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【前半】
セルジーニョから見る反町監督の優先順位
川崎のボール保持がメインでスタートするも、立ち上がりで最も印象的なのはジェジエウ相手にぶち抜きを試みた阪野のプレーだった。どことなくここからの90分を想起させる立ち上がりだったというと言い過ぎかもしれないけども。
基本的には川崎のボール保持の時間が長い状態。松本は5-4-1ブロックで迎え撃つ。松本の2列目は基本低い位置まで撤退してブロックを組むことを優先し、強襲は控えめ。5-4-1ブロックの中で特徴的だったのはセルジーニョの立ち位置。逆サイドの杉本とは明らかに異なる役割を任されていた。立ち方から読み取れる守り方の目的はズバリ川崎のハーフスペースを塞ぐこと。そのための立ち位置を取っていた。
セルジーニョが出ていくときはジェジエウがボールを持っているときが多かった。自軍WBが登里へプレスに行ける状態であることを気にかけつつ、自らはハーフスペースへの立ち位置を消しながらジェジエウにプレスをかける。家長が間のスペースで楔を受けられなかったのはこのセルジーニョの守り方が大きな要因だ。
セルジーニョはプレスをかけるとき、トップの阪野と同じくらいの高さまで出ていく。高い位置まで出ていくほど、後方のパスを塞げる角度は広くなる。たまに松本の陣形が4-4-2のように見えたのはこのセルジーニョが出ていく動きと高橋が登里にプレスをかける動きが頻発していたからだろう。地味に2トップ対2CBの形になるので、川崎のCHが手助けに行く場面も多かった。田中碧が敵陣だけでなく、自陣でも数多くのパス回数を記録していたのは、このDFラインに降りる役割を担っていたことも大きいだろう。
もちろんこの松本の守り方には訳がある。セルジーニョの守り方は明らかにサイドを捨てている。松本としては登里と高橋の1on1は受け入れる構えを見せたということ。もっと言えば、セルジーニョの立ち位置は登里から内側への斜めのパスのコースをケアできていない。
知念や家長がこのスペースで受けられれば、松本のDF-MF間で前を向ける可能性はある。仮にDFラインが押し上げてきたら、知念と家長のボールを受けなかった方が裏を取ってもいいし、そもそもの出し手である登里が縦に駆け上がってもチャンスにつながりそうだ。
しかし、そういった3人目の動きを駆使した崩しはあまり見られなかった。松本側としては、川崎の右サイドの縦の連携がちぐはぐなのは織り込み済みなのだろう。それよりもダイレクトで家長にライン間で受けられることを避けたかったに違いない。川崎の攻撃は中央を避けながら、右サイドバック経由で迂回させてしまえばある程度安全という算段があったのではないだろうか。
実際にこの試合はその目論見通り。登里→知念への斜め方向のパスが通るシーンはほとんどなく、家長のタメに知念と登里が同じ位置に抜け出してしまうこともあった。松本が捨てることを許容した川崎のRSBを起点とした攻撃。川崎は松本にその部分を捨てたことを後悔させることはできなかった。
逆サイドの杉本の立ち位置はよりオーソドックス。SBにプレッシャーをかけながら、後方のラインとの距離感を意識し、間のスペースを圧縮することを優先。中村憲剛や齋藤学がプレーするエリアをなくすよう動いていた。案の定、中村は徐々に降りてボールを受けたがるシーンが増えていく。そうなると知念の孤立は深まるばかりである。川崎として厄介だったのは阪野のプレスバック。サイドの低い位置まで顔を出し、川崎のサイド攻撃封鎖を手助けしていた。
「え?阪野がその位置まで戻ったら松本は陣形押し上げられないんじゃないの?」
そう思っていたんだけど、どうやらそれも見込み違いだった。なぜなら松本は「普通につなげるチームだった」から。もちろん、大分のようにあえて自陣に相手を引き込むようなコンセプトはもっていないが、川崎の攻撃終了後に行なわれる即時奪回プレスを回避できる程度にはボールを持てるチームだった。プレスがかかれば蹴ったりしていたし、簡単に捨てすぎず持ちすぎずというバランスを保ちつつ、ある程度のボール保持の時間は確保していた。
川崎が前がかりでプレスに行ったときには、シャドーの杉本が間で受けるべく顔を出す。ターンして駆け上がる味方を使う術に長けており、攻撃を加速させる起点として機能していた。阪野も川崎のCB相手に奮闘。競り合いを五分に持ち込み、味方の攻めあがる時間を確保していた。プレビューで多分起点になるのはきつそうとか言ってごめんな!!
