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レビュー
ファークロス以外の兆候から生まれた先制点
首位のリバプールとは勝ち点差9。優勝を争うにはここから勝ち点差を詰めていかなければいけないアーセナル。今節の対戦相手はそのリバプールに今季唯一の黒星をつけたフォレストだ。
主導権を握ったのはアーセナル。フォレストの4-4-2の外を回すようにサイドからボールを運ぶと、ここからセットプレーでゴールに迫る。4分にはティンバーがネットを揺らすがこれは直前で抜け出したメリーノがオフサイド。アーセナルはセットプレー攻勢での序盤のチャンスを活かせない。
それでも押し込むフェーズはきっちりと確保したアーセナル。フォレストの4-4-2のブロック守備に対して、3-1気味に後方でビルドアップ隊を構成。ポイントになるのはワイドのCB。左で言えばガブリエウ、右で言えばティンバーである。
この3枚目のCBがフォレストの2トップのマークを外れるように外に立つことができれば、アーセナルの第一段階はクリア。ワイドの立ち位置の選手がSHを釣ると、それに合わせたサイドフローでボールを前に進めることができる。
アタッキングサードまでボールを運ぶことができたアーセナルはいつも通りペナ角付近からのファークロスを徹底。右サイドを主としてサカもしくはウーデゴールからインスイングでのクロスでゴールを狙っていく。
ただ、今のアーセナルの問題点はこのファークロス一辺倒になりすぎていることでもある。そこから先を見せられるかどうかでブロック守備攻略の精度が決まる。ファークロスから兆候が見られたのは15分。左の大外のトロサールからボックスに入り込むウーデゴールへのグラウンダーのパスは非常に懐かしいタイプの崩し。この場面では決まらなかったが、ウーデゴールの得意の得点パターンである。
このウーデゴールのミドルの流れからアーセナルは先制点をゲット。やや中央レーンでボールを受けたサカが中央から左に旋回しつつ、強烈なミドルを放ってこじ開ける。ウォード=プラウズを外し、寄せてくるミレンコビッチを交わすようなギリギリのタイミングでわずかに空いたコースにできるだけ強いシュートを!というような得点。フォレストもそれなりにやるべきことはやった上の結果だし、当然GKにもノーチャンス。サカのクオリティがゴールをこじ開けた。
悩ましいハドソン=オドイ
先制点に話題を引っ張られた感があったが、先制点が入った時間帯を境にアーセナルはニアサイドの攻略に注力。複数人を使っての同サイドでのショートパスでフォレストのブロックに侵入する。
ニアサイド攻略がここまでなかなかうまくいっていなかったのは左サイド。しかし、この試合では大外のトロサールをカラフィオーリがやや内側から追い越すことでサポート。後方でのフォローとの2つの役割をバランスよくこなし、左サイドに選択肢を作る。
ジェズスはCF起用には左サイドに流れがちなプレー傾向があるし、ウーデゴールも逆サイドから顔を出すことも。メリーノ以外にも多くの選択肢を作ったアーセナルは、アイナという厄介なSBと対峙したトロサールをサポートし続けた。
ウーデゴールが帰還した右サイドはサカ、ティンバー、ウーデゴールの3枚で相手を翻弄。悩ましかったのはハドソン=オドイ。 サカへのダブルチームへのサポートをベースにすれば、ティンバーかウーデゴールのどちらかが空いてしまう。アーセナルはその空いている方を使えばいい。かといってティンバーを素直に気にすれば、サカはモレノとの1on1で優勢に立ち突破を許してしまうことになる。
フォレストは自陣側の守備ではウォード=プラウズ、イエ―ツ、ドミンゲスが3枚で並ぶ4-5-1を形成していたため、サイドの枚数が足りないのであればこの3センターからスライドして対応するのが基本になる。だが、先制点のサカのようにそれを無効化する術が出てきてしまったので、この防衛策に対してもアーセナルは上回るものを提示したといえる。
さらに状況はビハインド。それであればハドソン=オドイからすれば前から捕まえに行くことは大事にすべきということで、だんだんと前に出て行くケースが増えるように。この動きにより、アーセナルはマークの甘くなりがちなサカにボールを預ければ陣地回復が可能な状況を作り上げる。
時間の経過と共にアーセナルは敵陣でのショートパスの割合を増やした印象。左右のパスの距離が近くなり、サイド攻撃に関与する枚数も増えるように。右サイドでは仕上げのジョルジーニョのパスが崩しを最大限に引き立たせるアクセントになっていた。
