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「自由度の担保」~2024.12.8 プレミアリーグ 第15節 フラム×アーセナル レビュー

プレビュー記事

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レビュー

2つ重なるエラー

 今季初のリーグ戦3連勝で戦績が上向いてきたアーセナル。今節の対戦相手はこちらも6位と状態が上向いているフラム。昨季は敗れたクレイブン・コテージでの一戦は週末の試合が延期になったリバプールとの勝ち点を詰める絶好のチャンスになる。

 フラムのスターターはルキッチが出場停止から復帰し、CHからGKまでの後方7人はアンデルセンを除いたオーソドックスな人選。2列目はレンタル条項により出場不可のネルソン(前節、怪我していたので条項がなくても出られなかった可能性もあるが)の代わりにトラオレを先発。イウォビを右、トラオレを左という感覚的には逆に思えるサイド配置でスタートしたのはこの試合の特徴の1つとして押さえておきたい。

 一方のアーセナルは左のWGをトロサールにスイッチ。復帰可否が見定められるとしていたガブリエウとカラフィオーリは引き続きベンチ外。ジンチェンコもフィットしなかった左サイドにはティンバーがスライド。右にトーマスが入り、中央ではジョルジーニョが起用されることとなった。

 立ち上がりからボールを持つのはアーセナル。アンカーのジョルジーニョを誰が使うか?ということに関しては流動的で、2-3のようにSBがやや外寄りに立つこともあれば、明確にどちらかのSBが内側に絞るケースもあった。

 フラムの守備は中盤のプロテクトが最優先事項。2トップは無理にバックスにプレスをかけるよりも、中盤をケアすることが優先。もう1つ守備時の特徴として押さえたいのは右のSHのイウォビが自陣に下がり、トロサールを対面とする形の5バックで受けるプランを組んでいたということだ。守備時の陣形は5-4-1のような、5-3-2のような形になっていた。

 アーセナルは右サイドを重点的に攻めるスタート。やや前がかりの守備をするトラオレの背後に顔を出すウーデゴールから右サイドを攻めていく。全体的に右サイドのボールタッチのフィーリングはユナイテッド戦よりはよかったと思う。立ち上がりは細かいミスもそこまで多くはなく、ボールを動かしながら裏に抜ける選手からクロスを入れることが出来ていた。

 防戦一方で攻めあぐねるフラムだが、ワンチャンスから先制点をモノにする。キーになったのはラウール・ヒメネス。ロングボールを収めると裏抜けからラインブレイクに成功し、自らゴールを沈めてみせる。

 ヒメネスは崩しの関与からフィニッシュまでの流れが見事。特に抜け出すときのコース取りがうまい、1列内側に入るコース変更は抜け出してシュートを打つ時間を作るための決め手になった。仮にキヴィオルの外で受けるコース取りを変えなかったら、こんなにスムーズにシュートは打てないだろう。

 アーセナルとしてはキヴィオルの個人でのキャパシティがボトルネックになったシーンだった。初手でボールを収められ、2手目で自分の内側を通されるスルーパスをカットできなかったという二重のミスが痛い。特に、内側に入られてパスを通された2つ目のミスが大きい。直後にサリバがお手本を見せるようにこの内側を閉めて裏へのパスをブロックしていた。

 キヴィオルは負傷者が出ている中でコンスタントに仕事をきっちりとこなせる部分はもちろん評価されるべき選手だろう。だが、この試合では物足りない部分が先行したのもまた事実だろう。

右にこだわらざるを得ない理由

 リードを許したアーセナルは以降も右サイドの攻めを継続。この右サイドフォーカスの是非は難しいところ。

 フラムの守備ブロックは時間が経つにつれアーセナルの右サイド偏重にブロックごとスライドをするようになっていた。使いやすかったトラオレの背後もルキッチが埋めることでカバーはしやすく、アーセナルとしては勝負したいスペースを圧迫されている感があった。

 ただし、ロビンソンのフォロー役であるトラオレの対応はきめ細やかとはいえず、サカが常に2人に付きまとわれているわけではなかった。ロビンソンはサカがボールを受ける前のパスカットを積極的に狙いながらカウンターに移行していたが、サカにボールが入った後ならばアーセナルはクロスやパス交換をする余裕があったといえる。なので、右サイドのスペースは圧縮されながらも戦うことが出来ていた。

 その一方で左サイドの連携は厳しかった。先に述べた通り、フラムの守備はイウォビが自陣に下がる5バック仕様。そのため、本来は右のSHが守るべきスペースは非常に空きやすかった。

 なので左サイドであればまずはこの空いている場所を取ることで相手の出方をうかがいたかった。しかしながら、CBのキヴィオルはサイドに開くアクションが乏しく、SBのティンバーは押し上げてもらえないなら絞る!ということでこのスペースを活用するものはいなかった。

 左サイドの重心が低くなることでアーセナルの左サイドは2人の関係性で崩すしかない状態に。当然相手のパスコースも読みやすくなり、攻撃は単調になる。

 頭が痛いのは左サイドのテコ入れが難しかったことだろう。保持だけを考えるのであればルイス=スケリーを入れて、高い位置を取ってもらうのがいいのかもしれないが、失点シーン以外にもヒメネスに苦しめられているキヴィオルにルイス=スケリーが攻めあがった後のカバーや、イウォビとのマッチアップのフォローまでは手が回らない。右でティンバーを見たいアーセナルファンも多かっただろうが、左サイドでティンバーより強度が低いSBを使うのに躊躇する理由はあったように思う。

