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「『当たり前』に感謝!!」~2019.7.27 J1 第20節 川崎フロンターレ×大分トリニータ レビュー

スタメンはこちら。

目次

【前半】
大分のひし形の2つの狙い

 マッチプレビューを書く人あるある。展望した通りに試合の展開が進むとちょっとうれしい。この試合はこのあるあるがあてはまった立ち上がりだった。

 自陣低い位置までDFがスペースを使い、深さを作るビルドアップでボールを保持する大分。それに対抗するやり方として鬼木監督は多摩川クラシコの流れを汲んだハイプレスを軸に臨む「ずっと俺のターン」作戦で立ち向かうのではないかというのがプレビューに書いた展望だった。

●多摩川クラシコのレビュー

 大まかには展開はこの通りだった。中村憲剛と小林悠の2人がプレス隊となり、川崎のプレスを先導。プレスはことごとくハマり「ずっと俺のターン!」状態が続いたので、レビューでは書くことがありません!っていう展開だったらよかったものの、全くそんなことはなかった。

 大分のポゼッションはひし形を使ったものがメイン。前回の対戦の時は3バックのうち2枚のCBが開いていたが、今回の対戦ではCB中央の鈴木に加えてCHの長谷川が下りてくるパターンが多かった。もう1つのひし形の頂点はCHの相方前田が担当した。3バックの両ワイドの三竿と岩田はSBのようなロールになる。

 ひし形の組み方が変わった理由として考えられるのは、大分がボールを保持しているときに用いる2つの強みをより生かすためではないだろうか。

① WBによる前進

 松本怜に加えて、田中達也を補強してさらに強みとなった感のあるWB。川崎のSHがここに蓋をするのが普通だろうが、三竿と岩田がSBのような位置取りを取ることで、守備の基準点を迷わせていた。川崎のSBは大分のWBを積極的に捕まえに行く素振りは見せていないことから、おそらくWBを捕まえるというタスクは川崎のSHに課されたものだったように思う。三竿や岩田が開くことで強みであるWBを川崎のSHから解き放っていた格好だ。

② 相手の中盤にてスペースメイク

 大分がビルドアップの時に利用するもう1つの強みは相手の中盤にスペースを作ること。前回対戦時と比べて、大分のCHはより低い位置でのビルドアップが増えた。そのため中盤が空洞化する。関係ないけど、中盤が空洞化するとペドロビッチ思い出すね。大分のコンセプトは縦横に幅広さを取るからミシャ式とはちょっと違うけど。

 この日の川崎はすでに述べた通り、前へ前へ!というプレッシング。小林と中村だけでは当然足りないので、田中碧も前へ前へ!というわけで、下田に託されたのは広大な中盤のスペースと降りてくる小塚と小手川への対応。そんなことが1人でできるわけもなく、川崎の前プレも大分は問題なく回避。①と②の両方の要因で中央にもサイドにもビルドアップの出口を見つけることができた大分が川崎のプレッシングを交わしながら攻める序盤戦であった。主なパターンとしては降りてくるシャドー(小塚or小手川)がフリーで受けてWB(田中達也or松本)に展開する形が多かった。

 まとめると大分の前回対戦時からのひし形構成変更の狙いは

① 川崎のサイドでの基準点を乱すため
② シャドーが中盤で降りてくるスペースを作るため

 ちなみに川崎の両サイドの守備を比較してみると、阿部がいた右よりも齋藤がいた左の方がうまく蓋ができていた感があるのがおもしろかった。阿部は前にプレッシングに行く田中碧が空けたスペースも気にかけなくてはいけないというハンデもあったが、齋藤学の方がサイドの突破の出口として最終的にWB(松本怜)にボールが回ってくることを理解し、そこを優先してクローズしていたように思えた。

