MENU
カテゴリー

アーセナルの歩みと現状を考える

目次

まえがき

   この記事ではアーセナルの中長期的な振り返りにチャレンジしている。先に断っておくが、筆者は経営に詳しいわけでもなければ、クラブの戦略に詳しいコンサル系の人間でもない、財務系の書類を読めるほど財政に明るくもない。ついでに言えば、時たま書いているマッチレビューも2018年に始めたもの。2006年以降アーセナルの試合を毎試合なんとなく眺めていた程度のサポーターであり、長年にわたりアーセナルのサッカーに精通しているわけでもない。

   というわけでこの記事はアーセナルを10年ちょっと見てきた素人が、アーセン・ヴェンゲル晩年期前後にアーセナルに起きたことに対して個人的な見解を与えるだけの記事になる。何か間違いや指摘などがあれば、やさしく教えてほしい。

1.これまでを振り返る

1-1.ゴールデンコンビ

   自分がファンになったのは2006年。試合をウォッチングするようになったのはもう数年後のことなので、ヴェンゲル政権でいえば晩年しか知らない部類といっていい。というわけでお勉強である。きっと昔のアーセナルのことも知らないファンもいるでしょう。一緒に勉強しましょう。

   ヴェンゲル時代を振り返るにあたり、最も大事な人物の一人はデイビット・デイン。1983年にアーセナルのフロントに入って以来、ヴェンゲルのアーセナルの黄金期の礎を作った人物といっていいだろう。1996年に当時無名だったヴェンゲルをアーセナルに推薦したのも彼である。主に移籍関係の仕事を取り仕切る職務についており、ロッカールームからの信頼は非常に厚かったようである。

   ヴェンゲルとデインのコンビは強固であり、2000年代前期の黄金時代は彼らの二人三脚によって成り立っていたといっても過言ではない。ヴェンゲルの目利き、そしてデインの交渉力をかけ合わせてパトリック・ヴィエラ、エマニュエル・プティ、マルク・オーフェルマルスと多くの黄金時代の中核選手を獲得した。もちろん渦中のフレドリック・リュングベリもその1人である。無敗時代を彩ったレジェンドだ。

    アーセナルに黄金時代をもたらしたスペシャルなコンビが袂を分かつのは2007年のことである。原因はクラブに対するビジョンの違い。これだけだとどこぞのロックバンドみたいな話になってしまうので、もう少し掘り下げてみる。

    きっかけはスタン・クロエンケのアーセナルの株式購入である。デインは近未来においてフットボールはビジネス的な要素と今よりもっと切り離せないものになると予感していた。そのため、投資にはより積極的な姿勢を示していた。クラブと別れた後にデインは、より投資に積極的なロシア人の大富豪のアリシェフ・ウスマノフと手を組み、アーセナルの株式購入に動いたほどだ。

arsenal blog:クロエンケ氏、アーセナル買収へ – ライブドアブログblog.livedoor.jp

   しかし、ヴェンゲルからするとこれは受け入れられるものではなかったようである。フットボールのマネーゲーム化を嫌うヴェンゲルは「フットボールはフットボールによって得たお金で循環すべき」と考えていた。ゴールデン・コンビはこういった価値観の違いにより、デインがクラブを去ることで袂を分かつことになった。この混乱に乗じてクロエンケは徐々にアーセナルの株式購入を進めていき、今日のアーセナルのオーナーの座をつかんでいる。

買収拒むアーセナルの“堅実経営術” – ライブドアニュース外国資本の参入で、大物選手の加入が続くプレミアリーグ。リバプールやチェルシー、そしてマンチェスター・ユナイテッドといった名news.livedoor.com

1-2. スタジアム建設で我慢
 
 デインの離脱の影響は大きかった。彼を敬愛する選手は多かったからである。ティエリ・アンリのバルセロナ行きも彼が慕っていたデインの離脱が大きな影響を与えたのではないか?という話もある。

   それに伴い、アーセナルが直面したのはエミレーツ・スタジアム建設費用の返済である。これにより、アーセナルは徐々にピッチ上での競争力を失っていく。エマニュエル・アデバヨール、ロビン・ファン・ペルシー、サミル・ナスリ、セスク・ファブレガスなど毎年のように多くの主力選手が国内外に去っていった。いずれの選手たちも当時の相場に照らし合わせても、比較的安価な移籍金だった。ヴェンゲルは選手をショーウインドウの商品のように扱うことを嫌うだろうし、どの選手に関しても残留を最後まで望んでいたように思う。