サイド攻撃においてきっちり選択肢を提示できること、またそれぞれの選択肢の強度を増すことができたのはやはりウーデゴールの存在が大きい。ビルドアップでのサポートとボールと共に前進してのアタッキングサードでの貢献を両立できるバランス感覚は今のアーセナルのスタイルにおけるもっとも重要な部分。逆サイドに寄るような自分たちの陣形のバランスを崩す動きでも、適切なタイミングとプレースキルによって相手に不具合を押し付ける形になっているのがウーデゴールの素晴らしいところである。
フォレストは自陣からの保持において3-2-5への変形から攻略に挑んでいたが、なかなかきっかけをつかむことが出来ず。トランジッションから右サイドのスピードを生かす形を作っていたが、カラフィオーリは対面するエランガを十分に抑えてみせた。
前半の終盤にはアウォニィが背負えたり、あるいはアーセナルのプレス隊の圧力が下がったりした分、希望の光はなくはなかったが、WGにいい形でボールを預けるところがスムーズにいかずに苦戦。カジュアルにサカにボールを預けるだけで陣地回復が可能だったアーセナルとは対照的に前に進めつつ、ボックス内に入り込むルートを見つけることが出来なかった。
前半のアーセナルに唯一足りなかったことは追加点。それ以外はすべてを手にしてハーフタイムを迎える。
またしても出し抜いた3センター
迎えた後半、フォレストはプレスを強めてアーセナルに対して高い位置からボールを奪いに行く。アーセナルは非常に丁寧に相手のプレスを回避。前半以上に自陣に枚数をかけたビルドアップでフォレストのプレス隊の心を折る。
この点も前半の項で述べたウーデゴールのバランス感覚が優れているところ。低い位置に降りるアクションを増やして、まずは初手のハイプレスで相手にリズムを渡さないところにフォーカスする。
個人的にはメリーノがウーデゴールのイメージを汲み取るようにやや右サイドに重心をかけながらプレス回避に関与していたのが興味深かった。アタッキングサードではもう少しできることの引き出しを増やしてほしい感じはあるが、ビルドアップでリズムを構築するサポートやボールと共に前に進めるあたりはすでに十分な貢献度を見せている。
降りるウーデゴールを軸にアーセナルはフォレストのビルドアップを右サイドから回避。すると、この右サイドから追加点をゲット。ダブルチームにつかれたサカからのパスを受けたトーマスがミドルシュートを決めて試合を動かす。
この場面もフォレストの3センターの関係性が難しい場面だった。1人はサカのダブルチームへのサポート、1人はハーフスペースに抜けるウーデゴール、1人はDFラインに吸収(おそらくはメリーノを監視する動き)という形でトーマスをマークする選手が存在しなかった。アーセナルはまたしてもフォレストの中盤の動きを上回る形でゴールを決めた。
以降はアーセナルが保持で落ち着けつつ試合のテンションを下げる時間帯に突入。フォレストはプレスに出て行って追いかけはするが、ファウルを犯してしまいなかなかクリーンにボールを奪うことが出来ない。
アーセナルにも懸念がなかったわけではない。焦りたくない場面なのにトロサールは不要に縦に速い選択肢を取ることで、ややプレーが前がかりになり過ぎていた。前半は味方と近い距離で安定したプレーを見せていたジェズスも、そうした時間を作らなければいけない状況においてボールをこねてロストしがち。前線はややリズムが悪化した感があった
フォレストのSBの出足が良かったのもアーセナルが終盤まで攻めきれなかった要因の一つ。サイドに展開するボールを腹をくくって奪いにいき、カウンターにつなげるモレノとアイナの根性は素晴らしかった。
ただ、ひっかけてしまってもアーセナルの帰陣はフォレストの攻撃に対して間に合うシーンばかり。カウンターにおける速い攻撃は素早くスローダウンさせることが出来ていたし、右サイドのジョタ・シルバからのクロスへの跳ね返しは安定。地味にCFがアウォニィ→ウッドになったことで相手を背負う能力が目減りしたことも大きかった。
最後は右サイドに入ったスターリングとヌワネリを軸に攻撃を組み立てたアーセナル。86分にこのコンビから3点目を生み出して完勝に花を添えた。
5試合ぶりのリーグ戦勝利で代表ウィーク明けの一戦を飾ったアーセナル。巻き返しを期するための内容も伴った見事な90分だった。
あとがき
ハヴァーツ、マルティネッリ、ライスなしでこれだけできればいうことはない。ウーデゴールが出てきてできることが明らかに増えたことはこのアーセナルを見て実感できるが、今のシティを見るとちょっと前のアーセナルは苦しいなりに1試合ずつをきっちり戦えていたので、そこも忘れずに誉めてもいいのではないのかなと思った。
試合結果
2024.11.23
プレミアリーグ 第12節
アーセナル 3-0 ノッティンガム・フォレスト
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:15′ サカ, 52′ トーマス, 86′ ヌワネリ
主審:サイモン・フーパー