松本が陣形を押し上げた後は大外のWBが深くえぐってクロスを上げるパターンが何回か。高橋がクロスに対して内側に詰めてきたシーンが一番惜しかったかな。うまくシュートまでは行けなかったけど。
プレビューで述べた「ずっと俺のターン」なら松本を上回れるのではないかという展望はあまりハマらなかった。松本は確かに「彼らのターン」の時間を作っていたし、「俺のターン」の攻撃を川崎が機能させたとは言いづらい。そんな前半だった。
【後半】
ギャップを作れない川崎
後半になって中村憲剛が最終ラインに落ちる機会が目に見えて増えた川崎。松本のDF-MF間の締め出しに耐えかねたのか、それとも相手を引き出す動きなのかはわからないが、この動きに対して特に松本は手を打つこともなく、引き続きDF-MF間の引き締めを継続。
付いてきてくれなかったので、中村憲剛は単にブロックの外に追いやられてしまった形になった。シャドーは間に絞ってパスを受けようとするものの、松本の中盤は縦パスを寸断するような立ち方に引き続き専念。
余談だけどセルジーニョは流れの中で逆サイドに来た時には普通に車屋をマークしに行ってたので、マジで川崎の右を守る時だけあえてSBを捨ててるんだなと思いました。実際この後、セルジーニョが下がっても家長がいなくなっても、川崎のRSBへのボールは許容されていた。
60分付近にSH-SBをサイド入れ替えを敢行する川崎。SHが利き足のサイドに配置される変更になった。
松本の中盤は前半以上に内側を締めて立つやり方。それに対抗する川崎の方策の1つが前線が裏を取ること。ということで知念めがけるロングボールが解禁。もう1つは後方の選手が自らがライン間に侵入すること。56分の田中のドリブルでの侵入や、61分に谷口がエリア内に入っていくシーンなどは、松本からすると変化をつけた動きで対応しづらかったと思う。
しかしこの後方の攻め上がりの頻度は上がらず。セルジーニョがDFへのプレスに徐々に行く余裕がなくなり、阪野1人がプレス隊ということを考えれば、入れ替わり立ち替わりの後方からの突撃を行っても良かったとも思うけど。この日は田中碧の後方でのパス交換がやたら多かったのが少し勿体無かった。もっともっともっと前に出ても良かったのかなぁと。
内側に活路を見出せず外外攻勢になる川崎。松本からすると得意分野に引き込んだ感じがある。齋藤→長谷川の交代で左サイドにクロスの出所をセット。小林とダミアンを投入し、クロスを上げ始める。
ダミアンが巻かれたゴール側に向かうクロスに合わせる形をやたら狙っていたので、それを狙うために家長-車屋の左利きコンビを右に置いたのか!と勝手に納得していたが、特にそういうクロスを上がることはなかった。車屋がクロスの合わせ役にでもなるのかな?と思いきや、それも特にそんなことはなかった。
松本は守勢一辺倒かというとそうではない。チャンスを作ることができたのは両WBが対面相手を上回ったから。田中隼磨と高橋からのクロスが阪野にあわや!というシーンは何回かあった。決められなかったけど。川崎はボールを持つものの、決定機はほぼなし。終盤の小林が滑り込みながら長谷川のクロスに合わせたシーンが一番惜しかっただろうか。2人のストライカーの動き出しをうまく利用した形だったけど。
試合はそのまま終了。鳥栖戦以来、今季3回目の0-0のスコアレスドローとなった。
あとがき
■新生トリオが残留の望み
2週間の中断期間を経て、川崎対策をばっちり積んできた松本。この試合を見て前田大然を懐かしむ気持ちが少し和らいだサポーターも多いのではないか。ここまで規律面でなかなか反町監督の意図を実現できなかったセルジーニョはこの試合で攻守ともに躍動。新加入の阪野、カウンターの起点になり続けた杉本と共に前線3人ともMOM級の活躍を披露した。
長いボールによる力業だけでなく、川崎の弱点である右サイドの問題を顕在化させた反町監督。非保持でも「ソリボール」を見せつける格好でチーム史上初の等々力での勝ち点をゲット。フィニッシュの局面がやや迫力不足の部分は否めなかったが、連携面の向上はまだ見込める状態。ボール保持も比較的安定していたので、得意のセットプレーの機会も増える可能性もある。新しい前線のユニットの破壊力は初めての残留という目標の命運を大きく左右しそうだ。
■解決策を見つけられなかったツケ
反町監督に弱点を顕在化させられながら得点をあげられなかった川崎。もちろん間を締めて中村憲剛を無効化したのは見事だったが、ある程度勝負を許容された右サイドで結果を残せなかったことが非常に大きいのではないか。家長ー登里、齋藤ー車屋、家長ー車屋と1試合の中で3種類のユニットが試されたが、そのいずれも効果的とはいえず終始右サイドは深い位置に誘導されつつそこから何もできない状態になっていた。
おそらくこの試合のベンチメンバーを含めたどの組み合わせでもこの問題を解決するのは難しかっただろう。折衷案とも取れる車屋の起用で、馬渡やマギーニョ、鈴木など多くの右サイドバックのフィットを先送りにしてきた影響は無視できないはず。登里のオーバーワークによるパフォーマンス低下にも副次的な作用をもたらしており、サイドバックのマネジメントはここにきて大きな問題になりつつある。とはいえエウシーニョと同じ役割を他のSBに求めることはそもそもが酷。前でコンビを組む家長のコンディションや連携面も気になるが、そもそも与える役割を含めて見直しは必須といえるはず。反町監督に突き付けられた「宿題」を解決しなければ、川崎の右サイドの弱さを利用してくるチームがあっても不思議ではない。
この試合の勝敗の観点で言えば小林を1トップで先発にすれば勝利の確率は上がったはず。SBからの楔の引き出し方も、そこから先の連携面でも知念よりも一日の長がある。もちろん過密日程による仕方ない部分もあるだろうけど。試合中のサイド入れ替えの理由も含めて、この日の采配は狙いがわかりにくい部分もあった。次節は難しいチーム状況に陥っている名古屋。前回対戦とは全く違う雰囲気で両チームとも「風間ダービー」に向かうことになりそうだ。
試合結果
2019/8/4
J1 第21節
川崎フロンターレ 0-0 松本山雅FC
等々力陸上競技場
主審:福島孝一郎