 というわけで右サイドから攻め筋にフォーカスするアーセナル。サカのクロスにライスがあわやという飛び込みを見せるなど、クロスから少しずつチャンスを作っていく。

 しかし、40分になるとフラムは中盤でのパスカットを増やす。彼らの中盤はコンパクトで強力。揺さぶるアクションなしに縦パスで特攻をすればあっという間に失点に繋がるということもあり得る。

 致死性のパスミスはないものの、アーセナルの攻撃は相手のボックス付近に迫る手前で終わるように。トロサールを主に監視していてはずのイウォビがいつの間にか1列前でプレッシャーをかけていたのはフラムの守備はより前向きなベクトルで手ごたえがある裏返しだろう。というわけでつかみかけたリズムを再び手放す苦しい時間帯を迎えながらアーセナルは前半を終えた。

60分の交代で変化する攻め筋

 追いかけたいアーセナルは後半の頭からプレスの威力を強め、アップテンポな展開を志向。ボールを奪ったらとりあえず前に前に運ぶという縦へのベクトルも強化し、速いサイクルで攻守を回していく。

 ダイレクトなプレーが増えて雑にはなるのだが、この日の前半のパスがきめ細やかだったかといわれると、そういうわけでもないのでデメリットは限定的なものだろう。フラムがこのアップテンポな流れに乗ってくれたことは重要であり、彼らもボールを奪いに来てくれた。ボールを奪いに来るということは前半のように左サイドでボールが動かせません!というケースは減る。プレッシャーの中で速いテンポでつなぎさえすれば、スペースは自然にできている。そういう意味で前半のような構造的な不良はあまり見られにくい立ち上がりとなった。

 そうした中でアーセナルは同点に。プレビューで書いた通り、フラムはセットプレーの甘さがあるチームだった。「特にGKの近くに立つ相手選手への無頓着さが気になる」みたいなことを書いたのだが、まさしくこの同点ゴールはこの読み通り。GK付近に立つサリバは直前まではトラオレが監視していたのだが、ボールがファーから折り返される過程で勝手にマークを外してしまっている。オンサイドで折り返しさえできればあとはフリーで押し込むだけというシーンだった。ファーでの視野リセットを生かしたセットプレーでマークが甘くなるところを突き、アーセナルは同点に追いつく。

 同点になってからもアップテンポモードは続いていたが、徐々に日程面でやや不利を被っているフラムが厳しくなってくる。左右のWGを起点としたアーセナルはファーへの折り返しやニアゾーンを取ってのマイナスの折り返しでフラムを揺さぶっていく。フラムはCHのベルゲとルキッチの献身的な戻りによって、ピンチが防がれるシーンがちらほら見られた。

 60分の選手交代は両チームにとって戦況を変える大きなきっかけだった。フラムはトップ下のペレイラに加えて、右サイドにウィルソンを投入。左にイウォビを回す采配だ。アーセナルは左サイドにマルティネッリを登場させる。

 フラムのSHの配置変更はアーセナルの攻め筋の構築に大きな影響を与える。前半で述べた通り、アーセナルが右偏重でも問題ない理由はロビンソンのカバー役がトラオレだったから。ここがイウォビとなると、ダブルチームのヘルパーとしての機能性が何段もアップするので、前半のような隙は見せてくれないように思う。

 よって、重要なのは左サイドで決定的な崩しができるかどうかである。そういう意味では交代で入ったマルティネッリの働きは大きなファクターだった。交代で入ったウィルソンは前任者のイウォビと同じくアーセナルのWG番の役割を任されていた。

 ここもマルティネッリにとっては追い風だった。イウォビに比べるとウィルソンは正対する守備でバリューを発揮するのは難しい。1on1であれば明らかにマルティネッリが優勢。カバーに出てくるテテも含めて、マルティネッリには十分に何とかする力があった。

 もちろん、90分直前のサカがネットを揺らしたシーンはマルティネッリにその力があることを証明する場面になるはずだった。しかし、これはオフサイド。大外だったならば、正直ラインに引っかかってしまうのはマルティネッリの準備不足かなという感じであった。

 大ピンチをしのいだフラムは最後の交代でブロックを強化。クエンカを投入する5バック化で、マルティネッリのタイマンの相手をテテに変更する。

 これで何とか試合をクローズしたフラム。アーセナルの反撃はセットプレーでの一撃にとどまり、上位との勝ち点差を詰めるチャンスを逸してしまった。

あとがき

 保持時の自由なポジション取りがアーセナルを支えていると思っているのだけども、この試合ではそうではなかった。やはり、ガブリエウ、サリバの片方が落ちると自由なポジション取りを支える柱がなくなり、後方に重たさが出るなど自由の許容度は減っていく。

 フラムのような簡単にライン間を壊して侵入できない相手に対して、そうした縛りがつくならば、この日のようにチャンスにおけるディティールにはこだわる必要が出てくる。トーマスのヘッド、マルティネッリのオフサイドに対する駆け引き負けなど、要所で決め切ることが出来なかったなという90分だった。

試合結果

2024.12.8
プレミアリーグ 第15節
フラム 1-1 アーセナル
クレイブン・コテージ
【得点者】
FUL:11‘ ヒメネス
ARS:52’ サリバ
主審:クリス・カヴァナー

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