【前半】-(2)
大分の誤算

 というわけで川崎相手に攻め込む大分。特に新加入の田中達也の存在感は抜群であった。しかし、大分の攻撃が完璧に機能していたかというとそういうわけではない。むしろ川崎にとってやりやすかった部分はいくつかあったと思う。例えば、プレスを突破してフィニッシュまでのスパンが短く、攻撃のやり直しをそこまでしなかったこと。そのおかげで大分の攻撃終了時には川崎のプレス隊は多く前に残っている状態だったこと。そして、大分が攻撃するときの特徴である縦に長い陣形が大分のロスト後の川崎のカウンターの際にそのまま利用できることなどが挙げられる。

 というわけで攻撃を完結できないとしっぺ返しを食らう仕組みになっていた大分。即時奪回ができればいいものの、ビルドアップにおけるプレス回避は川崎も一級品である。彼らのプレスを交わしながら、ボール奪還を前に出てきた大分の中盤が空けたDF前のスペースに楔を打ち込むことで反撃に転じていた川崎だった。

 川崎で秀逸だったのは谷口とジェジエウのCBコンビ。オナイウの裏抜けをラインコントロールで制圧し、対人でもほぼ完封。サイドからはWBの突撃は食らったものの、中央の広大なスペースでオナイウを封じたCBコンビは称賛されてしかるべき。大分にとっては最終局面で川崎に優位に立たれてしまったのは大きな誤算だろう。

 時間の経過と共にプレスが落ち着いてきた川崎。ローラインにしようというよりは、ミドルで構えながら誰か一人のスイッチで一斉に襲い掛かるという意識を給水タイムで確認したようだ。

川崎Fが快勝、流れ変えた「給水タイム」の作戦変更 – J1 : 日刊スポーツ川崎フロンターレがFW小林悠、MF斎藤学、MF阿部浩之の3人そろっての2戦連発弾で大分トリニータを下した。川崎Fは15戦連www.nikkansports.com

 厳密には給水よりも前、10分過ぎたあたりから中村憲剛がプレスに行くのを我慢するような場面が増えたので、前線の選手はもっと早い段階で強引なプレスは不可能という認識があったのかもしれない。

 相変わらず配置の妙では大分に分があるものの、出口となっているサイドを封鎖することと、我慢しつつプレスのタイミングは統一できていたのでやりにくさは増していたと思う。大分は最終ラインに落ちていた長谷川を中盤に戻したりなどで枚数調整をしつつ対応。ここのあたりはさすがである。

【前半】-(3)
CH周辺でオーバーロード

 川崎のボール保持はいつも通り自在に動く。この日はCBへの大分のプレス隊がオナイウ1人だったので、2CBと2CHのスクエアで組む形が多かった。川崎が狙っていたのは大分のCH周り。多くの川崎の選手が大分の2列目の合間を狙って立ち位置を取っていた。多かったのは中村憲剛の降りる動きと阿部と齋藤が絞る動きがセットになる形。阿部のこの辺りのポジションのうまさはさすがである。

 普段の川崎は細かいパスで徐々に前に進めていくイメージが強いのかもしれないが、この日は楔一本でスイッチを入れるシーンが多かった。立ち位置がうまい2列目もさることながら、勇気を持って楔を入れた後方の選手も良かった。あんまり変なインターセプトなかったし。43分に田中碧がスルスルドリブルで抜けていくシーンは、大分の選手が間に入ってくる川崎の選手へのパスを警戒してのことだろう。フリが効いてるおかげでドリブルで進めたシーンであり、とても面白かった。

 試合はどちらにも傾きつつ、基本はボール保持側が有利なことは動かない。そんな前半だった。スコアレスで前半を折り返す。

【後半】
トレードオフな片野坂采配

 後半の立ち上がり。先にペースをつかんだのは川崎だった。5-4-1の前の5人を片側に寄せて、登里が大外を攻略。ゴール前まで迫る。登里、下田は低い位置での横移動が多く、大分からすると捕まえたらそうだった。空いたスペースを使う運びをジェジエウができることも確認できた立ち上がりだった。

