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「サッカーは90分」~2025.10.18 J1 第34節 川崎フロンターレ×清水エスパルス レビュー

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レビュー

清水を負のスパイラルに追い込む

 立ち上がり、川崎は左サイドへのロングボールからスタート。エリソン、マルシーニョを軸とした長いボールから清水のプレスを逃していく。その中でも清水のプレス隊の間に入り込む中盤にショートパスを差し込むシーンが垣間見えたのは、GKのポジションに山口が戻ってきた影響だろう。

 ただ、この試合の川崎が明確にアドバンテージを握ったのはボール保持よりも非保持の局面。2トップ主導でサイドに追い込むと、そこから同サイドに一気に圧縮。SH-SBの縦へのスライドや、CHの前方へのヘルプ、そして逆サイドのSHの絞りなどあらゆるところを潰し、高い位置からボールを奪いにいく。

 清水はこのプレスにやや対応できておらず、中央に差し込むパスはことごとく川崎のインターセプトを食らうように。川崎はハイプレスから押し下げるテンポを掴み、高い重心でプレーする立ち上がりとなった。

 その状況を生かした形から先制点を奪った川崎。佐々木の縦パスを受けた脇坂はエリソンの裏抜けとの合わせ技でミドルシュートを打ち込んで試合を動かす。重心を回復させようと全力でラインを押し上げにいった小塚の逆を冷静に取り、脇坂にパスを入れた佐々木のプレーは清水の押し込まれて苦しい状況をきっちりと利用したものであった。

 さらにはCKから7分に川崎は追加点。ファン・ウェルメスケルケンのミドルシュートのコースを佐々木が変えてリードを広げる。佐々木が試合後のコメントでスカウティング通りであることを仄めかしていたが、このシーン以降も清水はボックス内を10人で守るセットプレーを組むことが多く、バイタルでのセカンドボールは川崎が無限に回収し、二次攻撃に繋げることができていた。

 攻撃と守備の両面で主導権を握った川崎。個人的に気になったのは清水の高い位置からの守備。先制点の小塚の前に出ていった守備もそうだが、前への推進力を活かせていない場面が多かった。

 気になったのは挟み込みの意識の薄さ。特に宇野とブエノの前と後ろをサポートする形を作れていないのが目立った。例として挙げたいのは16分過ぎの山本へのロングボール。ご存知の通り、ロングボールのレシーバーとしては適していない山本に長いボールを入れている時点で川崎はやや苦し紛れなつなぎになっている。

 しかし、清水はこのシーンで山本を咎めることができず。山本からリリースされた段階で宇野が吉田にフォローを求めたジェスチャーをしたように、ここは挟み込みさえすれば簡単にボールを奪えることができたシーンだ。

 このシーンのように、清水はFW、MF、DFのレイヤーが連携した守備があまり見られなかった。清水のCHの手前を使うところで清水のFWの手前が挟み込めなかったり、逆に清水のCHの背後を川崎が使った場面においては清水のDFが出ていけなかったり(先制点の場面の脇坂への対応が代表例となる)といったシーンが多かった。

 加えて、清水はマークについたつもりでももう一歩を詰めることができず、川崎は余裕を持ってボールを動かすことができていた。このように川崎の中盤はプレッシャーの少ない状態で縦パスを入れることができる材料が揃っていた。清水は縦パスを入れられるとレイヤー間で連携する必要がある場面が出てくる。まさしく負のスパイラルだった。

 川崎は縦パスで相手を揺さぶりながら伊藤が3点目をゲット。まさしく十八番と言える正対した状態からシュートコースを作ってのニアを開けてのゴールでさらにリードを広げる。

傷口を広げる守備対応

 前からのプレスをかけることが出来ないとなると、清水は列を下げることしかできなくなる。即時奪回のシャープさとバックラインのロングボールの迎撃で川崎は押しこむフェーズを維持することが出来る。

 プレッシャーを受けない山本は裏を見て縦に奥行きを出していくルートを探っていく。河原は大きな左右への展開や、一回やり直しを挟んだ際のダイレクトな再加速などからチャンスを作る。

 CHがフリーになっている状況は川崎のオフザボールの動きを活性化。必要なタイミングで必要な選手が列を上げるところからチャンスを作る。この動きの活性化がエリソンの4点目に繋がった感がある。

 イケイケのように見える川崎だが、時間軸としては3点目を取って以降、少しずつプレスに怪しさが見える。具体的にはサイドに追い込むフェーズで相手を追い越すことが出来ず、清水は少しずつ中盤でフリーマンを作って前に進んでいくように。川崎は脇坂とエリソンの連携、この2人とSHのつながりが甘くなってしまったのが主な要因だ。

 少しずつ背後を使われるようになった状態に対して、川崎はあまりうまく対応ができなかった。いったん陣形を整えるのではなく、マルシーニョや山本が深追いをすることでプレスの再起動を敢行。この修正の方向性がさらにダメージを広げるように。川崎は出て行ったところの背後のスペースを使われてしまう。

 宇野、ブエノのCHの列上げやシャドーのライン間で受ける意識で清水は徐々に縦パスを入れていくシーンが増えていく。ライン間でタメを作った際にはサイドにスムーズに展開。オーバーラップする山原が余る形で左サイドを駆け上がれるところに合わせられれば最高といえるだろう。

