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「クラシコで目覚めた白鳥たち」~2019.7.14 J1 第19節 FC東京×川崎フロンターレ レビュー

スタメンはこちら。

目次

【前半】
川崎印が刻印された立ち上がり

 メンバー編成はこの試合前までの両チームの勢いをそのまま表したものになった。横浜FMとの上位対決を制した勢いで連勝中のFC東京は前節と同じ先発メンバー。対して、引き分けマイスターとなっている川崎は絶対勝利が必要なこの一戦で中盤の4人を入れ替えてくるという大胆な変更を実施した。特に前節負傷交代をした大島僚太の不在は川崎のスタイルに大きな影響を与えるはず。プレビューでは「守田と田中を軸にトランジッション+セカンドボールで中盤を制圧できるかがポイント。」と述べた。田中とコンビを組むのは今季のリーグ2試合目の先発となった下田北斗であったが、ポイントとしては大きくは変わらないだろう。

 田中碧を最終ラインに落とす枚数調整をかけつつ、後ろから短いパスをつないでいく立ち上がりになった川崎。いわゆる川崎らしい立ち上がりかもしれないが、ここ数試合は長いボールを躊躇なく蹴る序盤が多かったため、序盤からつないでいくぜ!という意思表示はレアな立ち上がりである。

 それに対するFC東京のアンサーはプレスをかけていくぜ!というもの。最終ラインを高めに維持しながら全体をコンパクトにしつつ、高めの位置からショートカウンターを発動させよう!がFC東京の狙いだった。大島不在という要素もFC東京の前からのプレスを決断する材料になっていたかもしれない。

 というわけで序盤で田中と下田がプレスを受けつつショートパスを頑張れるか!は試合全体の川崎の戦い方を決定づける大事なものだった。彼らが怯んでしまえば、長いボールを蹴りまくるしかないわけなので。結果としてはFC東京のプレスを回避することで自信をつけた立ち上がりだったように思う。

 彼らが自信をつけるお手伝いしたのは中村憲剛と阿部浩之。先発発表を聞いて「中村ではなく脇坂でいいんじゃない?」と思ったのは自分だけではないだろうが、田中と下田の手助けをしつつ、ボールを落ち着かせ所として機能するという意味ならば、中村憲剛の右に出るものはまだ川崎にはいない。序盤はパスの精度が低かったり、プレスの判断がチームとズレていたりしたものの、川崎の旗印を守るために、低い位置からボールに関与しつつ、プレス回避に貢献していた。

 その中村の広い行動範囲をうまく利用していたのが阿部浩之のポジショニングである。3分のシーンのように、ボールがサイドにある時にスライドする東京の陣形の泣き所を利用しながらボールを受けていた。川崎が4-2-3-1採用時に不足しがちだった楔の受け手を巧みな位置取りで補っていた。

【前半】-(2)
前後分断に苦しむFC東京

 非保持側がプレッシングを高い位置からかけていくのは、ボール保持がFC東京側に代わっても同じ。川崎の非保持時の優先ポイントは中盤中央でCHに前を向かせないことだろうか。高萩や橋本がこのスペースでボールを受けるとすっぽんのように張り付いていく田中と下田。彼らはFC東京のCHを見張りつつ、引いてボールを受けようとするFC東京の前線への楔をふさぐ役割。いわばFC東京の攻撃を前後で分断するイメージだった。

 分断されると前線に強力2トップがいるFC東京としては、当然裏!とかロングボール!というのは念頭にあったが、そこは川崎が1対1でなんとかする。2トップに対応していた2CBはもちろん、登里も3トップ気味に位置することが多かったナ・サンホ相手にうまくやっていたと思う。

 高萩は縦横無尽に動きながらボールを受けようと模索するが、低い位置で受けても、顔を上げて遠くのスペースを使えるほどの余裕を川崎には与えてもらえる機会は多くなかった。FC東京がボールを前に運ぶには高萩の列移動だけでなく、もうひと味加える必要があった。

 例えば9分のオリベイラのシュートまでいったシーンは高萩の列移動に加えて、東が中央でボールを引き出す役として降りる動きを見せる。合わせてナ・サンホも絞った位置に立つ。複数の配置の転換により、田中と下田の基準点を乱すことで、田中が橋本に向かうプレスに遅れが発生。ドリブルで前に進みシュートまで持ち込めた!というシーンになる。

 というわけで高萩の列移動+αの動きを見せられた時はプレッシング回避はできそうだった。が、この動きが再現性をもってできていたかというと微妙なところ。基本的にはボールホルダーに厳しくチェックに行く川崎の圧力に屈して、続けてパスがつながるシーンは多くなかった。

