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「早め早めにクギを刺す」~2024.11.30 プレミアリーグ 第13節 ウェストハム×アーセナル レビュー

プレビュー記事

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レビュー

2年連続のトロサール

 前節はリーグ戦で5試合ぶりの勝利を飾ったアーセナル。ミッドウィークでも難敵であるスポルティング相手に5得点の大勝とウーデゴールの復帰と共に一気に調子を上げている。12月の日程は移動距離、対戦相手の両面で有利なアーセナル。今節は首位か2位が勝ち点を落とすことは確定のため、ウェストハムに勝利し上位追走の足掛かりとなる連勝を掴みたいところだろう。

 予想通り、ボールを持つのはアーセナル。今季は比較的高い位置から強引なプレスを仕掛けることが多いウェストハムだが、この日は慎重な入り。不用意にCBにプレスに行くことはせず、やや構えるように守る。アントニオは中盤を基準とし、SHがプレスのスイッチをいれる。

 アーセナルはウェストハムの守備の規則を確かめるようなスタート。インサイドに絞るカラフィオーリにはボーウェンがついてくるし、サカとティンバーの間に流れるウーデゴールにはパケタがついていく。保持時の可変の要人には相手のマークがついてくるということを確認する立ち上がりとなった。

 アーセナルは徐々に前進のきっかけを見つけるようになる。キーになるのは左の大外であるトロサール。彼の降りるアクションから右の大外への対角パスを展開することで、得意の右サイドで勝負をかけられるようになっていく。

 あと、これは配信中に誰かに教えてもらったのだけども、昨季のロンドン・スタジアムでの試合もCFのトロサールがライン間で縦パスのレシーバーとなることが前進のトリガーになっていた。というわけでアーセナルは2年連続でトロサールの降りるアクションがウェストハム相手に押し込むきっかけとなったこととなる。

 右の大外にボールを送るアーセナル。サカの対面はエメルソンだが、ウェストハムはダブルチームで対応。2人でサカを抑えに行くのだけども、並んでマークをするのではなく、縦関係で抜かれた時にカバーに入る形だった。ダブルチームに入る役となるのはパケタ、サマーフィルなど様々。時にはリトリートしたアントニオが入ることもあったくらいである。

 右サイドはサカを軸にティンバー、ウーデゴールの動き出しからいつも通りポケットとペナ角を中心としてファーへのクロスやニアへの折り返しをバランスよく入れていく。左サイドはトロサールの粘りが光る展開。対峙するワン=ビサカは1on1で抜くのは難しい対人職人であるが、トロサールは抜き切れないながらも粘りながらコーナーを取るなど奮闘。右ほど機能性の高い崩しを有していないながらもなんとか攻撃を形にする。

 押し込むことに成功したアーセナルはセットプレーから先制。お馴染みとなっているガブリエウの飛び込みが炸裂し、CKからアーセナルは先に試合を動かす。

ダブルチームを1on1に変換

 ウェストハムはシンプルにペースをつかむのに苦戦していた。アーセナルのマンツー気味の強気のプレスに対して蹴るしかなかったウェストハムだが、前線のアントニオにはなかなか収めることが出来ず。ロングボールでも前線に起点を作ることは難しい状況だった。

16分のサマーフィルがネットを揺らしたシーンはまさしく千載一遇のチャンスだったが、これはオフサイド。同点に追いつく機会を逃してしまう。

 そんなウェストハムをよそにアーセナルは右サイドから攻勢を強めていく。2点目はハヴァーツの右サイドフローから。先に述べた通り、序盤はきっちりアーセナルのサイドに流れる選手に対してついていくアクションを見せていたウェストハムだったが、ブロックを組む意識が強まると、徐々に降りる選手に対して強気のアクションを仕掛けられなくなる。よってハヴァーツはフリーになることが多かった。

 ウーデゴールとのパス交換で遅れて前線に飛び出したサカにボールが渡り、ファーにラストパス。ボールを受けたトロサールは無人のゴールに押し込むだけ。スペースとタイミングの駆け引きで右サイドを制したアーセナルがリードを広げる。

 3点目は好調の右サイドからのPK奪取。サカが2枚抜きを達成し、あっさりとPKを奪ってくる。

ウェストハムがこの日組んだ縦関係のダブルチームの考え方は「ドリブラーは対面の相手を抜く時にタッチが大きくなる」という前提をベースに組まれている。スピードを上げればその分持ち出しも大きくなるので、その瞬間はボールを奪いやすくなる。後方の選手は持ち出しの大きくなった瞬間を狙うイメージだ。

 ただし、この局面においてはその前提は通用しなかった。エメルソンの後方に構える形で待機していたのはパケタだったが、サカがエメルソンを抜いたタイミングでもまだ両者の間には距離がある。

 単純にサカがエメルソンを左右の体重移動で置いていってしまい、加速を必要としなかったことと、ややパケタの距離が遠かったことで事実上ウェストハムが組んだ縦関係のダブルチームは崩壊。こうなるとただの1on1×2である。そして、2回目の1on1であるパケタがPKを献上した。

