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「燃料を与えるプラン」~2025.6.29 J1 第22節 東京ヴェルディ×川崎フロンターレ レビュー

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目次

レビュー

立ち上がりに見られた2つの懸念

 少し気になったのは川崎の立ち上がりのプランである。前線は新潟戦と同じ神田の1トップを採用していたのだが、とにかくロングボールを避けていた新潟戦とは異なり、この日は非常に神田に長いボールを当てることを積極的に敢行した。

 流れの中からプレスを受けた丸山から出てくるボールはプレスを安全に逃がすためと解釈できなくもないが、ゴールキックやスローインといったボールを持っている選手に全くプレッシャーがかかっていないことを踏まえると、まずは神田にボールを当てるというプランはある程度立ち上がりの川崎の優先度が高いプランのように見受けられる。

 16分で柔らかい脇坂への落としを決めたように、神田は背中を向けた落としのスキルは十分にある。だが、それはあくまで相手のプレッシャーをモロに受けない状態ならという条件付き。スローインやロングボールのターゲットではそうしたスキルを今は押し出すのは難しい。モーリスレベロトーナメントではある程度無理が効いていたので、体がよりできてくれば違うのかもしれないが、肉体的により仕上がっている選手相手では今は難しいということだろう。

 守備で気になったのは左サイドのプレスのチグハグさ。具体的にはマルシーニョと周りのプレスの噛み合わなさがとても気になった。3分手前の三浦はマルシーニョを追い越すように大外にプレスをかけに出ていっている。自らが出ていく前に埋めていたスペースを引き渡す形でプレスにいっており、これは非常にリスクの高いプレーだ。

 ハイプレスにおいても本来マルシーニョが受け持ちそうな選手に対しても脇坂や神田に前プレを任せており、前線まで顔を出していた逆サイドの伊藤と比べても、明らかにマルシーニョの守備にはギャップがあった。もちろん、交代直前に二度追いの繰り返しをしているくらいなので、全く走れなかったという事はないのだろう。だが、逆にいうとこの場面以外は攻守にうまく加速できていたシーンは見られなかったので、試合開始の時点で何か本人の中に違和感があったのではないかが気になっている。

 というわけで川崎の左サイドはこのマルシーニョ周辺でプレスの問題が発生。あまり動かないマルシーニョをカバーするように周りの選手がマーカーを細かく変える必要があり、その都度プレッシャーが弱まる相手選手が出てくる。

 背後に目を向ければ動けないマルシーニョのカバーをする役割になっていたのは大島。この日の左CHのタスクはCFが競り勝てるかわからない放り込みのセカンド回収とマルシーニョの守備範囲のカバーの2つ。後者はややアクシデンタルな側面もあるかもしれないが、いずれにしてもこの2つを託すための1stチョイスが大島というのはいささかミスマッチのように見受けられる。

覚悟を決めたプレスで押し下げる展開を呼び込む

 東京V視点で言えば最も避けたかったのは陣地回復の手段を見つけられない事である。前線はスモールラインナップでロングボールの入れどころはないし、前からのプレスがハマるのかは不透明。川崎の左サイドのプレスのチグハグさと、神田をターゲットにするロングボールという方向性は東京Vに進んで前進の手段を与えたようなものだった。

 敵陣においても川崎の左サイドの守備は簡単に振り回すことができる東京V。マルシーニョ周辺のスペースから同サイドの背後は取れそうだったし、大島をカバーするように横スライドを鬼のように敢行する橘田のアクションを見れば、単純なサイドチェンジでも中盤に穴を開けることができる。敵陣でこれだけ揺さぶることができるというのは東京Vとしてはあまり想定していないいい流れだったかもしれない。

 試合前に予想された展開に反して押し込む手段が構築できた東京V。すると、今度はきっちり用意したものが火を吹いて先制。序盤から谷口をスクリーンでフリーにするなど、あらゆる形でのチャンスメイクが目立った東京VのCKは30分過ぎにゴールを生み出す。ニアに入り込んでフリーとなった谷口のすらしをファーで押し込んだのは深澤。狙い通りのセットプレーから東京Vが先制ゴールを生み出す。川崎はニアとファーの二ヶ所で見事にフリーの選手を作られるスクリーンを決められた。

 先制点以降は川崎はボールを持つ展開が続く。大島が全力でスライドするという前からのプレスに覚悟を決めたかのようなシーンなど、前半の終盤には相当押し込んで東京Vを壊しにいくという意識が見て取れた。

 その一方で、ナローなスペースを壊すというところまでは辿り着けなかったのも確か。大島が森田を引き寄せたタイミングで森田の背後に入れない!といったシーンもあったし、入り込めてパスを出したとしても出した大島が動き直せないせいで次の受け手になれないというシーンもあった。ナローなスペースを崩すというのは相手の矢印の逆を取ることの連鎖なのだけども、それがうまくいかなかったのがこの日の川崎だ。

