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レビュー
FWが時間を貰えない理由
1試合ごとに順位が目まぐるしく変わるリーグステージ。ここまでは韓国勢に1勝1敗、中国勢に1勝1敗ときっちり五割の成績を吐き出している川崎。年内最後のACL遠征の行先はタイ。過去3回いずれも勝利している相性のいいタイの遠征で勝ち越しを決めたいところである。
互いにバックラインへのプレスは強気でかけない慎重なスタート。30℃越えという過酷な条件は特に冬の日本からやってきた川崎にとってはしんどいものだろう。まずはミドルゾーンで構えた状態でのにらみ合いが続く展開となった。
川崎の保持は2-2のボックスビルドがベース。SBは低い位置でも高い位置でもボールを持つことが可能な三浦と佐々木のコンビなので、比較的ビルドアップの枚数調整はしやすい状況だった。
ブリーラムの守備は横浜FMの流れを汲んでいるようだった。中央を固めるように人を置く5バックににも関わらず、DF-MF間のスペースが空きやすいのが特徴。よって、川崎のSHである瀬川と山内は絞ったライン間でボールを受けることが多かった。
特に山内のサイドのSHであるクリスピムはカウンターを意識して前がかりになることが多く、プレスバックが遅くなりやすかった。実質的な構造は5-4-1と5-3-2の合いのこといった形だった。そライン間の瀬川から左サイドに展開し、山内と三浦の2人の左サイドで壊しに行くような攻撃の仕方が多かった。
ライン間で前を向くことが出来た川崎であったが、攻撃がうまくいったかは正直怪しいところがあった。というのも川崎は浮いているスペースを埋めるように使う以上のことはできなかったからである。
確かに瀬川はライン間で前を向くことが出来た。だけども、ライン間で前を向いたよりも先に行くことが出来なかった。
もうちょっと詳しく説明する。当たり前のことだが、攻撃側がDF-MFのライン間で前を向くことは守備側にとってはかなり危険な状態だ。どこかのサッカー本で読んだ記憶があるのだけども、サッカーにおけるチャンスの定義を「DF-MFのライン間で前を向いた状態のフリーの選手を作ること」としていた人もいたくらいであった。
ということは守備側が当然この状況に対応する必要がある。例えば、「バックスから1枚が飛び出して瀬川にチェックをかける」とか。
そうなると、今度は攻撃側に瀬川に対するリアクションを活用するという方向性が出てくる。例えばこういう動き。
この動きが出てくると、今度はしわ寄せが来たブリーラムのバックスに影響を与えることが出来る。川崎はブリーラムのDFの手前までのアプローチは非常にスムーズだった。だが、DFの手前までスムーズに行けたことをその先につなげることには長けていなかった。
川崎のフリーのライン間の選手はそこからダイレクトにボックスに放り込むか、あるいはバックスの影響を与える動きを使うために出すパスをミスしているかのどちらかだった。ちなみに、瀬川から左へのサイドチェンジはそこからボックスまで侵入することができるかというチャレンジを、そのまま逆サイドで実行している形だろう。
ちなみに足元で受けるプレーが不満という意見をTLでみた山内だけども、足元でいいけどもそれならばライン間ではなく、大外で待ってほしかった。彼の横へのドリブルは相手への判断を悩ませるファクターだし、この試合では彼の横のドリブルに合わせて裏抜けもできるだろう。
例えば、縦と横を両方切るようなダブルチームでの対応に出てこられたら、もう少し裏へのランを織り交ぜてもいいと思うが、ブリーラムはライン間がスカスカだし、山内に対して2枚かける様子もない。なので、足元で受けたとこからからも充分に解決策を見つけられるはず。
というか、大外から横にドリブルをすればブリーラムの守備陣は対応せざるを得ないわけで、そうなればこのスキルも充分にブリーラムのバックスに影響を与えることが出来るはず。初めからフリーの位置にいるのではなく、大外で捕まっている状態からスペースにドリブルして相手に対応させる方が個人的にはいいかなと思った。
ということで個人的に山内の問題点はスタート位置を内に絞りすぎなことと、そこから先に見せるプレーの精度かなと感じている。まぁ、前者に関してはある程度指示かもしれないけども。
川崎に話を戻すと前進に関してはライン間まではスムーズ。だが、そこから先はノッキング。その結果、いい形で前進出来ているにも関わらず、ボックス内に放り込むクロスに反応するFWにはきっちりDFがマークについている。ブリーラムがやばいところまで運ばれているのは確かだが、川崎の攻撃に対して最後のところで慌てるところまではいっていないということだろう。
サイドで存在感を示すタビナス
押し込むフェーズの握力はそれなりだった川崎。スパチャイへのロングボールに対しては丸山が苦戦しながらもなんとか跳ね返す。SBになってもCBのカバーなどで忙しそうにしていた佐々木が非常に印象的だった。
ブリーラムの保持はトランジッションがベース。右サイドで背後に抜け出すクリフビムで三浦のオーパーラップを牽制しながら大外からクロスを狙っていく。
