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レビュー
左サイド経由の攻撃が先制点に結びつく
川崎にとってACLが絡んだ延期分の消化はこれがラスト。この試合が終わればここからはアジアに参加していないクラブの日程に完全に戻ることとなる。対戦相手は今季唯一未対戦となっている新潟。裏を返せば川崎は唯一樹森監督と対峙しなかったJ1チームということとなる。
入江新監督が選んだメンバーはミッドウィーク開催による入れ替えなのか、あるいは序列の変化なのかは1試合では判断がつかないところ。レギュラーとして出ていた長谷川、橋本、奥村がベンチに入り、小野や高木といった面々がスターターに組み込まれたのはこの日の新潟のメンバーの特徴だろう。川崎はジェジエウの復帰と神田のリーグ戦初先発が大きなトピックス。共に移籍の報道があった高井と稲村は揃って先発で起用されることとなった。
序盤、まずは川崎の前進が目立つスタート。プレビューでも触れた通り、新潟は前からのプレスへの意欲はあるが、ライン間は間延び。川崎はやや危険なシーンはありながらも横に揺さぶりながら前進することはできていた。あまりこういったことが得意ではないイメージのジェジエウも問題なくパス回しに関与していた。
主なルートとしては右サイドから佐々木や伊藤のドリブルを活用した横断、もしくは左サイドを縦に前進する形。縦パスを一番入れやすそうだったのは新井周辺の左サイドのハーフスペース当たりのゾーンだった。
いずれのルートにしてもミドルゾーンから敵陣PA付近にいたるところにおいては左サイドを経由するのがスタンダード。右の伊藤は家長と同じかそれ以上にインサイドに入り込む傾向が強く、幅を取るというタスクはあまり与えられていないようだった。
ボックス内に入り込むというところまでは行ききれていない川崎だったが、セットプレーから早々に先制点をゲット。脇坂の直接FKが決まり、先にスコアを動かした。
追いかける形になった新潟はバックラインのパス交換の手数をかけたスタート。川崎はスイッチを入れたプレスから新潟のバックラインに襲い掛かる。16分過ぎの新潟の右サイド側に追い込む形は新潟がここ数試合の失点パターンとして苦しんだ形。最後は山本が仕留めたこのプレスのシーンはまさに新潟の対戦相手ならば狙いたいプレスのフォーマットだ。
同じく山本がインターセプトに成功した8分の場面は新潟のホルダーがよりオープンだったもののコントロールに手間取ってしまった場面。こういうところは往年の新潟らしくなさを感じてしまうところでもある。川崎はプレスからもチャンスを作ることが出来ていた。
新潟の左サイドに手を焼く非保持
プレスのスイッチを入れた時の川崎は問題なかったが、その一方で構えた時の川崎の守備はやや混乱があった。特に戸惑っていたのは新潟の左サイドへの対応。新潟の起点となる稲村が大きく開いたり、あるいはサリーする星がこちらのサイドでボールを受けたりなど、2トップの外で起点を作る。
本来であれば下の図のように川崎の2トップが同サイドに圧縮する形で抑え込むのが理想である。

ただし星も稲村もキャリーができるので、距離感の詰め方が中途半端になってしまうとドリブルではがされてしまう。

となると、伊藤が前に出て行く必要があるかもしれない!ということになる。そうなると背後の堀米のケアが甘くなるので、稲村や星から伊藤の背後で受ける堀米にパスが出る。

稲村は放っておくとゴメスへの対角へのパスが出るので明確に捨てるのも難しい。川崎は対応に苦心した結果、堀米から運ばれるケースが多かった。
ただ、新潟がこの堀米からの攻撃のルートを確立できていたかは微妙なところ。堀米の選択はアーリー目のクロスが多かったのだが、この日の川崎のCBはジェジエウと高井。クロス対応の強さと可動範囲の広さにおいては川崎でおそらくもっとも強力な組み合わせである。いくら堀米がフリーとはいえロブ性のクロスではここを仕留めるのは難しい。前半でもっとも惜しかった小野のシュートは川崎のCBの影響が及ぶ外のエリアだったから放たれたものだったことは個人的にはとても示唆に富んだものなのかなと思う。
