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「プロセスは忘れない」~2025.8.9 J1 第25節 川崎フロンターレ×アビスパ福岡 レビュー

プレビュー記事

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レビュー

駆け引き期待の局面は一撃決着

 立ち上がりは明確に川崎ペースの試合だったと言えるだろう。前からプレスで方向を限定したい福岡に対して、川崎は左右にボールを動かしながらポゼッション。相手に方向の限定を許さない状態で後方でボールホルダーをオープンにする。

 加えて、前線に浮く選手を作ることに成功。福岡のCHが脇坂に意識が向けばエリソンを挟み込むことはできない。こうした状況で川崎はエリソンにグラウンダーでパスを入れ、エリソンも相手を背負いながらサイドにボールを散らすことができていた。

 1:30のシーンである伊藤の降りるアクションで安藤を釣り、浮いた脇坂へのスルーパスでチャンスとなった決定機も川崎が福岡を手玉に取った場面。奪い切りたい安藤のアクションを回避されてしまった福岡は彼が出ていったスペースを埋めることができておらず、脇坂は右サイドで完全にフリーで抜け出した。

 エリソンでボールを収めた川崎はサイドからマルシーニョで仕掛けにいく。マルシーニョは対面の相手をぶち抜く事はなかったがジリジリと仕掛ける素振りを見せながら相手を押し下げにいくことはできていた。その結果、マイナス方向のパスで空いたバイタルを活用できるように。先制点となった橘田のミドルはこれに当たるし、直後のエリソンのミドルも同じ。序盤の川崎の攻撃はややパターン化しており、そのパターンが福岡に刺さった印象だ。

 非保持においては川崎から前からのプレスにトライするスタート。ワンサイドに相手を限定できたと感じたら深追いを敢行。一気に距離を詰めてボールを奪いに行く。

 この日の福岡はいつもよりもさらにショートパスへのこだわりが強かったように思う。ハイプレスに対して、CHを降ろして繋ぐ意思を明確化。さらにシャドーの名古、紺野がCHの列下げに呼応する降りるアクションで川崎のプレスを牽制する。シャドーが低い位置に立つ分、WBの藤本と岩崎は大外で高い位置。WGのような振る舞いを見せていた。

 特に左サイドは降りる名古に合わせて安藤が高い位置を取り直す。前に出ていけば背後を取られるリスクを踏まえると川崎からすれば「降りたからとりあえず!」という感覚では名古にプレスに行きにくい状況だった。

 ただ、浮いた名古は対角のパスから紺野のファウル奪取を誘うなど放っておいていいのかは難しいところ。川崎は脇坂の守備位置を少し下げて、中盤のケアをメインタスクに調節。山本とフラットな高さで守備をする場面も時折見られ、瞬間的には3センターのように守る形で中盤の守備網を厚くする。そうした中で再び前からプレスを限定することができるか?ということにトライしていくという序盤の福岡のポゼッションに対する駆け引きとなった。

 G大阪戦のレビューでは「MFが前に出ていった時のDFの連動できなさ」が失点に繋がったと指摘した。そういう意味では中盤が前がかりに仕掛けた際に後方が連動できるか?という点は中断期間の修正点としては注目したい部分である。

 このポイントが問われた一番初めのシーンは10分過ぎ。ご存知の通り、ウレモヴィッチの退場シーンである。「前に連動する」というテーマに対するトライといえばそうなのだろうが、間合いを完全に誤ったウレモヴィッチが危険なタックルで退場。駆け引きが続くかと思われた福岡の保持に対する川崎のプレスの局面は一発勝負で福岡に軍配が上がった。

自陣での連携の危うさが失点につながる両チーム

 10人になったことで前から誘導して相手を捕まえるという川崎の方向性は頓挫することとなった。伊藤を下げてジェジエウを投入し、脇坂が右のSHに入った4-4-1にシフトした川崎は福岡のCBのプレスを諦めることに。アンカー位置に入った重見をエリソンが監視するところがスタートポジションとなる。

