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「我慢の種類」~2025.3.16 J1 第6節 ファジアーノ岡山×川崎フロンターレ レビュー

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レビュー

序盤戦の粘りの主要人物

 サウジアラビア行きの切符を獲得し、ますますリーグは過密日程に突入。中断明けには怒涛の7連戦が始まる中で代表ウィーク前の最後の試合。対峙するのは今季昇格組ながらここまでホームで無敗という成績を残している岡山への遠征だ。

 序盤から試合はロングボールの応酬。岡山は左のCBに入る駆動を砲台役として、左右に流れるルカオをターゲットに前に起点を作っていく。前からプレスに行きたい様子を見せる川崎だが、素早く前につける岡山を前になかなかその姿勢が実ることはなかった感がある。

 受けに回る形になった川崎の中で序盤に奮闘していたのは山本。ルカオへのロングボールに対して、CBと連携しての挟み込みで攻撃をカットしたり、あるいはサイドでポケットを埋めたりなど、岡山の攻撃を未然に防ぐ。

 もう1人、序盤に活躍を見せた川崎の選手は山口。中でも8分のセットプレーの対応は見事。岡山によってニアでそらされたボールに対して、素早くファー側に移動し、ポストとの間をクローズしてシュートをセーブ。左右への揺さぶりにもバッチリ対応して岡山のチャンスをカットしてみせた。

 アタッキングサードに押し込む機会が多かった岡山。プレビューにも書いた通り、セットプレーを得ることができればチャンスになる(上に書いたように実際にそうなっている)ので、基本的には押し込むフェーズを作っていること自体が彼らのペースとなっていると考えてもいいと思う。

 ただ、強いて言えばもう少し幅を使った攻撃はしても良かった。例えば、13分の立田→江坂のパスはもう1つ先まで飛ばして良かったと思う。4バックの川崎に対して、WBを生かした幅の使い方ができれば、よりマークはずれやすかったはず。そういう意味では優勢に進めた岡山も布陣の噛み合わせという特性を使えたわけではなかったように思う。

 川崎のSHの守備の献身性も含めて、サイドの封鎖はギリギリ間に合っていた感。岡山は大外→ハーフスペースから上げるクロスでボックス内に供給することはできていたが、川崎のマークを外してフリーで合わせることができる場面は少なかった。

予測できる中でのマルシーニョ頼み

 守備では粘りを見せていた川崎であるが、攻撃に転じた際には苦戦がかなり前面に押し出される展開に。岡山は前から枚数を合わせる形で高い位置から圧力をかけていく。川崎はバックラインからプレスをいなしつつ、縦にパスを刺しにいく。だが、ライン間へのパスはほとんど岡山のDFの潰しによって収まらなかった。

 単純に岡山のDFの寄せが効いていたという側面はあると思うが、川崎側が十分に岡山の守備をいなすことができなかった結果とも言える。岡山は特にサイドに相手を閉じ込めるように前線が片側にスライドして守る意識が強かった。川崎はこのプレスを脱出する工夫ができれば、岡山の陣形が乱れたところに縦パスを打ち込むことができていたのだろうが、川崎はそうした後ろでの左右の揺さぶりを仕掛けることができず。縦パスの狙い所が岡山にある程度バレた状態でしかつけることができていなかった。

 縦パスが収まらないと割と受け手が「収める能力が足りない」という結論にされがちだが、この試合においては後ろがきっちりと縦パスを入れる前のお膳立てができていなかったという側面も大きかったと思う。以前の岡山の試合を見る限りは後ろを経由したサイドチェンジに対してもスライドの遅れがあったので、GKを経由した左右への揺さぶりはもっとあってもいいのではないかと感じた。

 ライン間で受けた選手はフリーでボールを受けることができたとしても、そこから先のプレー精度が低く、ボールをコントロールしてそこからパスの過程がミスが出てしまう。真ん中の縦パスはなかなか有効打にならなかった。

 結局、前進のルートとなったのは外からの裏抜け。軸となったのはマルシーニョ。大外で張ってハーフレーンでの抜け出しを促したり、あるいは自身が抜け出すアクションをすることで一気に背後を取っていく。ただ、マルシーニョを使った裏抜けは川崎が手詰まりになった時の常套句でもある。対面の選手はマルシーニョの裏抜け以外に気にすべき選手の動きはなかったので、これは単純なかけっこでしかない。

