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「我々も感謝したい」~2025.8.31 J1 第28節 川崎フロンターレ×FC町田ゼルビア レビュー

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レビュー

前進の要に対する下準備

 控えのGKこそ1人となったが、依然として欠場者は山盛りの川崎。試合後に半月板の手術に踏み切ったことがリリースされた丸山を筆頭に、ロマニッチ、小林、家長、大関、田邉、大島、車屋と8人のフィールドプレイヤーが欠場する形となった。

 町田もこの試合は5連戦の5試合目。出場停止の岡村に加えて、菊池と谷が欠場となった最終ラインをはじめとしてコンディションがどのようになっているかが気がかりな試合となる。

 マルシーニョを控えに置く形で橘田のSHを継続した川崎。こうなってくると、前進の負荷は完全にエリソンの両肩にのしかかることとなる。町田は高い位置からプレスに出ていく意識はあったため、前線から川崎のバックラインを捕まえにいく。下田、前、林といった面々は前線に追従し圧力を強化。川崎は少しでもまずいと思ったら蹴るというのが常態化していた。

 しかしながら、このエリソンへのロングボール以外はなかなか頼るものがないのがこの試合における川崎の辛いところ。そこで踏ん張っていたのはCB陣。佐々木とウレモヴィッチは少しでも手前に引きつけるようなボールの動かし方をすることでアンカー位置に立つ河原の解放や、エリソンへのロングボールの下準備を行っていた。

 CBが相手のプレスを引きつける意味はエリソンがMF-DF陣と挟まれないためのスペースを作ることにある。

 他にも相馬を剥がすドリブルができるファン・ウェルメスケルケンも似たような貢献を見せることが出来て威圧。手前で時間を作り、中盤の守備の意識を前に割かせることで、ロングボールを受けるためのコントロールをするということである。舞台を整えてもらったエリソンは町田のCB陣に見事に対抗。ボールをきっちり収めながら左右のサイドの攻め上がりを促していく。

 町田のCB陣は完全にこのエリアで後手を踏んでいた感がある。エリソンは前後にも駆け引きをするのだが、降りるアクションにはついていくのが遅れ、裏に抜けるアクションにはオフサイドを取れずとやりたい放題を許してしまった感がある。冒頭の話で言えば入れ替えを余儀なくされた町田のDF陣は大丈夫ではなく、かなりエリソンに手を焼くこととなった。まずはエリソンの個人の力を活かすための土壌を作る川崎の立ち上がりとなった。

90分を45分で再現

 町田の攻め筋は概ね想定された通り。望月へのロングボール、左サイドの相馬を軸とした攻め筋、そして中央に差し込む縦パスの大きく分けて3つのルートを後方の選手たちで配分していく形である。川崎の守備は前線がまずは中盤の封鎖を優先。簡単に前にはいかず、町田のCB陣にある程度ボールを持たれることを許容する形となった。

 もっとも手軽な手段は望月へのロングボール。しかしながら、この形はあまり活用されなかったように思える。理由はよくわからない。蹴ることができる余裕も人もいたので、対角パスを蹴るのは予習の中では谷よりも昌子の方が多かったので、人の入れ替えの影響もここの局面ではあまり要素を感じなかった。

 川崎の守備は望月へのロングボールを意識していたように思う。三浦、橘田で受ける左サイドは高さでは劣勢な分、きっちりとスペース封鎖に尽力。三浦が大外で競りに行く分、橘田が自陣の深い位置まで下がっていくことで、ハーフスペースを封鎖。望月がヘディングでボールを落とすスペースを埋めにいく。

 町田の対策が厄介なのは、このWBを生かしたサイド攻撃で深さを取られること。その点、この橘田でスペースを埋める方策は山本と河原の位置が動かないので、バイタルからのミドルシュートにも警戒を払うことができていた。

 その分、陣地回復には苦しい部分が出てくるが、そこはエリソンと伊藤の馬力でカバー。また、橘田自身も低い位置からのドリブルでドレシェヴィッチを交わすなど、陣地回復に一役買っていた。

 中央への縦パスに関しても町田の攻撃は不発。むしろ、昌子がこの形から縦パスから許した川崎のカウンターが失点につながることに。伊藤が持ち運んだカウンターはエリソンのフリーランによって逆に選択肢が制限されてしまったように思えたが、見事にやり切って見せた。

 中山としてはエリソンという選択肢を消せていることは認知できそうだったので、シュートを蹴らせる方向を制限すればあとは守田が止めてくれるという算段だったのかもしれない。寄せれば交わされるリスクを取らずに、GKを信じる方向に舵を切ったが、守田はニアを抜かれてしまう結果となった。

 町田の攻撃の手段で最も効いていたのは左サイドを軸とした相馬の攻撃だろう。伊藤を手前に引き出して、ファン・ウェルメスケルケンのカバー範囲を広げ、ウレモヴィッチを外に釣り出すことができればかなり盤面としては優位。伊藤をCBに釣り出して、ファン・ウェルメスケルケンを林にマークさせるという工程自体は難しくないので、この左サイドのズレは有効活用することができる。

 同点ゴールはこの形から。オフサイドを採用しない福島主審の好判断を助けとした町田は伊藤のいない左サイドから進撃。相馬とウレモヴィッチのミスマッチを作る。スピードで劣る中でウレモヴィッチの縦に誘導する判断は個人的には悪くはない。ただ、クロスの先にいた三浦が対応を誤り、サンホにゴールをねじ込められてしまったように見受けられた。