 多くの主力選手を失ったアーセナルだが、ピッチの上での成果は非常に安定していた。毎年のようにCL出場をし、グループステージを突破する。毎年のようにベスト16で敗退し、ノックアウトラウンドで結果は残せなかったし、「彼らは連続でのCL出場というトロフィーしか持っていない」と言われたりもしたが、ファンになってから、一度足りとも欧州の舞台でグループステージでの敗退を見たことがないのは個人的には誇らしいことである。

 財政面ではどうか。2009年にCEOに就任したイヴァン・ガジディスがこの部分においては大きな役割を担っていたといえる。アーセナルの財政は健全経営で特に2000年代後半はかなり多くのキャッシュを抱えていたとされる。「金を使え!」という一昔前のアーセナルファンのお決まりの文句はこういった部分から来るものだ。

 一方で商業収入の面では特別なものを有していたとはいいがたい。のちのビック6の中では5番目の多さということで抜きんでいていた数字ではない。マンチェスター・ユナイテッドに代表されるようにユニフォームのサプライヤー契約などのとてつもない規模を考えると、むしろ後手を踏んでいる部分といってもいいかもしれない。

アーセナル元CEOアイヴァン・ガジーディスが10年間に犯した6つの間違い | ARSENAL CHANGE EVERYTHING先日イアン・ライトによるガジディスへの辛辣な評価について少し書いたが、またガジディスの責任を追求する声を見つけた。 OBのarsenal-chan.com
ガジディスの経営手腕と去就に関する考察 – オリジナル コラムサッカークラブの財務に関する第一人者として知られるSwissRamble氏が、アーセナルのガジディスの手腕について、興味深littlemozart777.blog.fc2.com

   プレミアリーグ全体も放映権料の上昇で豊かになっていく。放映権料の分配は2強に偏っていたリーガなどとは異なり、下位チームにも十分にいきわたる配分になっていた。各チームの持つお金の量が増えれば、アーセナルの金庫に眠っているキャッシュの優位性は失われる。エミレーツ・スタジアムの建設費用返済期間に我慢してためたお金が使えるようになった時には、もう優位性は失われているとなるとなんか切ない。

 お金を使えるようになったアーセナルはしばらく手が届かなかったビックネームに手を伸ばすようになる。いうまでもなくメスト・エジル、アレクシス・サンチェスが代表格だ。それに合わせて中心になるべく英国籍選手たちと続々と契約を更新。ブリティッシュ・コア計画が始動する。

画像1

 写真の選手たち以外にも、テオ・ウォルコットがパフォーマンスで契約延長を勝ち取った。かつては多くの選手がサラリーを理由に去っていったが、こうして中堅の英国人選手たちにも手厚い待遇でもてなすようにアーセナルは変容していった。

プレミアリーグ選手の週給とか。アーセナルとか | ARSENAL CHANGE EVERYTHING今日きていたこの記事。ジャーメイン・ジェナス「スパーズの何人かは今の倍はもらっていい」。彼らのサラリーは現在の活躍と比べてarsenal-chan.com

   当然、人件費が右肩上がりになっていく。その上、コアにした英国籍選手たちは伸び悩む。とりわけジャック・ウィルシャーの停滞は多くのファンを落胆させた。無理強いしたデビューシーズンで負傷したまま、コンディションが戻ることはなかった。こうして、ブリティッシュ・コアに代表される準レギュラークラスの選手たちは、市場価値があがらないまま高い給料でアーセナルに残ることになる。もっとも選手を市場価値ではかる考え方はヴェンゲルは好まないと思うけど。

1-3. 運命の17-18の冬

 16-17シーズンにアーセナルは継続してきたCL出場権を失うことになる。見えないトロフィーの時間はおしまいである。財政的にも大きなアドバンテージであるCLを失うと、高騰した人件費は自分たちにふりかかることになる。

   当時の2大エースだったサンチェスとエジルは共にかなり高額な契約延長をアーセナル側に要求。当時のアーセナルの攻撃は彼らの創造性に依存する部分が大きく、どちらか失うだけでも痛恨だったのは間違いない。結果としてクラブは2018年2月にエジルとの契約延長を選択、夏にもシティ行きのうわさがあったサンチェスは、冬の市場でマンチェスター・ユナイテッドに移籍。ヘンリク・ムヒタリアンが彼とのトレードでアーセナルにやってきた。この冬にはピエール=エメリク・オーバメヤンも獲得。サンチェスを手放してなお競争力を失わないことを意識した市場になった。しかし、ついにCLに返り咲くことはなく2018年にヴェンゲルはクラブを去る。

