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【前半】
狙いを絞ったプレス
どっかんばっこん感のあるバーンリー。超オールドファッションなプレミア的4-4-2である。バーンリーは前回対戦時の18節では17節のスパーズ戦より採用された5バックベースで挑んできた。エミレーツで3-1で撃破された後、19節のエバートン戦でも5失点したことで5バックはお蔵入りになってしまったようだ。そこから8試合無敗と息を吹き返したように、本来の姿はこっちなのだろう。この試合でもバーンリーらしい肉弾戦を挑んできた。
コシエルニー不在ということでやや球出しが不安定なアーセナルのバックス。バーンリーは初めは4-4-2でばっちり全員かみ合わせに来た。しかし、時間が経つにつれて、バーンリーのプレスは狙いを絞ってきたようだった。具体的にはゲンドゥージにはバーンズが気を配っているように見えた。その分浮いたエルネニーが積極的に配球にいそしんでいるのが印象的。
バーンリーの考えとしては、プレスで深追いした結果、攻撃を加速させることができるイウォビ、ムヒタリアン、オーバメヤンにスペースを与えるほうがやっぱりいやだということだろうか。全体的なプレスのラインを引きつつ、中盤を一気に攻略されないように陣形を圧縮することを優先したように見えた。両SHも絞った対応を優先しがち。そのため、アーセナルも外から中に切れ込むように陣形の攻略を狙っていった。
アーセナルの選手の中でもう1人マークをあまりつけられていなかったのはリヒトシュタイナー。がら空きの彼のフィードからオーバメヤンにチャンスが訪れたのは6分のこと。エルネニー共々浮いている選手が積極的にボールを入れていくのはとても良い。リヒトシュタイナーの問題はやはりロスト後の裏のスペース。ブライトン戦でも怪しかった裏のスペースのケアはこの試合でもやや危うい。加えて、縦関係のムヒタリアンとの連携もイマイチで、バーンリーは左サイドからクロスを上げるシーンは作り出せていた。
FWへのロングボールでエアバトル、サイドからのクロスに加えてもう1つ、バーンリーの前進の手段はアーセナルの高いラインを突いた裏取り。特に30分前後はアーセナルの守備陣がワーワータイムに突入しており、ロングボールの対応ミスから裏を取られたり、(オフサイドっぽかったけど)ハーフライン付近から一気に縦に裏抜けされたりなどバリエーション豊かな裏抜けられを披露。幸運だったのはワーワーしていたこの時間帯で失点をしなかったこと、不幸だったのはこのワーワーしている局面の対応でマヴロパノスを負傷交代で失ってしまったことである。
ワーワータイムを負傷者を1名出しながらもなんとかしのいだアーセナル。ボール保持においては中盤中央での激しいデュエルにはさらされながらも、サイドではボールを落ち着けられていたので、カットインやらクロスやらでバーンリーのブロックに突撃していったが崩すことはできず。
試合はスコアレスでハーフタイムを迎える。
**【後半】
急にできたやるべきこと**
先に断っておくが、ほとんどここから先は戦術的な考察はない。前半も含めて、あんまりそういう部分が垣間見える試合じゃなかったというのが僕の感想。
残留がすでに決まっているバーンリーとリーグ経由でのCL出場権はほぼ絶望的なアーセナル。局面で激しいタックルは散見されたものの、ゲームのリズムとしては、まったりした時間が多かった展開は前半と同じ。
しいて言えばエルネニーが若干前からボールを追いかけるようになったくらいだろうか。
ほのぼのしていたはずのこの試合だが、やることがないなら作ればいい!と言わんばかりにやるべきことは急に天から降ってくる。相手のパスミスに乗じてオーバメヤンが独走し、GKとの1対1を制して得点。これで得点王に1差になる21ゴール目である。となるとターフ・ムーアでの試合の興味はただ一つ。オーバメヤンが得点王をとれるか否かである。
初めはやや固かったが、徐々に持ち味を出していたウィロックがエンケティアに交代した直後に2点目はやってくる。クロスに対してオーバメヤンがややファーに逃げながら叩き込んだボレーはサイドネットに突き刺さる。これで得点王に並んだぜ!
