
プレビュー記事
レビュー
上海申花のマイナーチェンジに対応する
ACLはRound16に突入。リーグフェーズを危なげなくクリアした川崎は昨年阻まれたノックアウトラウンド1回戦に挑む。相手は昨季と同じく中国勢。クラブ史上一度も勝利を挙げたことのない上海の地で勝利を狙いに行く。
1週間前のリーグ戦のメンバーを中心に素直にメンバーを並べてきた川崎に比べると、驚きがあるのは上海申花の前線のメンバー。ルイス、サウロ・ミネイロといった重量級のストライカーがスターターから外れる構成となっている。
この前線の構成の変化は守備の組織のマイナーチェンジにつながることになる。4-3-1-2が上海申花のベースのフォーメーションなのだが、この試合では前線の陣形が微妙に異なった。特定の選手をトップ下に置くのではなく、左右で中盤に下がって守備をする選手をシェア。左サイドはテイシェイラ、右サイドは徐皓陽が引き気味に中盤をケアする。
プレビューで述べた通り、相手が4-3-1-2できた時に川崎が前進のポイントに出来るのはSB。IHを引っ張るようにボールをキャリーすれば中盤が空くというのが本来の算段だった。

しかしながら、実際のところは中盤には上海申花の前線が下がってくるのでSBが上海申花のIHを引き出しても起点となることが出来ない。

攻められるポイントを作るはずが上海申花の序盤のマイナーチェンジによって、川崎は目論見を外された格好になったということになるだろう。
というわけで川崎は15分を過ぎたところで微調整を開始。イメージとしてはトップ下の選手の横付近でズレを享受するイメージだった川崎だが、ズレを享受する位置を前方に移動。アンカーであるアマドゥの左右であれば上海申花のシャドーは距離的に埋めるのが難しくなる。
解説の林さんが4-3-3にシフトしたように、この時間帯は山本がアンカー脇を使うことが目立った時間帯。いつもと異なる4-3-3チックなフォーメーションになったのは上海申花の前線の守備の変化に合わせて、山本と脇坂が微妙に前方移動したことがトリガーと予想する。