   ピッチ外での変化といえば2017年11月のラウール・サンジェイのSD(正確にはHead of football)就任、ズヴェン・ミスリンタートのスカウト長就任である。主導したのはCEOのガジディスとされており、全権マネージャーであるヴェンゲル後を見据えた人事といえるだろう。ガジディスはManaging Directorであるヴィナイ・ヴェンカテシャンと共にワンマンだったアーセナルは徐々に分業制度を始める。

   しかし、実際にヴェンゲルが2018年の夏にアーセナルを去ると、この体制はいとも簡単に壊れる。まず、2018年秋にCEOのガジディスが退任してミランへ。分業を推進した張本人がアーセナルを去ると、残された者たちの雲行きは徐々に怪しくなる。冬には空位だったTD就任を受け入れられなかったミスリンタートが退団。TDは2019年の夏にエドゥが就任した。

   簡単にはなるが、以上がヴェンゲル期以降に起こったことである。

2. ヴェンゲルに関する所感

 フットボールにおいて過度なビジネスは持ち込まないという彼の姿勢の是非はともかくとして、近年のフットボール界が彼の願うような未来にならなかったことは確かである。タイトルが取れなくなってからも、選手に対する接し方、苦しい時期に安定してCL出場による財政の安定化を図っていたことなどアーセナルブランドの確立に大いに貢献したことはここに改めて書くまでもない。それは、彼が退任した以降も多くのフランス人がアーセナルにやってきていることからもうかがえるだろう。

 最近見かけたアーセナルの迷走に対する意見の中で「アーセナルはヴェンゲル解任を断行せず、現状維持を選択するべきだったのではないか?」というものがあった。気になるのはヴェンゲルの留任がアーセナルにとって「現状維持」なのか?という部分である。ヴェンゲルがかつてアーセナルにもたらしたものは今の欧州ではスタンダートだ。例えば食事については、現代の欧州のトッププレイヤーで気にかけない人はいないはずだ。

   選手発掘におけるアドバンテージも同様。世界中のプレイヤーの映像がどこにいても見ることができる時代に、果たして「掘り出し物」が本当に埋まっているのかは怪しいところである。少なくとも、ヴェンゲルが幅を利かせていた時代に比べればアドバンテージは薄まっている。健全経営で積み重ねたキャッシュがアドバンテージになっていないことは、すでに述べた通り。CL出場による財政悪化を踏まえると、ビッククラブとしての体裁を保つという意味では、現状維持どころか危険水域に入っていると言っていいかもしれない。目に見えないアーセナルのブランドは確かに維持できてはいるが、ピッチの状況がヴェンゲルの留任でこれ以上上向く可能性はあっただろうか?

   スタジアム建設費用返済という苦境を「現状維持」で乗り切ったのは確か。その点においてもヴェンゲルの功績は大きい。しかし、未来はどうか。仮にブレグジットが実現して、プレミアリーグを取り巻く状況が大きく変わり、マネーゲームと異なる様相になればヴェンゲルのアドバンテージは復活する可能性も全くなくはないが、それでもピッチ上での近代化についていけないという問題点は据え置きになる。長年チームが沈むことになれば、どちらにせよブランドの維持は難しくなるのではないだろうか。

   もちろん、下位に沈んでもブランドが生き残る可能性はなくはない。しかし、他クラブが複数人で行っている仕事を1人でやるモデルには限界があるのではないか。アレックス・ファーガソンと彼以降、プレミアでこのタイプのマネージャーは出てきていない。現代のフットボールは1人の人間のハードワークで賄うことが不可能なほど、多くのことであふれている。仮に監督がピッチの上のことに集中する存在になった時(実際にヴェンゲル晩年にガジディスは移行を試みている)、果たしてその役目はヴェンゲルが最も適切だろうか。

   時代を先どったメソッドを取り入れたヴェンゲル・アーセナルが、今やどこか牧歌的なロマンの象徴になっているのは、現代フットボールの移り変わりの影響が大きいのではないか。

3. アーセナルの歩みに対する考察

   最後の項はフロント目線からアーセナルを考える。

 かつて、アーセナルのスポーティング・ディレクターであったディック・ロウが2017年に「Somos Futebol 2017」というフットボールコンヴェンションでプレミアリーグのクラブの運営モデルについてプレゼンを発表している。