 プレス回避とボールの前進で差が出た両チーム。川崎のボール保持の時間帯が徐々に増えていくことになる。そんな中で先制点は川崎に。CKでアシストを決めた下田のキックも見事だが、このシーンは完全に小林悠の駆け引きによる賜物。完全に1人でマークマンを翻弄してしまった。ゴール後のリスタートに備えたチームへの鼓舞も完璧で、この後も前からプレッシングを続けるということをチームメイトに印象付けたところまでキャプテンとして100点満点。終わった後から振り返れば、多摩川の覇権を握って離してなるものか!みたいなゴールだった。

 点が必要となったFC東京。前から出ていくが、ロングボールを織り交ぜながらいなす川崎。なかなかペースを握れない。是非はともかくして、川崎のいくつかの警告まがいのタックルもFC東京のリズムを破壊していた感もある。中村憲剛のディエゴ・オリベイラへのタックルは警告はもちろん、タックルを引く素振りも見せていないため、主審によっては一発退場もあり得るプレーだったと思う。川崎としては幸運だった。

 実際に川崎が警告を受けた2つのシーンは、どちらもドリブルを開始するところにおけるもの。前後を分断されたFC東京によって、シンプルな運ぶドリブルは有効な前進の手段であったことの証拠である。しかしながら、ファウルは多かったものの、ボールホルダーへの川崎の厳しいチェックは、FC東京がパスをつないで前に進む邪魔にはなっていた。相手陣に押し込んで、中盤を押し上げつつ即時奪回でずっと俺のターン。川崎にとっては、先制点を得たことで攻撃のやり直しを躊躇なくできるようになったことも大きい。あそこまで押し込まれるとさすがに強力2トップを擁するとはいえ、FC東京は厳しいものがある。

 懸命に自分の時間帯を取り戻そうと奮闘するFC東京だが、川崎がリズムを渡すことを許さず、ボール保持と即時奪回で自分たちのペースを握る。先制点後の大まかな展開はそのようなものだっただろう。川崎リードで前半を折り返す。

【後半】
ボールもペースも譲らない

 1点リード、守田がベンチ外でCHの交代枠が薄いという状況で、前半と同じく前からプレスに行ってボールを奪い続けるというCHに負担がかかる作戦を続けるのかどうか。川崎の後半の見どころはまさしくそこだったのだが、キックオフと同時に猛然とプレスをかけ始めた小林を見れば、「継続一択!」という答えはチームとして出ていたのだろう。

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 小林悠のコメントからわかる「知念もダミアンもいるので潰れる気で追いかける!」というメンタリティは層の薄さが否めないFC東京との差になったかもしれない。

 少し前半と比べて変わったのが、ロングボールの行き来が増えたことだろうか。まったり持つことが多かった両チームだが、後半の立ち上がりは長いボールを蹴っ飛ばすシーンが多かった。後半初めの決定機を掴んだ川崎はオープンな展開の中でショートパスで2列目のプレスを無効→中村憲剛のミドルという流れ。

 FC東京は高萩→大森の選手交代を実施。途中交代自体は多い高萩だが、今季リーグ戦では最も早い53分での交代になった。本来得意なオープンな展開になったものの決定機のないということを踏まえて、フリーランで2トップ+ナ・サンホの3枚を支えられる選手を入れたかったのだろう。

 長谷川監督としては勢いを取り戻したい交代だったはずだが、直後に川崎に追加点。下田の縦パスを起点に、小林のトラップや中村の切り替えしでわずかに生まれた時間の貯金を丁寧につないでいったゴール。つなぐたびに状況が好転していくパスを紡いだ往年の川崎を思い出させる得点である。この試合の後半の憲剛さん、すごかったね。

 リスタート後もよーいどんでプレスに走る川崎。まだまだ試合を落ち着ける気はさらさらない様子。しかし、点をどうしても取らなくてはいけないFC東京はSBが積極的に高い位置を取り始める。リスクは承知。川崎に2点目が入ってからは徐々にFC東京が押し込む場面も増えてきた。裏を狙い続けるFWと人数をかけたサイド攻撃からのクロスで攻勢に出るFC東京。だが、FWの裏抜けは川崎のDF陣がチャンスになる場面をことごとく個の対応で摘み取る。サイド攻撃はエリア内に届けるクロスの質が伴わない。

 チャンスらしいチャンスが訪れないまま、ゴールに迫れないFC東京を尻目に川崎が3点目を決めて試合は決着を迎えることになる。高いラインのリスクは織り込み済みだったFC東京。中村→齋藤によるラインブレイクはあきらめがつくかもしれないが、森重の中途半端なクリアはもったいない。とはいえ、エリア付近にはFC東京の選手の方が多いわけで、そのあとのプレーも川崎が質をともなった崩しとフィニッシュを見せたのは間違いない。阿部浩之の芸術的なミドルで川崎がリードを広げる。

 後半頭から徐々に、川崎のボール保持時のプレスに行けなくなってきたFC東京。この試合は最後までボールの取りどころを設定できなかった。川崎もさすがに3点リードはセーフティと考えたのか、CHが非保持の際にプレスよりもリトリートを選択する頻度が増えていった。