 プレビューでも紹介した通り、福岡は基本的に後方3枚でのビルドアップが中心。3バックがそのままだったり、GKを絡めたり、あるいはCHがサリーしたりなどいろんなパターンがある。しかし、この日は川崎が10人になったことで一番後ろを奈良と上島で固定し、安藤、重見、松岡はその1列前で川崎の中盤と駆け引きを行なっていたように見える。

 川崎の優先事項は後方のスペースを埋めるアクション。特にCHがハーフスペースからの裏抜けのケアをすることに軸足を置いたように見えた。19分手前の碓井の反転に置いて行かれた橘田はやや後方を埋めるスペースを利用された感があった。

 当然押し込む機会が増える福岡はセットプレーから同点。名古のネガトラからファン・ウェルメスケルケンの背後をとった藤本がファウルを奪うと、このセットプレーをエリソンがオウンゴール。ニアに入ってきたボールを弾ききれなかった。山口は問題なく弾くことができたコースのように見えたので、連携面で悔いが残る場面となった。

 川崎は重心を下げながらエリソン、マルシーニョを生かした速攻からチャンスを探っていくことに。リードから同点という流れにおいてはまずはリスクを抑えながら少ない人数で得点を狙いにいくスタンスは理解はできる。

 加えて、福岡のハイラインにおける連携も怪しさがあった。エリソンの勝ち越しゴールのシーンはまさにそれを感じた場面。奈良と上島の受け渡しとラインコントロールのチグハグさでエリソンに抜け出しを許すと、中途半端に飛び出した小畑がエリソンのプロテクトするボールを触ることができなかった。

 山本の抜け出すパスはストロークが短くなるような回転がかかっていた分、小畑は飛び出しても間に合わない確率が高いようには見えたのは確か。その一方で山本のパスのルートとしてGKが最も警戒したい1つであるエリソンの裏抜けにあまりにも準備ができていないように見えたのは気になるところ。

 小畑は直前のシーンにおいても飛び出してから相手の守備に矢印が向いているポジションにボールをつけていたし、この後もそうしたプレーは散見されていた。あまり試合の流れの中で適切なプレーを選択できていないように思う。小畑のプレー選択の不安定さと福岡のCBの連携の危うさは川崎が少人数でもゴールを狙えるきっかけになっていた。

10人になった時の整理の優先度

 しかし、福岡もセットプレーから再び同点に。ニアに入り込み、アジリティとパワーで丸山を置き去りにした上島がニアに当てるとエリソンにまたしてもボールがあたり失点。直接ボールが向かってきた1失点目と異なり、ニアでコースが変わっている2失点目はエリソンは不可抗力感が強い。どちらかといえばニアに入り込む上島にあっさり触られてしまったことを丸山とともに反省しなければいけない。

 福岡のセットプレーは予習した試合ではファーを狙うことのほうが多かったように思うが、得点に繋がらなかった8分や44分のシーンも含めて、この日はニア周辺を速いボールで狙うことをかなり積極的にやっていて傾向が変わった印象。この辺りはスカウティングで導き出した川崎の弱点だったのかもしれない。

 スコアの推移は目まぐるしい展開となったが、試合の大まかな構図はスコアに左右されることはあまりなかった。福岡は自由に配球できるCBから左右にボールを散らし、川崎の中盤付近でフリーになる名古や松岡を軸にチャンスを狙っていく。川崎はエリソンとマルシーニョで少ない人数から機動力と福岡のバックラインの守備の連携の怪しさをついていく。

 試合の構図が変わる最後のアクションとなったのは前半終了間際のファン・ウェルメスケルケンの退場だろう。SPAに該当する形と考えられるので、ファウルである以上は退場は妥当である。