個人的には堀米がフリーで敵陣に入ったところからPAに入れる前にもう一手二手相手を動かす手段を挟んだ方が新潟っぽい。まだ数日なので仕方ないかもしれないが、ここは樹森監督時代からはあまり変化が見られなかった部分のように思える。クロス対応をCBに任せてOK(というか新潟のクロスの仕掛けが速いので川崎の中盤がバックラインへのカバーをしようと思っても物理的に間に合わないことが多かった)なので、跳ね返しに対する中盤の押し上げを川崎は問題なくやれていた。
新潟のミドルはやたらと跳ね返って枠内に飛んでいたようにも見えたが、この日はそこを山口が反応速度でカバー。積極的なシュート意識への見返りを与えない。
稲村からショートパスを差し込んだところから始まるコンビネーションも時折見られたが、ここも川崎の中盤はだいぶクリアにボールの雲行きを見えておりあまり困らされることがなかった。右サイドのゴメスも対面の三浦がうまく抑え込んでいた。
総じて、新潟の攻撃は稲村をきっかけに川崎を困らせることはできていた一方で、きっかけをチャンスにつなげるというところで不具合をきたしていたように思う。シュート意識の高さが何かを引き起こす可能性はあったとは思うが、きっかけを元手に構造的に相手を壊していくような去年のルヴァンカップで対戦した時の新潟の姿はこの日の等々力では見られなかった。
ただし、川崎も盤石ではなかった。CBで跳ね返せるという前提があるならば、非保持の面では多少運ばれようが問題ない。ただ、陣地回復のメカニズムがセットになければ、敵陣に押し返す手段が乏しくなる。全くできていないわけではなかったが、その点は個人的にはもっとできてほしかった。
相手に押し込まれたところからのカウンターはマルシーニョのスピードアップや脇坂と神田のコンビネーションなどいくつかあったが、その部分は不発。一気にシュートまで持っていけなくとも、もう一回ポゼッションで相手を崩すトライが出来れば違ったので、そこまで持って行く頻度の少なさはこの日の前のユニットの物足りない部分なのかなと思う。
狙い目となっていた左のハーフスペースに差し込んだパスから得たセットプレーで高さを生かした追加点を得たのは悪くはないが、狙い目をつくためにパスワークを行う機会自体はもう少し増やしたかった。陣地回復のメカニズムの機能不全がその部分の足を引っ張っていたかな?というのがこの日の前半の感想だ。
対角ゴメスと左サイドの修正
2点リードで迎えた後半。新潟は変わらずボール保持から川崎を揺さぶっていくスタート。川崎はリードでも前からのプレスの意識が高い入り。雨のピッチを計算に入れていなかったのか、やや球足の遅いパスワークとなった田代周辺からボールを奪いに行く。
後半にまず見えた変化としては新潟の右サイドに対する川崎の守備の整理だろう。伊藤は堀米の監視にフォーカスし、前に出て行く形は限定的に。構える守備の方向性を定めたことで伊藤の背後からフリーで持ち上がる堀米はあまり見られなくなった。
ということで後半に負担が増えたのは対角のゴメス。左の縦のルートのズレがなくなった稲村は対角パスを飛ばすことで右サイド勝負を増やす。右のハーフスペースで受けた高木が大外のゴメスに叩くなど、ショートパスと大きなサイドチェンジのどちらもゴメスにボールが回る機会が増えた。
ゴメスの大外のPAの高さからのクロスは軌道自体には可能性を感じるものであったが、狙うエリアが川崎のCB周辺となっており、新潟がアドバンテージを取れるエリアではなかったのは苦しいところ。難しいクロスの軌道でも簡単に跳ね返すジェジエウと高井の頼もしさを上回ることが出来なかった。
