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「最終盤への骨格」~2025.9.13 J1 第29節 横浜F・マリノス×川崎フロンターレ レビュー

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レビュー

不自然なアバウト感

 川崎は崖っぷちの優勝争いに向けて、横浜FMは残留争いに向けてそれぞれの舞台において負けることができない神奈川ダービーとなる。

 まずは横浜FMの保持から試合はスタート。CBが幅を取り、ショートパスによるポゼッションから川崎を揺さぶっていく。川崎はエリソンと脇坂が同サイドに圧縮していこうという意識が見られるが、マルシーニョが封鎖においてこの2人との連動が甘かったこと、そしてエリソンがGKまで追いかけるかどうかの局面の整理が怪しかったことなど、完全に横浜FMを制圧することはできなかった。

 ということで左右に動かすことでフリーの選手を作ることができた川崎。エリソンのマークを外した角田がドリブルで持ち上がり、伊藤をかわして持ち上がる。しかし、このパスをミスしてしまった角田。ボールをファン・ウェルメスケルケンにカットされてしまうと、そこからのカウンターで先ほど角田に交わされた伊藤が早速ゴール。連続ゴール記録を伸ばす先制点はわずか4分のことだった。

 先制点のシーンはこの試合の両チームを象徴しているものだったと言えるだろう。横浜FMはGKを絡めて川崎のプレスの誘導を外すことでフリーの選手を作ることができていた。角田のキャリーももちろんその手段の1つ。他にもマルシーニョが寄せる距離がやや遠い加藤も浮きやすい存在だった。

 だが、横浜FMは浮いた選手の先の選択と精度が伴わなかった。角田のパスカットもそうだが、多かったのは闇雲に裏を狙って相手に回収されるパターン。おそらく、トップのデイビッドは裏に走ることができれば川崎の守備者にはアドバンテージを取れるという算段だったのだろう。だが、川崎のCB2人のマークをズラすためのきっかけもないので、ヨーイドンで出し抜くことも難しい。そういう意味ではアバウトさが先行したアプローチだったと言える。

 プレスで追い込まれて蹴らされるのであれば仕方ない側面もあるだろう。苦し紛れにとりあえず前線に逃がすための手段を持っていることはポゼッションにおいても重要なことであることは間違いはない。

 しかしながら、横浜FMの問題点は手前のフェーズにおいて、川崎をずらしてギャップを生み出すことができているということ。角田のキャリー、マルシーニョから浮く加藤、時にはCHが川崎の2トップ+CHの管理から外れることもあった。にも関わらず出口はアバウト。極端な話、これだと後方が捕まっている状態と前線に出てくるボールの質が変わらないという状況であった。

 前に運べそうな状況をひっくり返されて先制されるという1失点目の形は、この時間帯においては痛恨のミスのようにも見えたが、90分を通してこの試合を見た後に振り返れば必然感が濃い失点だったと言えるだろう。川崎は前線と後方のプレスがつながっていたことが命綱に。左右で揺さぶられたことでフリーな選手を作られたが、ファン・ウェルメスケルケンの前向きなプレスが状況をひっくり返すための重要なファクターとなった。

ミス待ちから確度の高いカウンター

 川崎の保持はロングボールが主体。好調な前線に手早くボールをつけながら前進を狙っていく。ショートパスを活用した前線は序盤では6分のウレモヴィッチからの一つ飛ばしのパスくらいのもの。基本的には前に蹴って、そこからプレスでトランジッションを誘発する形から作っていく。

 しかしながら、先に述べたように横浜FMはハイプレスに関してはそれなりに対応を見せていた。時間の経過とともに手段も増加。渡辺のサリーによる3バック化、マルシーニョの背後に顔を出す植中など縦パスを出す手段、受ける手段はそれなりに豊富に存在する状況だった。

 敵陣に入った状況においては右サイドのクルークスが軸。彼が右の大外を取り、そこからポケットに入ってくる味方を作っていく。川崎はプレスバックをしながら枚数を合わせて対応するが、8分の渡辺の出張には誰もついていけなかった。脇坂の戻りでなんとかカバーをするが、こうしたふとしたタイミングでの浮き方は出張突撃のメリットだなという感じだろう。

 しかしながら、仕上げのアバウトさというのは依然として変化はない横浜FM。むしろ、サイドに流れる植中や最終ラインに入る渡辺といった保持面での立ち位置変化により中盤は空洞化。川崎はカウンターから裏を覗ける山本はキャリーができる伊藤が中盤でフリーでボールを持てるように。

 いわば、川崎は横浜FMのミス待ちでOKという状態。とりあえず縦に急ぐという意味では手段はシンプルだが、確度は高く、確かな前進の武器として機能していた。横浜FMはキニョーネスが孤軍奮闘。左右に流れるエリソンをはじめとして相手の前線とのマッチアップで互角に対応。彼の奮闘で横浜FMはなんとか踏ん張ることができていた。

 川崎のハイプレスには粗があるが、そういう側面があったとしても横浜FMが蹴ってくれればそこからカウンターを打つことができるので、巡り巡ってくれば自分のところに利益が落ちてくる。そういう意味では交わされたとしてもプレスでテンポを上げるということそのものに意義があったという少々不思議な感覚の試合だった。

