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レビュー
ズレないことを優先する川崎
久しぶりの1週間空いてのリーグ戦。飛ばした新潟戦を残し、ACL絡みの連戦祭りは終わったが気づけばリーグ戦はすでに半分を消化。週1が日常の景色に戻ったタイミングでは残りのリーグ戦は半分なのだから、ACLはとても難しい。川崎は少しでも勝ち点を落とせば優勝争いの景色は遠ざかってしまう状況に置かれている。そうした中で迎えるのは連勝中の相手とのアウェイゲーム。広島との一戦だ。
前半から試合は上位対決にふさわしい緊張感のある内容。どちらのチームも異なるアプローチから異なる強度を見せて、異なる悩みに苦しんだ前半だったと言えるだろう。
広島の保持のメカニズムはついこないだ川崎の分析をフトチャンで書いていたらいかーるとさんの記事を読めばわかりやすい。はっきり言ってしまえばこのコラムのこのページに書いてあることが広島が川崎相手にやりかったことだろう。
要は3バックで川崎のSHを釣り出す、そこから連鎖するサイドのズレを利用し、大外からの押し下げでCBとの1on1を作り出すのが広島の青写真だ。
川崎ファンで言えば家長が釣り出されて後方がズレる画が浮かぶだろう。後方のズレを高井が帳消しにしている姿もよく見る。3バックであれば川崎のこうしたズレをカジュアルに作り出せるし、後方の連動が遅れれば川崎のCBを一枚釣り出した形からボックス内を狙うこともできる。
川崎は早々にその狙いに気づいたように思えたし、対策もきっちり打ったように思う。家長とマルシーニョは不用意に前にズレることなくあくまで4-4-2の陣形を維持することを優先。前半の途中では脇坂と山田の2トップの守備が明確に縦関係になるシーンも見られて、CBのパスの出す先をより警戒するスタンスに思えた。
いわば、川崎の選択は広島のCBをある程度放っておいてOK！ということになる。こうなると、広島は放って置けないCBが欲しい。対角フィードを右に飛ばしていた荒木はやや気にはなるが、ここもフィードを出した先でケアすることで間に合っていた川崎。先に挙げたサイドのズレを活かす形もそうだが、1回目では有効打になりそうな形でも、2回目は守備側の対応として完全に間に合わせていたのがこの試合の川崎のいいところだ。
前半の中盤以降は、こういった静的局面をどのように動かすか？ということに悩まされた格好になる。外循環でシンプルなクロスを上げるシーンもあったが、逆サイドのSBをきっちり絞らせたり、山口がハイボールにきっちりと飛び出したりなど、川崎のボックス内の対応は光った。山口は我慢するところは我慢できていたし、ここ2試合とは明らかに一線を引いたパフォーマンスとなった。
当然ラインは下がってしまうのだけども、マルシーニョというロングカウンターの旗手が入ればそうした懸念は薄まることになる。陣地回復の手段も見据えられているローラインと言えるだろう。
広島の攻撃の話に戻そう。ファストブレイクであればズレをつく作業は相対的に楽になる。ただ、ここも攻めきれない感がある広島。個人的に課題に感じたのは中盤と前線を繋ぐ役割の選手がややミスマッチなこと。加藤はともかく、ジャーメインが降りて運ぶ局面での適性はやや疑問。当然ボールを運ぶとなるとタッチ数が増えるのだけども、増えたタッチ数で相手を食いつかせて逆を取るというアクションがあまり得意ではない。ボールを晒す段階で相手に潰されたり、タッチが流れたりする。
その後のパスの質を見ても少ないタッチをよりゴール前でという役割の方が向いているように思う。この日はジェルマンをスターターに起用したことでそうした中盤に近い仕事はより増えてしまった感がある。
それでも可能性があったのはファストブレイクの方だろう。ハイプレスから川崎を慌てさせる場面はあった。河原のパスミスからのチャンスは広島が前半に迎えたもっとクリアな決定機であった。前半の終盤も広島はハイプレスから川崎を自陣に釘付けにするシーンも出てくるようになった。
立ちはだかる広島の壁
川崎の保持のアプローチは広島とは異なった切り口と言っていいだろう。後方からズレを作りたいという意識は同じだが、広島に比べるとリスクを賭しても後方からのズレ作りに勤しんでいた感がある。
後方のビルドアップは2CB+佐々木の3枚で形成することが多かった。CHは中盤の位置にとどまることが多く、いつもよりはサリーは控えめでややプレーエリアは前にシフトした印象を受けた。
ただ、後方3枚での組み立ては広島の3トップでのプレスにがっちりハマってしまう形になる。そこで工夫を見せたのは左のSBの佐々木。彼はジャーメインとの駆け引きの意識がとても高かった。背後で受けて後方の選手を引っ張り出すアクションはもちろん、37分の山田へのパスのようにジャーメインの手前でパスを受けて局面を一つ飛ばすようなパスを出すのもうまかった。
広島はジャーメインの背後で佐々木に受けられる形はある程度想定済み。中野や東が前に出ていくことで佐々木を捕まえにいく。ジャーメインの背後で受けた佐々木が広島の後方の選手を引き寄せたこの場面は両チームの流れを決める分水嶺。佐々木が無事にリリースができれば川崎の中盤は広々としたプレーエリアを享受することができるし、捕まってしまえば広島はカウンターを発動する。
序盤はミスもあった佐々木だったが、徐々にこのリリースの成功率は上がっていった感がある。佐々木ほど頻度は高くなかったが、逆サイドのファン・ウェルメスケルケンも似たような駆け引きができる。SBのキャリー能力の高さは川崎が後方からのズレ作りで勝負する上での手助けになったように思う。
