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「後方重心主義の影響は?」~2024.11.10 プレミアリーグ 第11節 チェルシー×アーセナル レビュー

プレビュー記事

目次

レビュー

背後が気になるプレス隊

 新監督ながらも安定したシーズンの前半戦を迎えているチェルシーと集大成となりそうなシーズンながらも勝ち点の伸び悩みが先行するアーセナル。同じポイントながらも両チームを巡る状況は対照的である。

 序盤にリズムを握ったのはチェルシーだった。保持時のフォーメーションはいつも通り3-2-5。3バックはククレジャ、コルウィル、フォファナ。その前にカイセドとラヴィアが並び、パーマーとグストがシャドーの位置に立つ。アーセナルファンの中では『3-2-5固定』の話が最近話題になっていたが、このチェルシーはおそらくは3-2-5固定のイメージに近いチームかもしれない。

 プレビューで触れた通り、チェルシーの攻撃のポイントは前線の降りる選手に対する縦パスである。特にパーマーとジャクソンの2人が攻撃のスイッチになる。ということでトーマスとライスのアーセナルの中盤コンビは降りるパルマーやジャクソンなどの後方を気にしながらのスタートだった。

 そうなるとおそろかになるのは前。今度はカイセドやラヴィアへのマークが甘くなる。3分過ぎにウーデゴールのプレスに後方が連動できず、チェルシーのCHがフリーになってしまったのはアーセナルにしては珍しい場面であった。

 ウーデゴールやハヴァーツが中盤のケアができないとなると、今度はチェルシーのバックスがフリーになる。ということでコルウィルが対角のキックでマドゥエケまでボールを送るという文脈はいかにもアーセナルのプレスとチェルシーのビルドアップの綱引きの結果という感じだろう。

 チェルシーはやや外回り気味ながらも敵陣に入る頻度はそれなりに作れた序盤。だが、アタッキングサードの連携はSBとSHの二人称となっており、アーセナルのプレスバックが間に合ってしまうと、やや打開策に苦しんでいたように見えた。

相手のDFを揺さぶりきれるケースは稀

 時間の経過とともにアーセナルのプレスは整理されていくように。基本的には重心を前に押し出すことでチェルシーのビルドアップに対抗するようになった。例えば、降りてくるジャクソンは完全に後方に任せる。そして、中盤のプレスの矢印は前に向けるといった具合である。

 というわけでチェルシーは今度は降りてくる動きについてくるアーセナルのCBを利用し、その背後を狙うアクションが刺さるかどうか?が重要になる。18分のシーンがチェルシーがこの駆け引きに勝利した場面である。ガブリエウが攻め上がった場面であり、ジャクソンにサリバが引っ張り出されたこのシーン。パーマーがトーマスのプレスを掻い潜った段階でアーセナルのバックラインに残っているのはホワイト、ティンバー、ライスの3人。降りるジャクソンでアーセナルの壁となる2人のCBをどかした形を作ることができた場面。縦パスからの加速で一気に仕留めるチェルシーの攻撃と非常に相性がいい盤面だ。

 しかしながら、チェルシーがそうした場面を作ることはあまり多くはなかった。アーセナルのプレスの練度はさすがで、高い位置からのチェイシングでチェルシーにボールを蹴らせて回収する場面が増えていくように。

 復帰戦で前プレを主導し、精度を高めたウーデゴールが表の功労者ならば、プレスから逃げられそうになった時にプレスバックで急いで穴を塞いだ両WGは裏の功労者。マルティネッリとサカの素早いカバーリングでアーセナルはプレスへのチャレンジを継続する。

 奪ったところからのショートカウンターは機能したアーセナル。その一方で自陣からのビルドアップは効いていたかは微妙なところ。自陣からの保持においてはこの日のアーセナルは3-1-6気味にスタート。ティンバーはビルドアップに関わらず、トーマスをアンカーとしつつ、ライスやウーデゴールのサイドフローでチェルシーのSBとSHの間に顔を出す形で前進を狙っていく。

 チェルシーは積極的にバックラインにプレスに行く意識はあった。特にGKからのリスタートの際はチェルシーはかなりプレスに出ていく。ラヤを中心とするパスワークはこちらから見るとヒヤヒヤするものであったが、チェルシーのハイプレスを外してサイドにボールを逃すところは問題なく機能していた。

 前にボールを送るところまで行けばアーセナルの攻撃は普段であればかなり期待が持てるはず。ただ、この日はチェルシーのバックラインも相当に奮闘。ハイラインを維持するという観点で言えばククレジャの貢献度は相当。サカやハヴァーツが得意なサイドから内側にボールを隠しながら旋回するような形でのドリブルの加速を許さず、他の中盤の選手との挟み込みでアーセナルの速攻を封じた。

 時間の経過とともにアーセナルは保持の安定を選んだようだった。後方は3-2ビルドが中心となり、トーマスは時折最終ラインに降りる形を取るなど、ブロックの外に出てくるプレーもそこそこに出てくるようになった。

 このトーマスの上下動は良し悪しだなという感じ。サイドフローする中盤にボールをつけつつ、トーマス自身がもう1列前に入るみたいな高い位置の取り直しができている時は問題ないように思うが、最終ラインに入ったところから直接大外のWGにつける形は少し負荷が高いように見えた。右のサカはそれでもなんとかしていたからそれはそれですごいけども。

 左サイドの定点攻撃はもう一声かなという感じ。大外のマルティネッリに対してハーフスペースで裏に抜けるアクション自体はあったけども、タイミングが悪かったり内側にルートを作ることと並行できていないことから、チェルシーのバックラインに対して選択肢を突きつけることができなかった感じ。フォファナのスライドの素早さに迷いはなかった。

