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「つまらなさの正体」~2019.9.30 プレミアリーグ 第7節 マンチェスター・ユナイテッド×アーセナル レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
アーセナルのローラインの理由

 オープンな展開からの得点が多い両チーム。しかし、試合の入り方は対照的だった。ユナイテッドは積極的にプレスを敢行。10分のシーンは低い位置からビルドアップを行うアーセナルのCBに対して、ラッシュフォード主導でサイドに追い込みつつ、スローインでマイボール→クイックリスタートという流れでボールを取り返した。想像するに直近11試合で複数得点が1つだけという得点力を考慮して、テンポをあげつつ得意なショートカウンターから得点機会を増やそうという試みだろう。

 異なるアプローチをしたのはアーセナル。まず、目についたのは非保持におけるやり方である。特にブロックを敷く際の中盤のタスクには大きな変更があった。今まで3センターのタスクに割り当てられていた相手SBへの対応はWGが担当。3センターには相手の中盤を監視する役割をこなしつつ、時には前にプレスに出ていく役割が与えられた。今までのアーセナルと比較してみると以下のような図になる。

図5

図6

 要はリスクを低くしつつ、試合のテンポを落とす方向に行くイメージ。ユナイテッドと逆で、4試合連続複数失点を考慮してのことだろう。盤面上はSB⇔WGと中盤3枚はかみ合うが、人に強く当たるためにそのようにしているか?といわれるとそういうわけでもない。最重要人物であるポグバにもボールが出てからマークに行くし、ポグバをマークしていたCHがそのままほかの選手に深追いした時も、ほかの選手がポグバのマークに行くことは少なかった。いわば3人中2人は中盤後方でステイさせるイメージである。

 アーセナルのWGにおける守備の役割も結構似ていて、ユナイテッドのSBの監視役は任されてはいるものの、強く当たるわけではない。自陣深い位置まで戻りながらスペースを埋めることを優先。例えばアーセナルのSBが大外にいるユナイテッドのWGに出ていった場合、SB-CBの間のスペースを埋める役割をアーセナルのWGを果たしていた。

図3

 特にサカはこの役割を忠実にこなしていた印象である。深い位置まで押し込まれていてもユナイテッドのSBに積極的にマークする様子はなし。右サイドに置かれたヤングは順足、左のトゥアンゼベもカットインするような動きがない!つまり、ゴール方向に向かうラインが押し下げられるようなクロスが少なく、人に向かうクロスならソクラティスとルイスが跳ね返せる!という見積りでSBへのマークよりもPAのスペースを埋めることを優先したのではないだろうか。

 前節まではほぼ守備免除されていたWGが今節はPAでスペースを埋めることを求められる。ガラッと変わった感が否めないけど、これでアーセナルの最終ラインはいつもよりかなり低い位置に設定された。想像するにこれはスピード豊かなユナイテッドの前線対策。アーセナルとして最も避けたいのは裏に一本で通されること。ユナイテッドの中盤に長身のポグバとマクトミネイがいることを考慮すれば、中盤での競り合いはアーセナルには不利。ましてやポグバはタッチダウンパスの名手でもある。それならば、中盤のデュエルで張り合うよりも、最終ラインを下げながらラッシュフォードが裏に抜けるスペースやジェームズがドリブルするスペースを奪うほうがよくない?と考えたのではないか。

【前半】-(2)
 悩める新戦力

 理由はともかく、ローライン攻略を余儀なくされたユナイテッド。ポグバ→ラッシュフォードのラインとジェームズのドリブル以外でアクセントをつけられず、このミッションにはかなり頭を悩ませていた。アーセナルの4-5-1ブロックに隙がないわけではない。特にペペの対応は気まぐれ。トゥアンゼベに適当な対応で突破を許したせいで、チェンバースがカードをもらったことは反省してほしい。

 もっともユナイテッドもこの隙を何回もつけたかといわれると、そういうわけでもない。時間を与えられた最終ラインはどうしようか考える場面が多く、ボールをもったマグワイアが攻めあぐねるシーンはよく見られた。アーセナルとしてはユナイテッドの最終ラインの組み立ての引き出しの少なさも、ローラインの一因になったのではないだろうか。