 今季のサカは本当に凄みを増していると思う。フォレスト戦のようなシュートもえぐいし、このようにスピードに頼らない対面の選手のおいていき方も心得ている。それでいて相手のマークを集めていると感じている時はきっちりと味方を使うことが出来るという利他的な面もある。できることの幅が広い。

 このPKをウーデゴールが決めてアーセナルは3点目。さらに直後のプレーでトランジッションからトロサールがハヴァーツに裏抜け一発のタッチダウンパスを送り、アーセナルは追加点をゲット。ロストをしてしまったのはパケタであり、まさに悪夢のような数分間だった。

追い上げムードを止めたのは…

 だが、前半はまだ終わらない。4点リードということもありさすがにプレスを弱めてブロック守備を組むことにしたアーセナル。だが、得意なはずの撤退守備からエラーが発生。低い位置でスルーパスを放ったソレールの斜めのパスを通してしまい、ワン=ビサカに2試合連続のゴールを許してしまう。

 この場面は位置を下げていたトロサールを含め、やや最終ラインが横に窮屈だった。その結果、自分の脇のスペースの管理に対して人任せになり、カットできる距離のパスに無頓着になってしまった感があった。

 このゴールで勇気を得たウェストハムは立て続けにセットプレーから追加点をゲット。直接FKをエメルソンが仕留めてリードを2点差まで縮める。

 興奮のるつぼとなったロンドン・スタジアム。さらにゴールを狙おうと鼻息の荒いウェストハム相手にティンバーがファウルを貰うことでトーンダウンに成功。特に、サカとエメルソンの小競り合いに発展した1つ目のプレーはウェストハム一色となったムードをいったんクールダウンさせるのに最適な時間を作る結果となった。

 落ち着きを取り戻したアーセナルはセットプレーからガブリエウがファビアンスキのパンチングを食らうことでPKを獲得。サカがこのPKを沈めてリードは再び3点に広がる。

 終盤には再度エメルソンのFKチャンスが巡ってきたウェストハムだったが、これは枠外。前半の終盤は数分ごとにゴールが生まれる乱戦はアーセナルが3点のリードでハーフタイムを迎える。

ウェストハムの布陣変更の効果は?

 ウェストハムは後半にフォーメーション変更を敢行。中盤のアルバレスをサイドアタッカーのサマーフィルの代わりに入れることで4-3-1-2にシフトチェンジを図る。

 狙いを読み解くのは難しいが、3センターが激しく同サイドにスライドをしつつ、前線の守備参加も積極的だったので、おそらくは同サイド圧縮を強化するためのシフトチェンジといえるだろう。同じサイドに人を集めやすくすることでアーセナルの攻撃の軸である右サイドの攻撃を抑えにかかる。

 だが、このプランは一長一短。相手がサイドにボールをつけた際には確かに圧縮はかかりやすくはなるが、バックラインがボールを持った時にはサイドはむしろ空きやすい位置。右サイドへのロングボールでアーセナルは簡単に前進をすることが出来る。

 かといって、中央にの圧力を高めれば陣形は間延び。しばらくすると、背後を取るアクションからウーデゴールに縦パスが入り一気に前進する場面も出てくるようになった。

 そもそもサイドに追い込んでボールを奪ったとしてもアントニオのような前線のターゲットも守備に参加するのでトランジッションからチャンスを作りやすくなっているわけではない。アントニオならともかく、イングスのような自陣に下がっての守備の負荷を強いるとバリューが出しにくいキャラクターの選手を交代で起用してしまえば、そもそも同サイドに追い込みやすいというコンセプトを守るのが難しくなる。

 パケタ→アントニオの縦パスのラインが開通した時はアーセナルの高いラインを揺さぶることが出来たウェストハムだが、そうした場面は稀。ジンチェンコの投入でポゼッションが安定した左サイドは3点リードを守るのに適切なリズムを刻む。

 ジェズス、スターリングなど結果が欲しいアタッカー陣はやや強引に攻めに行く場面もなくはなかったが、基本的には3点のリードを守るというプランにコミットしたプレーありきという感じ。スターリングはもうちょい守備がんばれなのだが、それはもともとなので仕方がない。

 相手のフォーメーション変更を封じ、3点のリードを守ったアーセナル。公式戦2試合連続の5得点で連勝を飾った。

あとがき

 右サイドの強みはこの日も全面に出た格好。どの試合も微妙に相手の組み方は違うのだけども、どれも撃破しているので本当に調子がいいのだろう。プレビューに書いた通り、後出しじゃんけんが常に成立するクオリティになっている。

 また、試合運びの点で貢献が光ったのはティンバー。2点のリードはあるけども、相手に追い上げムードがあるときにそこに冷や水をぶっかけるファウル奪取は素晴らしかった。ああいう終わり方を迎えられなければまた試合はどうなるかわからない形になっていたので、相手の流れに早め早めにクギを刺したティンバーの働きは非常に貢献度の高いものだった。

試合結果

2024.11.30
プレミアリーグ 第13節
ウェストハム 2-5 アーセナル
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:38‘ ワン=ビサカ, 40’ エメルソン
ARS:10‘ ガブリエウ, 27‘ トロサール, 34’(PK) ウーデゴール, 36‘ ハヴァーツ, 45+5’(PK) サカ
主審:アンソニー・テイラー

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