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レビュー
小泉で迷いを与えるが・・・
川崎に今季唯一残されたタイトルとなったルヴァンカップ。11月にタイトルを繋ぐためにはリーグで上にいる柏を倒さなければいけないという状況だ。
2週間前のリーグ戦では川崎が立ち上がりからハイプレスでワンサイドカットに成功。柏から見て左サイド側に追い込むことで柏のプレスを寸断した。
思い切り前から!という意識があった前回対戦とは異なり、川崎は4-4-2で構える形を重視。前からプレスのスイッチを入れる頻度は抑えめだった。柏のビルドアップの狙い目は河原の横。小屋松をファン・ウェルメスケルケンでとめた状態で、伊藤を前プレスに引き寄せればCHの脇は空くことになる。

柏はこの位置に降りる小泉からゲームメイクを敢行。斜めに裏を取る小屋松や対角のパスから左右に揺さぶっていく。河原からすれば目の前にいる原川を捕まえるかどうか、小泉を捨てに行くかは構造的には悩ましいところとなる。
しかしながら、川崎のプレスは前回対戦に比べると整理されていた印象だ。特に柏の右サイド側のローテーションには難なく対応。外切りのマルシーニョが切られたとしても背後に立つ山本のスライドと脇坂orエリソンのプレスバックから対応する。

逆サイドにおいても伊藤の前プレスのスイッチにファン・ウェルメスケルケンが呼応するなどフィーリングは良好。挟み撃ちをされていた河原も小泉と原川の天秤であれば、小泉の方に重きを置く形で優先度はつけやすかったかもしれない。徐々にミドルゾーンから前側で川崎がプレスを跳ね返す場面が増えていく。
そうした場合に柏は川崎の中盤の背後に立つ垣田から進撃をしていきたいところ。しかしながら、この日はその垣田のポストワークが不安定。そもそもウレモヴィッチのハードなマークに遭っていたが、そこを外せたときでもなお味方にパスがつながらずに川崎のカウンターに繋がってしまうケースがあった。
左サイドの小泉のところは構造的に浮くが、ミドルゾーンから先はやや不安定、右サイドはなかなかそもそもズレを作れない。縦に進撃をかました時の小屋松で深さを作る→ミドルシュートという形は持っていたが、どこからでも攻められるというモードにならなかったこの日の柏の立ち上がりだった。
一瞬の隙で裏を覗く山本
一方の川崎は右に流れるエリソンへのロングボールからスタート。しかし、立ち上がりは長いボールの供給が不安定なこともあり、きっちりと攻撃を繋ぐことが出来なかった。
だが、ショートパスの繋ぎから活路を見出した川崎。柏が右サイドに追い込んだところをウレモヴィッチ、佐々木でマイボールにしつつ仕切り直すと、脇坂のポストから逆サイドに展開していく。
ここから一気に進むと、川崎は山本のミドルから先制。跳ね返りが幸運な形でネットイン。プレス回避のメカニズムがうまく回った一発目から川崎は先制点を手にする。柏は脇坂のフリーランに釣られた結果、山本に足を振るだけのスペースを与えてしまったことが最悪の結果に繋がってしまった。
川崎の前進は脇坂、もしくは山本が浮くかにかかっていた感がある。ほんのわずかでもスペースが空けば、前を向いてドリブルを仕掛ける形でファウルを奪うか、もしくは裏への動き出しを狙うかのどちらかで前進に寄与。いつも背後のパスを狙うことを好む選手ではあるが、この日は特にその傾向が強く、前を向いたらまずは裏!という形から前線の選手を操っていく。
マルシーニョがあわやPKをもらったシーンなど縦に速く進むという方向性は柏を苦しめていた。エリソン、マルシーニョのファストブレイクから川崎はチャンスを作り出していく。柏はバックスにプレスをかける意識は高かったが、切れ目に入ったりあるいはサイドに流れたりする山本を捕まえきることはできず。ここから縦に速い攻撃を許してしまった。
