プレビュー記事
レビュー
プレスとビルドアップの狙い撃ちポイント
ミッドウィーク開催となったノース・ロンドン・ダービー。リーグ戦に限定すれば2011年の4月以来の水曜開催のダービーだ。
共に週末は120分間のFAカップをプレーした両チーム。疲労はあるだろうがそこはダービー。よりリーグ戦に近いメンバーで戦ったアーセナルだが序盤から高い位置でボールを奪いに行く。
狙いどころはざっくりと2つ。まず1つはトッテナムから見て左サイドへの追い込み。ウーデゴール主導でのプレスからトッテナムの左サイドにボールを追い込んでいくと、ここからのロングキックで回収する。サイドへの追い込みでボールの刈り取り役となったのはSB。ティンバー、ルイス=スケリーは収まりどころとなるWGに対して体をきっちりとぶつけ、相手に起点を作ることを許さなかった。
もう1つはキンスキーへのハイプレス。相手を引きつけながら出しどころを探す意識の高いキンスキーだが、加入は間も無く、バックスは足元が優れているユニットとは必ずしも言えない。そうした状況で出しどころがなくリリースが遅れることもしばしば。そこをハヴァーツが狙い撃ちして見せた。
ボールを奪った後はウーデゴールが躍動。ライン間からスピードアップ、もしくは逆サイドにボールを流すことでカウンターのスピード感をコントロールしていく。
保持でもアーセナルは主導権。プレスに出てくるトッテナムに対して、ガブリエウに食いつくクルゼフスキの背後を使う。ライスのサイドフローが効いてもいたが、シンプルに外に開くルイス=スケリーでも十分。それだけトッテナムはプレスに出ていくクルゼフスキと他の選手のギャップがあった。
ただし、アーセナルはそこから先の仕上げに苦しむ。とりわけ両WGのドリブルによるロストが目立った。トロサール、スターリングはそれぞれが対面のSBに優位を取れず。スターリングは縦にいくことがバレてしまっていたし、トロサールは貯めてカットインという形が多く、クルゼフスキのプレスバックが間に合ってしまうことも。ボールロストからトッテナムがカウンターに移行することも許すケースもしばしばだった。
虚をついたトロサールの左足
プレスと前進の両面で苦しんでいたトッテナムだが、20分付近にブレイクスルーに成功。アーセナルに狙い目とされていたキンスキーのキックから流れを作り出す。ハヴァーツに詰められたキンスキーだが、安パイなグレイではなく、縦につける選択をする。ここからスペンスがアウトサイドでキックをつけたところからチャンスメイク。
このクロスはガブリエウがギリギリで処理をするが、押し込むきっかけを作るとトッテナムは先制点にたどり着く。CKからマークが甘くなったソンのミドルがディフレクトからネットを揺らし、不利な流れの中で先にスコアを動かす。
先制点を許したアーセナルは流れが苦しくなる。特にアタッキングサードでのタッチが安定せず、押し込んだ後のもう一手が出せない。押し込めるが、相手を動かすことができずニア側のCBにクロスが引っかかってしまう場面も。
しんどいアーセナルが流れを変える定番といえばセットプレー。ファーに走り込むガブリエウに合わせるところから同点ゴールをゲット。素晴らしいライスのキックとガブリエウのヘッドが炸裂し、スコアをフラットに戻す。
これで勢いに乗ったアーセナルはハイプレスからさらにゴールを重ねる。きっかけはトーマスのボール奪取を発端とするカウンター。このカウンターを完結させたのはトロサール。距離のあるところから左足を振り切ることでキンスキーのゴールを破る。
トーマスのボール奪取は見事ではあったが、トロサールにボールが渡った時点ではまだボックス内の状況はトッテナムが有利。なにか上乗せをしなければ攻撃は完結できない状況であった。
だからこそ、意外性のある左足でのシュートという選択には驚かされた。対応しているドラグシン、サール、そしてGKのキンスキーもおそらく切り返して右足からの解決策を模索すると思ったはず。裏をかく左足でのシュートはトッテナムの守備陣にとっては虚を突かれたものだったはずだ。
トロサールはこの場面以前であまりいいところが少なかった。都合の良い受け取り方をすれば決して良い形ではないボックス内の状況が思い切った選択の後押しになっていたのかもしれない。
試合は40分以降の2ゴールでアーセナルが逆転。ハーフタイムはホームサポーターの歓声と共に迎えることとなった。
HTの2枚替えの行く末は?