「英プレミアリーグのクラブ運営モデル」ディック・ロウ2017年のプレゼンより | ARSENAL CHANGE EVERYTHING先日、2019夏のアーセナルの移籍ポリシーについてのオーンステインのリポートを紹介したエントリで、来月アーセナルの新テクニarsenal-chan.com

 2年前と若干古いが内容は非常に興味深い。まぁそれは置いておいて、これで自分が何が言いたいか?というと、アーセナルは現在全権マネージャー制からエグゼクティブ・ディレクター制に移行している状況であるといえる。簡単に言うと、ヴェンゲルが1人でやっていたことをサンジェイとヴェンカテシャンの2人で分業し、各分野に専門職を置くやり方である。

   それを踏まえて、ここまで振り返ってきたヴェンゲル期のアーセナル+その後におけるターニングポイントとしては以下のようなものがあげられると思う。

(1) デイビット・デインの退団
(2) イヴァン・ガジディスのCEO就任
(3) アレクシス・サンチェス売却に関連した動き
(4) ウナイ・エメリの監督就任

1つずつ見ていこう

(1) デイビット・デイン退団

   政治的に怪しい部分があるウスマノフと手を組んだことが適切かどうかはおいておいて、本文でも触れた当時のデインの想像した未来のフットボールは、今の状況と近いものになっている。少なくとも、ヴェンゲルが望んた未来よりははるかに近い。どちらの未来が素敵かはさておき、これでアーセナルはデインと別れる未来を選んだ。大量の投資で選手を獲得する未来を一度遠ざけた判断といえる。

 この決断は副次的にヴェンゲルの仕事の範囲を広げることになる。デインの退団によりアーセナルはさらなるワンマン化が進んだといえるだろう。デインがいれば、アーセナルのヴェンゲルへの依存度が少しは少なかったかもしれない。

(2) イヴァン・ガジディスのCEO就任

 難しいところである。手を打っている方向としては悪くないものが多いと思う。財務全体で見れば就任当初は良好。ヴェンゲル後のアーセナルを見据えたリクルートも行っていた。しかし、商業収入が伸び悩んだことや、自らが集めた人材を取りまとめることができずに、退団してしまったことを考えるとスペックが十分だったかは怪しいところである。

(3) アレクシス・サンチェス売却に関連した動き

 近年のアーセナルの方向性を決定的にした決断だ。同年夏に残り契約1年のサンチェスの売却に失敗(この失敗は前述のディック・ロウの責任であるらしい)し、市場価値が下がった冬に売らなければならなくなったこと。当時のアーセナルはエジルとサンチェスに依存しており、彼らの代理人及び彼らを獲得したいクラブから足元を見られるかなり苦しい交渉になった。CL権を失った中で再建の道もあったが、彼らはムヒタリアンとオーバメヤンの獲得に動く。これはすなわち、CL出場権の即時奪回を目標としたことの表れではないだろうか。

   ちなみに今では失敗という人も多いエジルとの契約延長は、当時は万雷の拍手で歓迎するアーセナルファンが多かったことも記しておく。それほどまでに当時のアーセナルは彼らへの依存度が高かった。

(4) ウナイ・エメリの監督就任

   17-18の冬に「CL出場権の奪回」を優先としたオーバメヤンとムヒタリアンの獲得をしたアーセナル。彼らの契約期間やスカッドの年齢が高齢化していることを考えれば、CL出場権の即時奪回は2018年の夏の継続テーマになるのだろう。当然監督選びもそれに基づくことになる。

サンレヒ、ミズリンタット、ガジディス。アーセナル新監督について3人の思惑 | ARSENAL CHANGE EVERYTHING昨日『テレグラフ』が報じたところによると、現在アーセナルのなかでもヴェンゲルの後任マネージャーの人選について意見が割れていarsenal-chan.com

   数多く挙げられた候補者の名前の中で経験豊富なウナイ・エメリが選ばれた。問題はリンクの記事の中では3人の重要人物(ガジディス、サンジェイ、ミスリンタート)が全く異なる人事を希望していたことだ。想像だが、エメリをプッシュしたのはおそらくサンジェイではないだろうか。即時CL出場権の奪回を掲げるアーセナルにとって、監督未経験のアルテタや国を出たことがないドイツ系青年監督たちよりエメリは適正な人選に思える。

