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レビュー
シティ戦の再現のような浮き玉から・・・
かつてのアーセナルの14番の土壇場ゴールが生み出した決勝ゴールにより、プレミアリーグの全勝チームは第6節にして消滅。混戦模様の優勝争いにキャッチアップすべく、アーセナルは勝ち点3を手にしたいところだろう。公式戦3試合勝ちどころか得点がないセント・ジェームズ・パークでの一戦に挑む。
ニューカッスルのフォーメーションは4-3-3。前節の5-4-1からより彼らのスタンダートなスタイルに戻してきた印象だ。右WGにマーフィーを使う際には非保持においてはWB的な形で自陣を埋める役割を与えるなどの変形も昨シーズンには見られたが、この日はあくまで4-5-1の形をキープする選択をする。
マーフィーはむしろ前からのプレスにかなり積極的な姿勢を見せていたように思う。カラフィオーリを背中で消しながらガブリエウにプレスをかけていくなど、アーセナルのバックラインに圧力をかけていく。
アーセナルはいつものようにやや後ろに重たい陣形を活用することでプレスを回避。アンカーの位置に入るライス、スビメンディにラヤがボールをつけて左右に振ったり、降りるエゼ、トロサールがフリーになるためにボールを受けるアクションを見せる。
序盤はこのニューカッスルのハイプレスをアーセナルがかわせるか?がポイント。立ち上がりはアーセナルが余裕を持って対応していたが、モスケラとトロサールの連携ミスからニューカッスルがショートカウンターを放つなどホームチームが盛り返す様子を見せた。
試合がまず動きかけたのはアーセナルの自陣からの脱出成功の場面から。CKの二次攻撃を止めたところからアーセナルはカウンターを発動。シティ戦のマルティネッリのゴールシーンを思い起こさせるようなエゼのロブ性の裏へのボールに反応したのはサカ。混戦の中でボールを奪ったマーフィーのバックパスをギョケレシュがカットして1on1。間違いなくPKのシーンかと思われたが、OFRの末に原判定を覆して主審は判定を修正。アーセナルは絶好の先制点の場面を逃すこととなった。
段差を作るエゼと狙われたモスケラ
先に挙げたPK未遂のシーンでは得点にこそ繋がらなかったが、サカとギョケレシュの2人の陣地回復力は素晴らしいものがあった。ギョケレシュは左右に動きながらボールを引き出して安定したポストプレーを披露。味方を前に向かせる最前線の役割を全うした。
サカは爆発力に特色があるマドゥエケとは異なる多彩さが炸裂。多くの選択肢で対面のバーンとの対戦に優位。フォローに出てくるジョエリントンのパフォーマンスもイマイチだったこともあり、ティンバーと大外レーンを分け合いながら右サイドから攻め込んでいく。
中でもトロサールの左足での決定機を生み出した横パスは絶品。ジョエリントンのタックルを交わしながら、ギマランイスとの駆け引きに勝って通したパスは紛れもなくアーセナルの攻撃を加速させていた。ちなみにこのシーンでサカに前を向かせていたのもギョケレシュのポストプレーだった。
ボックス内ではエゼの存在感が際立っていた。クロスのメインターゲットと少し段差をつけて手前で待つポジショニングにニューカッスルのDF陣は捕まえづらそうにしていた。ビルドアップに降りる時もそうだけども、エゼは段差をつけながらボールを出し入れするのがとても上手。イメージよりもスペースの感覚に優れている選手なのだなとアーセナルに加入してからのプレーを見ていて感じる。
アタッキングサードでは順調だったアーセナル。ただ、先述のPK取り消しのシーンの後はやや前進フェーズの安定感が失われてしまった印象。加えて、ニューカッスルは左に流れるヴォルテマーデのポストから前進のルートを確保、左サイドを縦に突破することでアーセナルを押し下げていく。この点でもモスケラは少し狙われていた感があったので、後述の先制点に繋がったミスがなくてもHTで交代するタクティカルな要素はあったのかもしれない。
そのヴォルテマーデはセットプレーからの先制点をもたらすことに。ガブリエウとの駆け引きを制して、自分だけジャンプすることに成功すると、ほぼフリーで叩きつける綺麗な軌道のヘディングでゴールを生み出した。
この試合の雑な前半のラベリングとしては、いい入りをしたアーセナルがPK取り消しと先制点の献上で2回つまづき、そこから立て直す方法を模索するという流れとなった45分だったと言えるだろう。その中でコンスタントな陣地回復を見せていたギョケレシュは少し消沈気味だったチームを前向きに牽引するようなパフォーマンスを見せた。だが、ゴールを奪うところまでは至らず。試合はニューカッスルのリードでハーフタイムを迎える。
二段構えを乗り越えての逆転
アーセナルは後半頭にモスケラ→サリバの交代を敢行。モスケラは地上戦でもヴォルテマーデに苦戦していたし、リードしているニューカッスルが後ろを固めるのであればアーセナルのセットプレーの頻度は増えることが推測できる。空中戦での嗅覚も含めてセットプレーでの存在感は今のサリバとモスケラに最も能力に差があるところかもしれない。