脇坂、山本、河原はポジションチェンジを繰り返しながら、中盤でも広島の守備の基準点を乱すシーンを作れるように。中盤で浮く選手を作るという点では川崎が安定していた。
だが、広島攻略で骨が折れるのはここから。高井のことを「ズレを帳消しにできる」と上で述べたが、広島はそういった対応ができる選手が3人並んでいる。塩谷、佐々木、荒木は多少の中盤の後手をなんとかすることができる対人能力がある。
とりわけ、少しでも外を回させればクロスはニアでの跳ね返しで簡単に無効化できる。川崎は中盤で浮く選手を作り、自在にサイドに展開ができても、そこから広島のニアの壁を越えるための一撃を放つことができなかった。
マルシーニョの裏抜け対応はおそらく広島の守備陣にとっては前半でもっともシビアな選択肢になっただろうが、家長の決定機も含めて防ぎ切ることに成功。川崎もまた前半に訪れた数少ない決定機を掴むことができなかった。
広島は静的局面における相手の動かし方とカウンターの精度、川崎は最後に立ちはだかる広島の壁にそれぞれ悩まされる前半に。試合はスコアレスでハーフタイムを迎える。
後半も佐々木旭が決め手
後半、少し攻め筋を変えたように思えたのは広島だ。左右に大きく揺さぶるポゼッションにCFへ移動したじゃーメインのポストを絡めることで外と中のコンビネーションをより円滑に行うように。川崎は後半ややCFへのチェックが遅れた感があった。
川崎側の対応を厄介にしていたのは縦パスに合わせて高い位置を取り直す川辺の存在。右サイドの高い位置に陣取ることで中村や中野が高い位置を取る手助けをしていた。
ハイプレスでも川崎をロングボールに誘導。敵陣でのプレータイムを増やしていく広島が優勢な立ち上がりだった。
川崎の先制ゴールはそうした劣勢の中で生まれた貴重なゴールと言えるだろう。立役者は2人のCH。やや強引ながらもボールを取り切った河原とボールを引き取って相手の視線をインサイドに引き寄せて、サイドにリリースした山本の粘りにより、川崎は敵陣で好機を獲得。大外を回ったファン・ウェルメスケルケンへのパスはやや外に流れたかに思えたが、クロスで大迫を誘い出すと最後はマルシーニョがGKがいないゴールマウスにシュートを打ち込んだ。
リードをした川崎はポゼッションをキープしつつ、中央の守備から広島を潰してテンポを維持しようと試みる。読みが冴え渡っていた山本のインターセプトや、マルシーニョの決定機を呼び込んだ山田のプレスバックはこの時間帯における非常に印象的なプレーだった。
しかしながら、広島はサイド攻撃を強化し徐々に川崎陣内を侵食。菅や前田などのワイドアタッカーを入れることで川崎を外から攻め込んでいく。とりわけ、ファン・ウェルメスケルケンの負傷の影響で最終的に左サイドに回った田邉と対峙した前田は川崎にとって脅威となったと言えるだろう。
60分を過ぎると川崎は自陣に釘付けになる時間が増えていく。最後の3枚交代で守備で難がある家長を残したのは彼が終盤における川崎の唯一の前進手段だったからだろう。この時間帯以降に彼に預ける頻度の高さとその先のプレーの質を見れば、長谷部監督の選択は理に適っていたもののように思える。
それでも圧力をかけ続ける広島は86分に試合を振り出しに戻すことに成功。左サイドからのクロスに両軍の中で1人だけキレの違うストライカーのような動きを見せたのは荒木。セットプレーの流れで前線に残っていたCBのゴールで広島は土壇場で試合をリセットする。
逃げ切りを意識した布陣を敷いていた川崎にとっては苦しい展開だったが、ここでも踏ん張りを見せたのは佐々木。自陣からのドリブルで根性での陣地回復を見せると、その流れで掴んだセットプレーで自らゴールをゲット。大迫をうまく制限した味方の助けを得て、勝ち越しゴールを叩き込む。
終わってみれば前半と同じく後半も鍵を握ったのは佐々木旭。追いつかれるいつもの勝ち点を落とすパターンを払拭し、敵地で大きな勝ち点3を手にした。
あとがき
まぁ、よく勝ち切ったなというのが先に来る。カウンター局面の精度はもう少し欲しかったが、そこを除けば広島は紛れもなくリーグトップクラスのチーム。景色をよくするような組織的な守備で山本や丸山のような運動能力が長所ではない選手でもインターセプトをガンガン決めていたのはいかにも長谷部式の真骨頂ということだろう。
逆に言えばこの景色をよくなる作業をサボってしまえば、今の川崎の守備は簡単に破綻する。勝負どころで素晴らしいパフォーマンスを持ってきたのは賞賛されるべきだが、この作業を日常でサボらないことはリーグ戦ではよりプライオリティが高い。
ビルドアップの安定感はここに来て高まっているのも朗報。特に両SBのドリブルでのキャリーや中盤のポジションチェンジは広島相手でも安心してみていられるレベルになったし、長いレンジのパスでアクセントを加える2人のCBの存在も大きい。
欲を言えば山口のロングキックの精度はもう少し欲しいところ。このキックをきっちりと味方に届けられればつなぎの完成度は明らかにもう一段階上がるはず。セービングにおいてはシュートが飛んでくるまでにバタバタしないことで素晴らしいパフォーマンスを見せた山口が攻撃での貢献度を高め、パフォーマンスの継続性が出てくれば、優勝争いの本格参戦は十分に視野に入るだろう。
試合結果
2025.5.31
J1リーグ
第19節
サンフレッチェ広島 1-2 川崎フロンターレ
エディオンピースウィング広島
【得点者】
広島:86′ 荒木隼人
川崎:50′ マルシーニョ, 90+1′ 佐々木旭
主審:マルティン・ペーターセン