 川崎の中盤の列移動にはかなり手を焼いていた大分。特に頻繁にCHより自陣側に降りたり、CHの後方に侵入したりを繰り返す下田、田中碧、中村には後手に回ることが多かった。そして、先制点のアシストを決めたときの下田もこの動きでCHの後方に侵入。ワンツーパスのリターンを齋藤学がワンタッチでシュートできる位置に送るというピンポイントパスで先制点をお膳立てした。

 リードをされたことでより直接的にゴールに迫る必要が出てきた大分。小手川に代えて藤本を投入し、フォーメーションは変わらないが、選手の構成としては2人のFWと1人のMFという少し色が変わる体制に。オナイウ1人では川崎に軍配が上がった前半に藤本という援軍を加えることで、広いスペースにおける大分FW×川崎CBの形勢をひっくり返すことを狙った交代だろう。実際その成果はすぐ出た。後方からのプレス回避で裏に抜けた藤本が絶妙なクロスをオナイウへ。ジェジエウにしては珍しく反応が遅れたシーンになった。まさしく大分FW×川崎CBの形勢をひっくり返すことで得点を挙げたシーンとなる。それにしてもこのシーンでの長谷川のプレス回避のムーブメントは美しかった。

 ということは片野坂采配が大当たり!ということになりそうだが、トータルで見るとどうだったかというと微妙なところ。なぜなら、前線の迫力が増したこととトレードオフで、サイドアタックの質がやや下がったから。前半に川崎がサイドをクローズしに行ったことに加えて、藤本と小手川が交代したことで、下がってフリーで受けてサイドアタッカーに届ける役割の選手が小塚1人に減ってしまったことも大きな要因といえる。シャドーにポジションを下げたオナイウも流れの中での貢献度はトップにいる時よりも若干低くなった。

 タイスコアになった直後から試合のテンポはやや上がる。行き来が激しい展開の中で、ミスから失点をしてしまったのが大分。オナイウのパスミスを見逃さなかった中村憲剛に、匠のフィニッシュを見せた小林のコンビで川崎が再びリード。

 その後交代選手を突っ込む両チーム。大分は負荷の高い中盤を入れ替え。川崎が交代で投入したレアンドロ・ダミアンは相変わらずハイプレスを味方に促しつつ、自分も前からプレスにいっていたが本当にベンチの指示だったんだろうか。いつでもハイプレスマンだからな、ダミアンは。ちなみに松本と田中達也がサイドを入れ替えた理由は全然わからないので誰かわかったら教えてください。

 そんな中で何の変哲もないロングボールをゴールに変えてしまうのだから、元セレソンは恐ろしい。競り合いのはずがいつの間にか前を向いてラストパスを出す。今節は右足で阿部がズドン。相手チーム目線のレビューだったら、どうやったら防げたと書いたらいいだろうと困ってしまいそうなゴールだった。

 大分は左右からクロスを上げるが、やや工夫のないものに終始。追加タイムの岩田のミドルは面白かったが、それ以外は決定機らしい決定機を創出できず苦しんでいた。

 試合はそのまま終了。3-1で川崎が勝利した。

まとめ

■誤算があるとすれば・・・

 勢いよく襲い掛かってくる川崎をいなしながら、落ち着いてプレス回避をしていた大分。ビルドアップの安定感はリーグでも随一だろう。C大阪とかどうなんだろう。

    田中達也を加えたWBの攻撃力や、この試合でも見せた藤本&オナイウのコンビもどこが相手でも通用するストロングポイントではないだろうか。縁の下の力持ち的な役割を果たした小手川と小塚の貢献度も見逃せない。

 この試合の勝敗において惜しむべきは、前半の構成に出た時間帯で仕留められなかったこと。決定機という決定機は多くなかったが、元来少ないチャンスをモノにすることで結果を出してきたチームなので、なんとか先手を取りたかったところだ。もう少し具体的に言えば、プレスを回避した後にスピードアップしてWB→WBの攻撃でフィニッシュする形には川崎が手を焼いていた印象なので、ここが増えてくるとよかったと思う。

