MENU
カテゴリー

「星になれたらいいな」~2025.7.5 J1 第23節 川崎フロンターレ×鹿島アントラーズ レビュー

プレビュー記事

目次

レビュー

ハイプレス叩き成功とその先

 首位を追い落とすための上位対決ではあるが、前節はともに敗戦。3ポイントを手にできない場合、鹿島は首位、川崎は優勝争い参戦という自分達が置かれている立場からは一歩引くことになってしまうという苦境を迎えての一戦ということになる。

 序盤から鹿島が目立ったのはハイプレスに対する意識の高さである。鈴木、セアラは川崎のバックラインに繰り返しプレスをかけていたし、松村や溝口といった走力のある選手のSH起用も走ることを考えてのものと推察される。このタイミングで復活したボランチの知念も同様でベンチに座っている柴崎や三竿よりは広い範囲に動ける選手だ。

 だが、このハイプレスはあまり効果的だったとは言えない。ここ数試合はあまりビルドアップの局面でうまく組み上げられなかった川崎だったが、この試合ではその流れを吹き飛ばす仕組みを組み上げていた。

 流れとしてはまずはCBとGKのショートパスで鹿島の前からのプレスにズレを作ることを狙う。CBは幅をとりながら受けて誰が食いつくかを観察する。SHが食い付けば簡単で背後のSBからの前進が見えてくる。あまり頻度は多くなかったが。

 あるいはCBの背後を取るCHが浮けばその形もあり。3分のシーンのように高井のドリブルと組み合わせて河原が浮くケース。鹿島のプレスはレオ・セアラと船橋のところで接続が切れてしまっている。

 CHルート、SBルートのどちらも封鎖されている場合は直接前線を狙う。家長、山田、伊藤が降りてきて縦パスをレシーブするか、背後を走る山田を狙うかの二択。鹿島のプレスはCHをCHが捕まえにいく意識が高かったため、降りる前線の選手たちが鹿島のDFとMFで挟まれるケースは少なかった。

 とはいえ足の長いボールが続いてしまうと奪われるリスクも高まるので、バックラインは動きで工夫を作る。山本や河原は最終ラインに落ち切ることで相手の前線の守備の基準を乱す。鹿島のプレスは人を捕まえにいく意識は強かったが、こういう変化が発生した時に誰がどこについていくか、あるいはついていかないかを整理できていなかったので、山本や河原の最終ライン落ちはこの試合では非常に効果が高かった。

 いつも川崎の試合のレビューで書いているが、全速力で走るプレッシングは諸刃の剣。特に相手のホルダーにパスをつける間合いを生み出してしまうような全速力のプレスは相手に簡単に前進を許すリスクがある。全速力で走った選手は方向転換をするのが容易ではない。そうした状況が許されるのは「全速力で走ることにより相手のホルダーがボールをコントロールできる間合いができなくなる時」だけである。要はそこで取り切るプレー。

 このレビューの1つ目の図で取り上げた32分の溝口は全速力で走ったけど間に合っていないプレスの代表例。高井にリリースする隙を与えてしまっているので、こうなると相手のミスを待つしかない。このプレーの溝口は鈴木のプレスの指示を受けて高井を捕まえにいっている。これだと明らかに遅い。ちなみにこの一連の流れの手前のシーンでは指示を出した鈴木が高井を捕まえにいっているので、この辺りは即興で決めているところなのかなと思う。

 余談だが、切り抜き動画で話題になった東京V戦の翁長の何度も追う形も「ホルダーがボールをコントロールできる間合いにもかかわらず全力で追い回す」プレスに該当する。あの日の余裕がない川崎であれば、わざわざ追い回してくる翁長は面倒くさかっただろうが、この日の川崎であればこういうプレスは「してもらえばしてもらえるだけ助かる」のである。

 話を戻そう。鹿島のプレスは川崎のCHの列落ちにより、最終ラインへ誰がプレスをかけるかの迷いがあり、その迷いが川崎のホルダーが時間を獲得することにつながっていた。その上で鹿島は相手のバックラインを浮かせることは(たとえ多少プレスが遅れてでも)許さないという意識があった。こういうチームに対しては本当に山本や河原が最終ラインに落ちる動きがよく刺さる。

 前線も含めて川崎は前進のルートを常に複数用意していたこと、そしてCHの列落ちで鹿島のプレスに混乱をきたしていた事。鹿島の高いプレスの意識をへし折ったのはこの2つの要素が大きい。

 ただし、川崎はプレスを剥がした後の敵陣でのスピードアップがうまくいかなかった。脇坂が局面を前に進めるパスをずらしてしまったり、相手を剥がした後の伊藤のラストパスやクロスが刺さらなかったり。どちらの選手も唯一無二の重要な役割を果たしているという点で、川崎にとって希少な選手であることは間違い無いのだが、その分彼らの仕上げは川崎のチームの攻撃としての怖さにつながってくる。

