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「腹を括るための勇気」~2025.3.4 UEFAチャンピオンズリーグ Round 16 1st leg PSVアイントホーフェン×アーセナル レビュー~

プレビュー記事

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レビュー

ハーランド式ではなくベルナルド式

 2試合連続でスコアレス。国内では苦戦が続くアーセナル。ひとまずは欧州に舞台を移し、PSVとのRound 16に挑む。

 アーセナルのラインナップはこれしかないやろ!という11人。前線は特にこれしかない感が強い3人を並べる形となった。基本的にはPSVの出方は予想通りだったと言えるだろう。ベースとなるのはマンツー、しかしながら中盤の3枚を執拗に追い回す一方で、サイドの守備のマンツーへの意識は甘い。そして、バックラインは同数で受けるのを嫌がるため、前線から枚数を合わせてプレスをすることはしないという格好だ。

 アーセナルのPSV崩しはプレビューでの目論見通りだった。たまにしかこれくらいハマることはないから自慢をさせてほしい。マンツーを打ち破るのに有効な作戦の1つは「相手がついてくるかどうかを探るくらい大きく移動する」ことである。

 前線に一発投げ入れて壊す!というハーランド式もあるが、これはバックス同数で受ける相手の方が効果的。そもそも、ハヴァーツならともかくメリーノではハーランド式は無理!というのもあるけども。

 今のアーセナルにハーランド式は無理だけども、移動にどこまでついてくるかを探るベルナルド式は十分に可能。できれば、マークについていく意識が弱い場所からマークについていく意識が強い場所に入っていくのが理想ということになる。つまり、ルイス=スケリーがインサイドに入り込む動きは効果が抜群!ということになる。

 というわけでインサイドに絞るルイス=スケリーからアーセナルはチャンスメイク。PSVは中盤の枚数が足りなくなったことでデ・ヨングが1列下がって受けることもあったが、このプレスバックが間に合わないこともしばしば。アウトナンバーとなったルイス=スケリーは中央を鋭く進み、PSVのマンツーのタイトさを完全に鈍らせたと言っていいだろう。

 ただルイス=スケリーの移動自体はすでに多くの試合で見られるアーセナルの既知の手札。その割にはPSVは明らかにこの一手でバタバタしすぎ感がある。移動だけならまだしも、受け渡しの伴わないマンツーですらなかなかに苦しい。アーセナルの先制点の場面はルイス=スケリーの突撃がきっかけで敵陣に侵入したが、トロサールを大外に追いやることで一度事態は沈静化している。

 しかしながら、その後の対応が良くない。2枚でチェックに行ったトロサールに間を割られるパスを通される、パスを受けるライスへの寄せが甘くその上でクロスを上げられる、そしてファーサイドでティンバーに競り負ける。マンツーでこれだけ甘いプレーを許してしまうと正直どうにもならない感がある。

 このフィニッシュの局面だけではない。ルイス=スケリーが登場した中盤ではPSVは相手に遅れてチェックに行くことで連鎖的に穴を開ける動きが蔓延。アーセナルは簡単に中央をかち割り、チャンスを作り続けることに。マンツーという前提が成立しないPSVに対して、左サイドのルイス=スケリー→ヌワネリのラインからあっさりと追加点を奪う。

必ずしも盤石ではない

 早い時間でのリードや最終スコアを見ると、アーセナルには付け入る隙がないほどの圧勝のように思うかもしれないが、決してそういうわけではない。アーセナルの前からのプレスにはあまり手応えはなく、やはり前からの追い回しにはスピード感がない。

 それでもPSVになくて、アーセナルにあったのは後方のハイラインでの守備の強度。1枚で後ろから追いかけるという同じ状況においてもトーマスやサリバが潰し切るアーセナルとは異なり、PSVはメリーノのポストを許しており、この点では明確にボール奪取の能力が違った。

 それでも左右に迂回することでサイドからボールを動かすことができていたPSV。サイドの突破からのサイバリの決定機はアーセナルの先制点の前。仕留めきっていたら試合の流れは違ったかもしれない。

 退場の恐れがあったという意味でルイス=スケリーのところも怖かった。ここで2枚目が提示されていたとしたらこちらも試合の流れを変える要素となっていたことだろう。攻撃での貢献は絶大ではあるが、守備で不安定がルイス=スケリーは3点目を奪ったところで早々にお役御免にとなった。

 同じ若武者という点ではヌワネリはリトリートでの貢献も目立った。30分手前、ノア・ラングに自由を与えないプレスバックは見事。ここで相手を離してしまうと、クロスを入れられてデ・ヨングの高さ勝負に持ち込まれるとバタバタしてしまったかもしれない。このようにいくつかのポイントでPSVが流れをものにしていたらと考えるとアーセナルの前半は意外と盤石ではなかった。