 ではローラインを敷いたアーセナルがうまくいっていたか?といわれると微妙なところ。頭が痛かったのは攻撃の方である。後方での低い位置からのビルドアップは試合早々にあきらめたアーセナル。縦に速い攻撃を意識する場面が多かったが、特にペペがサイドでチャンスメイクに貢献できなかったのは辛い。サカがある程度計算できただけに、ペペはもう少しトゥアンゼベ相手にやってくれる公算だったのではないか。となるとオーバメヤンもチャンスメイクでサイドに流れる必要が出てくる。そうなると今度はPAには誰が待ち構えているんじゃい!ということになるので、当然迫力も出てこない。

 攻め込むがうまくいかないユナイテッド、ロングカウンターから起点を作れないアーセナル。焦りがある中で決定機を迎えた両チーム。先に決定機を迎えたアーセナル。ペレイラのミスでサカとゲンドゥージが決定機を迎えるが、ここはデヘアとリンデロフの冷静な対応で回避。

 その直後、CKのカウンターでチャンスを迎えたユナイテッド。CK直後ということで押し下げられたアーセナルの最終ラインはカオス状態。バイタルエリアからマクトミネイにミドルを叩きこまれた。バイタルを空けてしまったことは良くないが、ポジショニングがあいまいなCK直後ならばやや情状酌量の余地はある。むしろ、カウンターのきっかけになったCKのセカンドボールに競れなかったコラシナツの責任は重い。アーセナルが最も警戒していたWGのドリブルを広大なスペースに許すきっかけになってしまった。サカとお見合いする格好になってしまったが、CK時の立ち位置や体格を考えても躊躇なく競り合ってほしかったところだ。

 ちぐはぐ同士ながらスコアでは差がついて終わった前半戦。試合はユナイテッドリードでハーフタイムを迎える。

【後半】
ユナイテッドの勢いのアルゴリズム

 ビハインドからか前半よりも高い位置でプレスに行くことが多かったアーセナル。後方のスペース管理の危うさを見れば、ユナイテッド相手にまずはスペースを埋める選択をした前半は正しいのだなという気持ちになった。ひとまずスペースがあるならばアバウトにでも蹴ってしまおう!というユナイテッドの選択もあり、試合は前半よりは激しくボールが往来する展開になった。ユナイテッドは特に前半得点シーン前後くらいから、ポグバに元気が出てきた印象だ。

 しかし、この時間帯にやや勢いがあったのは前半よりも強気で打って出たアーセナルの方か。51分にはSB裏に流れたオーバメヤンからチャンス。PA内にトレイラとペペが入り込むことでPAの人数を担保した形である。動きは悪くなかったけど、トレイラのシュートはミートしなかった。このプレーから数分後にトレイラは代えられてしまう。この試合は悪くなかったと思うけど。

 アーセナルの強気が実るのは58分のこと。一度はオフサイドで取り上げられたゴールだったが、VARの介入により主審が判定を変更。オフサイドフラッグを副審が上げてしまっていたのはちょっとかわいそう。基準になったマグワイアとオーバメヤンが逆方向に動いていたことや、オーバメヤンの速さを考えると静止画で見るほど簡単な判定ではないと思うが、少なくともオフサイドディレイでのフラッグアップが適切ではないだろうか。

 とはいえ、この場面で痛恨だったのはトゥアンゼベのパスミスだろう。ペペにマークされていたとはいえ、後方にはマグワイアがフリーで受けられる状態だったので、リスキーな中央へのパスを選択する必要はなし。完全に個人のミスといっていいだろう。トゥアンゼベはここまで堅実なプレーを続けていただけにユナイテッドにとっては非常に残念なシーンになってしまった。

 試合はさらににオープンに。得点直後はプレスの勢いを増すアーセナルがペースを握って押し込み続けるものの、トレイラがいなくなったことで自由を享受できるようになったポグバを軸に長いボールを飛ばすユナイテッドが徐々に盛り返していく。アーセナルの後方はユナイテッドのアタッカー陣に対してよく粘った対応はできていた。マグワイアがミドルを打ったシーンのジャカの対応は怪しかったけど。斜めに走りこんできたペレイラの動きは気になったのかもしれないが、ホルダーに当たる守備をしてほしかった。失点シーンで頭を下げたことより、よほどこっちの方が気になるぜ。