 特に脇坂のところはプレー選択が気になる。前節のようにイタズラに後ろを向いたスローダウンはなかったが、少し気になったのは43分のシュートの選択。浮かさないようにと大事にインサイドでミートしていたが、相手が至近距離でのストップに定評がある早川であれば、たとえふかす可能性があったとしても強いシュートをミートして欲しかった。

 こうしたところの敵陣でのプレーの精度が川崎の前半の反省点と言えるだろう。脇坂のシーンはシュートまでいけているだけまだ良くて、その手前で攻撃がストップしてしまうこともあった。構造的には叩けている。叩けた状態をチャンスメイクに繋げられない。この接続がうまくいかないと構造的に叩けているメリットが薄れてしまうので、そういう意味で前半の川崎は思ったように試合を進められなかったとも言える。

小池のワンプレーから推察される鹿島の狙い

 鹿島のビルドアップはSBがアシンメトリー。小池が自陣側に下がって3バックを形成。逆サイドの小川は高い位置を取ってビルドアップには関与しないという姿勢だった。プレビューでも触れた通り、小池がRSBに入る時はこの左右非対称性はデフォルトとなる。

 鹿島の保持は3バックに変形するので4-4-2で処理したい川崎に対してはズレができてしまう。ただ、鹿島はこうした後方のズレを使うというよりもフリーマンを作って前線への長いボール勝負に持ち込みたいという印象を受けた。

 その考え方の根拠として挙げたいのは6分30秒の小池。鈴木とのワンツーでインサイドで抜けた小池の選択肢は右サイドの裏の松村であった。

 個人的にはカットインした小池の選択は知念か舩橋を使う形の方が好み。山本まではサイドに引っ張り出せているし、川崎の逆サイドは戻りが遅れやすい家長。ここを踏まえても横断し切る形の方が川崎を確実に退却されられる。

 逆に言えば、小池のような相手の構造を逆手に取る能力が高い選手が敢えて裏を選択したことによって鹿島の狙い目は明確に浮き彫りになっている。裏を狙うのであれば川崎の左サイドの背後。無論、得点に繋がった松村の裏抜けがそれに該当する。

 レオ・セアラも同様のスタンスだった。高井のサイドに顔を出しておきながら、丸山の背後を取ることでギャップを狙っていく。降りる鈴木に丸山がついていく素振りを見せれば動きの効果はさらに高まる。

 長谷部監督の試合後コメントを読む限り、おそらくは丸山のHTでの交代はアクシデントというよりはタクティカルな判断。この執拗な三浦-丸山セクションの狙いを回避するためのものと言えるだろう。

長谷部監督「丸山(祐市)も悪くなかったと思います。十分いいプレーをしていましたが、我々の左サイドを少し狙っているのかなという感じもしたので、そこの対応を(ジェジエウに期待しました)。」
https://www.frontale.co.jp/goto_game/2025/j_league1/23.html

 失点シーンについては三浦はおそらく丸山がカバーしてくれると思ってスピードを上げるタイミングが遅れたのが致命傷になったのだろう。怠慢にも思えるかもしれないが、合理的と思える事由はある。三浦ではなく丸山がボールを拾えれば、拾った後にすぐに三浦にボールをつけることで間違いなく前進できるし、奪った後の景色も良い。コメントだけでは判断がつかないが、三浦は奪った後を見据えていたのではないかと推察する。

三浦「失点シーンは対面の選手がけっこう遠くからスピードを上げてきたので、少し余裕をもってしまった。」
https://www.frontale.co.jp/goto_game/2025/j_league1/23.html

 もちろん、こうしたプレーは松村にボールを拾われている時点で絵に描いた餅である。そういう意味では丸山に任せた三浦の連携面での判断ミスと言えるだろう。

 だが、丸山にも気になるところはある。テヒョンから長いボールが出た時点で丸山はラインを下げている。ならば、松村が突破されたところのカバーか松村の折り返しのレオ・セアラのケアには間に合ってほしい。松村かセアラのケアのどちらかには間に合ってくれないと1人だけラインを下げている意味がない。ラインを上げるトライをしてカバーができないこととは意味合いが全然異なってくる。この辺りの読みの決まらなさはここ数試合の丸山に感じていたところなので、そこも長谷部監督がHTでの交代を決断した部分なのかもしれない。

 裏へのパスへの対応は苦しかったが、降りて起点になろうとする鈴木優磨の処理に関してはとても川崎はシャープ。CBとCHの受け渡しが見事で、時には複数人で降りてくる鈴木を封殺していた。

 この辺りはもう少し鹿島のCHが怖さを出していれば河原や山本が鈴木に注意を向けにくくなったのかなと思う。国立決戦においては浮いた舩橋のゲームメイクが流れを引き戻す大きな要因になっていた。こういう要素を作れれば、河原と山本の警戒はもっと分散できた可能性はある。たとえば、先に挙げた小池が裏を狙ったシーンで横断ができればとか。

