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「手形獲得はまだ早い」~2025.2.26 J1 第3節 アビスパ福岡×川崎フロンターレ レビュー

プレビュー記事

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レビュー

すでにある程度の達成度

 2試合無敗とリーグ戦で好スタートを切った長谷部フロンターレ。今節は長谷部監督の古巣である福岡との一戦だ。

 連敗中の福岡は5バックにシフト。5-4-1で川崎の保持を迎え撃つ。ボール保持はシンプルに前線のベン・カリファに当てる形でスタート。川崎もこれに応戦するようにロングボールを蹴るせわしない立ち上がりとなった。

 時間の経過と共にボールを持つのは川崎に。川崎はCBとSBが低い位置に広がる柏戦を踏襲したフォーメーション。要は柏戦までの文脈を踏襲した形であった。ただし、柏戦と異なったのはロングボールを必ずしも前進の手段としていないことであった。

 1列目をショートパスでクリーンに超えるというのがこの日の命題だった。具体的には三浦を金森から離れた位置でボールを受けさせられるかどうかがポイントとなる。ミクロな話で言えば、丸山が金森を引き付けて三浦にパスを付ければそれでよい。福岡は5バックながらもミドルゾーンから前プレに移行していたので、丸山に金森がついていく場面はそれなりにあった。

 もっと構造的な話をすれば右サイドで起点を作り、2人のCHや丸山に金森を食いつかせることで三浦をフリーにすること。家長、脇坂など2列目の選手が橘田の右側に降りる動きで福岡の守備ブロックを川崎の右サイド側に移し、三浦を解放する形を作る。

 三浦までボールが入れば川崎は一気に加速。ドリブルで一気に福岡のラインを押し下げていく。この日の三浦は別格。前にボールを運ぶアクションの安定感が抜群で1列目を越えるアクションのキーマンになっていた。

 なお、プレビューで触れていたこの試合のテーマは「ロングボールを減らす形での前進にトライできるかどうか?」なので、この点に関しては構造的にフリーの三浦からのキャリーという手段を確立できた時点でそれなりの達成度にたどり着いたと考える。この試合の前半で見られた川崎の2つの警告はいずれも右サイドからのロストで引き起こされている。川崎が仮にロングボールに逃げて跳ね返されれば、このような警告を誘発するロストを増やしていた可能性がある。それを未然に防いだだけでも意義は大きい。

最悪のシナリオを救った左足

 ミドルゾーンまで前進した川崎はそこから一気に攻略を狙う。特にライン間に入り込む2列目のパス交換からDFラインの背後を狙うアクションで一気にフィニッシュを視野に入れる。

 三浦がキャリーの旗頭になったことで川崎は左サイドからの前進が増えた川崎。この試合では右のSHの家長がセンターラインのライン間に入ることが多かった。間延びしたライン間に入り込む動きは長谷部フロンターレの2列目には求められている動き。中央に絞り込んで攻略に絡むイメージはセントラルコースト戦とは異なるもの。より長谷部式に近づいたということでいいだろう。

 ただ、家長にしてもマルシーニョにしても外で張って加速する役割を担った時の仕上げに関してはもう少し求めたい部分ではある。サイドからスピードに乗った後にスローダウンしてしまうとなかなか攻め切れない。大外からのマイナスのパスで演出されるペナ角付近からのクロスは3バックかつ高さのある福岡に対しては狙いだったファーに届けるのは難しそうであった。

 福岡も時間の経過と共にポゼッションを徐々に増やしていく。バックラインが広がり、川崎のDFを引き付けることで中盤のスペースの創出に挑むという点では川崎と狙い自体は近かったかもしれない。

 しかしながら、川崎と同じようなクリーンな前進をしようとするとなかなか苦しいところがあるのが今の福岡。特に気になったのはCHのアクションがなかなか味方と相関していないこと。大きく動きながらバックラインからボールを引き出そうとする意欲や、見木に関しては前に出て行こうする動きに注力するばかりに、前進の役目をなかなかに果たせていなかった。

 例えば、10分のシーン。川崎のバックラインへの強引なプレス回避を利用し、何とか1列前にボールを進めることが出来ていたが、降りて受ける名古のレシーブ役がいない。

 この構図は2分半にも再現性を持ってみられている。見木か秋野のどちらかは名古のレシーブ役には入りたかったところ。まぁ、見木が前に行きたがるのは3バックという後ろが重い陣形では仕方がないのかもしれないが、いずれにしてもう福岡のクリーンな前進はここでストップ。縦方向にコンパクトな陣形の川崎にからめとられてしまう。

 保持でも非保持でもややうまくいかない福岡は10分過ぎからプレスラインを下げる決断をし、三浦に金森の背後を取らせないように。こうなるとバックスは後ろに重くなってしまうが、そういう懸念がある中で先制点を取れたのは大きかった。

 きっかけになったのは後方からの秋野のフィード。これで抜け出したベン・カリファが先制点を生み出した。自分のマークしているCBとは逆のCBの背中を取るように抜ける動きができるのは素晴らしいストライカーの証拠だと思う。