 特に降りるアクションを有効に使えなかったのは気になるところ。列に降りるアクションは単に選手1人が場所を移動するだけでは意味が薄く、相手の陣形に影響を与えないといけない。左サイドの宮城、三浦あたりは味方に時間を作ることもなくはなかったが、後方に人数をかけ過ぎているため、最終的にボックス内に人が足りなくなることが多かった。

 右サイドは後方のズレを作って活用する作業自体が左サイドよりも乏しい。伊藤はこういう多人数での絡みでの精度はもう少し上げていきたいところ。加速した時に止められないのはもちろん彼の持ち味ではあるのだけども、味方とのオフザボールを活用しての連携はまだ向上の余地があるように思えた。

 降りるアクションで釣るのに苦労し、釣れても連鎖的に進むことができない川崎。セットプレーで得たチャンスも枠にシュートを飛ばすことができず、前半はビハインドでハーフタイムを迎えることとなった。

CBコンビに見られたほころび

 迎えた後半、川崎は山田を投入。前線をサイドに流すことでボールを収めにいく。相手に捕まっていても振り切るというこの試合の川崎の前線に求められていることを山田はきっちり体現したと言えるだろう。宮城が前に出ていったり、橘田がボックス内に入り込んだりなど前の動きの重さや前線の人の少なさを解決しようという動きが見えた。

 しかしながら、その一方で押し込むフェーズの継続において川崎は苦戦した。特に後半に目立ったのはCB。丸山と高井の連携面だ。

 50分のシーン、裏抜けのアクションを見せた新井があわやという場面を作り出す。まず、この場面は背後に抜けられる高井の対応ミスが1つ。その上で、丸山のポジションにも違和感がある。ラインを整えておらず、他に気にする要素もなく、GKからのリスタートなのでトランジッション要素もない。

 その状況で高井の背後を取った新井の対応に一歩遅れるのは苦しいところ。相手のCFに対して数的優位を確保している状況なので、1人のミスをカバーできるポジションはとってほしい。

 それ以外のシーンでも55分に福田を追いかけて背後のスペースに飛び出されたり、71分過ぎに染野の抜け出しにマークを離したりなど、この日の丸山は安定感を欠いていた。丸山-高井のスペース管理に関しては神戸戦からの継続した課題であったが、この日も失点につながらなかったがこの点では多くの課題を残したと言えるだろう。

 保持においてもロングボールの精度が不安定な川崎は攻撃のアバウトさが目立ち、なかなか裏のスペースに正確にボールを落とすことができなかった。逆に東京Vは保持で右サイドを起点に押し込むことができていた。50分台後半から70分台にかけては無理なくポゼッションから川崎相手に時間を作ることができており、これが最後の粘りに繋がったと個人的には感じている。

 川崎は最後まで解決策を見つけることができなかった。脇坂が前を向けない!というのはTLで多く見た批判。降りるアクションをする際には自らターンで前を向くリスクがあるので、場合によっては仕方ないところはあるかもしれないが、終盤にボックス突撃しながら落としをコントロールした場面では前に推進力を持った形で勝負して欲しかった。

 脇坂に限らずこの日の組み立て隊はショートパスでさせる場面で躊躇したのは間違いない。相手を機能的に押し込むというところも成立させないまま試合は過ぎていきタイムアップ。首位相手の大一番を前に、川崎は大きな敗戦を喫することとなった。

あとがき

 立ち上がりのプランはちょっと不可解というか、長いボール主体のプランを組むべき相手なのか?というところと、長いボール主体のプランを組む上で川崎がこの日組んだ11人が適正なのかのところには疑問があった。長いボール主体のプランを組む妥当性は全くないわけではないと思うが、それであれば神田や大島ではなく山田や河原(もしくは山本)がスターターで良かったはず。もちろん、組んでいてもコンディションで実装できなかった場合もあると思うので、なんとも言えないところではあるけども。

 東京Vはプレビューでも触れたようにリードを得たからといって簡単にプレスを緩めるわけではなく、常にプレスからラインの押し上げを狙ってくるチーム。なので川崎は前半30分過ぎからの押し込むターンの連続のような時間をもっと増やす必要があった。

 終盤にバテてしまってその点で立ち行かなくなるのは、今季の日程も含めたあらゆる現象の帰結なのかなと思うのだけども、結局のところ序盤のゲームプランはそこを促進してしまったところがある。相手に燃料を与える入りになってしまったことを踏まえると、選手のパフォーマンスと並行して、この日に向けて準備したプラン自体が適切なものだったかを振り返る必要があるように思う。しんどい日程を過ごしてきたのは確かだが、勝ち点はそれを考慮してくれない。この日十分でなかったことにはきっちり向き合うことになるだろう。

試合結果

2025.6.29
J1リーグ
第22節
東京ヴェルディ 1-0 川崎フロンターレ
味の素スタジアム
【得点者】
東京V:32′ 深澤大輝
主審:小屋幸栄

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