 相手のミス待ちというと聞こえが悪いが、それを仕留めにいくというのも重要なこと。横浜FMも三浦がドリブルを引っ掛けた33分のシーンなどは川崎が前がかりになっているだけにチャンスにしたかったところ。だが、ここもクルークスが単調な裏へのパスで終わってしまうなど、もう一味が足りない!という状況だった。

 横浜FMは相手のプレスをいなすが仕上げが甘い一方、川崎は相手のミスをきっかけに局面をひっくり返す形でゴールに向かっていく。そんな対照的な前半の両チームだった。

横浜FMの守備の弱みを掴む

 後半、川崎は再びロングボールフォーカスでの陣地回復を敢行。やや変化があったとすれば、押し下げてからの攻撃に前半以上に手数をかけたことだろう。

 川崎の横浜FMブロック攻略には手応えがあった。動かしながらフリーマンを作ることができていたし、相手の守備の矢印の逆を取ることも間違いなくできていた。

 ここは仮説ではあるのだけども、おそらく横浜FMの守備は重点的に警戒したいポイントにフォーカスしすぎているのだと思う。50分のシーン、川崎の右サイドの攻撃のところであるが、伊藤の裏抜けに鈴木、渡辺、井上の3人が引っ張られてしまっている。

 確かに今の伊藤を警戒したい気持ちはわかるのだが、フリーラン1つで3人を引き寄せられるのであればこんなに楽なことはない。ホルダーの脇坂や最終的に右サイドでクロスを上げたファン・ウェルメスケルケンなどは伊藤のマークが厳しい恩恵を受けて、余裕を持ってボールを動かすことができていた。

 直後の山本→脇坂にパスを通したところも理屈は同じ。エリソンに2人のCBが厳しくマーク。山本のように視野が広い選手がフリーであるならば、その2CBのマークから明らかに外れている脇坂へのパスコースを選ぶことは難しくないだろう。

 このようにエリソンや伊藤といった第一の警戒すべき選択肢に対しては厳しくガードを固める一方で、それを外すような手段を取られてしまうと、めっぽう弱い。これが横浜FMの守備の特徴なのかなと思う。

 横浜FMはトランジッションからチャンスメイクを敢行。ウレモヴィッチの表と背中側に2人の選手を走らせた50分付近(上の山本→脇坂のシーンの直後だ)のファストブレイクは効果的な人の掛け方ではあったが、やや逆サイドまでの展開がバタバタした影響もあり、最後のところでウレモヴィッチが逆サイドへのヘルプが間に合ってしまうことに。

 同じファストブレイクでも間に合わなかったのが川崎の2点目のきっかけとなったシーン。横浜FMのCKをカウンターでひっくり返したエリソン。喜田からボールを奪い、鈴木のタックルを交わしてゴールに猛進。エリソンのシュートはイルギュがセーブするが、後方から追いかけてきた山本を鈴木が倒してPKを献上。上半身の接触でホールディングを取られた結果、DOGSOとなりここから横浜FMは10人での戦いを余儀なくされる。

 数的優位を得た川崎はここからはポゼッション成分を増やしながら試合をコントロール。インサイドとアウトサイドをバランスよく使いながら横浜FMのマークを外していく。特にフリーで動けていたのは大外のファン・ウェルメスケルケン。井上や植中といった前半から動きが多かった選手たちを外しながら進んでいく形を作り出していた。

 主力から負荷をコントロールしながらというゲームマネジメントも川崎にとってはありがたかっただろう。交代で入った前線の選手たちも任務を引き継ぐことで引き続き攻撃を構築。宮城はカットインからシュートも決めた。

 この場面も横浜FMの守備の連携が気になるところ。2人でホルダー監視していたにも関わらず、右利きの宮城のカットインに対して誰も警戒していないのはさすがにミスと言わざるを得ない。宮城の大外を回った大関のフリーランが効果的だったのは間違いないが、それでも釣られすぎているなという感じは否めなかった。

 4分の先制点から常にゴールに迫っていたのは川崎。一方的な完勝で神奈川ダービーを制した。

あとがき

 ローカルライバルを完膚なきまでに倒したという意味では意義があるし、ファンの満足度が高い90分だった。その一方で相手に助けられた側面が少なくないのも確かであり、この日のパフォーマンスがそのままここから対戦する相手に押し出せるメリットかどうかはわからない。川崎の守備は課題を残したが、横浜FMがその先でミスをした結果、主導権が転がってくるというすごく変な展開の試合だった。

 ただ、前線の好調さを活かし、浮いた中盤がそれを操るという攻撃の形や、ウレモヴィッチと佐々木のCBコンビを軸とした守備の熟成も少しずつ進んでいるようには見える。ここはポジティブ。最終盤への骨格は整ってきた。あとはコンディション、怪我人が出ないで足りない部分を埋めながら順調に残りシーズンを進められることを祈るのみだ。

試合結果

2025.9.13
J1リーグ
第29節
横浜F・マリノス 0-3 川崎フロンターレ
日産スタジアム
【得点者】
川崎:4′ 伊藤達哉,62′(PK) エリソン, 90+8′ 宮城天
主審:大橋侑祐

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