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「備えがなければ憂いがある」~2019.8.17 J1 第23節 ベガルタ仙台×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

目次

【前半】
陣取り合戦で活きるマギーニョ

 元々可変を駆使するフォーメーションのためわかりにくかったが、試合後の渡邊監督のコメントを聞く限りはどうやらこの日の仙台は初めから5バックで臨んていたようだ。関係ないけど毎回記者会見聞くの面白そうですね。

2019明治安田生命J1 第23節 川崎フロンターレwww.vegalta.co.jp

 ということは開始2分のプレーで関口が負傷したのは仙台にとっては非常に痛かっただろうが、プランそのものは変えていないと考えるのが妥当だろう。4-4-2だとサイドハーフが下がって6バックのようになり、重心が下がってしまう。それを避けるための3バック。図はプレビューのやつ。

関口→金の交代で並びは以下のようになった。

 はっきりと並びがわからなかった理由は両チームとも長いボールを主体とした立ち上がりをしたからだろう。仙台としてはあらかじめ用意した狙い通りの戦術を遂行しているだけかもしれないが、本来は短いパスをつなぎたかったであろう川崎も同様。特にリスタートのゴールキーパーからのキックをを長く蹴るシーンが多かった。おそらくスクランブルの最終ラインがいつもよりもボール保持において質的優位を維持できないという点と、長い芝と水を撒いていないピッチを考慮してのものだろう。

 仙台は4-4-2→5-3-2で後ろ重心になることを避けるため、川崎はピッチの状態と後方のビルドアップスキルを考慮したためというそれぞれの事情で長いボールが増える両チーム。なるべく高い位置で止めて相手陣地でプレーしたいという思惑も混ざって、ファウルで試合を止める局面が多かった。車屋と山村的にも自陣PA内での勝負は困るしね。前向かせる前に止める。どれだけ相手陣でのプレータイムを増やせるか。試合は陣取り合戦の様相を示していた。

 決定機こそ多くなかったけど、序盤は川崎は優位に進めていた。関口の負傷退場の間に得た時間で、川崎の中盤は役割を整理していたのではないか。中村と田中は相手のビルドアップの要人である冨田と松下を消しに行っていたし、10分のシーンではWB→WBの仙台の展開で出ていったマギーニョが空けたスペースを家長が埋めていたり。

 相手を押し下げるのに役立っていたのはマギーニョだろう。相手のサイドの奥深くをえぐるフリーランはこれまでの川崎の右サイドにかけていたもの。サイドでロストした後の即時奪回プレスの頻度も高く、仙台を敵陣に押し込むのに一役買っていた。さしずめ「ほんのりエウシーニョ」といったところだろうか。同サイドのCBの山村も後方支援でボール供給に貢献していた。

 マギーニョの裏抜けがあるとなると降りていく家長にワイドCBがつくのには仙台目線ではやや抵抗がある。そうなると仙台のスリーセンターが家長の相手をしなければいけなくなる。WBの永戸も高い位置を取るマギーニョにピン止めされてしまうと「相手陣側で食い止めて相手陣でプレーする時間を増やす」という当初の目的と裏腹に、自陣深い位置まで押し込まれてしまうこととなる。

 そんな貢献度の高さを見せたマギーニョが起点となり先制点が生まれる。彼のパスを受けてアシストを決めた田中碧の身のこなしは見事。仙台は5バックの横のチェーンが切れてしまったか。平岡は蜂須賀に阿部を受け渡したつもりだったが、蜂須賀は大外をケア。失点直後の平岡のリアクションを見ると、双方が考えていたことにギャップがあったことが推察できる。

 直後の29分にも得点シーンと似た右サイドを起点としたチャンスメイク。川崎のボール保持はさらに安定感を増す。川崎の2列目トリオはアタッキングサードでの決定的な仕事こそ少なかったものの、ボール保持においての貢献度はさすが。リードしている局面での役割において、大事な時計の針を進める仕事を果たしたと言える。仙台としては前方の3-2ブロックで川崎に立ち向かうも、入れ代わり立ち代わりの6対5(図は7対6って書いてあるけど間違いです)を強いられるイメージでなかなか盤面をひっくり返すことができなかった。

