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「連勝するしかない状況」~2025.9.20 J1 第30節 川崎フロンターレ×FC東京 レビュー

プレビュー記事

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レビュー

縛りプレイならば成立させたいロングボール

 前節はそれぞれ同じ自治体のローカルライバルを下しての多摩川クラシコ。川崎としては優勝争いに参入するためには連勝しかないという厳しい状況が続いている。

 川崎のスタメンは今週の全体練習を欠席したとの報道があった脇坂がベンチスターと。ロマニッチ、エリソンが揃って先発をするという今季初めてのスタメンとなった。

 序盤はロングボールを主体とした落ち着かない展開。互いのミスから縦に進もうとするが、そこからもなかなかリズムが掴めずバタバタとした立ち上がりとなった。

 川崎はロマニッチをターゲットとしたロングボールを活用。ロマニッチ、エリソンの2トップは長谷部監督のコメントを見る限り、脇坂を頭から使うことができないという縛りプレイの中で出てきたアイデアの様子。

 そういった状況の中でこのアイデアを形にするにはロングボールはなんとかモノにしたかったところ。脇坂がいようがロングボールは今の川崎の前進の生命線なので、彼がいないのであれば尚更というイメージである。

 しかしながら、川崎はロングボールを有効に使えなかった。競り負けたというよりは届いていなかったという方が近いだろう。正確にロマニッチの元に届いたボールは非常に少なく、基本的にはショートしているボールに無理に競りかける必要が出てくる場面ばかり。コーナーフラッグを見る限り、ピッチレベルでは影響がありそうな風は吹いていなそうではあったが、上空の状況は違ったのかもしれない。

 いずれにしても川崎が長いボールで戦うための準備ができていなかったことは確かである。8分のシーンのように敵陣まで運べばロマニッチと伊藤の位置交換からあっさりとサイドのマークを外すなど、FC東京のサイドの守備は立ち上がりに脆さをつけていた。このシーンではロマニッチがフリーのヘディングを仕留められなかったが、フリーでつなげたという意味ではこれは明らかな攻略。そうした場面を不安定な前進局面により作ることができなかった。

あらゆるルートで揺さぶられる守備

 逆にFC東京は安定して前進のルートを見つけることができていた。入り口となるのはセンターライン。ロマニッチ、エリソンの2トップはFC東京のCHを基準点としていたが、CBにマークの意識がいく分、背後が空くケースもしばしば。FC東京のCHが移動することもあり、高や橋本は前を向いてボールを受けることが多かった。

 FC東京のSBはビルドアップに関与しなくていい分、高い位置を取るケースがしばしば。この高い位置を取るSBが川崎の守備の基準点を悩ましていた。ポジション取りで川崎の頭を悩ましていたのは長友の方。

 ショルツがキャリーを仕掛ける分、長友に集中するわけにはいかないという伊藤の葛藤はおそらくあったのだろうが、結果的にフリーズしてしまい、運ぶショルツも背後を取る長友も両方フリーになってしまう。こうなると後方のファン・ウェルメスケルケンが対面に集中するのが難しいので、そこを利用したギリェルメが一気に抜け出していく。

 右サイドの白井は前に攻め上がる時間ができた時に存在感。長倉がキープできて攻め上がる際にはマルシーニョを出しぬきつつ、大外からクロスをガンガン上げていく。FC東京の右サイド側は3人以上での攻撃が多かったが、ハーフスペース突撃など相手が枚数をかけた時のシンプルな手段に対して、川崎の封鎖が間に合っていなかったため、佐々木が釣り出されながら抉られてクロスを入れられることも多かった。

 構えてもどうにもならないのであれば、前から捕まえたいところ。この試合も含めてキム・スンギュの足元を見れば、彼にバックパスを仕向けることで十分お釣りがきそうな気配はあった。しかしながら、これもFC東京は左サイドからスムーズに回避。降りてくる長倉を捕まえきれず、川崎のCHが連動した背後を使われてしまう。

 FC東京になかなか得点機会が生まれなかったのはアタッキングサードの仕上げの甘さだろう。特に左サイドの抜けた後のギリェルメのラストパスの精度が甘かったのは川崎目線で言えば救いだった。

 15分を過ぎたあたりで川崎は河原のサリーの機会を増やして3バックへのシフトを常態化。徐々にワイドに開いたCBがキャリーできる状況を整えていく。しかしながら、この日の川崎には相手の中盤を動かした時にそのギャップに入り込む脇坂のようなロールができる人が不在。運んだとて、なかなか穴が開かない状況だった。こうしたトライはプレビューで必要という形で述べたが、この日のメンバーで行うのは少し相性が悪かったかもしれない。

 運んだとて相手を動かせないので、川崎はどんどん後方のキャリーがアバウトに。本来は1stプレスラインを越えるためにやり直しをしながらFC東京の2トップを外していきたいのだが、外したとてメリットがないならとっとと蹴ってしまえ!という流れとなり、だんだんとポゼッションから相手を動かしていくプランは頓挫していった。

 前線の距離は遠いし、徐々に川崎のCBの運ぶアクションもおそろかになっていたので、FC東京はインサイドへのパスを前線と中盤で簡単に挟むことができていた。

 ならば強引に!というわけで左サイドに伊藤が出張して狙いを定める形で解決策を探っていこうとする川崎。だが、このプレーに失敗すると、伊藤が出張した川崎の右サイドを蹂躙する形でFC東京は一気に進撃。左サイドからのクロスは逆サイドに流れるが、その逆サイドに流れる長倉からのクロスを遠藤が叩いて先制点を決める。