 ライン間でポイントを作り、サイドで抜け出す形を作った清水は前半終了間際に追撃弾。小塚のゴールにつながる。川崎はイケイケ過ぎる守備の咎を受ける形でハーフタイムを迎えることとなった。

追い上げムードに水をさす2つの誤算

 清水は後半早々にさらに得点を重ねる。川崎が清水から見て右のハーフスペースに立つ松崎を捕まえることが出来なかったところを、背後の髙橋のフリーランで流れるように活用。1分も経たないうちに2点目を決める。

 川崎はやはり、主に山本と田邉のところで松崎の受け渡しがうまくいかなかったのが痛恨。マルシーニョのコースの切り方が甘かったせいか、左足で受けさせてしまったというのは想定外だったかもしれないが、それでも田邉はもう少しスムーズに松崎をケアしたかったところだ。

清水が4バックにシフトチェンジをしたことが受け渡しのミスに影響している可能性はあるかもしれないが、彼らが4バックにシステムを変えたのは後半頭ではなく4失点目の直後。HTに対応の仕方を整理しておきたかったところだろう。

 この受け渡しだけなく、後半の川崎は非常に雑。前半の終盤からカウンターはアバウトでおよそ味方に届かないパスばかりを飛ばしていたし、前線の向こう見ずなプレスは改善するところか拍車がかかっていた。

 清水はハイプレスから川崎のビルドアップを制圧して試合を完全に掌握。前半の川崎のように盤面を支配し、一方的に攻め込んでいく。左サイドで強引にファウルを奪い取れるカピシャーバは特に川崎にとって対応が難しい選手の1人となっていた。

 川崎は緩慢なプレーが見えていた前線を入れ替えることで引き締めを図るが、直後にクロス対応のミスから田邉がPKを献上。このPKは山口が北川のキックをセーブすることで事なきを得るが、ボックス内としてはかなり安易なファウルだったといえるだろう。

 交代で入った小林と宮城もなかなか守備面で巻きなおしを図ることが出来ず。今季の小林は守備でのプレスの引き締めの改善を期待されている場面でなかなか思うように仕事ができないのが気になるところ。もちろん、彼1人で守備がすべてよくなるとは思わないが、最前線の小林が下がりすぎてしまうことで相手に高い位置からサイドチェンジを許してしまう場面も見受けられたので、そこは気になるところではあった。

 攻撃にフォーカスしている清水は後半の多くの時間で主導権を握っていたが、PK失敗と並ぶ後半の誤算はやはり5失点目だろう。やや、バタバタした局面だったとはいえ前半は穴を空けていた河原の深追いの列上げのプレスに捕まってしまい、そのまま失点を許してしまったのは追い上げムードに水を差すつまらないミスだといっていいだろう。

 清水はステファンスを投入することで前線を3トップのような形に変更。上下動するステファンスが純増で前線に加わることで背後をクリーンに取る形が増えてきた。川崎は再び変わった陣形に戸惑いながらもマンツーで人を当ててボックス内で枚数を合わせて何とか対応していく。

 最終的には北川のリベンジのPKが決まり、5-3で試合は終了。計8得点が決まる乱戦は川崎に軍配が上がった。

あとがき

 ルヴァンカップ準決勝敗退からの再起動を図る一戦ということでモチベーション的には難しい試合。その中で初めの15~30分に見せたクオリティは素晴らしいものであった。

その一方でやはり前半の中盤からの垂れ方は課題となる。4点を取って以降はとりわけ深刻。多少やられてしまう時間ができてしまうのは仕方ないとして、前半の終盤に自分たちで制御していたり、後半の頭に監督主導で修正したりなどがうまくいかず、ダメージを受ける状態をズルズル引きずってしまったことは反省点のように思う。

 特にエリソンの住吉へのファウルはいただけない。外から応援しているだけのファンが戦っている選手のフラストレーションについてどうこう言うのはあまり気が進まないのだが、タイトルを目指す以上はこの試合よりも高い緊張感である場面はいくらでもあるはず。相対的にプレッシャーの低いスコアやカードでこうした感情の発露を見せてしまう選手はより緊迫した局面で信頼は置きにくい。

 4点を獲れれば、多くの試合には勝てるだろう。しかし、毎回4点を取れるわけではない。しかも、4点をとっても勝てない試合を川崎は柏戦で今年すでに経験をしている。今回は5点目を取れたり、相手のPK失敗に助けられたりなどの場面があったおかげで勝ち切ることが出来たが、今季のリードをしてから落とした勝ち点の多さを考えれば、川崎がこの試合で見せた緩さはタイトルに向けて看過できない課題だといえるだろう。

試合結果

2025.10.18
J1リーグ
第34節
川崎フロンターレ 5-3 清水エスパルス
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
【得点者】
川崎:4′ 脇坂泰斗, 7′ 佐々木旭, 13′ 伊藤達哉, 37′ エリソン, 69′ 河原創
清水:45+6′ 小塚和季, 46′ 髙橋利樹, 90+2′(PK) 北川航也
主審:川俣秀

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