この移動により、川崎は縦パスのルートを確保した感があった。山本、脇坂は縦パスを受けると左右に展開し、そこからサイド攻撃による崩しに突入する。この日の川崎はほんのり鬼木時代の匂いがした。WGは幅を取り、そこからSBやIHと連携しながらサイド攻撃を構築する。数をかけて上海申花のサイドを切り崩しに行くイメージだ。
想定と異なったのはクロスの精度だろう。シーズンプレビューでも触れた通り、今の川崎が黄金期よりも優っているところがあるとすれば両サイドのSBの長いレンジのクロスである。
しかしながら、この試合ではそこがうまく決まらなかった感がある。特に三浦は苦労した。ボールを掬うようなクロスの軌道でオーバーしたり、あるいは低い弾道でニアにひっかけたりしていた。ほかの選手も余裕がある場面で受け手が受けにくい浮き球のパスを出したりもしていたので、少しコントロールがしにくかったのかもしれない。
右サイドはファン・ウェルメスケルケンこそそれなりに惜しいクロスを上げていたが、伊藤は三浦と同じく苦戦。それでも裏抜けを狙うなどオフザボールで動きを付けたり、あるいはチェンジオブザペース的な緩急のつけ方で一気に相手を置いていったりなど、柔軟に打開策を模索していた。こういう賢さは伊藤の強みだと思う。
とはいえ、手数をかけたサイド攻撃に必要はクロスがなかなか出てこない状況。それならば、何とかゴールに近づく手段にダイレクトに結び付けていきたいところである。真っ先に名前を出したいのは山田だが、この日は上海申花の屈強なCB陣に対して苦戦。なかなかボールを収めることが出来ない。
TLでは山田と味方との距離の遠さを指摘する場面があったが、その要因があるとすれば川崎がいつもとWGの役割を変えたからだろう。いつもなら絞ってCFに絡むのがWGだが、この日はサイドに開く役割が主。インサイドレーンは山本と脇坂に譲り、外で張る役割をこなしていた。2人のIHのうち、山本は特にサイドのフォローへの意識が強く山田とつながる意識は少なめだった。
よって、山田へのサポートが少なかったのはWGのポジションバランスの変化が理由と推察する。ちなみにクロスに対してWGがインサイドに飛び込むアクションもこの試合では以前よりも少なく感じた。その点からもこの日のWGはプレーポジションが外寄りのタスクなのではないか?という仮説を立てることはできるだろう。
山田のサポートが少なかったのはそれとして、そういう状況でも山田には何とかしてほしい感はある。柏戦と異なり、相手に挟まれる頻度が多かったわけでもないのにこれだけ収まらないのは彼に求めるプレーの水準としてはシンプルに物足りなさを感じる。
手数をかけてもダメ、山田も難しいとなればマルシーニョの裏抜けからの決定機の負荷が増えるのは必然。前半で彼を代えたことは退場のリスクを考えればやむ無しかもしれないが、その副作用も確実に予感させる手段でもある。
報われないハイプレス志向
川崎は守備面でもこの日は微妙に変化があった。中盤に異常に偏っているのが4-3-1-2の陣形なので、ほかのチームにそのまま応用するかは別の話だろうが、この日は特に中盤が前がかり。キーマンであるテイシェイラを潰すのにはスライドする河原の後方から逆サイドのCHの山本が出てくる動きが複数回見られた。
同サイドへの誘導が本来機能した場合、川崎の守備の基準で言えば中盤の浮いた選手を埋めるのは逆サイドのCHよりも2トップのプレスバックの方が優先度は高いはず。そういう意味ではCHのベクトルが前に向かっているという点もある意味鬼木フロンターレらしいポイントだったといえるだろう。
中盤が前にスライドし、高い位置からボールを奪いに行く機構はそれなりに機能したとは思う。GKへのプレスは確実にマイボールにすることが出来ていたし、脇坂のオフサイドによって取り消された幻のゴールシーンもハイプレスがトリガーだ。
しかしながら、チャンスを量産とまではいなかったのはこの日の主審のジャッジの基準だろう。ハードなコンタクトでも簡単に笛を吹かないことを掲げる今年のJリーグの基準に比べると、この日の笛の基準は相当緩く、高い位置から捕まえに行くコンタクトでかなりファウルを取られてしまった。ここが機能していればもう少し高い位置から奪いに行くアクションは機能していたように思う。
もちろん、上海申花もやられてばかりというわけではない。中央に起点を作り、そこから左右に展開をできれば確実に川崎をおしさげることが出来る。中央で丸山相手に簡単に背負うアクションを見せていた34番の刘诚宇のポストプレーや、左サイドに落ちるテイシェイラが起点の候補。基本的には左で作り、右の大きな展開で脱出。豪快なオーバーラップを見せるマナファが後方から支援する格好だ。
しかしながらプレスバックとブロック構築を行う川崎の守備陣に対し、アタッキングサードでは苦戦。ルイスとサウロ・ミネイロ不在ではセットプレー以外の空中戦優位は難しく、なかなかこじ開けられないままハーフタイムを迎えてしまった印象だ。
通らない一本槍の方向性
無得点に終わり、互いに1枚ずつの交代策を敢行した両チーム。川崎は右サイドに家長を投入。まずは押し込む流れを作りつつ左右で揺さぶっていく形。右サイド側の大外を家長に託した格好だ。
序盤にファン・ウェルメスケルケンと三浦が共にインサイドに絞る場面もあったが、特に再現性はなかったため瞬間的な動きと考えられる。後半の動きを見ると、大外レーンに2人の選手が縦に並ぶシーンが少なかった感じがするので、大外にWGが立っていたことからたまたまSBにインサイドが絞ったということになるだろう。
川崎はサイドから崩していきたい意識は見えたし、その分枚数もかけていた。だが、かけていた枚数に見合った攻撃ができていたかは怪しいところ。サポートの枚数はいても動きがないので相手にマークされていたり、あるいは同時に裏に抜けることで手前の選択肢が作れていなかったりなど。
特に裏抜けからの仕上げ方に関しては少し微妙なところがあった。背後をとるアクション自体の数はこの試合ではあったと思うが、抜けた後の動きがかなりGKとDFの間に早いパスを入れることに偏っていたように思う。上海申花がここに対応できなければフォーカスしてもいいところだけども、ひたすらニアで跳ね返されていたのでもう少しマイナスの折り返しからのミドルなど目先を変えた形を狙ってみても良かったように思う。一本槍でも鋭さがあればいいのかもしれないけども、先に述べたようにこの日の川崎は特に誰も精度の高いキックを蹴ることができていなかったので難しかった。
上海申花の攻め筋はより通りやすいものだった。サイドからSBのオーバーラップもしくは裏抜けで攻め切る形が主流。TLと林さんに大人気だった陳晋一とマナファの両SBの攻め上がりがきっちりと決め手に。オウンゴールを誘発したのもマナファの攻め上がりだった。単純ではあるけども攻めのロードマップを描くという点では川崎よりもくっきりしていたように思う。
後半は攻め筋の通りやすさに差が出た両チーム。オウンゴールでの1点を守り切った上海申花がアドバンテージを得て2ndレグに向かうこととなった。
あとがき
捉え方が難しい敗戦だなと思った。キックさえ通ればというシーンは作ることができていたといえば等々力でシンプルにその分の上積みはある気もするので気にしすぎなくてもいいのかもしれないが、外循環になった時に攻めきれなかったことと、特にインサイドの山田に存在感がなかったのが気になるところ。
4-1-2-3気味のシフトチェンジが上海申花の守備への対応なのだとしたら、その布陣変更がアタッキングサードの尾を引いていた感があったので、2ndレグの課題はここに集約されるのかなと思う。要は相手のプレスを超えることとアタッキングサードの機能性の連結。山本の位置調整という策はプレスを回避して前進することに関しては効果的だったが、そこからゴールまでがつながっている感がなかった。対策がぶつ切りになっていたところを2ndレグでどのように修正できるかだろう。
試合結果
2025.3.5
AFC Champions League
Round 16 1st leg
上海申花 1-0 川崎フロンターレ
上海体育場
【得点者】
上海申花:76′ 高井幸太(OG)
主審:サルマン・ファラヒ