 川崎としてはまずは一連の攻撃において左右をかなり揺さぶられたことで、CBをはじめとしてインサイドのポジションが揺さぶられる格好に。長倉の代わりにストライカータスクとしてボックスにいた仲川は捕まえることができていたが、忍び込んだ遠藤はバッチリエアポケットに入ってしまった感があった。FC東京として足りていなかったアタッキングサードのピースがようやくハマったという格好だった。

 ハイプレスを強化したい川崎だったが、FC東京はいくつもある前進ルートからこのハイプレスを回避。ショルツと長友ライン、降りる長倉、浮いたCHからの最後の裏の攻撃から川崎を押し下げていく。最も惜しかったのはオフサイドで取り消された幻の2点目。浮いた高からサイドの裏の襲撃でシャープにゴールに向かうことに。右サイドからのクロスは仲川も大決定機を迎えており、川崎としては1点のビハインドという落胆よりは数点取られなくて良かったという安堵が先に来る前半だった。

 川崎は前線と中盤の距離が遠い問題をなかなか解決できず。40分くらいにカウンターの際など少しずつロマニッチがリンクマン的な役割を果たすようにはなったが、やはり基本的には脇坂が恋しくなった前半だったと言えるだろう。

山本の選択肢増加でポゼッション要素を強める

 後半、川崎は脇坂を投入。意識的にボールによって触ることで中盤の仕事を増やしていく姿が印象的だった。

 FC東京の2トップ脇に降りるアクションを見せる山本にとってはかなり選択肢が増えた印象。大外のマルシーニョ、ライン間の脇坂、裏の三浦といった形で棲み分けができた形でパスを選ぶことができていた。

 ポゼッション色を強めていく川崎はサイドから仕上げを行いたいところ。しかし、伊藤には2枚をつけて手厚いカバー。マルシーニョとの対面の安斎は逆サイドからのクロス対応を含めて非常にシャープなパフォーマンス。サイドからの決壊を許さない。

 FC東京は長倉を軸にロングカウンターを仕掛けていくスタンス。後半立ち上がり15分は陣地回復の一手がなかなか刺さらない展開であったが、時間の経過とともに後方で手数をかける分、中央で起点となる長倉からのカウンターが成立するようになってきた。よって、川崎がシュートを打ち切れるかどうかが徐々に重要に攻撃のファクターとなっていた感があった。

 川崎はマルシーニョが安斎と正対するのではなく、背後を取る裏抜けを増やすことで左サイドを侵略。土肥にカードを引っ張り出すところまでは辿り着くことができた。逆サイドの伊藤にも同じくショルツと対峙できる場面があったが、仕掛けるのではなく味方の攻め上がりを咄嗟に待ってしまっていたので、やや絶好調のここ数試合とは異なるフィーリングだったのかもしれない。

 ただし、交代で入った宮城や家長が彼らよりも優れた働きを見せたかと言われると難しいところ。ボックス内のターゲットがずっと1枚で推移した分、ショルツが大胆に絞って潰せる場面も多かったため、個人的には家長ではなく小林を早い時間に投入して、エリソンと2トップの場面を作っても良かったように思う。ウレモヴィッチを前線においた時のほうがFC東京は守りづらそうだったし。

 FC東京はCKのカウンターなど、長倉を起点とするカウンターを継続。佐藤、俵積田の投入でさらにエネルギーを注入することでこの方向性をさらに強化する。後半頭に脇坂主導で行われた川崎のハイプレスも少しずつ緩んできたため、保持で時間を作る難易度は試合が進むにつれて下がっていた。

 ウレモヴィッチの前線常駐や佐々木の思い切った攻め上がりなど終盤はあらゆる方策で前に人をかけた川崎。93分には脇坂がネットを揺らしたが、この得点はオフサイドで認められず。終盤には小林の決定機もあったが、スンギュのファインセーブで万事休す。相性良好な多摩川クラシコを落とし、川崎のリーグタイトルレースはかなり厳しいものとなってしまった。

あとがき

 これで川崎は残り試合を全勝しても勝ち点は72。鹿島が残り8試合で5勝を挙げればその時点で優勝はできなくなってしまう。今季の川崎のリーグ戦での最多連勝は3。リーグ全体を見渡しても鹿島の7連勝が最長のようなので、川崎は今季どのチームもできていないことができて初めてタイトルレース争いの可能性を残すということになるだろう。流石に優勝ボーダーが70を下回るとは考えにくい。

 改めて連勝しかないという道は厳しいものだと感じる。相手のコンディション(この試合のFC東京は今季見たどの試合の彼らよりもシャープだったと思う)、自軍の事情、試合の展開。あらゆるものを跳ね返す強さが必要なのだということを痛感する。そうした状況に左右されない揺るがなさは今の川崎にはなかったということだろう。前半戦に勝ち点が積み上がらなかった負荷をチャラにするのはそんなに簡単ではないということ。

 それでも今季の川崎にはまだやるべきことが残っている。目の前の試合をまずは1つずつ勝つことで完成度を上げて、10月の柏とのルヴァンカップの準備を進めていきたいところだろう。

試合結果

2025.9.20
J1リーグ
第30節
川崎フロンターレ 0-1 FC東京
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
【得点者】
FC東京:23′ 遠藤渓太
主審:ファイサル・アルバラウィ

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