後半、トッテナムは2枚替えを敢行。ビスマとサールを下げて、ジョンソンとマディソンを投入。中盤はベリヴァルをアンカーとして、マディソンとクルゼフスキが組む形となった。残りのベンチのメンバーを眺めても、ポステコグルーにとってはおそらくこれが勝負の一手だったはずだ。
というわけでトッテナムはハイプレスで巻き直し。非保持からテンションを上げてスタートしていく。しかしながら、前半と問題点は同じ。WGの背後のスペースが空いてしまい、ここの連動が甘かった。
中盤の運動量でいえばトッテナムはむしろ後半のメンバーの方が厳しい。アンカーに入ったベリヴァルが前に出ていく意識が高い分、中盤とDFラインの間のスペースがあっさり空いてしまうこともあった。アーセナルは後半早々に中盤の背後を取ってみせるなど、トッテナムのプレスを交わすことができていた。トッテナムがプレスを強化するのであれば、ベリヴァルはIHのままの方が強度を出すことができたかもしれない。
もちろん、交代の意味が全面的になかったわけではない。特にマディソンが中央に入ったことで左右にボールを振るアクションが入るようになった。CBがもう少しキャリーをすることができれば、もう少し保持における変化を意味付けすることができたように思う。
押し込んだ時のサイド攻撃はIH、WG、SBの3人での勝負。主にハーフスペースの抜け出しからチャンスを作っていく。受けるアーセナルで際立っていたのはライスのプレスバック。直近のアーセナルは左サイドの守備が後手に回ることで失点を重ねていたが、ライスの素早いプレスバックによって穴は塞がっていた感があった。FA杯でベンチスタートだった分、エネルギーが残っていた感がある。
守備で見事な活躍をしていたライスは攻撃でも躍動。左サイドのハーフスペースに侵入したりクロスに飛び込んだりなど、アタッキングサードでの存在感を見せる。
トッテナムがむしろチャンスになりそうだったのはサイドよりも押し込んだ後の即時奪回。特に後半の判断が怪しかったトーマスのところをつっつくことでショートカウンターに移行。だが、ファストブレイクが完結するほど見事な繋ぎでカウンターを打つことができない。
アーセナルは試合をクローズするよりもプレスをひっくり返すところから3点目を狙いに行った感がある。トッテナムの得点の可能性自体は後半の方が高かったように思えるが、それ以上にアーセナルの方が得点の可能性を見せることができているという判断だろう。
トッテナムは勝負手をすでに使っており、中盤の運動量がそもそも怪しいというオープンな展開における懸念がある。ということでアーセナルは行ったり来たりの状況でも歓迎するムードを見せていた。もし、アーセナルがよりクローズドに展開を運びたいのであれば、ティアニーを投入した時点で5バックに移行していたはずだ。
得点だけでなく守備においてもハイテンポに耐えうるクオリティを見せていたのが4バック維持の判断につながっていたとも言える。アーセナルのどのDFも素晴らしいパフォーマンスを見せていたが、MOMのガブリエウとともに強気の守備で存在感を見せたのは左SBに入ったルイス=スケリーだ。クルゼフスキやソランケ相手にも一歩も引かず、体を入れてボールを奪い、さらには繋ぐ意識を失わないハングリーさでアーセナルの攻撃に流れを繋いでいっていた。
中盤よりも前を中心に終盤は120分を戦った疲れを見せたアーセナルだが、バック4は最後まで踏ん張り切ることに成功。終盤はやや押し込むトッテナムだが、堅実にアーセナルに跳ね返されてしまい、ゴールには届かず。アーセナルはホームでも宿敵を下し、プレミア史上5回目のNLDのシーズンダブルを達成することとなった。
あとがき
数日前にスカッド編成を巡ってロマンを求めるのか、あるいはリアリストであるべきかという論争をSNSで見かけた。要は若手育成と大物獲得のバランスについて個人の好みを論じているという感じなのかなと思った。
前提としてこうした好みに関する話は人を傷つけるような言い回しでない限りはどちらでも問題はないと思う。それぞれの意見を尊重しましょう。その上で自分の考えを少し述べるとすれば、ロマンとスカッド構成の相関は個人的にはあまり関係がないと考えている。
ヘイルエンドで育ったルイス=スケリー、クラブ史上最高額で獲得したライス、前のクラブを揉めたタイミングでやってきたトロサール。この試合で活躍した選手たちはアーセナルにやってくるまでの経緯はバラバラである。だけども、いずれの選手も今着ているユニフォームに対して忠誠を尽くすプレーをきっちりやってくれているという今のこのチームへのコミットの仕方は3人とも素晴らしいものがある。
今、アーセナルのユニフォームに袖を通している選手が全力を尽くしてくれればそこにロマンはある。それが自分の考え方だ。その選手の出自は何であろうと、クラブのために汗をかいて生まれた得点、そして防いだ失点に自分はロマンを見出すことができる。
90分間、ファンの大きな後押しを受けながら、延長戦から中2日で試合に臨む選手が体に鞭を打ってパフォーマンスで応える。ロマンはここにある。胸を張ってそう言えるノース・ロンドン・ダービーだった。
試合結果
2025.1.15
プレミアリーグ 第21節
アーセナル 2-1 トッテナム
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:40′ ソランケ(OG) 44′ トロサール
TOT:25′ ソン
主審:サイモン・フーパー