 そういう意味では川崎の問題点は中央の縦パスと同じ。予測可能なパスワークの中でわかっていても対処できない可能性のあるマルシーニョの脚力にたどり着いたということだろう。

 外からの押し下げにフォーカスすることで川崎は序盤のように手前でロストするケースは減りはした。だが、岡山は低い位置でもボールを奪うとルカオにロングボールを当てることでカジュアルに陣地回復。序盤は挟むことができていた山本が徐々にルカオへの守備に参加することができなくなったこともあり、低い位置に押し込んでも川崎は相手の前進の起点を潰すことができず。

 山本個人の話をすれば、縦にパスを入れるフェーズでもミスを増やしてしまうなど、守備で存在感が高かった序盤からパフォーマンスはなだらかに下がっていった印象。上で繰り返し述べている「予測できるボール回し」に川崎が陥らないためには彼の貢献が必要だったように思えるだけども、なかなかその点で活躍を見せることができなかった。

ルカオが仕掛ける駆け引き

 スコアレスで迎えた後半。川崎は左右に大きな展開を入れることで岡山の同サイド圧縮のプレスを予防。前線へのロングボールを使うという点は前半もやっていたのだが、サイドから少し角度をつけてボールを入れてみたり、あるいは受け手が斜めの動きを入れながらレーンをまたいでロングボールを受け取ったりとなど、岡山の守備陣が対応しにくい状況を作り出して押し込むように。

 xGを見る限り、川崎のこの試合の最も大きな決定機はこの時間帯。右サイドのクロスにファーでフリーでマルシーニョが合わせたシーンだった。

 クロスを上げたのは伊藤。今季ここまでを見る限り、彼はフリーになればこのくらいのクロスを上げることは普通にできる能力を持っている。この試合でそれができなかったのは「フリーになれば」という前提が成立しなかったため。伊藤がクロスを上げたシーンは前半であればCBの工藤が前に出ていって潰しておしまい!という局面であった。

 この場面では脇坂が右サイドに流れており、彼を藤井が管理している状況だった。しかし、伊藤を見ていたWBの加藤が、大外の佐々木へのパスに引っ張られたことにより、瞬間的に伊藤のマークが外れる現象が発生。そのため、前半ではほぼみられなかった伊藤がフリーになる場面ができて、その隙が決定機に繋がったということになる。伊藤自身も交代前には2人目を引きつけておきながらロストする場面があったので、このシーン以外の出来はあまり良くはなかった。

 チャンスを逃した川崎はルカオによって反撃を喰らうことに。左右に流れてCBを釣り出すルカオはここから自らの反転でターンを決めて、岡山のチャンスを作っていく。

 ルカオについて感じたことをここで少し述べたい。圧倒的な体の強さがベースとなるのは確かなのだろうが、それ以外にも駆け引きの要素があるように思う。ルカオの特徴となるプレーは外に流れつつ、ターンで相手を置き去りにする形である。ボールの置き所はライン側になることが多い。

 ルカオはおそらく片側からボールを相手につっつかれるタイミングを待っているのだと思う。相手とボールの間に完全に体が入っている状態であれば、相手のDFはどちらかからボールをつっつきにいかなければならない。

 奪いにくる瞬間は相手のDFの重心がどちらかに傾く。その相手の体の動きを利用し、相手の重心と逆の向きにターンする。この駆け引きをやっているのではないだろうか。

 この記事ですでに述べたようにルカオはサイドに流れてプレーすることが多い。サイドにおいて面白いのはサイドライン側から反転することと内側に向かって判断する形は等価値ではない点である。特にこの試合の後半のように相手のCBが広い範囲をカバーしている際にはなおさら。

 サイドライン側から抜こうとした場合は下記のようにもう一度相手のCBを抜き去らなければならない。

 逆に内側にターンをした場合には相手のDFと内外が入れ替わるので一直線にゴールに向かうことができる。

 なので、ルカオからすれば内側にターンすることができれば最善であるはず。よって、狙うのは「相手のDFにサイドライン側からボールをつっつかせること」になる。

 駆け引きなので毎回うまくいくとは思わないが、ルカオの能力を最大限に活かすのであればそういう相手の動かし方をするのが理想的。これならば、サイドに流れることが多いというルカオのプレースタイルにも合点がいく。中央であれば左右のターンの価値が近くなるケースが多いので。

