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レビュー
整っていても、そうでなくても
前回の試合から3週間が空いた川崎。4人の功労者の退団と引退が発表され、ホーム最終戦となる第37節の重みはさらに増している。今年等々力に迎える最後のチームは川崎が休んでいる間にもせっせとカップ戦をこなしていた広島である。
序盤からポゼッションで主導権を握ったのは広島。3人のCBから左右にボールを動かしてポゼッションを行っていく。川崎はミドルゾーンに構えてはいたが、3人目の広島のCBに対して、SHが出ていくことができず。ここから簡単にボールを運ばせてしまった印象だ。
サイドから入り口を作った広島はここからサイドチェンジで横断。やや事故的なところもありつつ開始早々に川崎を左右に動かすことはうまくいっていた。この日の広島の中盤はアルスランと田中。どちらもボールコントロールに長けているタイプで、特にテンポを整えることができるアルスランは広島の中盤の中では異質な存在。サイドへの配球だけでなく縦にボールを入れる形からもチャンスを作っていく。
劣勢気味の川崎だが、何とか序盤に食らいつけていたのはジェジエウの激しい迎撃により、広島に長いボールからのカジュアルな前進を許さなかった踏ん張りが大きい。このエリアでポストが機能し、より簡単に田中やアルスランを配球役として使うことができたはずだ。
もう1つ、川崎の生命線となっていたのはトランジッション。縦に速いボールを起動できる山本に対する広島のチェックが甘く、ここから川崎は比較的自由にボールを出すことができていた。
フリーになった山本は右サイドに展開。好調の伊藤を軸に、サポート役として走れるファン・ウェルメスケルケンのコンビネーションから勝負する右サイドがこの日の川崎の攻め筋のメインストリーム。特に伊藤は前を向けば一気に進むことができるという馬力を見せており、この点では川崎が攻撃で牙をむくことができていた。
しかしながら、全体の攻撃の流れとしては有利なのは広島。山本が瞬間的に空いていた時以外にはアバウトなロングボール頼みの前進しかできなかった川崎に比べると、広島はポゼッションの土台が安定。セカンドボールの回収でもデュエル面で広島が有利であり、整った局面でもそうでない局面でもアドバンテージを握れていた状態だった。
得点後も見えない好転の兆し
しかしながら、先制点を決めたのは川崎。佐々木からエリソンの縦パスを起点として川崎は右サイドの攻撃を発動。伊藤は利き足をカットされて追い込まれながらもわずかなコースを見つけて技ありのシュートを決める。苦しい体勢からもわずかなスペースを利用して、逆足で仕留めるという技術の高さは異常であった。
このシーンのようにエリソンのポストが決まれば山本を高い位置でフリーにできるので、左右にボールを揺さぶりながら進むことができる。ただし、エリソンが荒木を背負ってポストができたのは得点シーンを含めて数回のみ。基本的には日本代表CBも務めている荒木の方がマッチアップでは優勢だった。
得点以降もなかなかペースをつかむことができない川崎。試合の流れは一切変化することなく広島が主導権を握ったまま。広島の得点源であるセットプレーによって引き起こした混戦からネットを揺らすが、これはオフサイドで取り消し。川崎としてはなんとか助けられた格好だ。
しかしながら、その後も左右にボールを動かしながらチャンスメイクの主導権を握ったのは広島。右のハーフスペースから車屋の前後を揺さぶって背後を取るといった奥行きの使い方でチャンスを作るなど、新たな狙いどころを見つけて川崎を追い詰めていく。
反撃に出たい川崎だが、カウンターは前の3枚のロングボール頼み。エリソンとマルシーニョの連携から突き抜けて進んでいく場面もなくはなかったが、基本的には1on1ではアドバンテージを握れない。唯一通用していた伊藤のところも越道によるプレスバックにが非常に速く、挟み込まれてしまい時間を作ることも難しい状況となった。
右サイドがオープンな状況に持ち込むことができれば、旋回から惜しいチャンスは作れはしたが、アクシデンタルな形とはいえ伊藤が相手を踏みつける形でOFRまで持っていかれる(結果的には警告で済んだが)など、攻めているはずの川崎がむしろ冷や汗をかく場面が多かった。
広島は右サイドからのサイドチェンジ、もしくは車屋の背後への裏抜けを使い分けながら左右からクロスを上げ、セットプレーというおまけをもぎとりながら攻勢を強めていく。
