プレビュー記事
レビュー
連動するハイプレスと中央とサイドのつながり
混戦模様の東地区のACL-E。やや遅れをとっている川崎だが、ここからでも十分に巻き返すことは可能なレギュレーション。ホームではACL連敗を喫しているが、なんとか2024年のホームのACLでの初勝利を挙げたいところだろう。
まず目についたのは川崎のプレッシングである。高い位置から潰しに行くアクションで優位を取ることに成功する。要因の一つは川崎の前線のメリハリのあるチェイシングだろう。全速力で追いかけるのでなく、まずは方向を規定し相手の選択肢を限定し、後方のプレスの助けをしながら追いかけていく。特に瀬川はこの点で非常に優秀なパフォーマンスを見せており、後方のプレスの方向性を提示することに貢献していた。
欲を言えば、両サイドともトップとSHのプレスの連動は少し甘かった。家長は単純に動けなさそうな状況で逃がしてしまうケースが多かったのだが、遠野はタイミングを見誤ってフリーズしている感があった。
例えば、43分のように瀬川が遠野サイドに追い込んだとしても、寄せるタイミングが遅れるせいで脱出されるという場面はちらほら。逆に出て行きすぎる場面もあり、この辺りは引き続き遠野の守備の課題といえるだろう。動けない家長と動き方が効果的でない遠野の両SHはコンパクトに守備ができていた前半の中でも問題点が浮き彫りになったポジションのように思える。
上海海港はショートパスからGK&CBで中央に縦パスを刺していきたかったところだったが、タイトなマークをされているCHに対して川崎の強いアプローチからロストを連発。トップのプレスで制限をかけられている→余裕がないCHに強いパスを出す→トラップが跳ねる→ボールを失うという流れで上海海港はロストを繰り返していた。
CHが捕まる上海海港は左SHのウィリアン・ポッピが降りるアクションを見せることで脱出を狙う。だが、こちらもファン・ウェルメスケルケンが迷いなくついていくことで封殺。上海海港の脱出口にはならない。
個人的には序盤にちらっと見られたオスカルの列落ちをもう少しやった方がいいと思ったのだが、オスカルは前線に専念。積極的にビルドアップに加わることはしなかった。よって、前半はショートパスから動かしていくフェーズで上海海港は解決策をみいだすのに苦戦。サイドを使う際にはたまにボールを進めることはあったが、山本のCFへの挟み込み、前線のプレスバック、バックスのカバーリングなどハイラインのミスをカバーする守備で上海海港から効果的な攻撃を取り上げることが出来ていた。
後ろから前までつながる保持
上海海港も川崎に対して高い位置からプレッシングに出て行くプランだった。4-4-2をベースにしながら、陣形を少しずつ変化させて人を捕まえに行くアクションで川崎のビルドアップを阻害しにいく。
序盤はボールを奪い取って速攻に出て行くこともできていた上海海港だが、徐々に川崎のビルドアップに後手を踏むように。まず、存在感を見せたのは佐々木。深さを取りながら、ドリブルで対面の相手と駆け引きすることで上海海港の前プレを乱す。左右の大きな展開を使ったフィードからプレスを使い、一気に押し下げることもできるように。
先制点を生み出したのは左サイド。佐々木のフィードを受けた三浦が1on1を制し、左サイドの奥を取るとそこからのクロスが先制点の契機に。最後は家長が仕留めて川崎が早々に試合を動かす。
追加点は先制点の1分後。右サイドでアバウトなボールを跳ね返した川崎は瀬川のキープからCHの攻め上がりが攻撃を後押し。サイドに抜けたエリソンのシュートのこぼれ球を瀬川が押し込んでリードを広げる。
この場面で光を放ったCHは攻撃面で非常に好調。列落ちはいつもよりも控えめであり、CBからの縦パスのコースづくりに専念。相手のバックラインの背後で受けることで攻撃を前進させる契機になっていた。
非保持→保持に転じるトランジッションで鋭さを見せたのは橘田であったが、自陣からのビルドアップで貢献度が高かったのは山本。相手の中盤の手の届かないところに顔を出すと、エリソンの動き出しを見逃さずに前進。中盤で受ける山本(絞った三浦の場合もあった)とサイドに流れるor裏抜けするエリソンはこの試合の前半の中盤の前進パターンとして定着した感があった。
3点目はプレスをひっくり返してからの前進である。左サイドに抜けたエリソンが時間を作り、一番最後にボックス内に入ってきたファン・ウェルメスケルケンがゴールを決める。
バックスからの駆け引き、中盤のタスク、前線の起点づくりとSBの攻撃の関与。相手のプレスを利用しての攻撃は非常にバランスが良かった。3点目の場面では特にそれが表れている。
定点攻撃では家長がいる左サイドを軸に2列目が同サイドによる形で人数をかけてクロスを入れる形に終始。家長というわかりやすい預けどころがある分か、はたまたマルシーニョという動き出しの核を欠いている影響なのか、各選手が積極的に動きなおすアクションをした結果、川崎のホルダーは常に複数の選択肢を持ちながらボックス内に迫ることが出来ていた。