 前半最後に生み出したアーセナルのゴールは文字通りサイドの粘りから。メリーノ、ティンバーの粘りからなんとかPA内でマイボールを確保すると最後はメリーノがゴールを仕留めた。枚数はいてもボールを自分のものにできないPSVのこの場面での弱さはこの試合全体に通ずるものがある。

 3点はセーフティリードかと思われたが、CKからのトーマスのホールディングによるPKで1点を返したPSV。直後にもクロスからデ・ヨングが決定機を迎えるなど、まだ反撃の芽が残った状態でハーフタイムを迎える。

マンツーをやる意義を打ち砕く

 ノア・ラングのPKによってなんとか希望を繋いだはずのPSV。だが、その繋いだ希望はあっさりとアーセナルが打ち砕く。右サイド、ヌワネリの縦突破からのクロスをGKが処理しきれず、こぼれ球をウーデゴールが押し込んだ。

 このゴールは前半のPSVの悪い流れを引きずっているかのようなものだった。例えば、メリーノのポストを許さないためにライン間を圧縮して挟み込むとか、ヌワネリにダブルチームを敷くとかPSVの守備はもう少し狙い所を定めても良かったような気がした。

 直後のトロサールのゴールはマンツーという土俵の中でPSVが役目を全うできなかったことが大きかった。サイドの2人だけの関係性を縦方向に2回入れ替えるだけで決定的なチャンスを生み出すというのは、アーセナルからすればかなりお手軽。後方を同数で受けていないのに、CBがスライドしてこないのであればCBを余らせて受ける意味がそもそもない。そういう意味ではPSVがこの日用意してきたプランの意味づけが一気に甘くなってしまった失点だった。

 希望を打ち砕いたアーセナルはここから勝利といきたいところだろうが、PSVは最後の追い上げのチャンスとして52分にペリシッチが決定機。アーセナルは雪崩れ込んでくるPSVの中央の選手に気を取られてしまい、逆サイドのペリシッチを完全に空けてしまった。この場面と直後のファーサイドのデ・ヨングのヘッダーが決まっていればあるいは・・・というシーンだった。

 以降は試合のテンションがやや緩んだ感があった。追撃のチャンスを逃してしまったPSVはさらに守備のギアが一段軽くなった。降りて受けるウーデゴールに対して全くついていく素振りを見せず、自由にボールを運ばせることを許す。

 先にも述べたようにPSVの守備は連鎖的にマンツーがずれてしまうため、少ないタッチで繋ぐことが効果的。タメて相手の動きを見ることが多いウーデゴールと展開的には相性が悪かった。しかし、そうしたタッチも後半は良化。素直なタイミングでリリースすることでリズムを掴んだように見えた。ジンチェンコとともにPSV陣内を食い荒らし続けた。

 そのウーデゴールのミドルからアーセナルは追加点。さらには何故か逆サイドまで裏抜けしていたカラフィオーリへのアシストを行うなど、数字の残る結果を出してみせた。

 試合は7-1で決着。敵地で圧倒的なアドバンテージを得たアーセナルが意気揚々とロンドンでのリターンレグを迎える結果となった。

ひとこと

 PSVのマンツーを打ち破るというミッションに対して、きっちりとした対策と実践をしたという感じであった。アーセナルは体の動きもキレており、ここは1週間の空きがあったアドバンテージとも言えるだろう。

 実質、2試合通しての勝ち抜けを意識してもいい内容と思うので先の話をするが、3月のPLも含めて正直にいうとここから先の相手がメリーノのポストをこの試合ほど易々と許してはくれないだろう。もっと言えば、高い位置からの追い込みはアーセナルがCLで上を目指す水準としてはこの試合の出来は物足りない。

 前からのプレスに制限をかけてボールを奪う場面が少なく、あわやというシーンもつくられてしまったことは確かだ。もちろん、大量得点での勝利は嬉しいが、CLが一発勝負のコンペティションであり、アーセナルの勝負できる土俵が堅さだとするならば、まだその目標を達成するには出来は足りていない。

 それでも今ある武器で勝負するために自信を深める必要があったので、この勝利の意義は大きい。進むべき道が見えている時に、できることはその方法に進むしかないと腹を括ること。2試合連続無得点と7得点とでは次の試合で腹を括るための勇気も間違いなく変わってくる。

試合結果

2025.3.4
UEFAチャンピオンズリーグ
Round 16 1st leg
PSV 1-7 アーセナル
PSVスタディオン
【得点者】
PSV:43′(PK) ラング
ARS:18′ ティンバー, 21′ ヌワネリ, 31′ メリーノ, 47′ 73′ ウーデゴール, 48′ トロサール, 85′ カラフィオーリ
主審:ヘスス・ヒル・マンサーノ

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