逆サイドで存在感を放っていたのはタビナス。元川崎所属のSBは左サイドに生まれたスペースを蹂躙。味方を追い越す形で対面のマークを置き去りにしてクロスまでもっていくことが出来ていた。
だが、こちらも川崎のバックラインの安定感を脅かすところまではいかず。サイドからのキャリーは川崎と同じくあくまで相手を押し下げるための手段以上にはならなかった感がある。
機会が終始優位に立っていた川崎に対して、少しずつ左右のクロスから盛り返していくブリーラム。この試合は地味ではあるが、山本のボックス内に入ってのクロス対応が効果を発揮していたのはいいポイントだと思う。結局、守備をきっちりやれる選手が一番計算できる。できないことをやるというよりも、やることをきっちりとやるという意味で。
瀬川は瀬川らしく
迎えた後半、川崎が狙っていたのは前半のストーリーの続きである。ボールを持って押し込みながら相手を一方的に自陣にくぎ付けにするという流れを作っていく。ブリーラムは前半は2トップのように振る舞っていたクリスピムが完全に下がっての5-4-1となるケースが増えたので、より川崎が押し込むスタートには拍車をかけた感があった。
序盤に違いを作ったのは瀬川。48分の決定機は根性だった。本来であれば瀬川の引くアクションでズレたDFラインをほかの誰かが使うのが理想ではあるのだが、自分一人で揺さぶって自分一人でラインブレイクしてやろうという心意気は買いたいところ。心意気の分、全力で相手を外さなければいけないのでボールコントロールが怪しくなるのはまた必然だったりする。
一方のブリーラムも50分前後からスパチャイのポストを使って反撃に打って出る。裏を取るアクションを織り交ぜて揺さぶってきたスパチャイに対して、川崎のバックスは個人的にはよく食らいついていったなと感じた。
前半と同じく左右からのクロスで攻めに行くブリーラム。しかしながら、川崎もカウンターで反撃。57分のエリソンの2人を向こうに回したカウンターは時間の作り方が見事。地味ではあるけど、こういうところはとても気が利くようになったので、伸びしろがある選手なんだなと思う。プレスの追い方も安定しているし、自分がロストした時にはきっちりプレスバックする。そういう選手は量産体制に入らなくても待てる。
ハイプレスにおいて瀬川の行きっぷりに後方がスライドできずに危うい前進を許してしまう場面もあったが、何とか一度のミスに食い止めて修正。山本のインターセプトの冴えもあり、少しずつ展開を押し込むことに成功した川崎。相手のポゼッションを平定し、少しずつ前半と同じ景色を広げていく。
押し込んだ際に頑張っていたのは右サイド。佐々木と瀬川の二人称気味の攻撃にはなっていたが、何とかしようという気概は感じた。特に瀬川の動き直しの量はさすが。瀬川は家長にはなれないが、瀬川として全力で働く!というものを存分に見せてもらった感があった。
川崎はその根性の右サイドからのクロスをファーで走りこんでいた三浦が豪快に仕留めて先制。エリソンがファー気味に流れたことにより、ブリーラムのWBが三浦にチェックに行くことが出来なかった。
トランジッション要素の強い攻め上がりで先手を取った川崎。ゴールからさかのぼるほど10分ほど前くらいから試合は高温特有の中盤がだらっとしたカウンターの撃ち合いになっていた感がある。
三浦が先制点の場面でブリーラムの選手を制したように、総じてトランジッションは川崎が優勢。ブリーラムもビッソリの投入で新たな前線のターゲットを入れるが、川崎も後方に構えるジェジエウと河原で跳ね返しの準備は十分といった様相だった。
そして、仕上げとなったのは先に挙げたトランジッション。河原がセカンドボール合戦を制して前線にボールを送ると、サイドに流れた山田がクロスを入れる。中央で神田がつぶれたことでボールはファーに流れ、遠野がコンパクトな振りで仕留めて試合を決める追加点をモノにする。
さらには終盤にカウンターからもう1つ。抜け出して絶好機を迎えた神田が選択したラストパスは弱々しいものになったが、弱々しさが味方にも敵にも伝播して、最後は再び自分の元に。無人のゴールに押し込んだ神田のデビュー戦ゴールで試合は幕切れ。川崎のタイでの連勝記録は2024年も伸びることとなった。
ひとこと
マルシーニョと家長なしで押し込んだ後のサイドの崩しを問われる展開はあまり好ましいものではなかったが、右サイドの根性と左サイドのトランジッションが重い扉を開いてくれた。1点勝負になると思っていたし、結果的には大差はついたとはいえ、実際に1点勝負だったとは思うので、この1点目の働きがまずは満点。そのうえで、交代で入ったアタッカーたちがうまく波に乗ってくれた勝利だなと思う。
実際のところ、前半のライン間の使い方などはもう少し精査をしてほしいところ。FWに時間の貯金を届けるために、ライン間を終点ではなく連鎖の起点にするための攻撃設計が欲しいところだ。
試合結果
2024.11.26
AFC Champions League Elite
リーグステージ 第5節
ブリーラム・ユナイテッド 0-3 川崎フロンターレ
チャーン・アレナ
【得点者】
川崎:79‘ 三浦颯太, 90+4’ 遠野大弥, 90+7‘ 神田奏真
主審:モハンメド・アルホイシ