 仙台もFWへの長い裏抜けで対抗しようとするも、シュートまでにはたどり着けず。まぁ結果から見るとこれが後半への布石にはなるんだけども。

 大分戦以来公式戦5試合ぶりの先制点を得た川崎のリードで試合はハーフタイムを迎える。

【後半】
盤面をひっくり返した長沢

 立ち上がりにネジを巻きなおしてプレスにやってきた仙台をうまくかわして、後半も川崎ペースで試合はスタートする。長いボールを織り交ぜつつ、前半同様要人を抑える高い位置でのボール奪取で仙台を押し込む。

 攻撃の形としては右で作るものが多かった。家長、マギーニョ+1,2人で右サイドで多角形を形成。相手のWB、CB、CHをサイドに固める。肝要なのは仙台のスリーセンターをスライドさせること。逆サイド、つまり川崎の左サイドからの入り口を作ること。中央のリンクマン(下田とか車屋とか)を経由して、右サイドに固めた相手を逆サイドに振る。

 微妙だったのはその先にいるのが阿部浩之だったこと。パフォーマンスというか特性の話。ベンチスタートだった齋藤学や長谷川竜也と違い、彼は独力で仕掛けていくタイプではない。出口を作り、広いスペースを享受して仕掛けを任されるのが阿部というのは若干ちぐはぐな気がした。

 それでもボールもペースも川崎が握っている状況。仙台としては苦しい展開だったが、盤面をひっくり返したのは長沢駿だ。平岡から長いパスを受けて抜け出してそのままゴールへ。ポストプレイヤーと見せかけて、実は駆け引きで勝負するワンタッチゴーラーという長沢の真骨頂のようなゴールだった。

 対応する川崎としては難しい場面。おそらくいつもの基準で言えば、あれを対応できないCBが悪いということになる。逆に言えば、無謀な噛み合わせでも前からプレスをかけることを許されるということは裏のスペースはCBに任せます!という前提が成り立つから。小林はこのシーンは動きは鈍かったが、前節までのプレスのかけ方を見れば川崎の前線のプレス隊が相手のCBに時間を与えることは明白。空いているCBからこのボールが出てくれば、CBが個人技でなんとかしなくてはいけない。それが川崎流である。その川崎の無茶な基準をずーっとなんとかしてきたのがジェジエウと谷口。それを車屋や山村に負わせる必要があるの?といわれると難しいことだけど。

 しかしながら2失点目も何とも言えない場面になってしまった。金正也の持ち上がりで家長を越えて、田中を剥がす。乱れた最終ラインの裏を走ったのはまたしても長沢である。またしても前のエラーのツケを後ろで払いきれなかった場面になる。形としては違っても流れとしては名古屋戦の2失点目に似てるゴールだった。

 ゴールシーンの金正也の動きはまさしくプレビューで車屋に求めたもの。ブロックを崩すためのDFの持ち上がりである。それだけに個人的な悔しさも強かったシーンでもあった。

 長沢の後半のパフォーマンスは圧巻だった。スピードこそないものの、抜け出しのタイミングで川崎のDF陣を圧倒。特に車屋は完全に手玉に取られた印象が強い。あわや2枚目というシーンもあった。焦りの表れであるかもしれない。ベンチから代わりにブチぎれてくれた新井さん、ナイスです。

 高さもあるし、裏抜けも行けちゃうという無双状態になった長沢で逆転に成功した仙台。全体の重心を下げながら川崎の攻撃に対応。石原は2列目の守備に加わり。長沢も低いところまで下がり、川崎のサイドチェンジの邪魔になる位置取りに。数字で言えば5-4-1のような形になった。川崎は長谷川、齋藤を立て続けに投入してサイドの打開を図る。

 仙台の5-4-1がまずかったのは、4-4-2採用時と同様に簡単にSHがポジションを下げてしまうこと。そのため、一度押し下げた後にマイナスで受けた選手のアーリークロスは刺さりやすくなる。

 仮に、そういうやり方にするのであれば、PA内のクロスは何としてでも跳ね返したいところ。PA内には数的優位、または同じ枚数が確保できる状況が見込みやすいからだ。その状況で長谷川にクロスを合わせられてしまったのは仙台からしたら痛恨だろう。マギーニョは直前にも同様なクロスを上げており、予測は立ったはず。同点ゴールも1失点目同様、蜂須賀が失点に直接的に関与してしまった形になってしまった。むしろこのSBがカットインしてクロスを上げる形は仙台攻撃時に蜂須賀が行う攻撃パターンとして想定してたんだけどね。