川崎の守備のサイドのチェックが遅れれば広島は奥を取ることができる。川崎の中盤は必死にサイドのフォローに行っていたが、プレスラインが下がった分は中央で田中とアルスランがフリーに。ここから延々と縦パスを入れることで広島はさらに深くえぐっていくという無限ループで川崎を自陣から脱出させない。
試行回数の多さが実ったのは前半終了間際。右サイドからのクロスにファーで飛び込んだ川辺がファン・ウェルメスケルケンに競り勝ってゴール。マークがいたとしても上から叩くという解決の仕方も大外→大外というルートでのゴールもいかにも広島!といえるような一撃だった。川崎は劣勢の中で守っていた1点のアドバンテージを最後に溶かしてしまうという痛恨の形で前半を終えることとなった。
家長投入も飲み込まれる展開に
迎えた後半、川崎は伊藤に代わって家長を投入。タクティカルなのかの判断がつきにくい交代ではあるが、代わって入った家長は左サイドに出張。川崎の攻撃を左に集約することでなんとか糸口を見つけたいという狙いが見えた。
ただし、それを飲み込んだ感があったのが後半頭の広島の圧力。マンツー気味にギアを入れなおしたことで川崎の前半の起点となっていた山本にも時間を与えないままつぶしに行くことで保持のターンを延々と続けていく。
保持に回れば家長がいない左サイドから前進。前半から左右のSHは攻撃時に自由なポジションを取っており、それが広島が攻めに転じた時のねらい目になっていたが、後半の広島は右→左に出張する家長サイドに狙いを定めながら前進することができていた。
この左サイドフォーカスの攻撃から広島は勝ち越しゴールをゲット。縦にパスを入れながら川崎の右サイドの選手を一人ずつ丁寧に食いつかせて背後を取ると、最後にゴールを決めたのは中村。丁寧なポゼッションから川崎の守備をぶっ壊した広島が勝ち越しゴールを仕留める。直後にも中村は左サイドからのクロスに車屋のマークを外して決定機を迎えるなど、この日は得点の機会に恵まれた印象だ。
川崎は押し込まれた時の動き出しの鈍さが後半は悪化。山口も余裕を持った飛び出しがジャーメインに先に触られるなどあわやという場面を作り出されてしまう。山本が抑え込まれて、佐々木が負傷した状況で保持からの打開策も見えず、ファストブレイクを延々と広島の中盤とバックラインの壁に阻まれる時間が続くだけとなった。
やや終盤に川崎が状況を好転させたのは中盤に顔を出す任務を多めに行っていた脇坂の存在が大きい。アルスランの運動量低下も相まって中盤でのマークの枚数が足りなくなった広島は少しずつ守備の手が回らなくなる。
川崎は大関の投入でサイドの基準をなくすことでさらにマンツーをかき乱しに行くが、サイドにおいては問題なく枚数を合わせて対応。大関の抜け出しからチャンスになりそうな場面もあったが、ここもエリソンを荒木がつぶすことで広島がチャンスを未然に防ぐ。
カウンターからのジャーメインのチャンスはさらなる得点を呼び込むことができなかったが、ポゼッションで時間をつぶすことができる広島にとってはボーナスで追加点が入らなかったくらいのダメージである。難なく逃げ切った広島が鬼門の等々力で勝利を果たし、ACL出場チームの意地を見せた。
あとがき
単純に広島の力が上で、どの分野でも彼らが上回った試合だったなという感想。唯一食いつける要素であった伊藤のところが何とか1つ得点につながったくらいで、それ以外は難しかったし、ワンパンチを当てたリードを守れるとは到底思えないくらいの内容だった。
3CBのチーム相手にはSHが出ていく動きがプレスのスイッチにならなくてはこのように押し込まれてしまうのは大きな課題だろう。この試合ではあまりなかったが、出ていくパターンの守備においてもSH-SBが連動しないなどシーズン最後までSHを軸とした守備ははまらなかったなという感じだ。
ノスタルジーが先行するのは仕方ないシチュエーションではあったが、ノスタルジーだけでは勝たせてくれるほど甘くはないということを教えてもらった試合でもある。自分が神様であれば川崎に肩入れをするストーリーかもしれないが、残念ながら神様ではない。サッカーは相手がいるもので、それを上回らなければ功労者を華やかなムードで送ることすら許されないことを思い知らされた一日だった。
試合結果
2025.11.30
J1リーグ
第37節
川崎フロンターレ 1-2 サンフレッチェ広島
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
【得点者】
川崎:12’ 伊藤達哉
広島:45+4‘ 川辺駿, 56‘ 中村草太
主審:高崎航地
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