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レビュー
サイド封鎖の精度の違い
エースのルイスが欠場となった上海申花。1st legはベンチだったサウロ・ミネイロはスターターからという変化はあったが、守備の仕組みは前節と一緒。4-3-1-2ではなく4-3-2-1のような形で川崎のCHを抑えにいくスタンスだ。

そのため、川崎のCBは今節も余裕を持ってボールを持つことができる立ち上がりに。構造的にはフリーになりやすいSBにボールを預けていく。上海申花はサイドに追い込むようにプレスを仕掛けることで同サイドに閉じ込めにいくプレスを行っていく。上海申花が特に警戒をしているように見えたのはマルシーニョ。43番の杨皓宇は三浦からマルシーニョに流れるようにダブルチームに出ていっていた。
一方の川崎の守備も1st legと同じ。よりバックラインに強く当たる守備で相手のバックラインを追い立てていく。中央の守備も前がかり。CHが出ていくことでベクトルを前に出ていく。

川崎の守備で目についたのは左右のサイドで出来にばらつきがあったことである。川崎から見て右サイドに追い込む際にはわりかしきっちり相手を封じることができていたのだが、左サイド側に追い込む際にはかなり逃げられてしまう。
左右の守備で出来が異なる最も大きな理由はアンカーをケアできているかできていないかの違いだろう。右のエリソンサイドに追い込む際にはアンカーを潰す役回りの脇坂はイェナリスをケアできていたのに対して、左の脇坂サイドに追い込む際にはエリソンのアンカーを潰す役割はあまりできていなかった。
これによって、左サイドに追い込んだ際にはアンカーのイェナリスがフリーになることがしばしば。大島がプレスに出ていく役になることもこちらサイドにボールがある時の懸念点である。
エリソンがサボっていたかというと難しいところで、この試合では脇坂は中盤に下がっての守備が非常に多かった。脇坂が下がっていた理由として考えられるのは守備範囲が限られる大島のケアだろうか?いずれにしても脇坂とエリソンにはそもそも託された守備のタスクの量が違う可能性がある。ただ、川崎の守備が右側の方が精度が高かったことに関してはテイシェイラがいるサイドを封鎖するという意味では妥当な感じがした。
大外を滑空するSB
構造的には川崎のプレスを振り回すことができていたのは確かな上海申花。だが、構造的に穴を開けることができることと、ビルドアップがうまくいっていることは微妙にニュアンスが違う。アンカーのイェナリスが空いていてもそこからボールをうまく繋げなければ意味がない。
端的に言えば、アンカーのイェナリスにはフリーになっても展開力がなかったため、長いレンジのパスを川崎が問題なくカットすることができていた。さらに言えば、広がってビルドアップをするCBの2人も特に足元が上手くないため、序盤から川崎のハイプレスに捕まってはピンチを迎えることが続く。1st legと似た仕組みではあったが、より守備が機能したのは川崎と言えるだろう。
さらには時間の経過とともに川崎は自陣からの保持が機能するように。15分あたりから川崎は2列目が絞ってボールを受けるように。上海申花の守備が同サイドに圧縮できていたのは、サイドに流れる川崎の選手を基準として捕まえていたから。2列目の選手が幅を取らないことで川崎はSBの攻め上がりのために大外レーンを空けるようになった。