 川崎の交代投入はレアンドロ・ダミアン、仙台はハモン・ロペスにジャーメイン良と全く勝利を譲る気のない交代を見せる両チーム。試合はオープンになり、敵陣ではクロス主体のシンプルな攻撃に終始。押し込んで爆撃を続ける川崎に対して、一瞬の恐ろしさを見せる長沢のコントラストである。

 しかし、試合はそのまま終了。勝ち点1を分ける結果に終わった。

あとがき

■5バックの立ち位置は?

 一時は逆転をしたものの勝利を手にできなかった仙台。この試合はSHとして非常に貢献度の高いパフォーマンスを見せていた関口を欠いたという要素を考えても勝ち点を取れたことはいい部分であるはずだ。この試合は徐々に安定してきた4-4-2をさらに改良するための5バック回帰なのだろうか。どういう位置づけかは難しいが新たなチャレンジの一環となった試合かもしれない。

 金正也の持ち上がりを起点とした2点目は狙った形の1つだっただろう。ただこの試合の優位の多くは長沢が作り出したものといえる側面もある。彼が独力で川崎のDFラインと駆け引きで生み出した好機は数多くあった。

 結果は悪くなかったが、チームとしてより継続的な攻守のバランス改善という意味ではどうだったか。この5-3-2がメインになるのか、オプションどまりなのかはわからない。もし既存の4-4-2に上乗せを狙ったメイン戦術へのシフトが狙いだとしたら、もう少しボール運びをはじめとして改良が必要そうな印象をうけた。でも持ち運べるDFからのアシストはうらやましいよ。

■非常時の『備え』は十分?

 さて、川崎にとってはどうとらえたらいいか難しい要因がたくさんある試合になった。例えば文中でも触れた1失点目のシーン。普通に考えたらホルダーにチェックに行けなかった前線の選手が責められそうなものだが、川崎のプレスが3バックに対してハマらないのは今に始まったことではない。2列目は無理に出ていっても後方がカバーする仕組みはないし、プレス隊は基本的に数的不利でのプレスという無理筋な仕事を任されている。理不尽なことかもしれないが、「裏に蹴られたボールはCBがすべて完勝する」ということをベースに川崎のプランは組まれているのだろう。

 プレッシングに特別な仙台対策が見られないとすると、悪いのは長沢に対応できなかった車屋と山村ということになる。ただ、まぁ繰り返しにはなるがそれは酷であることは明白なんだけど。だからとらえ方が難しい。

 1つ思うのは今季の川崎は「遅い」。例えばマギーニョの登用ももう早い段階で積極的に行われていてもいいはず。スペースを空けてしまうという難はあるものの、右サイドの裏抜けは明らかに車屋や登里を起用した時に取りなかったもの。出場停止に迫られてではなく、リスクを冒してでも試してみてよかったことのように思う。

 ジェジエウと谷口の欠場((両方一遍にというのは同情の余地はある)についても、特に備えはされていなかったように思えてしまう。レギュラーCBが2人不在というのは確かに非常時ではあるのだが、このチームは開幕前に4冠を志したチームだ。もっと言えばレギュラークラスを複数人放出したほかの優勝争いのライバルチームと異なり、川崎はこの夏の主力の流出は最小限だった。比較的計画通りにチームは作りやすかったはず。

 ベンチワークは悪くなかったのではないか。関口の負傷を使って数分で仙台の対策についてあれこれ話をして行動に移せたのは好材料だ。そういう意味ではむしろこの試合よりも前の段階のチーム作りの部分がどうだったか。多くの試合をこなす中で、あらゆることを想定したチームができていただろうか。長沢に振り回される車屋を見て、そんなことを思ったりした。

試合結果
2019/8/17
J1 第23節
ベガルタ仙台 2-2 川崎フロンターレ
ユアテックスタジアム仙台
【得点者】
仙台: 54′ 64′ 長沢駿
川崎: 23′  阿部浩之, 79′  長谷川竜也
主審:中村太

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