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レビュー
苦しむ先に見つけたルート
開幕2連勝でCLの第3節を迎えたアーセナル。インテルとの無失点記録の競争も2年連続とグループステージ突破に向けて邁進中。この試合をモノにできればリーグフェーズの8位以内での通過も見えてくる。
そんな重要な一戦で相対するのはアトレティコ。近年で言えばアーセナル以上にCLの舞台を知る手練れをロンドンに迎えての90分に臨む。
異国同士のチームがぶつかり合うCLにおいては両チームのリズムが微妙に異なる場合がある。立ち上がりはそのリズムのギャップを感じる流れとなった。
やや面食らっていた感があるのはアトレティコの方。アーセナルの高い位置からのプレスに対してバタバタ。エゼ、ギョケレシュにサカが加わる前プレ隊から感じるプレッシャーに屈して長いボールを蹴ると、ライスとスビメンディのCHコンビは浮き球が出ている間にスライドしてボールの到達点にいる相手を捕捉。中盤へのパスルートを寸断する。
前線のプレスバックのスピード感も相当だろう。スピードに乗りかけたところを戻ってくるサカにとがめられたり、長いボールを前に行きかけたマルティネッリにカットされたりなど、アトレティコからすれば前方からだけでなく後方からも手強い守備が襲い掛かってくることとなる。そのせいもあり、アトレティコは中盤で前を向くことに非常に苦労した印象だ。
かといって中盤を省略してしまうとそれはそれで苦しいのがアトレティコにとっては頭の痛いところ。セルロートとサリバorガブリエウのマッチアップではさすがに分が悪いのは明らかである。
それでも、何とかルートを見つけることが出来るのがアトレティコの地力の強さだろう。15分が過ぎたあたりから徐々にみられるようになったのはアルバレスが中盤に降りて運ぶシーン。コケやバリオスといった中盤の選手たちは左右に流れることによって、ライスやエゼを中央からどかし、アルバレスの降りるスペースを作っているのも見事である。

ゴールゲッターとして優秀なアルバレスを低い位置まで下げてしまうのはもったいない気もするが、彼はチャンスメーカーとしても間違いなく上質な選手。ボールを高い位置まで届ける要素がない以上、ここに託すのは合理的なように思うし、90分を通してアトレティコを見ても、彼がスピードに乗ってアーセナル陣内に入ってくる形が最も怖かったように思う。アーセナルはスビメンディがどこまでついていくかを思案する形となっていた。
だが、仮にドリブルで網をかいくぐれたとしてもアーセナルのDF陣も簡単にボックス内への侵入を許さず。ガブリエウ、サリバを軸とした最後方の守備ブロックは最短でアルバレスにシュートを許すことはなく、遅らせることに成功。彼らの最も有効と思われる攻撃手段も無効化することが出来ていた。
バランス良好な右サイドの攻め手
アーセナルの保持に対して、アトレティコは構える形で対応。バックラインにはプレスに行かず、基本的には中盤を管理する形でスタートする。ここ数試合と同じようにアトレティコは5-3-2の守備ブロックを敷くことでアーセナルに対応する。
立ち位置勝負という観点からまずアーセナルが仕掛けたのは左サイドのルイス=スケリー。相手の3CHに微妙に届かない位置に立つことでアトレティコのDF陣に対応を迫る。初めは右WBのジュリアーノはマルティネッリに専念していたが、徐々にジョレンテがマルティネッリにスライドし、ジュリアーノがルイス=スケリーにチェックに出て行く4-4-2に近い形になっていた。

こういう状況を作れたと見るや否や、ガブリエウが一つ飛ばしでマルティネッリにパスを付けたのが印象的だった。前がかりな状況におけるマルティネッリは後半に効いてくるのだけども、前半に立ち位置勝負ですでにそこを活用しようとしていた事実は興味深い。
前半においてはより実効性が高かったのは右サイドの攻撃の方だろう。プレビューでアトレティコの守備を削るには「スライドのギャップ埋めが間に合わないうちに活用する」か「守れているはずと思っているところに穴を空けるか」のどちらかだと指摘したが、右サイドのサカはまさに後者の点で存在感を発揮できたといえるだろう。右の大外でハンツコと対峙する形はアーセナルの1on1でもっとも期待できるパターンであった。
右サイドではティンバーがゴンサレスを引き寄せる形で立っているのに加えて、エゼもしくはギョケレシュが3人目として加わることでサイドアタックに関与。エゼで中盤をスライドさせて逆サイドに横断してアトレティコを左右に振るか、ギョケレシュで最終ラインをズラし、左サイドのフィニッシャーを生かすかのどちらかのバリエーションを使う
サカの突破力を活用しつつ、サカを軸とした彼の引力を前提とした逆サイドの生かし方も抑えておく。こういう攻め筋のバランスがいいのが今のアーセナルでもある。
前半の終盤、アトレティコがアルバレスでの前進ルートを見つけて押し返す場面が出てくるようになってからはスビメンディが躍動。ギョケレシュがヒメネスに警告を出させた右サイドへの展開や、マルティネッリがネットを揺らすもオフサイドだった場面はどちらもスビメンディが起点。サイドや前に出て行きながらハイプレスでボールを取り切ってカウンターに出て行く形を作り出す活躍で、より縦に速い展開でゴールに迫っていく。
