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「均衡を破るためのアクション」~2019.9.14 プレミアリーグ 第5節 ウォルバーハンプトン×チェルシー レビュー

スタメンはこちら。

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目次

【前半】
均衡を打ち破ったユースコンビ

 ゆったりした立ち上がりになったのにはそれぞれの理由がありそうだ。チェルシーは今季初めての3バックへの挑戦となった。サッリ時代にやったことがあるかはわからないけど、基本が4-3-3だったので3バックでスタートするのは、近年のチェルシーにとって非常にレアケース。

 対するウルブスは3バックこそ基本線だったものの、出場停止で3バックの左のCBのボリーが不在。サイスが代わりに入った。システムはいつも通りだが、人は入れ替わる。メンバー固定傾向の強いウルブスには影響が大いにありそうな変更だ。

 相手のビルドアップに対するプレッシングがかみ合っていたのがチェルシー。3バックに対してウィリアン、マウント、エイブラハムの3枚で嵌めてプレッシングをかけてくる。というわけでウルブスはアンカーのルヴェン・ネベスが降りてくる動きで対抗。コバチッチやジョルジーニョを誘い出すようなレーン移動でチェルシーに判断を強いる。実際にチェルシーのCHをつり出した動きから一気に攻撃を加速させた場面もあったし、ネベスは狙いをもってこの動きを行いチームでそれを使う認識は共有できていたのではないだろうか。

図9

 数的同数でプレッシングをやっていたチェルシーに対して、3バックに対して2トップでのプレッシングを行っていたのがウルブス。しかし、こちらは積極的なプレッシングは行わず、後方のCHにボールを入れさせないようにするのがメインに見えた。というわけで閉じられた中央ではなく外から迂回して前進せざるを得ないチェルシー。WBのところまでは問題なくボールを持ち運べるのだが、ウルブスはWBとサイドのCBを中心にサイドで蓋をする。困ったチェルシーがCBに戻す。という流れが繰り返されていた。大きな展開ができたダビド・ルイスの不在が思い出されるような場面だった。

図10

 それならば中央から前進したいチェルシー。マウントが上下動でウルブスの中盤に揺さぶりをかけるが、ウルブスは3センターなのでマウントに1枚持っていかれても、残り2枚でコバチッチとジョルジーニョ見とけばいいやんけ!となるので、そこまで大きな混乱は引き起こせなかった印象。共に決定機はなかったものの、ややチェルシーの方がボール保持において閉塞感のある立ち上がりだった。

 試合の流れが変わったのは25分前後。チェルシーのボール保持時のウルブスのブロックがやや押し込まれる時間帯が増えてくる。推定される原因はチェルシーのワイドの両CB。後方が3枚いる分、思い切ったチャレンジが可能になり、徐々にウルブスの攻撃を高い位置で止めるシーンが増えてきた。加えて目立ったのは攻め上がりだろう。両ワイドのCBが持ち上がれば、さすがに放っておくわけにはいかないウルブス。ウルブズのインサイドハーフは動かざるを得ない。そうなると降りてくるマウントを捕まえる選手は不在となり、フリーでボールを受けられるという相乗効果もある。もちろん、CBが攻めあがるリスクは背負うものの、固いブロックを動かすためにCBが持ち上がる動きは非常に効果的。この試合の均衡を破るには必要な動きだったと思う。

図11

 特に、攻めあがりが効果的だったのは左サイドのトモリ。正直、開幕からここまでのパフォーマンスはあまりいい印象はなかったが、この試合では決定的な役割を果たすことになる。チェルシーが押し込んだ恩恵を享受したのが先制点の場面。CKの場面から、最後はトモリがスーパーゴール。スーパーゴールは褒めるしかないけど、ウルブスを押し込むという下準備があってこそのスーパーゴールだったことは記しておきたい。

 そのトモリは2点目にも絡む。今度は攻撃参加でサイドを駆け上がり、起点になる。マウントがつぶれて、最後に決めたのは絶好調のエイブラハム。リスクを取った5バック崩しの作戦が2点という実になって帰ってきた形。

 ウルブスの攻撃は突貫小僧トラオレの突破が軸に。正対したらからっきしタイプなのかと思ったけど、初速が速いからマルコス・アロンソは1on1でも結構手を焼いていた。

 しかし、点が入るのはまたしてもチェルシー。決めたのは2点目に続きエイブラハム。なんていうか、外さないね。確実に仕留めます!みたいな。20分くらいまではほとんど消えていたのに、焦れずに出番を待って、一振りで仕事をするっていう。年齢にそぐわない仕事人ぶりである。

 DFもFWもユース出身選手が活躍したチェルシー。3点リードで前半を折り返す。

【後半】
記念試合はろくなことにならない

 クトローネを後半頭から入れたウルブス。ジョタが中盤に入り、エリアにはターゲットになる選手が2枚の。ワイドからCBやらWBやらが早めにクロスを入れることを解禁した様子である。そしてトラオレは相変わらずガンガン仕掛けることを許されていた様子だった。

 リスクを取って攻めるということは前半のチェルシーのように恩恵を受けることもあれば、当然しっぺ返しを食らうこともある。後半のウルブスが受け取ったのは恩恵ではなく、しっぺ返しの方だった。選手を入れ替えた分なのか、3点差がついてしまったからなのか、後半のウルブスは明らかにネガティブトランジッションの強度が足りていなかった。前線の守備は前半ほどに中央を締めることができずに、カウンターを受ける場面も徐々に出てくる。