川崎は押しこまれる機会は多かったが、マルシーニョと伊藤の2人に渡してしまえば陣地回復は可能。この点は前半よりも改善した部分。ただ、ミドルゾーンで素晴らしい剥がしを見せながらも仕上げの甘さが出てしまったため、田代を脅かせるケースは少なかった。
選手交代の効果がより出ていたのは新潟の方だろう。奥村、長谷川、秋山の3枚替えでリズムを変えにいく。この交代は主に堀米の裏取りがなくなった左サイドのテコ入れとして効果があった。
オーバーラップ役が多かった堀米も含めて左サイドは低い位置でビルドアップに参加する選手が増加。高木が入っていた時は右に流れることが多かったトップ下も長谷川の投入と共にプレーエリアが左にシフト。より短いレンジでリズムを作れる秋山を軸に小気味いいパスワークで前進をしていく。左の後方でフリーマンを作るためのパスワークを行い、差し込んで加速していくイメージだ。
アタッキングサードはやや枚数が少なくなるが、その点では左サイドの奥村の奮闘が光る。裏や幅を取りながらボールを引き出し、味方の攻め上がりの時間を作ることで圧力を出していく。
71分に新潟の左サイドから放たれたパンチのあるミドルはここ最近目立つ川崎右サイドの切れ目から放たれたもの。山口に救われた部分だが、押し下げられた時にプレーエリアが下がりがちな河原の手前を使われるパターンは川崎としては早めに何とかしておきたい。
小林の投入は前からのプレスの修正の意味合いもあったかと思うが、背中を通されるパスで秋山を捕まえられないなど効果は限定的。構える形からの制限は後半も整わなかった。
その代わり、スイッチを入れたところからのプレス→カウンターの流れは後半も効かせることに成功。ただ、奪った後の大関や伊藤のパスが決まらず、川崎はチャンスメイクに苦戦する。
共にチャンスのきっかけを掴めそうだった試合で次にスコアを動かしたのは川崎。トランジッションから山本起点の大きな展開を伊藤→大関のルートで追加点。奪った後のタッチが乱れていた2人がきっちりと仕上げて勝敗を決定づけるゴールを引き寄せた。
新潟は川崎のラインの乱れ(佐々木の押し上げが遅れた)を逃さなかった奥村の裏抜けから一矢報いるが、反撃はそこまで。新監督初陣で気合の入った新潟を川崎が仕留め、ホームのリーグ戦では久しぶりの勝利を手にした。
あとがき
成果は得たけども課題が先行するというのがこの試合の総括だと思う。この試合では十分だったけども、ここから先に結果を出せるかはまた別の話でそれは最後の失点が仮になかったとしても同じなのかなという印象だ。
押し込まれる時間が続くこと自体はこの日のように跳ね返しのプランがはっきりしていれば問題はない。ただし、陣地回復がセットにならないと相手は怖くない。引いて受ける戦い方が成立するための要件はボックス内の跳ね返しの強度と陣地回復の手段の確立の2つ。この日の川崎は後者がないがしろになっていた。山田や家長という無理が効くタイプの面々を取り除いたのだから、もう少し丁寧に前進していく必要があった。
デビュー戦でゴールを決めた神田はまたこれからなのかなという印象。守備においては「中盤をとにかく消せ」というACLとはまた範囲が広がったミッションに少し手を焼いていたように思うし、1トップでの陣地回復役としてはまだ現段階ではという感じ。
この試合の前半のバックラインからのロングボールの少なさは今年の川崎でも指折り。もちろん、この試合ではつなげていたので問題はないが、よりプレスが強くなるとロングボールを有効活用しなければいけない試合も当然出てくる。そうした時に1枚で前を任せられる頼もしさはまだここから身に着けていくような部分になるのではないか。
試合結果
2025.6.25
J1リーグ
第15節
川崎フロンターレ 3-1 アルビレックス新潟
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
【得点者】
川崎:12′ 脇坂泰斗, 35‘ 神田奏真, 90+1‘ 大関友翔
新潟:90+5’ 奥村仁
主審:川俣秀