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「求められるスケールの再設定」~2025.7.20 J1 第24節 ガンバ大阪×川崎フロンターレ レビュー

プレビュー記事

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レビュー

圧倒的なG大阪に待っていた落とし穴

 天皇杯からのリカバリーを図るためのJ再開の初戦を迎えた川崎だったが、立ち上がりのパフォーマンスを見る限りは前途多難の予感が拭えなかった。序盤からボールを持ったG大阪がボールを動かしていく。

 4-2-3-1の基本的なフォーメーションを組む、G大阪だったが保持においては3バックへの変形が基本線。鈴木、ラヴィのどちらかはバックラインにサリーして入る形をとる。どちらが入るか、そしてどこに入るか(CBの間or脇)などバリエーションは様々だが、前半はとりあえず誰かが落ちるというところに関しては徹底されていたように思う。

 G大阪のSBは大外のレーンの高い位置を取ることで、幅取り役を一手に引き受けていた感がある。2列目はその分インサイド寄りの立ち位置を取りつつ、CHの列落ちに連動して倉田か宇佐美が降りるアクションを敢行する。

 G大阪のビルドアップのメカニズムに川崎はついていくことが出来なかった。川崎は前からプレスに出て行きたい素振りを見せていたが、ここが機能不全に。2分過ぎには前線のプレスについていきたい川崎の中盤が、倉田に釣られた結果、ネタラヴィが完全にフリーになってしまう。

 直後には山本がサリーしたアクションによって釣りだされてしまい、中央に浮いた半田がフリーとなる。立ち位置としては三浦が出て行ってほしい気もするが、丸山がヒュメットにベタ付きで動く様子がないことも気になる。

 この試合の川崎がどういう約束事でスタートをしたかはわからないものの、ヒュメットに2CBがベタ付きというアクションがチームとしての決まりならば、サリーした相手に山本はつくのは悪手。前寄りにスライドはすべきではなく、ラインが下がることを受け入れなければならないということとなる。

 この前と後ろの守備のギャップが埋まらなかった川崎は相手のビルドアップに飲み込まれてしまったようだった。構造的に殴られながら自陣に入り込むことを許してしまう。サリーに対するズレだけでなく、伊藤を単体で剥がすことが出来る黒川も崩しのきっかけとなっており、G大阪は文字通りどこからでも入り込んでいくことが出来る状態だった。

 基本的には完璧だったはずのG大阪の保持において少し気になったのはパススピード。やたらとパススピードが速いせいで受け手のトラップが跳ねてしまうシーンがあった。

 もちろん、シビアなスペースを点で狙うのであれば、そういう受け手に取って難易度が高いパスを刺す必要が出てくる。しかし、G大阪のビルドアップは川崎の逆を取れている状態。受け手はスペースに余裕があることが多いので、もう少しゆったりとしたパスでOK。なのに、強いパスを出してしまうことで結果的にトラップが流れてしまい、逆に川崎の中盤の守備を引き寄せてしまうことがあった。

 特にこの傾向が強かったのは半田。パスのタッチに力みがあり、柔軟なポジショニングで得た時間を吐き出してしまった感がある。

 フィーリングがよく、圧倒的に試合を支配して進めながらこの半田のパスが起点で失点してしまうというのがサッカーの妙。伊藤、小林の2人速攻を完結させた川崎が試合を先に動かす。自陣での守備においては黒川が小林に対してついていくのか行かないのかが中途半端に。やや怪しい守備対応となった。この場面はG大阪のストロングポイントであるSBのところから失点を喫したこととなる。

ラインを下げる効果と苦しみ

 試合によっては得点が大きく試合の流れを変えるということもあるのだが、この試合は特にそういうこともなかった。G大阪が狙いを定めた右サイドからの進撃は得点以降も健在。2トップ脇に立つ三浦弦太を起点にサイド攻撃に出ていく形を作っていく。

 川崎は押し下げられることを徐々に許容していくので苦戦は必至。ボールを奪っても中盤は出す先がなくてんやわんや。先制点以降はなかなかトランジッションのターゲットを定めることができずに苦戦する。

 外循環で指す場所探しに戻ってG大阪。川崎はインサイドを閉めながらG大阪に手間をかけさせていく。ラインが下がったのとは引き換えに、川崎は少しずつ守備ブロックのスライドの精度が上がっていくように。

 ラインを下げた川崎にとって辛かったのはお手軽な陣地回復のターゲットがいなかったことだろう。小林はロングボールのターゲットとしては明らかに苦しい。カジュアルにボールを預ける先がなかったのがこの日の前半の川崎だ。

 G大阪は少しずつ敵陣での崩しのポイントを中央にシフトしていく。食いつかせて壊す対象が川崎の前線から、バイタルに変化したように思う。序盤から神出鬼没の宇佐美がサイドに流れながらチャンスメイクにより頻度を高く参加するように。

 川崎はファストブレイクが中心。伊藤と小林の右サイド、マルシーニョの左サイドという手数が少ない形から一気に進んでいく。ただ、小林のポストはファストブレイクにおいてもややスローダウンの傾向が強く、この日の川崎はそこからチャンスを作ることができなかった。個人的にはスローダウンすることよりも、そこから際加速できないクオリティの方が残念である。

 押し込まれながらも最低限一番危険なシュートコースは切れていたりなど、川崎は最後の踏ん張りは聞いていた。しかし、そんな川崎は前半の追加タイムに失点。

 マルシーニョのロストからあっさりとカウンターを許すと、川崎の左サイドの守備は一気に破綻する。もっともこれはロストした時点で数的不利なので、丸山の無抵抗さや佐々木のクリアの方向が定まらなかったことは問いにくいだろう。このシーンにおけるマルシーニョのような繋ぎにおけるアバウトさを排除できなかったのが要因だし、それができていなかったのはマルシーニョだけではないというのが前半の川崎のパフォーマンスだった。