 川崎としてはなかなかに厳しい失点。まずはタイミングを図られてDFの背後を一発で抜けられたのはまずかったし、ニアを抜かれた山口の印象は悪い。足を抜くのが遅れてしまったせいでグラウンダーのシュートにうまく対応できなかった感がある。長いキックが飛ばないなど、現状では少し懸念のあるパフォーマンスが先立っている印象はある。

 いずれにしても4-4-2のミドルブロックでこういう失点をしてしまうと、相手に許容していいことの前提が崩れてしまう。そういう意味で今の川崎が一番許容してはいけないタイプの失点といえるだろう。

 川崎としては福岡がローブロックに移行したタイミングで先制されるという最悪なシナリオ。やや中盤でもミスが増えてきてしまい、まずい流れになりそうな展開に。悪い沼に入りそうにところを救ったのは今節も三浦の左足。セットプレーからニアの家長に合わせて3試合連続のリーグ戦でのアシストを記録。試合は同点でハーフタイムを迎える。

オープンな展開で違いを見せる

 迎えた後半、先に手ごたえをつかんだのは川崎。左サイドの2列目のレシーブからの前進に成功する。マルシーニョ、脇坂を縦パスの的として、彼らにパスを入れて後方のCHがレシーバーになる。福岡のCHは川崎のCHを意識していたので背後は空きやすいし、後方にパスが入ればそこにリアクションはする。よって、川崎は福岡のCHを好きに振り回していく格好だった。

 逆に言えば、この手前と奥を行ったり来たりする構造は福岡に足りなかった部分。名古が孤立したのとは対照的にマルシーニョにきっちりリターン役を用意したかどうかがチャンスメイクの分かれ目になったといえるだろう。

 押し込む川崎はセットプレーからチャンスを作っていく。同点ゴールに続く二匹目のどじょうを狙う格好だ。流れが悪い福岡は紺野を投入。柏戦での川崎の左サイドの守備ブロックの後半のバテ方を見れば、このタイミングでの紺野はいかにも刺さりそうという感想になる。

 この交代をきっかけに試合は一気にオープンに。あまり制御の効かない展開となり、ボールは行ったり来たりという状況となる。川崎はもう少し保持で落ち着かせても良さそうではあったが、縦に速い展開にお付き合い。度重なるオフサイドが少し気がかりではあった。一方の福岡は紺野投入直後の59分には見木がミドルのチャンスを迎えたり、セットプレーから田代がフリーでシュートを放つなど2点目に近づく場面も見られるようになった。

 川崎もエリソンを投入することで前プレを強化。オープン合戦に持ち込むことで試合のテンポを上げていく。福岡の仕掛けた縦に速い展開に川崎が乗っかることで、試合は構造よりも互いに寄せが早い中で正確にプレーができるか?という状況の連続に。

 速い展開の中でのプレーの精度という点ではやはり優位なのは川崎。ゴールに鋭く迫る機会を少しずつ増やしていくと決勝ゴールはエリソン。後方からスペースに流した伊藤のクロスを叩き込むというエリソンとしては珍しいゴールの形で試合をこじ開ける。福岡の2列目のプレスの動きの背中をとるように、巧みにポジションを変えた伊藤のプレーも光る場面だった。

 ウェリントンを投入して放り込みに移行する福岡。最後はパワープレーでシンプルな戦いを狙う福岡だが、川崎は跳ね返しながらカウンターから追加点を狙っていく。どちらかと言えばチャンスが濃いのは川崎の方だっただろうか。

 最後は押し下げることができた福岡だったが、後半はネットを揺らすことができずリーグ唯一の3連敗。逆に川崎は無敗で2位浮上となった。

あとがき

 福岡は5バックにしたことをあまり優位に使えなかった感。先に挙げた名古のサポートいない問題は中盤→バックスへの人数移動の影響ということもできたかもしれない。2失点目も最終ラインの数的優位が無効化した失点ということで、5でトライした意義をどこまで提示できたかは微妙なところ。敗れたこともあり試行錯誤は続きそうだ。

 ロングボールを咎めるところにはやる気満々の相手に対して、地上戦で勝負をかけることができるか?が川崎のこの試合の命題だったと考えている。そこに関しては明確にクリアしたといっていいだろう。ただし、習熟度に関しては福岡のMFがあまりにもスペースを管理できていなかった感があるので、この試合でできたことがどこの相手に対してもできるかは微妙なところ。手形を得たかどうかの判断は先になる。それでも目の前の相手が苦手なことをベースの戦い方にミックスして落とし込むという部分の進捗は悪くはないかなと思う。

試合結果

2025.2.26
J1リーグ
第3節
アビスパ福岡 1-2 川崎フロンターレ
ベスト電器スタジアム
【得点者】
福岡:15′ ナッシム・ベン・カリファ
川崎:42′ 家長昭博, 85′ エリソン
主審:木村博之

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