 その後もFC東京がボールを持ちつつサイドを崩そうと試みるが、攻撃が実ることはなかった。右サイドバックに配置した選手が続々足をつる現象にも見舞われた川崎だったが、なんとかクリーンシート達成。4万人を超える大観衆が集まった味の素スタジアムでの多摩川クラシコは川崎の勝利で幕を閉じた。

まとめ

■プレス下でのボール保持と選手層の差

 牙城となっていた味の素スタジアムで敗北を喫したFC東京。頼みの前線は川崎のDFとのタイマンで優位に立つことができず、川崎のプレッシングをかわせずに、自陣に釘付けにされるシーンが多かった。FC東京の選手もそれぞれの技術は高いのだろうが、この日は相手に寄せられたときの技術において、川崎の選手との差が出た形。前線が個人でなんとかできないなら、なんとか押し上げつつサイドから攻略を試みたかったところだが、プレスを脱出して陣形を前に押し上げられるシーンは稀で、SBのオーバーラップで攻撃に厚みをもたらせるシーンは少なかった。

 レビュー中で取り上げた9分のシーンのように自陣深くを使いながら、川崎をおびき寄せるシーンが増えればプレスは無効化できたかもしれないが、この日は常に敵陣に多く選手を送り込んでいた川崎相手に難しかったようだ。橋本や室屋はドリブルで可能性を感じさせてはいたけれど。

 選手層の差も一因だろう。炎のようにプレスを仕掛けてきた川崎に対して、「今日ははじめから駆け引きなしのフルメンバー。」「今日は攻撃陣の交代では(大森)晃太郎がアクセントになってくれたが、プラスαはチームとして出せなかった。」と長谷川監督が認めるように控え選手が流れを変えることができなかった。ボールホルダーへのプレッシングも川崎の方が出足が良かった。怪我人の復帰で選手の層に厚みが出せるかが後半戦の課題になるだろう。

 8月上旬までは得意なホームゲームが続く。ここから1か月で貯金を作り、来るべき「アウェイ8連戦」に備えたいところだ。

■味スタで躍動する白鳥

 目が覚めるような勝利を挙げた川崎。数多くのファンが今季ベストに挙げる出来だろう。殊勲なのは下田と田中だ。「トランジッションを増やして中盤を制圧する」というプレビューで上げた課題においてほぼ満点。自分のエリアに入ってきた高萩と橋本を締め出し、前線との連動したプレスや、後方への楔のインターセプト+プレスのサンド。まさに、全方位に大車輪の活躍だった。

 阿部、中村など攻守においてポジショニングがうまい2列目もこの日は抜群。序盤はボールがつかない感じもあったが、齋藤も含めてFC東京を攻守において苦しめ続けた。特に阿部は秀逸な出来だった。スタメンを大幅に入れ替えた鬼木監督も満足いく出来だったに違いない。

 そして何といっても小林悠。先制ゴール、後半の立ち上がり、追加点後のゴールなどこの日は何としても燃え尽きてやるという背中をイレブンに示し続けた。1ゴール、1アシストの結果も含めて納得のMOMだ。

 ツイッターを見ると多くのサッカーファンが「川崎はさすがだ」「選手を入れ替えてこの出来か!」という称賛の言葉が並んでいたが、この美しい川崎は川崎サポーター自体も長らく待ち望んでいたもの。そして、今季なかなか手に入らなかったものでもある。2点目のようないわゆる川崎らしいゴールは、今季ほとんどみられることはなかった。
 「美しい白鳥も池の下では実は激しくもがいている」とはよく言うが、まさしく今季の川崎ももがきながら、やっと美しい姿を見せることができた。大島抜きという苦しい状況で、ゲーゲンプレスからのショートカウンターという怪我の功名的なスタイルで躍動する姿は(ユニフォームも相まって)激しさと美しさを併せ持つ白鳥のように見えた。

 とはいえ、この勝利が次の勝利を約束するものではない。次の相手の大分は前節全くプレスが機能しなかった鳥栖のように、自陣の深さを使ったビルドアップができるチーム。この日は前へ前へ!でうまくいったものの、大分相手に同じ策がハマるとは限らない。

 公式戦は2週間空くが、勢いを止めないように苦手なホームで連勝を飾りたいところだ。

試合結果
2019/7/14
J1 第19節
FC東京 0-3 川崎フロンターレ
【得点者】
川崎: 20′ 小林悠, 54′ 齋藤学, 69′ 阿部浩之
味の素スタジアム
主審:佐藤隆治

本当は嘘らしいよ。

『優雅に泳ぐ白鳥も水面下では必死に足をもがいている』。確認してみるとウソ知識だったwこちら、いま話題となっている動画です。『優雅に浮かぶ白鳥もその水面下では必死に足をもがいている』というような表現がありますtwicolle-plus.com

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