 この日の試合はモリニュー・スタジアムの創立130年記念のメモリアルゲームだったはずだが、エイブラハムにとってはそんなおかまいなし。一度正対してから相手を抜き去り、この日3点目をゴールに叩き込んでいる。

 記念試合は大体ろくでもない結末を迎えることを我々アーセナルファンはよく知っている。相手がチェルシーだと余計ろくでもないこともよーく知っている。

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 ここから先はウルブスがペースを握る。クトローネが投入されると盛り上がるのはなんか面白かった。なんかわかるしね、それ。

 チェルシーはチェルシーでリュディガーの負傷交代の影響は見えた。前半はうまくいっていたボールへのチャレンジがことごとくファウルになる。最終ラインからの飛び出しも1人いなくなるだけで、心なしか不安定になるのは不思議だった。後半のチェルシーはどことなく、今季ここまでのチェルシーに近いゆるふわさが垣間見れた。モウリーニョっぽさの面影は遠い昔のことのようだ。

 ゆるふわの守備はセットプレーの失点としてチェルシーに返ってくる。チェルシーもしっぺ返しを食らった感。サイスのゴールで1点を返したウルブス。ヒメネス→ギブス=ホワイトの交代で再び前線に機動力を与える交代を敢行。早い展開でゴールに迫る動きを見せていく。

 リュディガーに続いて、エイブラハムも負傷交代したとなれば、チェルシーファンからすればもう試合どころじゃないぜ!って感じかもしれないが、まだまだスコアは動いたこの試合。ウルブスがアップテンポになるのはわかるけど、チェルシーはガッツリそれにお付き合いするように、ロスト後にプレスに行ってガンガンスペースを空けていた。ガンガン空けていたスペースを使って追撃弾を決めたウルブス。ギブス=ホワイト、コーディー、クトローネの交代選手3連コンボのパスワークで2点目を奪う。バークリーがふらふらプレスに行くの、よくない!

 4点あったリードはいつの間にか2点に縮まり最終盤。割と危険水域に入った感じがあるけど、チェルシーの選択は「ガンガン行こうぜ!」だった。ゲームをコントロール?なにそれ?おいしいの?みたいな。ワトフォード相手にかたくなに前に3人残した7人ブロックを敷きたがっていたアーセナルもそうだけど、ロンドンではいまそういう縛りプレイが流行っているんだろうか。バチュアイとかがガンガン行くのはなんかわかるけど、アスピリクエタがダーってオーバーラップしてチャレンジングなクロスを上げているのとか見ると、割とチームとしての指示なのかなとも思うし。

 「ガンガン行こうぜ!」は最後の最後に結果を出した。最後の仕上げはマウント。「今季の得点はすべてユース上がりの選手が決める!」という縛りもきっちり守った大勝に華を添えるゴールだった。

 試合はその直後にホイッスル。2-5でチェルシーが乱打戦を制した。

あとがき

■心配なのはあっさり感

 「ビック6キラー」として名高いウルブスだが、この試合では結果を残すことができなかった。立ち上がりは決して悪くなかった。外を迂回させながら、CHへのパスコースを寸断。チェルシーのポゼッションをサイドで詰まらせることに成功していた。

 しかし、チェルシーの最終ラインが積極的に前に出てくるようになると、徐々に雲行きが怪しくなっていった。前5人のCHへのパス供給寸断は徐々にほころびが出るようになり、押し込まれる場面が増えていった。押し込まれた後もやや心配で、失点シーンではDF個人個人の軽い対応が目立った。チェルシーの決定力が火を噴いたとはいえ、5失点は組織でも個人でも後手に回った結果といえる。

 カウンターの勢いもやや陰り気味。ここからELも始まるがコンディション面での管理は昨年以上にシビアなかじ取りを強いられる。ひとまず早くリーグ戦初勝利を挙げたいところだ。

ライバルと同じ課題

 大量5得点でウルブスの記念試合をぶち壊しにしたチェルシー。膠着をグイっと動かした序盤の工夫は見事だったし、チャンスは全て決める鬼神のようなエイブラハムの仕事は素晴らしいものだった。マウント、トモリ共々この試合は若手の活躍が目立ったことは明るい材料。しかしながらDFラインの層には不安が残る。リュディガーの離脱でDFラインは一気に不安定に。再離脱になってしまったようだが、早期復帰は叶うのだろうか。

 後半の試合運びも課題。得意なアップテンポのままで試合を進めて、ウルブスに反撃の隙を与えてしまった。ユナイテッドやアーセナルと同じように自分たちの狙い通りに試合が進まなかったときに制御不能になってしまう印象を受けた。トップ4争いのライバルはカラーは違えど、自分の土俵で戦えないときのクオリティという似たような課題を持っている。プレミアでは常に自分たちのペースで戦えるとは限らない。我慢の時間帯でのチームの質を上げることが、トップ4争いの主導権を握るためのポイントなのかもしれない。

試合結果
2019/9/14
プレミアリーグ 第5節
ウォルバーハンプトン 2-5 チェルシー
モリニュー・スタジアム
【得点者】
WOL: 69′ OG, 85′ クトローネ
CHE: 31′ トモリ, 34′ 41′ 55′ エイブラハム, 90+6′ マウント
主審: グラハム・スコット

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