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レビュー
マンツーに対するリズムの整え方
勝てばCLは開幕4連勝。8強入りからのノックアウトラウンドストレートインが濃厚になる重要な一戦。だが、アーセナルはここでスビメンディが出場停止となり、ギョケレシュとハヴァーツというCF陣が全滅。非常に厳しいやりくりを強いられている。
序盤はそのハードさが前面に出てくる立ち上がりだったといえるだろう。ロングボールの応酬となった行ったり来たりでまず手ごたえを感じたのはスラビア・プラハ。ガブリエウとノアゴールの対応がかぶったところにロングボールを差し込むシーンがあったなど、ホリーを目がけたロングボールにはややアーセナル側は手を焼いていた印象だった。
逆にアーセナルはなかなかボールを繋げずに苦戦。同じ直線的なロングボールはメリーノに収まらなかったり、あるいはそもそも届かなかったりなど、出し手も受け手も共に苦労していた印象。後半、エンドを入れ替えてスラビア・プラハのフィードの精度は落ちたように見えたので、もしかすると風の影響があったのかもしれない。いずれにしても右サイドの奥を取りそこから即時奪回を仕掛けて蹴らせて回収というスラビア・プラハのメカニズムにまんまと乗せられてしまった感があった。
アーセナルはリズムを整えるために修正を施す。具体的にはライス、メリーノが列を落としながらフリーとなりにいく。プレビューでも触れたが、スラビア・プラハはマンツーが主体のスタイルではあるが、後方でCFを余らせる形を作り、CBにはプレスをかけないという形でセンターラインは同数を受け入れない傾向にある。
よって降りていくメリーノ、ライスあたりについていくかはスラビア・プラハにとっては迷いどころ。特に2人で管理する前提のメリーノに関しては「ついていくか?」という問いに加えて「そもそも誰がついていく?」という迷いの要素も加わり、なかなか降りていくアクションを咎めることができなかった。長いボールを相手につっかける形であれば分が悪いと判断したメリーノが降りるアクションでポジショニングの駆け引きという土俵のすり替えは見事だった。
よって、アーセナルは中盤が徐々に浮くように。降りるアクションを中心としていたメリーノに対して、ノアゴールやライスなどの他の中盤は徐々に列を上げてライン間で受けるシーンが出てくる。中盤が相手のマンツーとの付き合い方を見つけてフリーでボールを受けることができるようになったことで、アーセナルは少しずつサイドにボールを付ける活路を見出せるようになったといえるだろう。
押し込む手ごたえが出てくるアーセナル。中盤の3人に加えて、インサイドに入っていくヌワネリはドリブルができるようなスペースも出てくる。サカは右の大外に立つことにこだわらず、中央から左に出張することで勝負する。
サカとマッチアップするムボジは「どこにいこうともついていく」というマンツーの意識が高い相手。本来のポジション移動はメリーノのように「どこまでついてくるか?」を探るような側面もあるが、どこまでもついてくるのであれば目の前の相手をぶち抜くだけ。そういう意味でどこまでもついてくるムボジをひたすら振り切り強引にシュートを打ち切るこの日のサカにはエースの矜持が感じられたといえるだろう。
それぞれの形でポジション移動の負荷をかけることで主導権を握ったアーセナル。押し込む機会を増やしてセットプレーを重ねていくと、ハンドからPKを獲得。不用意な相手のプレーを咎め、サカが見事な軌道のPKを仕留める。
トランジッションの機会から反撃に出たいスラビア・プラハ。モーゼス、サンアンなどアジリティの高いアタッカーは脅威にはなっているが、ファウルやオフサイドという細かいプレーでいちいち流れが切れてしまうのが非常にもったいない展開に。
中盤でフリーマンを作り、横断からチャンスを作る場面もあったスラビア・プラハだったが、ティンバーが鬼の寄せでムバブにクロスを上げさせない。この辺りはアーセナルのバックラインのシャープさを感じさせる場面だった。
マンツーの中に残されたあいまいさ
後半早々にアーセナルは追加点をゲット。中盤でのボール奪取から左サイドにボールを展開し、メリーノがギャップに入り込んで仕留める。マンツーの中で唯一数を余らせる形で守っていたメリーノが浮くというのはなかなか皮肉なもの。メリーノについていた2人のDFのうち、1人はトロサールの突破のカバーに入り、もう1人はファーに飛び込むヌワネリを気にしていた。どちらもメリーノ専任ではないというあいまいさを利用し、トロサールとメリーノは後半早々に追加点を生み出して見せた。
失点を喫してしまったスラビア・プラハ。CFのホリーが負傷交代をしてしまうなど流れがなかなか悪い。守備でも高い位置からボールを奪いに行こうとはするが、メリーノとヌワネリに気を取られている中央セクションをトロサールとサカというWGの斜めのランから背後を狙っていく形でチャンスを作っていく。
失点を喫した上にスキをつかれてしまうと背後を狙われてしまうということもあり、なかなか縦にスライドしてプレスに行ききることができないスラビア・プラハ。しかし、65分に絶好のチャンス。ラヤを引っかけることでプレスからあわやというシーンを作り出す。
こういう危ういシーンは状況をひっくり返しうるきっかけとなりうる。だが、アーセナルはこの状況から抜かりなくプレス回避をすると、逆に追加点をお見舞い。ライスの縦方向に落ちるようなキックを前に、マルコビッチが目測を誤り、無人のゴールにメリーノがシュート。さらにリードを広げる。
3失点目直後はすこし気持ちの切れてしまったかのようなファウルも目立ったスラビア・プラハ。選手交代からなんとか戦う舞台を取り戻した感はあるが、なかなか枠内シュートは遠い展開だ。
一方のアーセナルはカラバオカップからハリマン=アヌスをこの試合でも投入。中央に入りながら、低い位置に下がりつつボールを触るなどうまく試合に入れていた。
もちろん、守備ではガブリエウやサカといった主力が鬼の寄せを見せることでボックス内のクオリティを担保。プレータイムの少ない若手を後半も牽引して見せた。
主導権を握ったアーセナルは4試合連続でクリーンシートを達成。CLの上位8位以内という目標に大きく近づく1勝を手にした。
ひとこと
メリーノを中心とした序盤の劣勢を切り返す土俵の切り替えとラヤのミスから発生しそうな反撃の機運を封じたという2点は強いチームの試合運びそのものだった。多少であればバックラインの踏ん張りで時間を稼げるのがアーセナルなので、前半の内に立て直しに成功した点は大いに評価できる。これでだいぶ気楽にバイエルン戦をむかえることができるだろう。
試合結果
2025.11.4
UEFAチャンピオンズリーグ
リーグフェーズ 第4節
スラビア・プラハ 0-3 アーセナル
エデン・アレナ
【得点者】
ARS:32′(PK) サカ, 46′ 68′ メリーノ
主審:アリヤル・アガエフ