 川崎は前半の終盤は押し込みながらのサイドアタックで攻撃を仕掛けていく。この時間帯で同点に追いつくことができるかは試合の展開を分ける大きなポイントだと思っていたが、CKからファーに余った伊藤が見事なフィニッシュでその役割を遂行。試合を振り出しに戻した状況でハーフタイムを迎える。

ハイプレスの連動性が生み出した優位

 川崎はハーフタイムに選手交代を敢行。伊藤→マルシーニョの負傷による半ば強制的な入れ替えと、先に挙げた丸山→ジェジエウの裏抜け対応というタクティカルな交代の2枚替えを実施した。

 鹿島の方向性は前半と変化なし。構造的なギャップを活かしての前進というよりは前線のデュエルで勝負する頻度を確保し、突破できた時に大きなダメージを与えるという指針の元でプレーしていた。前半よりも増えたのはレオ・セアラの降りるアクションで、スピードを生かした背後を狙う松村のランをより強調したい方向性はあったのかもしれない。

 川崎は左サイドの縦方向の抜け出しを狙えるように。一見縦方向に追い込まれたように見えても、マルシーニョと三浦のスピードを生かした攻撃で奥行きを作り、脱出することができていた。もちろん、前半のように対角のサイドチェンジを使いながら、鹿島の前プレの狙いを外すアクションも意識。マルシーニョはあくまで手札の1つで、そこに前進ルートを過剰に依存しないのはこの試合の川崎の良さでもあった。

 攻め筋の大枠は前半とそれぞれ同じ、だけどもマイナーチェンジを施した両軍。先に決め手を掴みかけたのは鹿島。松村の裏抜けにたまらずファウルをしたジェジエウにレッドカードが提示された時は見事に刺さったと思われたが、これは紙一重でのオフサイドで取り消し。拙い対応をしたジェジエウだけでなく、監督の指示に反してセットプレーの流れで前残りした高井、そこにボールを蹴った山口などの守備陣の連携の怪しさがなんとか咎められずに済んだシーンだった。

 ピンチを凌いだ川崎はハイプレスを起点に勝ち越しゴールを決めた。このハイプレスの連動性は見事。逆サイドから飛び出してきたマルシーニョも含めて、相手のコントロールが難しい間合いで詰める準備を守備側が先んじてできており、この日の鹿島に対して川崎が明確にプレスの練度の高さを見せつけたシーンでもある。ボールを奪った後の家長の抜け出し→マルシーニョのゴールまで含めた一連のプレーは流れるような美しいものだった。

 勝ち越しゴールでアシストを記録した家長はここからは陣地回復役として奮闘。同サイドに流れる山田とともに陣地回復をしつつ、時にはファウルをもぎ取ることで敵陣でのプレータイムをジリジリと増やしていく。

 鹿島は選手交代でうまく流れを引き寄せられず。前線は裏狙いにフォーカスしすぎた影響で川崎の守備はパスカットの見通しが立てやすくなっていた。ビハインドになると単調な裏抜けの一本調子になってしまうというのは町田戦、岡山戦に共通する鹿島の課題でもある。川崎は時折ジェジエウが事故りそうになってはいたが、基本的には落ち着いた対応で跳ね返すことができていた。

 ならば鹿島はショートパスで繋ぎたかったところだが、高い位置を取りたい濃野のRSB投入のタイミングでビルドアップに関与するようになった小川のところで詰まるなど、こちらもなかなか立ち行かなかった。一本調子なロングボールと精度の足りないショートパスの連打は川崎の守備には刺さらず。最後までラインを上げながらの対応を止めなかった川崎は思い通りに時計の針を進めて逆転勝利を手にした。

あとがき

 ひとまずは優勝の可能性を残して踏みとどまったというのが正直なところ。ここで敗れてしまうと一気に景色が悪くなっただけに総力戦で勝利をもぎ取った結果は大きい。丸山、脇坂など出ずっぱりな選手は疲労を感じる試合が続いているので、ここの中断期間で一息を入れてもう一度上向きにできるかにトライしたいところだ。

 その一方でやはり高井が抜けてしまうと、攻守に抜本的な見直しは迫られることになるだろう。後半戦はもう一度チームを作り直さなければいけない。高さを生かした跳ね返しだけでなく、広い守備範囲やドリブルでの細かいズレ作りなども効いており、影響の大きさは計り知れない。

 それでも、残された面々は高井との最後の勝利をタイトルに繋ぐ義務がある。この勝ち点3が次にユニフォームに新たにあしらわれる星になれたらいいなという願いを抱かずにはいられない。そんな夜だった。

試合結果

2025.7.5
J1リーグ
第23節
川崎フロンターレ 2-1 鹿島アントラーズ
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
【得点者】
川崎:45;4′ 伊藤達哉, 58′ マルシーニョ
鹿島:25′ レオ・セアラ
主審:荒木友輔

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次