中央とサイドの守備の連動が甘かったり、主に佐々木に見られた過度な攻め上がりは少しスコアにそぐうものではなかったりなど、細かい問題点はあった前半。だが、おおむねベースとしたいプレス強度の提示と、自陣からのポゼッションと敵陣での動き直しなど、目指したいスタンダードな型を見せることはできていたといえるだろう。
キャストの変化≠リズムの変化
後半も川崎は積極的な入りでスタート。前からのプレッシングで上海海港のバックスに圧力をかけていく。しかしながら、上海海港は前半につかまっていたCHへの縦パスを回避し、左右に大きな展開をすることで前進を試みる。
特に大きかったのはHTの交代で右サイドに入ったバルガス。レギュラーの一角であるバルガスは背負っても簡単にボールを奪われず、アバウトにボールを預けても収めてはくれそうなテイスト。やや、序盤はファウルの基準に苦しんだりはしていたが、少なくとも前半のような強引な縦パス→橘田の攻め上がりカウンターという形を誘発することはなかった。前線のグスタヴォが左右に流れながらロングボールを引き出すなど、前半とは異なるボールの引き出し方で上海海港はきっかけを見つけたイメージだ。
押し込む機会を得ることができた上海海港はサイドからクロスで攻撃を狙っていく。67分の右の大外のバルガスが広げたスペースを後方の選手が突撃した形はまさしくプレビューで下の図(7番のウー・レイ役をバルガスが担当)を使って説明した攻撃であった。
サイドからの形が良化した上海海港はよりクリティカルな攻撃でボックス内に迫っていく。前半にはなかったようなボックス内でフリーの選手がヘディングをするというシーンがセットプレーを含めて後半は見られるようになった。川崎は早い時間に仕留められてしまえば、まだまだ分からない展開になっていたはずだ。
後半の川崎は自陣からのショートパスの前進よりもロングボールを使った前進にフォーカス。プレスを安全に回避する方向性で上海海港に対抗する。エリソンがいる時間帯に関してはこれでもそれなりのチャンスメイクができていたように思える。
少し気になったのは大島と山田登場以降のプランニング。今の川崎は人が変われば大きく表情を変えるのが特徴だが、後半はその点をうまく活かせなかったように思える。大島がいればもう少しボールを握る方向で時間を使いたかった。押し込むことで山田をボックス内に専念させることが出来れば、相手の反撃の機会を取り上げつつ、時計の針を進めることが可能だったはずだ。
プレスに関しても家長と三浦が前に出て行くと、後方のカバーは難しい。山本はかなりこの試合では根性を見せて三浦の背後をカバーしたが、同じことを大島に託したシーンでは相手を潰し切ることが出来ず、押し下げられてしまった。
ビハインドであり、保持面でのクオリティありきの方策であれば、こうしたマイナス面は飲み込む必要があると思うが、実際のところは3点のリードを手にしている状況。もう少しキャストに合ったプランで試合のテンポを変えたかった。
終盤にバルガスのシュートで1点を返した上海海港だが、反撃はこの一発止まり。試合は川崎が前半のリードを守って勝ち点3を積み上げた。
ひとこと
細かい課題はあったが年に何回かある「こうありたいね」という目指すべきスタンダートなスタイルを多くの局面で提示することが出来た試合だと思う。まぁ、継続できないから今季は苦しいシーズンになっているのだけども。そういう意味では何度目かのスタンダート提示はうれしくもあり、複雑な気もする。けども、シンプルに初めに3つあった決定機を全て仕留めたこと、そして特に自陣からの前進×中盤のポジショニング×前線の特色を生かした3点目の繋ぎはとてもよかった。
その一方で後半の過ごし方は課題になるだろう。振れ幅が大きいというスカッド的な問題はあれど、後半のようにだらっとチャンスを作られる展開においてもう少しキャストの変化によってゲームに影響を与えたかったなという部分は反省になるだろう。家長の退場も含めて、スコア推移の割に悪い流れに引っ張られるようになったのは気になるところだ。
バルガスが決めた一撃のように甘さのあるロストをすると、スーパーな一撃が飛んでくるのがACLの常。欠場したウー・レイや出場停止のジュッサがプレーできていれば話は違った可能性はあるし、ノックアウトラウンドではそういう主力が出てくる可能性は高まる。先を見据えればまだまだやることはあるという90分になったのではないか。
試合結果
2024.11.5
AFC Champions League Elite
リーグステージ 第4節
川崎フロンターレ 3-1 上海海港
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:12‘ 家長昭博, 13’ 瀬川祐輔, 33‘ ファン・ウェルメスケルケン・際
上海海港:83’ バルガス
主審:サルマン・ファラヒ