 少し気になるのはセットプレーの後方残りに警告持ちであるファン・ウェルメスケルケンを残していたこと。セットプレーが相手に渡った場合、こういうスピードに乗った対応を強いられる場面になることは非常に想定がしやすい。そういう状況で後方に1枚を残っている役割をすでに警告を受けている選手に託すとこういう事例は起きやすい。

 もっとも、10人になったという緊急事態においてセットプレーの攻撃時に誰が後方に残るか?というのは整理すべきことの中では優先度が高くないであろうというのは理解ができる。しかし、ファン・ウェルメスケルケンが警告を受けやすいシーンに晒されてしまったのは確かで、この場面は川崎のセットプレーの配置がそうしたシーンを進んで作ってしまった感もある。細かいところではあるが、こうしたところまで気が回ればより強いチームになるのだろう。

 もちろん、選手は置かれた場所や晒された状況で力を発揮するのが必要な仕事。そういう意味でファン・ウェルメスケルケンのプレーが1枚警告を受けた選手として適切ではなかったのは間違いない。

 後半はほとんど書くことはない。9人相手の試合というのは確かにレアケースではあるが、10人相手に攻めることと違い、割り切ったシチュエーションが数的不利側に優位に働く展開はまず見たことがない。バックラインを経由して左右に動かすだけで守備のスライドは間に合わなくなるし、サイドで枚数をかける場面でも単なるポジションチェンジでも破壊力は十分に出てきてしまう。普通であれば意味のないことでも、ダメージを受けてしまうのが11人×9人だ。

 それならば保持で時間をかけたいところだろうが、11人×9人という構図であれば11人側はGKまでプレスをかけても後方で人が余る。よほど11人側が愚かではない限り、9人の状態で保持で時間を作るというのは絵に描いた餅となる。せいぜいできるのは相手のプレスをモロに食いながら、一発で抜け出して決め切れるコースを探るくらいだろう。

 4-3-1のような形で守備を組んだ川崎だが、マルシーニョと脇坂はCHとSHの守備を両方しなければいけない状態だったのでその時点で破綻している。20分ほどはタイスコアで粘った川崎だったが、福岡が数多くのシュートを外していたことを踏まえると、2-2というスコアが展開を素直に反映したものとは思えない。

 2-2から1点を取られたことで堰を切ったように失点をするのもよく見る話。福岡はきっちりと数的優位を生かして5-2で川崎を下すこととなった。

あとがき

 9人にしてはよくやったかもしれないが、勝ち点においてはそういうことは加味されない。こういう前半を過ごしてしまった時点で、ハーフタイムでほとんど勝ち点を得るチャンスはなくなってしまったというのは仕方のないところだろう。後半の失点、特に4失点目と5失点目はとっとと忘れた方がいい。同じような場面はまず来ない。でも、そうなってしまったプロセスは忘れてはいけない。

 11人の時の話をすれば前線から中盤までのプレスのつながりを感じることはできたが、そこから後ろが連動できるか?という課題は完全に据え置き。一発退場で試行回数1回で決着がついてしまったので、この試合だけでいえば失格になるだろうが、それが今後もできない手形になったかは微妙なところである。退場者を出した自分たちが悪いのだが、できれば11人でもう少し見たかった。降りる名古を起点とする駆け引きがどのように推移するのかには興味があった。ウレモヴィッチはああいう前に潰すプレーを期待されても補強かと思うので、今後の修正が期待される。

 ロマニッチはなんとかしようという姿勢は見えたが、本人も試合後のコメントで認めている通り、この非常事態における状況下で何かの評価をするのは尚早のように思える。また11人でのプレーを楽しみにしたい。

試合結果

2025.8.9
J1リーグ
第25節
川崎フロンターレ 2-5 アビスパ福岡
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
【得点者】
川崎:4′ 橘田健人, 28′ エリソン
福岡:24′ 73′(PK) 名古新太郎, 35′ エリソン(OG), 85′ 碓井聖生, 88′ 紺野和也
主審:清水勇人

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