 総じて、アーセナルはチェルシーのCBを横に揺さぶれれば、チェルシーはアーセナルのCBを縦に揺さぶれればチャンスになりそうであったが、なかなかそうしたところまでたどり着くことができなかった印象だった。押し込むアーセナルはハヴァーツの幻のゴールを手にしたが、これはオフサイドで前半にゴールを掴めず。

 チェルシーも終盤にジャクソンの反転からのファウル奪取でチャンスメイク。カイセドのトランジッションが光る攻め筋構築だった。ただ、アタッキングサードではパーマーが不調。このファウルで得たFKを含めて、チェルシーの攻撃の仕上げとなる場面でタッチが乱れたり、キックが決まらなかったりなど攻撃の決め手にならなかった。

 チェルシーの決定機もネトの根性から生み出したグストの1つだけ。前半はチャンスが非常に少ない展開となった。

光を放った右サイドだが・・・

 後半頭は両チームに工夫が見えるスタートだった。まずはチェルシー。パーマーが左の大外まで流れる動きでアーセナルの守備網を動かす。サイドからのクロスで手早くアーセナルの陣内に迫る。

 一方のアーセナルはロングボールとティンバーの列上げの組み合わせ。ハヴァーツの前線の起点力とセント・ジェームズ・パークで見せたティンバーの大胆な前線への攻撃参加からチャンスを作りにいく。

 アーセナルのスタンスは前半よりもトランジッションを抑えたい意図が見えるものだった。一番わかりやすかったのは守備時のリトリート成分が高まったこと。右の大外のマドゥエケにマルティネッリが対面する場面が増えるなど、WGを下げて対応する場面が増える。

 その分、前進は苦しくなるところであったが、ここはまたしてもサカが根性を見せる。右サイドでボールを収めて粘ると横断から逆サイドまでボールを送ることでチャンスを作っていく。

 その右サイドの攻撃からアーセナルは先制点。前からのプレスでボールを奪うとハヴァーツ、ウーデゴール、トーマスの3人で粘り、最後はウーデゴールがファーサイドに。角度のないところからゴールを決めたのはマルティネッリ。サンチェスはニアを閉じたかったところだが、チェルシーのバックスの対応が完全に後手に回っている中でボックス内のサカへの折り返しを気にしたい気持ちをわかる。

 チェルシーは得点前後でやたらとバタバタしていた。ハヴァーツの怪我の場面は時間を使いたかったアーセナルの誘導にまんまと引っかかってファウルを犯してしまうなど、ちょっと試合の流れ自体の主導権をアーセナル側に持って行かれた感がある。

 ただ、そのチェルシーも同点に追いつく。セットプレーの流れから見事な列上げを見せたネトが見事なミドルを突き刺す。ぽっかりと空いたライン間のスペースは確かにお粗末ではあるが、現実的にはどうしたらいいか難しいところ。

 本来であればネトがミドルを打ったスペースはCHが埋めたかったところ。ライスはサリバが持ち場にいなかった右のCBのスペースを埋めていたし、フォファナに対して内側のポジションを取れなかったライスをトーマスがカバーしようとして最終ラインに吸収されてしまうのは理解できる。フォファナはサリバと張れるフィジカルであることは後半の他の場面のセットプレーで証明されているし、トーマスが引っ張られるのは理解できる。

 逆サイドも含めてDFラインに人は張り付きすぎであった感はある。ただ、そちらのサイドもコルウィルが攻め残っていたので、対応は難しいところ。マルティネッリがついていくのが一番丸い気がするが、マークすべきグストを捨てて迷いなくネトについていくというのは少なくとも後方の認知ができない難しいように思う。

 ただ、これが普段のチーム全体が守備時に後ろに下がる後方重心主義と関係しているかは微妙なところ。これはセットプレーという非常時だし、通常であればボックスのクローズはバイタルの封鎖とセットになっている。特殊事例として考えていいはずだ。

 以降はアーセナルが追加点を狙いにいく。特に効いていたのは途中で入ったメリーノ。ムドリクが入って後手に回るチェルシーを尻目にサカ、ウーデゴールによって右サイドを制圧すると、そこからのクロスに飛び込む役割を果たす。ビルドアップにおいても対面の相手と駆け引きしつつ、相手の逆を取る列上げからボールを前に進めていく。

 惜しむらくはサカの負傷だろう。これで右サイドの出力は落ちた。右サイドに入ったジェズスは追い越す動きからのチャンスメイクはしたが、オンサボールでは不十分。右WGのジェズスは対面の相手を背負えるミスマッチを活かす動きが効くのだが、背負う相手に対してめっぽう強さをみせるククレジャは少し相性が悪かったかもしれない。

 逆サイドのトロサールも苦しいところ。繋ぎのボールタッチは悪くなかったが、ゴール前でタッチがやたらと迷いがあったし、守備に回った際の貢献度では大きく下回ってしまった。途中交代で入った選手であれば、ここはきっちりやった上で攻撃に出ていきたかった。

 終盤はゴール前の機会を増やしたアーセナルだが、最後までこじ開けることはできず。試合はタイスコアで幕を閉じることとなった。

あとがき

 チェルシーは思ったよりも自分たちにペースを渡してくれなかった。そういう相手とのアウェイゲームで1ポイントというのは悪くはない。だがこれで11試合で19ポイント。優勝を狙う前提であれば数字は厳しい。悪くない内容とよくない結果は共存するもの。代表ウィーク明けのリカバリーはマスト。まずは混戦の3位争いから抜け出したい。

試合結果

2024.11.10
プレミアリーグ 第11節
チェルシー 1-1 アーセナル
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:70‘ ネト
ARS:60′ マルティネッリ
主審:マイケル・オリバー

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