宇佐美のダッシュに対する仮説

 後半、川崎は小林をエリソンに交代。前進においてはアバウトさを排除しないというのであれば、あくまで個人でなんとかできる選手を使うという方針はその枠組みの中では理に適っている感がある。

 というわけで後半も川崎は攻撃においては縦に速くを志向する枠組みの中で戦うように。そうした中で攻撃を単調にしないようにサイドチェンジをキャンセルする山本やドリブルでインサイドに入り込むことができるファン・ウェルメスケルケンの存在は貴重そのものだったと言えるだろう。

 一方のG大阪の後半の変化は前半のマスト事案だったサリーをやめたことになる。CB2人が最終ラインに並ぶのが基本線で、中盤は中盤にとどまる頻度が増えた。川崎相手に前半とは異なる座組でずれるかを探るやり方だろう。

 そうした中で、G大阪は鈴木の右サイド落ちから勝ち越し。やめたと思われたサリーを繰り出したことで、川崎の対応には明らかに迷いが生じた。マルシーニョ、三浦の曖昧な対応をよそに鈴木はウェルトンへの縦パスで進撃する。

 ニクかったのはボックスに入って行った宇佐美のフリーランだ。ここに宇佐美が入り込むことで川崎の佐々木、ファン・ウェルメスケルケンといった右サイドの守備者は総崩れ。ヒュメットが見事なパワーショットを撃ち抜く。

 この失点はまずは前線からの守備の景色をよくできなかったことが敗因だろう。構造としては三浦とマルシーニョが両方大外に引っ張られた結果、丸山が管理できないインサイドの選手(=ウェルトン)が生まれるという構図なので、前半3分のシーンにあった、このブログ2枚目の図解と近い崩され方だと言えるだろう。

 丸山はジェジエウや高井、大南といった身体能力系のCBと異なり、このように自分の間合いから離れてボールを受けた選手に対しては潰すことができず、ただただ下がっていくことしかできない。ウェルトンがボールを受けた後の対応はまさしく昨シーズンの丸山に近い状態だ。

 先制点の場面(これだけ壊されればCBの身体能力は関係ないと思うが)も2失点目の場面も川崎の左サイドを崩してのファストブレイクとなっている。川崎は最近この左サイドの関係性を崩されての失点が増えている。

 ボックスに入り込んでいた宇佐美はあらかじめ前にいたのではなく、スタート位置は河原と同じ高さ。ただ、丸山が晒された時にダッシュのスイッチを入れるタイミングは周りの誰よりも早かった。

 G大阪の攻撃陣全体に共有されていたのかはわからないが、宇佐美のこのダッシュを見ると彼にはウェルトンがボールを受けて丸山と距離を取ることができた段階でクロスを入れることができるという確信があったのではないかなと思う。ここはファクトベースの話ではないので、あくまで自分の想像として聞いて欲しいのだけども。

 終盤、ビハインドとなったこともあり、川崎は押し込む展開が増えていく。山下を投入し、ファストブレイクの核弾頭を装填したG大阪はある程度ラインが下がったところから一気に攻め込む形は織り込み済みだろう。

 押し込む川崎は最後までアバウトさを拭うことができなかった。三浦のアーリーなクロスは大体はターゲットが相手のDFに囲まれており、どんなに良いクロスを上げても合わせるのは難しい状態。小林のロングボールほどではないけども、相手に対する有効打になっていないように思う。この日に関してはインサイドの細かなパスワークとエリソンの強引なターンの方がまだ可能性を感じた。

 ボックス内に侵入することがままならず、相手に囲まれた選手へのクロスやミドルシュートといったガードの上から攻撃に終始した川崎。スピード勝負の山下、左サイドに流れたジェバリによって確実に時間を稼ぐことを許し、勝ち点3を持っていかれてしまうことに。

 神戸に続いて今年も関西シリーズは連敗スタート。上位に水を空けられる痛い敗戦を喫することとなった。

あとがき

 前半、後半と失点の有無に関わらずきっちり自陣からの組み立てでブロック守備を壊されてしまったので、先制したとはいえ、罷り間違ってもこの試合の川崎が勝ちに値するチームではなかったように思える。

 やはり、サイドの守備のチェーンの切れ方は明らかにまずい。丸山がカバーできる範囲から守備の再設計をする必要は感じるし、そうなればCHの重心は後ろになる。当然前プレの圧力も下がるし、カバー範囲が同じく狭い大島の起用も難しくなる。

 けども仕方がない。個人的にはCBの身体能力はチームのスケールを決める大きな要素と思っている。その点で柱となっている高井がいないのだから、当然チームがこなせるスケールは変わってくる。

 このスケールとピッチでの実装が現れたのがG大阪戦のように思える。ローブロックで我慢しつつ、保持でのアバウトさを排除し、限られたポゼッションの機会で押し返すこととロングカウンターを織り交ぜて戦うのか、あるいはスケールを大きくすることができる選手をこの夏の市場で呼び込むのか。いずれにしても設計図の再定義が必要なことを感じさせる敗戦だったように思う。

試合結果

2025.7.20
J1リーグ
第24節
ガンバ大阪 2-1 川崎フロンターレ
パナソニックスタジアム吹田
【得点者】
G大阪:45+3′ 倉田秋, 57′ デニス・ヒュメット
川崎:9′ 小林悠
主審:中村太

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