを狙っていた。

 30分過ぎに先制点を取ってからは試合はリバプールの掌の上。じたばたしたいレスターをうまく寝かしつけるボール保持で試合を制御。ボール保持において印象的だったのはケイタ。エリアに入ってくる動きとアクセントになるドリブルはグッド。前もどこかに書いた気がするけど、徐々にチームにフィットしてきたように見える。

 試合は0-1。アウェイチームのリードで試合はハーフタイムを迎える。

【後半】
大人しくしたらしたらで

 寝かされてしまったレスター。もう一度主導権を取り戻したいところ。しかし、悩ましいのはトランジッションの機会を増加させるハイプレスを選択してしまえば、リバプールの得意なフィールドで戦うということだ。

 というわけで後半はやや控え気味になったレスター。全体のラインを下げたスタートとなった。例を一つ挙げるならば、前半は時たま空いてしまうアンカーのヘンダーソン相手に、エンディディが出ていく場面があったが。後半は自重する場面が増加。後方のフィルミーノを相手にスペースを空けない選択をすることが増えた。

図6

 レスターは全体のラインを下げる選択をしたことで、押し込まれる場面は増えていく。とりわけアレクサンダー=アーノルドをマディソンが自由にしてしまう場面が多く、リバプールはここからクロス攻撃に打って出る。低い位置で自由を得る分、左右に振ることによってサイドからクロスを上げていくやり方が後半のリバプールのやり方であった。

 レスターとしては悪循環。押し下げられてしまっていることで、ボール奪取後に高い位置で受け手になる選手が不在になり、失点前までのように縦につないでカウンターに移行できる場面はグッと減少してしまった。

 それに加えて、リバプールの質の高いクロスに対してぎりぎりの対応を強いられることに。エバンスとソユンクを中心になんとか踏ん張っていたけど、PA内の場面が増えてくると当然事故も起きやすくなる。リバプールの追加点はソユンクのハンドを取られたPKからである。アンフィールドでのレスター戦で、後半追加タイムにPKを突き刺したミルナーがこの局面でピッチにいるのは展開の妙である。ホームでもアウェイでもPKを決めるミルナー。

 実質この2点目でゲームの大勢は決まってしまった。ダメ押しの3点目は再三やられていたアレクサンダー=アーノルドのクロスがきっかけ。この場面は直近で不調だったフィルミーノの技術が光った。中央でタメを作ってサイドに時間を作る。アレクサンダー=アーノルドの速いクロスにもアウトサイドでトラップするおしゃれさである。

 仕上げはそのアレクサンダー=アーノルド自身のゴール。これで1ゴール2アシストですか。なんかもうストライカーみたいな数字だな。

 試合は0-4で終了。首位と2位の大一番はワンサイドゲームで決着した。

あとがき

■やり方をもがれたレスター

 実質の白旗になったマディソンを下げる場面で解説の水沼さんが「レスターは相手をリスペクトしすぎましたかね」といっていた。この試合のレスターへの感想を述べるならば、リスペクトしすぎたというよりは自分たちのやり方を1つ1つもがれていった印象だった。中央からのつなぎ、時間を与えられたSB、そして片側圧縮のプレス。どれも相手にハマらず、最終的には押し込まれて殴られ続けることになってしまった。

 立ち上がりの細かいミスでリズムができなかったのも痛かっただろう。より強いチームを目の前にいつもと違う感が出てしまうとやはり戦い方は難しくなる。合理的な戦い方は選択できていたように思うが、相手に通用するやり方ではなかったということではないだろうか。

 シティ、リバプールとカレンダーを呪いたくなるような連戦になったが、ビック6相手以外には負けていないのは実力は確か。上位チームとして相手が警戒してくる2周目の対戦はどうなるか。ミラクル・レスター以来のCL出場権獲得に向けて邁進していきたいところである。

■パフォーマンスは控えめ、試合運びは圧巻

 クラブワールドカップ帰りということもあり、パフォーマンス自体はそんなによくなかったと思う。それでも結果を見れば圧巻。今のリバプールの実力である。

 強さを感じたのは前半の展開である。相手に攻め込まれる隙はあるものの、結局はほぼレスターにシュート機会はなし。個々のパフォーマンスで際立ったところはあまりなくても、最終ラインのデュエルでは完勝。前半のレスターは低い位置からの組み立てにおいては効果的に前進はできていたとは思う。しかしながら、最後のところで優位に立てる部分がないのならば、ポジショナルで頑張る意味はかなり薄くなってしまう。出口に質的優位がないポジショナルは寂しい。頑張っても、頑張っても先でつぶされてしまう。

 いい形で渡しても潰されてしまう。となるとこのサッカーを頑張る目的を取り上げられてしまっているようなものである。快進撃を続けているレスターのサッカーをやる意味を失わせる見事な横綱相撲であった。

試合結果
プレミアリーグ
第19節
レスター 0-4 リバプール
キング・パワー・スタジアム
【得点者】
LIV: 31′ 74’ フィルミーノ, 71′(PK) ミルナー, 78′ アレクサンダー=アーノルド
主審:マイケル・オリバー

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