 丸山は手玉に取られた感があったが、高井が徐々にこのルカオの駆け引きに一歩も引かない対応ができていたのは優秀。後半頭がピークだったルカオの存在感に対して、右サイドは少しずつ対応ができるようになっていく。

 両チームともこの時間帯から交代で試合を動かしにいく。川崎で入ってきた家長、大関は投入直後は持ち味を出していたように思うが、時間経過とともに失速した感がある。

 大関はライン間で簡単に挟まれてしまったり、あるいは限られた時間で出すパスがズレたりなど周囲の状況の認知や背負いながらのプレー精度に難があったように思う。正直、ここまでミスが続いてしまうと高い位置で中央でプレーできる選手(=瀬川)は後から追加せざるを得なかったかなという感じ。

 前を向くことができればそれなりに持ち味は出せそうな感じがしたので、保持だけを考えればより前を向きやすい1つ後ろの方が今は向いているのかもしれない。ルカオを挟んだりしなきゃいけないなどができるかはわからないけども。

 家長の「相手にマークをつかれても簡単にロストしない」というスペシャリティは後半に入っても予測可能なパスルートしか構築できていない川崎においては必要な能力だったと思うし、単純に預けどころとしては機能していた。ただ、アタッキングサードにおいての精度がこの日は足りておらず。終盤の左サイド抜けはファーの山田にふわっと派です。

 山田も流れをつかめずに苦しんだ。決定機を活かせていれば!というのはもちろんとして、62分のようにチャンスボールが出てきそうな場面でずっとオフサイドポジションに立ってしまうなど、相手のDFとの駆け引きも十分ではなかったのも気がかりだ。

 交代した選手がもう一声!というのは岡山も同じ。右に入った柳は終盤のオープンになった状況でチャンスメイクに貢献していたが、岩渕はボックス内での動きと精度がもう1つ。中盤がラインを押し上げて川崎の陣地回復を終盤まで咎めることができていたのは好材料ではあるが、ボックス内の精度には泣かされた印象だ。

 ちなみに岩渕は70分過ぎのルカオを囮にしたロングボールの引き出し方は面白かった。左WBの松本も連動して一気に走っていたので、ゴールキックから始まるプレーブックの類のものなのかもしれないが、ルカオを囮にする前進の仕組み構築への取り組みは興味深かった。

 サイドを割り合う終盤の攻防は勝者不在のまま終戦。ドローで勝ち点1を分け合う結果となった。

あとがき

 ロングボールを軸に強度のある展開を岡山が見せてくるのは想定通りで、その中でACL明けとアウェイゲームのコンボでコンディションで劣るであろう川崎がその状況を掻い潜れるかどうか?が大事な試合になるというのがプレビューのお題目だった。結果的には終始強度や個人の局面勝負になっていたので、その時点でこの試合は岡山の土俵で行われていた試合だったと言っていいと思う。

 確かにこの試合の川崎は粘り切れたのだけども、粘りの類がCBやGKの個人の対応力に寄っている感じはする。山田の決定機に繋がったようにブローダーセンまでプレスをかけることは重要ではあるけども、ミドルゾーンで構えて跳ね返すみたいな場面は勝ち負けに関わらずここ数試合でめっきりなくなってしまったのでそこは気がかりなところである。人が変わっていないのだからCBが広い範囲を守る展開が増えれば、昨シーズンと辿る顛末は同じになると思う。

 我慢は我慢でもこういう我慢の仕方は長続きするかどうかは怪しい。川崎はここからのリーグ戦は過密なので、この日のようにコンディションで相手を下回る日は絶対に出てくる。その上で強度勝負の土俵に乗らなきゃいけなかったというプロセスは結果以上に気になるところ。ちょっと我慢の種類があまりいい方向に転がっていない感がある。

試合結果

2025.3.16
J1リーグ
第6節
ファジアーノ岡山 0-0 川崎フロンターレ
JFE晴れの国スタジアム
主審:上田益也

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