これによって三浦と佐々木が暗躍するようになった川崎。絞った2列目は中央でのパスワークからシュートに持って行ける場面もちらほら。密集した中央とアイソレーション気味の大外という長谷部フロンターレらしい攻撃のバランスで敵陣に迫っていく。逆に中央に絞ったマルシーニョが外に膨らむことでできたギャップを三浦→エリソンラインで崩しにいく様子も見えた。
ただ、先制点はむしろサイドに人を引きつけた後、背後を取った佐々木から。対面のフランシスがバランスを崩したタイミングでリリースをしなかったことでボール離れが遅れたように見えたが、シュートコースを作り出してニアを撃ち抜く形で自らの選択を大正解にしてみせた。
素晴らしいシュートに隠れているが、この場面では縦にパスを出した河原も冴えている。この場面のように河原はレイオフで受けたボールをダイレクトで縦に進んでいくパスを出すのが非常に上手い。スーパーゴールを見事にお膳立てしたと言えるだろう。
中盤で言えばスタメンに起用された大島も存在感を見せた。20分のボックスへの飛び込みは復帰初戦にもかかわらず体がきっちり動くことを証明したし、33分の左足のダイレで伊藤につけようとしたパスはまさしく大島。空間把握能力の高さを生かし、ワンタッチで自在に遠いところにつける大島の魅力が詰まっていたプレーだった。
先制点も含めて守備で振り回される上海申花。30分には4-4-2のフラットにシフトする。おそらくはさすがに早い段階でSBを食い止めないといけないという考えからだろう。
上海申花が中央とサイドでバランスよく人を配置しても川崎の攻勢は続く。右サイドの伊藤を中心としたサイド攻撃は家長不在時の川崎の中では相当上手く多くの人数を使いながら攻略ができていたのではないか。きっちり止まれる伊藤が軸になることで新しい攻撃の中心になる可能性を感じさせたパフォーマンスだったと思う。
エリソンのゴールが示す対策の妥当性
後半は前半と陸続きのスタート。相変わらず、川崎のテイシェイラサイドへのワンサイドカットはうまくいっており、立ち上がりは川崎のハイプレスが機能する形となっていた。
しかしながら後半も5分を経過したことでこの試合初めて上海申花が主導権を握る。きっかけとなるのはハイプレスにおいて川崎の中盤の守備が間に合わなくなったことである。これにより上海申花のSBが攻撃に参加できるように。
52分には高い位置に進出したマナファがパワーで押し切って決定機を迎えたし、逆サイドの陳晋一も存在感を発揮するようになっていく。やはり狙い撃ちになっていたのは大島の周辺。63分にはテイシェイラが右サイドに流れてくるなど、上海申花はやや右サイドに人を集めてきていた。上海申花が攻め手を見つけたこの時間帯は川崎のDF陣のボックス内の体を張った守備が際立ったパフォーマンスを見せた。
しかし、川崎は試合巧者ぶりを見せる形で追加点。選手交代とともに気合が入ったハイプレスをしてきた上海申花をいなして前進に成功すると、佐々木→エリソンのラインでゴールを決める。エリソンは福岡戦に続き、マークを外す形での得点。これまでのエリソンがあまり得意にしていなかったプレーだからこそ大事な場面でのこのゴールは自信になるはず。ただ、微妙に位置を変えられたとはいえ、他にマークする選手がいなかった蒋聖竜はもう少しエリソンについていきたかった。
また、上海申花の4-4-2はそもそも川崎のSBを捕まえる対策がベースになっているもの。このシーンでハイプレスから佐々木を逃してしまったことが失点のトリガーになったのはある意味上海申花の対策の正しさを示している。逆に言えば川崎は前がかりになった瞬間の上海申花の隙をついて得点を決めた試合巧者だったということだろう。
試合を決めたのは直後の3点目。マルシーニョで深さをとった左サイドでスリーオンラインでサイドの攻略に成功。折り返しを伊藤が仕留めて2点のリードを得る。従来の川崎らしいサイドの崩しと逆サイドから絞ってボックス内で仕事をするSHという今季らしい要素の掛け合わせからゴールを生み出した。
試合を通してパラパラあったピンチを要所で抑えた山口のパフォーマンスはおそらく加入後ベスト。あまり得意な印象がなかった足元のセービングやボールをキャッチした後のリスタートの速さなどこれまでは見られなかった良い部分が見えたのが好印象。継続性が出てくればより頼りになる存在になる可能性を示した試合だといえる。
終盤には交代選手を軸に4点目を決めた川崎。橘田のボール奪取から瀬川のアシスト、そして最後はマルシーニョのゴールでケーキにいちごを乗せる。
苦手な2nd legを克服し逆転突破を決めた川崎。堂々4点の大勝でサウジアラビアの切符を手に入れた。
あとがき
まずは結果が最も大事な試合で結果をきっちり出したというのが一番大きい。この試合はいい内容でも勝てなかったら何の意味もないという意味でこれまでの試合とは位置付けが明らかに違った重みの違う一勝と言える。
その上で内容も良かったと思う。今までの基盤も見えたし、そうした中で相手に対応していく柔軟性も見えた。結局強いチームは基盤の強度と多局面に対応できる柔軟性の両輪だと思う。この試合の川崎はその両輪を実装できていた。
もちろん、サウジアラビア行きは嬉しいしACL-E制覇は今季の大目標。しかしながら、それ以前に川崎には代表ウィーク明けに23日間で7試合という過酷なリーグ戦が待っている。サウジアラビアにいい流れで臨むためにもこの過酷な7試合にこの日の等々力で見せたパフォーマンスを持ち込み結果と内容を積み重ね続けたい。
試合結果
2025.3.12
AFC Champions League Elite
Round 16 2nd leg
川崎フロンターレ 4-0(AGG:4-1) 上海申花
等々力陸上競技場
【得点者】
川崎:24′ 佐々木旭, 64′ エリソン, 68′ 伊藤達哉, 90+1′ マルシーニョ
主審:オマル・モハメド・アルアリ