さっきまで牧歌的だった試合はこのゴールで一変。アーセナルがウィロック→エンケティアの交代直後に得点を決めたことに呼応するように、バーンリーはマクニール→グズムンドソンの交代直後にバーンズの追撃弾が決まる。どう見ても消化試合なのだが、ふとしたことが拍子となり、ドミノ倒しのように試合のテンポが上がるのは、我らがプレミアリーグの愛すべき部分だ。途中から入ってきたクラウチなんて、存在そのものが愛すべき部分。あとちょっとで決められちゃいそうだったけど。
アーセナルが狙うは追加点。それも14番に取ってもらう追加点である。チーム一丸となってオーバメヤンに全力アシストを試みるアーセナル。73分にムヒタリアンを供給してもらった超絶決定機は、謙虚に枠外。「絶対2点目より簡単だろ!」とみんなが心の中で突っ込んだのは間違いない。その謙虚さがあだとなり、単独得点王は叶わなかったオーバメヤン。
代わりにといわんばかりに初ゴールを決めたのは、交代で入ったエンケティア。そっちかい!とは思ったもののキャリア初ゴールはめでたいのである。このゴールがこれから先、アーセナルで得点する数多くのゴールの1つ目になればいい。
試合は1-3でアーセナルが勝利。久しぶりの勝ち点3を手にした。
まとめ
アーセナルに貴重なアウェイでの勝利を献上してしまったバーンリー。アーセナルが苦手にしそうなタフなプレースタイルとは裏腹に、ショーン・ダイチは未だアーセナル戦は全敗というのはやや意外であった。躍進した昨シーズンと比べると、今季は全体的に低調なシーズンだったが、4回の連勝を記録しなんとか降格を回避。マンネリも相まって、やや強度は落ちているようには思うけど、監督の在任期間が長いとこうなっていくのかなぁとも。レベルが違えどアトレティコとかもそうだし、こういうタフなサッカーを長い期間チームから引き出せる指揮官っていうのは無条件で優秀だとは思うんだけど、その結果チームはどこに行きつくのかというのはとても興味深い。来季もプレミア残留ということで、怪我だけはさせないようによろしく頼んます!
前節までの結果でほとんどやることがなくなってしまったアーセナル。わずかなやることである「苦手なアウェイでの勝ち点3」と「オーバメヤンの得点王」という2つを遂行できたのは、最悪だった終盤戦を軟着陸させることに役立ったのではないだろうか。エンケティアやウィロックという来季はプレータイムを伸ばすであろう2人の若手がそれぞれ存在感も見せたのもポジティブな材料である。
残す大きな目標はもちろんELのタイトル。シーズン終盤はメンタル的にもフィジカル的にも難しい期間は続いていたが、3週間弱の時間をかけてゆっくり回復し、アメリカツアーにいそしむチェルシーにコンディション面で大きな差をつけたいところ。バーンリー戦の勝利がチェフの引退を大団円で迎えるための足掛かりになることを祈るばかりだ。
試合結果
プレミアリーグ 第38節
バーンリー 1-3 アーセナル
ターフ・ムーア
【得点者】
BUR: 65′ バーンズ
ARS: 52′ 63′ オーバメヤン, 94′ エンケティア
主審: マイク・ディーン
プチシーズン総括
シーズン前に「アーセナルは5位でフィニッシュ。ELでは決勝に進出する。」と聞いていたとしたら、「おお!よくやったな!」と無条件でいっていたはず。もちろんよくやったとは思うけど、なんとなく胸のつかえを感じるのはリーグ戦で「これを勝っておけば!」という試合をことごとく落としているからだろう。退団が決まったラムジーへの依存度はシーズンが進むにつれて高まり、彼の離脱に合わせてリーグ戦の成績が低下したのも、チームに対するファンのストレスになったと思う。
はっきり言えば、エメリがやりたいサッカーというのはこれ!というのは1年間のリーグ戦を通して見てもよくわからなかった。むしろ、シーズン序盤の方がやりたいことはクリアで、怪我人が増えていくにつれて身動きが取れず、個への依存度が高まったという仮説が現状では妥当な気がする。まぁ、怪我さえなければっていうのは言い訳になるか微妙だけど。だって毎年たくさん怪我しているし。今年が特別多かったかと言われればそういうわけでもないし。
そう考えると、やはり来季のCL出場権はアーセナルにとって必須。エメリがやりたいことを体現するメンバーが必要ならば予算は必要。しかし、それが選手の入れ替えを前提に行われるものならば、懸念の選手層が拡充されることはない。そして来季のアーセナルも今季と同じような長期離脱者が複数出なくなる保証は全くない。
つたない動きが目立つフロントも含めると、個人的には今季のアーセナルに「とてもよく頑張った」とは言えない。エメリに関して言えば、当初のフロントの予定通りまずは2年間で成果を見るという形が適切だろう。中盤戦までに積み上げてきたものがほとんど形無しだった終盤戦は正直なかなかハードだったが、先述のようにいくつかの要因はある。そしてもちろんカップ戦ファイナルは彼の手腕の賜物だ。良くないところもあれば、評価すべきところもある。それが初年度のエメリへの感想だ。
さて、1年間リーグ戦を追ってきたこのnoteも今回は最終回!と言いたいところなのだが、幸運なことにもう1試合レビューできそうな試合が残っている。「1年間ありがとうございました」という言葉はファイナルの後に取っておくことにする。