 勢いが出てきたユナイテッドはここで2枚替え。リンガード→グリーンウッドはわかるが、フレッジを入れてポグバを高い位置に置いたのはよくわからなかった。空中戦対策かもしれないが、アーセナル目線で言えば低い位置からフィードを飛ばされる方がよほどいやだったような。

 というわけでサイドからのドリブラーアタックが軸になるユナイテッド。セットプレーからはチャンスを得ることができていた時間は前後するが65分くらいのマクトミネイのヘディングのシーンと、ラッシュフォードの直接FKはアーセナルファンの肝を冷やした。特に後者のシーンは、レノはあのコース空けて壁を作っていたように見えていたけど、セービングあそこ狙いでわざと空けていたりしたのだろうか。GKに詳しい人は教えてほしい。

 アーセナルはアーセナルで交代したネルソンにも低い位置まで戻ることを厳命。躍動したサカの代わりはアタッカーのマルティネッリではなく、MF型のウィロックなど、そこまで強引に攻撃には打って出ず。序盤のようなプレーに最後は回帰した印象だ。終盤のプレーの前方への人数のかけ方を見ると、勝ち点3のためにこじ開けるというよりも1はしっかり持って帰ろうという意識があったのかもしれない。

 結局試合はそのまま終了。序盤戦で苦しんでいる両チームの試合は1-1のドローで終わった。

あとがき

■乏しい前進の手段

 ホームでの連敗はひとまず回避したユナイテッド。ポグバがこの試合に間に合ってユナイテッド的には本当によかったのではないかと思う。ポグバのパスの依存度が高く、ほかの後方の選手はあまり有効な前進の手段がないように見えた。多発している負傷者が戻ってきてもこの部分は不安材料だ。

 この日のアーセナルのように引いた相手を崩すには低い位置から相手のポジションのバランスを崩す動きがもう少し欲しい。フェライニやルカクがいた時はそれがなくても強引にこじ開けられたが、今の前線にはかつてほどの高さはない。前線のドリブラーを活かすための方策の整備はここからのV字回復に必須である。

■個々で光るところはあったが・・・

 ローラインでスペースを埋めるユナイテッド対策を敢行したアーセナル。好き放題シュートを許していた今季の出来を考えれば、比較的このやり方は成功していたといえる。トッテナム戦やリバプール戦のような分が悪い博打よりは個人的にははるかにまし。ユナイテッドのアタッカーの特性も考慮されており、プランとしては悪くなかった。

 しかしながら、攻守一体ではなく攻守表裏だったこの日のアーセナル。きっちりローラインの分、攻撃の迫力は失われていた。ペペやセバージョスが存在感を発揮できなかったのも残念だが、ここまで死ぬほどこだわっていた低い位置からのプレス回避をあっさり諦めたのは不思議。ユナイテッドのプレス耐性にどこまで耐えられるかはちょっと気になっていたし、プレス回避できたらチャンスは増える。アーセナルの中盤のボールスキルを考えればもう少しできることの見極めはやってほしかった。徹底的にリスク回避ということかもしれないけど。

 一発回答を示したオーバメヤン、セーブでチームを救ったレノ、地味ながらジェームズ封じに奮闘したチェンバースは個人レベルで光るものはあった。最終ラインには故障者が続々戻ってくる。個人の資質に頼るのは必要だが、それを活かすための仕組みをもう少し整備しなければ、ユナイテッドと同じくCL出場権獲得の道のりは厳しいものになる。

 ユナイテッドにせよ、アーセナルにせよこの試合の戦い方は合理的ではあった。しかし、相手の対策に対する反撃の手段を両チームとも持っておらず、二の矢が出てこなかった。選手の資質の問題か、監督のプランの問題か、両方なのかはわからないが、お互いのチームの引き出しの少なさこそ、この試合を見た多くの人が感じたつまらなさの正体ではないだろうか。ビック6対決と銘打つにはいささか内容が乏しいものになってしまったことが、プレミアリーグファンの1人として率直に残念だったことは付け加えておきたい。

試合結果
2019/9/30
プレミアリーグ 第7節
マンチェスター・ユナイテッド 1-1 アーセナル
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd: 45′ マクトミネイ
ARS: 58′ オーバメヤン
主審:  ケビン・フレンド

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