一方のアトレティコもそのスビメンディが警告を受けたタイミングからファウル奪取。セットプレーのチャンスを得るが生かせなかった。どちらのチームもネットを揺らすことはできず。前半はスコアレスでハーフタイムを迎える。
3枚交代が大きなターニングポイントに
後半、メンバー交代なしで入った両チーム。やはり後半もアトレティコの主役はアルバレス。右サイドでジュリアーノとのワンツーで縦に進んでいったり、あるいは左サイドからのパンチ力のあるミドルでクロスバーを強襲していたりなど、幅広い役割の中で躍動していた。
ミドルでのクロスバー直撃のシーンはアーセナルのDFがこの試合で一番シュートコースを空けてしまったシーンといってもいいだろう。ハンツコが列を上げる動きに対応できなかったしわ寄せが最後のところまで来てしまった印象。右サイドのコケのポケット襲撃にルイス=スケリーが冷や汗をかくような対応をしたように、アトレティコは後方からの攻め上がりがこの時間の攻撃のアクセントになっていた。
前半よりは開けた展開となったアーセナルは左サイドのマルティネッリの強引なキープ力が生きてくるように。長いボールを収めつつ前を向いて加速する形で推進力を出していく。
よりクローズドな展開においては引き続き右サイドが有力。サカとティンバーは1,2枚を剥がしながらボックスに入っていくことで、破壊力を出していくことが出来ていた。サイドを破られた!というアラートを発した時のコケのスライドの速さは見事の一言で、このサイドの攻防は見ごたえがあった。
しかし、決め手になったのは動的成分多めの左サイド。ドリブルでスピードに乗ったマルティネッリ相手にジョレンテがファウルを取られると、ここからのセットプレーが試合を動かす。ライスの素晴らしい軌道を描いたキックはスムーズに抜け出したガブリエウにピタリ。芸術的なキックでついにスコアが動くことに。
リードを許したアトレティコはプレスを強めながら敵陣に進撃。右サイドの攻撃を強めながらゴールに迫っていく。しかし、さらに攻勢を強めようとしたアトレティコの3枚交代がこの試合のターニングポイントに。
圧を強めてくるアトレティコに対してのアーセナルの対抗策はアトレティコの中盤の背後を取る位置で受けるSB。実際、3枚交代の手前のシーンですでにティンバーがライン間で受けることで陣地回復に成功している。
決め手になったのはルイス=スケリー。中盤でパスを受けてスルスルと加速すると、ジョレンテが釣れたところで背後に走るマルティネッリにラストパス。ファーサイドに見事に流し込んで追加点を決める。
ルイス=スケリーのドリブルが決定打となったのは明らか。その点でアトレティコは交代で入ったギャラガーが左サイドへの展開を決め打ちすることで縦へのドリブルをむしろ促してしまったのが誤算。ルイス=スケリーのプレースタイルを考えても、縦を切ることの優先度を下げる理由は一つもないので、ここは明らかにミスだろう。
3失点目においてもギャラガーが出て行けなかったスビメンディからの左サイドの侵攻がゴールにつながることに。彼だけの話ではないのだけども、こうした相手の中盤のマーカーの受け渡しはスターターではもっとうまくいっていただけに、交代をした後の粗が目立ってしまう結果となった。
ギャラガーにとっては受難の展開が続く。4失点目は再びセットプレーから。マッチアップ的な厳しさはあるのだがマンツーベースのCKである以上、ファーに走りこんだガブリエウを逃してしまったのはマーカーであるギャラガーの責任だろう。折り返しを仕留めたギョケレシュは3点目に立て続けにゴール。試合を一気に決める。
アトレティコの交代前後の猛ラッシュでアーセナルは完全に圧倒。試合のテンションは落ち着くことに。交代選手もここから先のことを見据える中で、取り返そうとするギャラガーが右サイドをフリーランで走り回っている姿が印象的だった。
13分間の猛ラッシュで一挙4得点を挙げたアーセナル。勝ち点9に伸ばし、8位以内の目安といわれる16まではあと7となった。
ひとこと
流れを掴んでからの畳みかけは見事。終盤までもつれる緊張感のある展開になることを覚悟していたアーセナルファンを13分で気楽にさせるのだから、この日のアーセナルは乗ったら止まらないという感じだった。
ただ、乗るための手段もかなり手広く用意していた印象。左サイドのルイス=スケリーの移動、右サイドのサカを軸としたユニット、トランジッションのスビメンディ、そしてセットプレー。ハイプレスとプレスバックを強固なDFユニットに乗せて相手の勝ち筋を削りながら、これだけの多様なプランを準備して実装するのだから見事。アトレティコのような力のあるチームを飲み込むような勝ち方には拍手を送るしかない。
それでも、今季の目標はあくまでタイトル。目の前の結果にバタバタせずにこの内容を積み重ねていくことだけを考えて1年間を過ごしていきたい。
試合結果
2025.10.21
UEFAチャンピオンズリーグ
リーグフェーズ 第3節
アーセナル 4-0 アトレティコ・マドリー
アーセナル・スタジアム
【得点者】
ARS:57‘ ガブリエウ, 64’ マルティネッリ, 67‘ 70’ ギョケレシュ
主審:ダビデ・マッサ