立ち上がりはニューカッスルの右サイドからの決定機でチャンスを迎えるが、このピンチを凌いだアーセナルはポゼッションからリズムを掌握。2CB+2CHがポジションを変えながらニューカッスルのプレスを回避していく。ガブリエウの対角、エゼの中央のターンから右サイドへの展開を狙うことでアーセナルは敵陣に迫っていく。
特徴的だったのはボックス攻略のアプローチだ。従来であれば多くの人数を集めてサイドから打開するケースが多かったが、この試合ではやや中央合体気味なアプローチも多め。右サイドでサカとティンバーが2人で打開を完結させられたというのも大きいが、エゼやトロサールが中央に集結しながら手前と奥行きを使ってチャンスメイクしていたのも印象的。ティンバーの決定機などはそのアプローチの代表的な産物だと言えるだろう。
本格的に押し込まれてきたニューカッスルは66分に5バックに移行。これによってボールがたどり着く先のマーカーを捕まえながら、別途パスカットにチャレンジできる人を用意できるというメリットができる。
68分のサカ→ギョケレシュへのクロスへの対応がわかりやすいだろうか。クロスがギョケレシュに届く前にカットすること軌道を変えて、ギョケレシュのコントロールを乱したところにマーカーがきっちりと寄せてシュートを許さない。5バックに移行することでこのように保険としてマーカーを用意しつつ、その手前でカットを狙うという二段構えが成立するようになった。
オフザボールでマーカーを剥がしていくアプローチを取りたいアーセナルだが、体をぶつけながら阻害するニューカッスルの対応に苦戦。セットプレーの局面を見ても思うけども、上半身の駆け引きは今まで以上に重要性を増しているなと思う。
怪我さえさせなければ別に悪いこととは思わないという前提で、ニューカッスルはつかみ合いなどの上半身の駆け引きがうまかった。交代で入ったオスラだけは例外でかかりまくった結果、ファウルを連発していた。
タフなぶつかり合いで時計の針を進められる苦しい展開となったアーセナル。先制点をとったチームが最強!というプレビューで紹介したこのカードのジンクスの強さをひしひしと感じる流れだった。
そうした状況を打破したのはメリーノ。ショートコーナーからセットプレーでマーカーのボットマンとの駆け引きを制して同点ゴールを決める。好守連発だったポープも見送るしかないバックヘッドを見事なコースに決めて追いつく。ショートパスで目先を変えたことでインサイドの純粋な空中戦にフォーカスしたというアーセナルのアプローチの工夫も面白い。メリーノは見事に期待に応えた。
5-4-1へのシフトに対抗する形で3-4-2-1というスクランブルパワープレーを行っていたアーセナル。同点ゴールをきっかけにバランスを修正。ルイス=スケリーを左に入れることで4バックに回帰する。
終盤に特色を見せたのはそのルイス=スケリーよりもやや少し前に入ったウーデゴール。スビメンディに代わって中盤の舵取り役を任された主将は、この日なかなか活性化しなかった左サイドを整理。ローテーションとキャンセルを駆使しながら相手の守備の切れ目がどこにあるかを探って敵陣に侵入するためのルートを提示。ルイス=スケリーのバックドアは絶品だった。
押し込み続けるアーセナルは後半ATにセットプレーで値千金の勝ち越しゴール。混戦の中で空中戦を制したガブリエウが決勝点を決める。ポープは飛び出す判断が微妙なところ。彼の監視役であるサリバが仮にいなかったとしても、ボールにさわれたかは怪しいところだろう。
難所で先制点を取られながら見事に逆転勝ちを決めたアーセナル。地獄から生還し、3ポイントを手にした。
あとがき
難しい相手、スタジアム、展開だったが、なんとか跳ね返しに成功。実際にスコアを動かせたこともそうだけども、得点を取るためのあらゆる引き出しを開けた感の満足度は高い。エゼ、ギョケレシュを中心とした中央のこじ開け、サカとティンバーによる右サイド攻略、ウーデゴール投入による左サイド整理、そしてセットプレー。
結果だけ見ればセットプレーでこじ開けた「いつものつまらないアーセナル」かもしれないが、内容面で見れば5バックでクローズに走ったニューカッスルに対して、あらゆる角度から刺すトライができた点は大きい。同じ5バック相手でも守備側にあからさまな不用意さがあった前節とは全然違う意味合いを持っているように思う。
これで難所続きの開幕6節は13ポイント。上々のスタートだろう。ここからは例年勝ち点を落としているロンドン勢が続くが、なんとかテーブルの一番上を視界にとらえながらシーズンを進めていきたい。
試合結果
2025.9.28
プレミアリーグ
第6節
ニューカッスル 1-2 アーセナル
セント・ジェームズ・パーク
【得点者】
NEW:34′ ヴォルテマーデ
ARS:84′ メリーノ, 90+6′ ガブリエウ
主審:ジャレット・ジレット