 あとは岩田が負傷明けだったことも一因か。持ち上がりで相手を剥がしたり、終了間際にスペースに走りこんでミドルを放つなど「おっ」と思わせる場面はあったけど、前回対戦時にはもっと攻め上がりの頻度が多かった気がする。WBが張ることで作り出していたニアのスペースに飛び込んできたりする回数が増えてくると、サイド攻撃の威力は上がりそう。この日も質が悪いわけじゃなかったけど。それから前半で鈴木が警告を受けたこともいたかったかも。若干カードをもらってからは小林へのチェックがおとなし目になったように感じた。

 ただ昇格組のチームが伸び伸びと自分たちのスタイルでサッカーをやっている上に、当面は降格の心配もなさそうというのはサポーターからすると幸せこの上ないだろう。限られたチャンスを生かせずに敗れる試合もなくはないだろうが、基本はボールを持っている時間が長く攻守で安定するはずなので、今後も大崩れすることなく上位をキープできるのではないだろうか。高木、また帰っておいでな!

■「当たり前の優位」に感謝を

 大分相手に手を焼いたものの、多摩川クラシコとチェルシー戦の勢いを維持して本格的な夏に突入した感のある川崎。戦術的な引き出しが増えたかどうかについては、慎重な見極めが必要ではあるが、夏男小林悠の活躍に加えて、今季の懸念だった2列目のベテラン勢がそろってコンディションを上げていることは好材料だろう。例年並みのパフォーマンスを見せだした阿部や中村はもちろんだが、齋藤学の攻守における改善は目を見張るものがある。特にオフザボールでのポジションニングは秀逸。大外から力んだドリブル一辺倒だった昨季の面影はなく、ダイレクトに得点に絡む場面は非常に増えた。守備においても数カ月前のような怠慢な戻り遅れの場面は減り、貢献度が高まっている。ここ2試合はバックアッパーになっている長谷川とのスタメン争いは1年前とは全く違う次元にあるものだ。

 もう1つは大島の不在を覆い隠す下田の活躍。機を見た攻め上がりで相手の急所に入り込んだ1点目のアシストは見事。これでリーグ戦2試合連続アシストを記録したことになる。わずかなコースを見逃さない楔や、機を見た攻め上がりは大島も武器にしている部分。ボールコントロールとビルドアップへの貢献度に関して言えば、下田も優れているが、おそらく大島が優位だろう。しかし、今川崎が採用している戦い方はCHに大きな負荷がかかるもの。足もとに不安を抱える大島が不在でも、下田がこれだけのクオリティで活躍できるとわかったことは大きい収穫であることは間違いない。

 最後に谷口とジェジエウ。彼らがオナイウを完封した前半があったからこそ、大分がプラン変更を強いられ、川崎がより主導権を強めた後半を過ごすことができた部分が大きい。元々優れているとわかっていた対人だけでなく、オフサイドトラップもこの試合ではうまく機能していた印象だ。

 今季の川崎も例に漏れず、彼らCBが裏抜けや対人に完勝することが前提でプランが組まれている。そんな無茶苦茶なハードタスクをぶん投げられながらも、結成以来の3か月弱で複数失点がないというのは胸を張るべき。少なくとも、僕が川崎を見始めてからは最高のタッグといっていいCBの2人である。彼らがもたらす「当たり前の優位」が大分を大いに苦しめたこと。それがこの試合を読み解くベースにあることは強調しておきたい。ジェジエウは早く買いとれ。

試合結果
2019/7/27
J1 第20節
川崎フロンターレ 3-1 大分トリニータ
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎: 51′ 齋藤学, 61′ 小林悠, 85′ 阿部浩之
大分: 54′ オナイウ阿道
主審:池内明彦

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