   しかし、それはあくまで「即時のCL出場権の奪回」という目標に基づいた話。17-18の夏と冬の移籍市場の振る舞いが異なれば、違った選択肢が正しくなる可能性もあった。指摘したいのは監督就任以前の段階で、すでにフロントが描いているビジョンがそれぞれバラバラであった可能性である。

   同年に起きたのはアーロン・ラムジーの契約問題。契約更新が遅くなったのはヴェンゲルやガジディスの選手を商品化しないというポリシーに基づいたものであるはずだが、そのラムジーの処遇について二転三転したのも印象が悪い。エメリは当初からラムジーを高く評価して重用していた。秋口までは有力だった契約更新が覆ったことをラムジー本人が認めたのは10月のことである。

ラムジー本人がアーセナルとの契約交渉破談を認める。移籍の展望とポストラムジー時代のアーセナルについて | ARSENAL CHANGE EVERYTHING昨日スペインとフレンドリーマッチを戦ったウェールズ。試合後のアーロン・ラムジーのコメントが話題で、それによればアーセナルがarsenal-chan.com
ヴェンゲルがラムジーのユーベ移籍の舞台裏明かす 「彼は残りたがっていた」【超ワールドサッカー】アーセナルで長期政権を築いたアーセン・ヴェンゲル氏が、今夏ユベントスにフリートランスファーで移籍したウェールズ代表MFアーweb.ultra-soccer.jp

   もちろん、今の時代の移籍に関してはクラブの意思が全てではない。ただ、サイン直前までいった挙句にクラブ側が契約を撤回するという判断をしたことは確か。それも現監督が重用する選手である。交渉破談を境にラムジーの序列は下がるが、最終盤にノルマであるCL出場権獲得に向けて、再びラムジーを起用すると躍動したパフォーマンスで彼も答える。最終的にはELで負傷し、チームも目標を達成できず。ファンとしてはただただ彼への名残惜しい気持ちが募る結果になった。このラムジー退団もフロントが一枚岩になれていないトピックの象徴だ。

あとがき -新監督選びについて-

 エメリの解任前、リュングベリを暫定監督に据えた期間、いずれもアーセナルの周りには非常に多くの監督の名前が飛び交っていた。ガジディスとミスリンタートがいなくても、十人十色の監督候補が出てくるのはウナイ・エメリ就任前と同じである。リュングベリが「十分なコーチングスタッフをそろえてもらってない。クラブは決断をすべき」とぼやいていたことからも、フロントがビジョンをもってエメリを解任したわけではないことが見て取れる。

 ヴェンゲルのアーセナルはよく「未来を見たチームだ」といわれたものだ。それは若いスカッドで躍動感あるパフォーマンスを見せていることへの称賛と、経験豊富なベテランが不在で重要な試合で十分なパフォーマンスができないことへの揶揄だった。気づけば今のアーセナルはCL出場権奪還という「今」を追い求めるチームになっている。もちろんそれは悪いことではない。しかし、アーセナルの現状で「今」を掴みに行くのはとても難易度が高いミッションでもある。

 気になるのは監督候補として筆頭のアルテタの名前に次いで、ヴィエラがターゲットとして挙がっていることだ。志向するサッカーよりアーセナルファンに愛されるか人物かどうかがプライオリティになっていないだろうか。もちろんそれも重要な要素だとは思うが、この難局を「過去」にすがって解決しようというのならば、非常に虫がいい話である。

 アルテタが優れた指揮官かどうかはわからないし、フロントが今でも今季のCL出場権奪還を目指しているかはわからない。自分が望むのは、ヴェンゲルでもエメリでもつかめなかった「今」を追い求めるためだけに、十分なビジョンがないままクラブのレジェンドを次々登用する真似だけはやめてほしいということだ。

 今は強大な支配力を持っているリバプールも多くの失敗している。巻き返しはできると信じたい。ミケル・アルテタの監督就任がアーセナルが再び「未来」を見据えるきっかけになるファクターになることを信じてやまない。

その他参考文献

アーセナルの「大株主」について、アップデート&さらに調べてみた1つ前の、アーセナルをめぐる、いろいろな背景がありそうなビジネスマンの動きについてのエントリの続き。 どっちにしても結局nofrills.seesaa.net
サッカーにおける「フットボール・ディレクター」の役割とは? | ARSENAL CHANGE EVERYTHING自分のブログの過去記事を見ていたら、ちょうど去年のいまごろ「フットボール・ディレクター(ディレクター・オブ・フットボール)arsenal-chan.com

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次