 さらに町田は下田のFKで追加点。やや長いレンジのキックを壁の上を巻く形で綺麗に決めて、試合をひっくり返す。

 2失点目を喫したことにより、川崎はプレスの判断は難しくなった。ある程度CBは放っておいていいという試合開始時の姿勢はビハインドの状態では成り立ちにくい側面がある。やや間延びした形で受けるようになれば、ライン間からの町田の前進は容易になってしまう。

 そうした状態を救ったのは前半終了間際の同点ゴールだろう。エリソンの動き出しを見逃さなかった山本のスルーパスを落ち着いて沈めて同点。エリソンの斜めの動きは相手から遠ざかることと、オンサイドにとどまれる時間を稼ぐこと両面で非常に優れたプレー。外に膨らんだ分、難しくなったシュートもきっちり枠に持ってきた。

 前回の対戦では90分単位で行った川崎の先制点、町田の逆転、川崎の同点弾という流れは今節では45分で再現。試合は2-2のタイスコアでハーフタイムを迎える。

特大リターンがあれば問題ない

 川崎は橘田に代えてマルシーニョを投入。狙いは明白でトランジッション時の狙えるポイントをエリソン以外に増やすことだろう。案の定、後半頭から川崎は左サイドの裏へのロングボールを連打。しつこいくらいに相手の右サイドユニットとのスピード勝負を繰り返していく。

 非保持においては前半に見られたように相馬周辺のズレをカバーすべく、自陣で4バックをキープしながら守るケースが増えた川崎。しかしながら、自陣に下がりながらロングボールに前進の手段を頼った分、陣形は間延び。攻守のセカンドボールの回収が難しくなってしまうこととなってしまった。

 中央の横断からチャンスを作れるようになった町田は相馬が中央に進出、2人のCHをまとめて交わしながらミドルシュートを見せるなど、後半ならではの暴れ具合を見せた。

 川崎としては雲行きは怪しいが特に問題はなかった。理由としては単純にマルシーニョとエリソンを走らせて行うカウンターのリターンがあまりにも大きかったから。

 川崎の3点目のシーンはやや偶発的に左サイドでエリソンが加速すると、そのまま中山、昌子、前を引きつけて進撃。逆サイドでポツンと余っていた宮城が3点目を簡単に奪い取る。守田のワタワタしたプレーも試合勘のなさを感じたのは確かだが、逆サイドからわざわざ宮城を捨てて近寄ってきた挙句、エリソンに何の影響も与えられなかった中山に一番大きな責任がありそうなプレーだった。

 それでも町田はすぐにリカバリー。左サイドの相馬のクロスがそのままゴールに入り、3-3と試合を再びフラットに戻す。

 この失点を受けて長谷部監督はすぐにジェジエウを投入。クロスの場面ではCBがアプローチできなかったため、その点で最も現有戦力でクロス処理への責任感が強いジェジエウを入れる判断は理にかなっていた。町田のスカウティングをしている人であれば、この次の黒田監督の一手がオ・セフンの投入であることは自明なので、そこを見越した策であることも含めて見事だった。

 川崎はクロスへの対策を組むことで懸念を抑えながら引き続き前線に攻撃を委任することに成功。依然として暴れ回るエリソンが4点目を生み出すと、彼が負傷以降もカウンターから進撃。4バックにシフトする判断をした町田はさらに自陣が苦しくなったので簡単にカウンターを打つことができた。

 雪崩れるようなシュートシーンなど、4-3の段階で町田にもチャンスがあったのは確か。だが、川崎は要所を締める山口のセーブで凌ぐと、最終的にはカウンターからのマルシーニョで加点。最後はオープン合戦となった乱打戦を5-3で制し、川崎が連勝を飾った。

あとがき

 基本的には町田対策がハマった形ではあると思うが、組織的な何かを組んだというよりはエリソン、マルシーニョ、伊藤(+ジェジエウ)の個人能力をどう生かすかに裏打ちされたプランを遂行できた結果という方が適切である。好調な彼らの切れ味は連戦と選手の入れ替えでクオリティが落ちてしまった町田の守備陣には非常に刺さった。

 属人的な解決策が悪いわけではない。自分たちにとって持っている武器をどう最大化するかも重要なスキルだと思っている。もちろん、怪我したら終わりだけども。今の川崎はなかなか完全無欠のチームではないので、そういう勝てるポイントでほかの弱みを隠していくことも重要な要素だと思っている。

 それにしてもエリソンのコメントには少し驚いた。どちらかといえば、陽気なイメージがある選手だが、彼の言葉には苦しみと感謝が溢れていた。ここまでこれたことを神に感謝していたエリソンだったが、我々からすればあなたがここにいてくれることを神に感謝したくなるそんな夜だったといえるだろう。

試合結果

2025.8.31
J1リーグ
第28節
川崎フロンターレ 5-3 FC町田ゼルビア
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
【得点者】
川崎:20‘ 伊藤達哉, 45+4’ 78‘ エリソン, 65’ 宮城天, 90+10‘ マルシーニョ
町田:28’ ナ・サンホ, 36‘ 下田北斗, 71’ 藤尾翔太
主審:福島孝一郎

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