追加点も切れ目に入った山本が起動した攻撃から。左サイドでエリソンが背後を取って仕掛けると、最後は後ろからプッシュアップしたファン・ウェルメスケルケンが攻撃を完結。強烈なミドルから追加点を呼び込む。ここもスーパーゴールではあるが、少し浮いた山本を起点に川崎は得点までたどり着いた格好だ。
2点リードになってから川崎はややラインを下げる形にシフト。ボールを奪った位置が多少下がっても、この時間帯であれば川崎は前線がロングカウンターを牽引することが可能。山本と脇坂に時間がもらえればなおさらだ。
サイドを取る形からハーフスペースに入っていく柏の形も川崎は先回りして封鎖。逆サイドへの展開に対しても2列目のプレスバックとCHの押し上げでミドルや縦パスを入れる形を作らせない。穴をふさぎながら相手を押し返すというところの両立ができていた時間帯といえるだろう。
柏にとって活路になりそうだったのはインサイドへの縦パス。川崎のCB陣は厳しく縦パスにもアプローチしていたが、30分が過ぎたところから徐々に柏は侵入に成功。垣田のポストからフリーの原川に落としが決まると、小屋松の抜け出しがウレモヴィッチの警告を誘う。
35分の馬場の侵入もその一種。後方にいるはずの選手が前方に入り込むことによって相手の守備に混乱をきたすパターン。このシーンはワンツーだったが、ドリブラー自ら列を上げる形もアクセントになっていたといえるだろう。
それでも柏のチャンスをシャットアウトした川崎。セットプレーから抜け出した犬飼のシュートは枠をとらえることが出来ず、川崎は2点のリードでハーフタイムを迎える。
大島が手渡した3点目
後半も試合の流れは同じ。ハーフタイムに3枚を交代した柏はポゼッションベースでのスタート。左右に振るフェーズを前半以上に丁寧に使い、ワイドが作り出した深さを中央でミドルを使って消費するというスタンスからチャンスを作り出していく。
川崎も前半と変わらずに前線の馬力を生かしたカウンターベースの戦い方に終始。プレスで柏を外に追い出しながらもボールを奪った後は素早くカウンターで広大なスペースをエリソンとマルシーニョで侵攻するという形で反撃に打って出る。
徐々に変化が出てきたのは後半が始まって10分近くたったころだろうか。柏のサイドチェンジに川崎はなかなかついていきにくくなっていく。小屋松はもちろんのこと、逆サイドに交代で入った山之内の存在も厄介。前半の柏ではあまり目立たなかった右の縦成分の登場に田邉、山本、マルシーニョはややマークの受け渡しをミスるシーンが出てくるようになる。
ボックス内で跳ね返す時間が続く川崎。三浦に代わりスクランブルで入った田邉の対空性能の高さが見られたのは朗報ではあるが、相手を押し出すことなしに埋める守備が続いてしまうと苦しくなってしまうのは必然。きっちり抉ってボックス内にスペースを作ってからクロスを上げる柏に対して、川崎は明らかに前半よりも失点の可能性が高まっていた。
そんな川崎の守備を決壊させたのは後方からドリブルで侵入した山田。前半の項にも書いた「後方からの侵入」を見事に体現するドリブルで川崎の左サイドの面々を置き去りにしたところで、川崎はいい形で受ける守備が出来ないことは確定。陣形が乱れたところに飛び込んだ小泉が公式戦2試合連続のゴールを決める。
さらに攻撃のカラーを強める柏。60分手前で入ったロマニッチは時折さすがのキープ力を見せる一方で流れを変えるには至らず。川崎は埋める守備を延々と強いられる危うい時間帯が続く。
長谷部監督は75分に交代回数を使い切る決断を敢行。左サイドの宮城に加えて大島と橘田を投入し、CHを総入れ替えする判断をした。この采配は勝負の分かれ目だったといえるだろう。もう一回前に押し出す守備をするには走り回らされているCHを入れ替えるしかない。
左サイドのユニットは見事にこの采配に応えた。ロマニッチが起動したハイプレスに2列目とCHが呼応することで敵陣でのハイプレスが復活。宮城がショートカウンターからチャンスを迎えたシーンは得点には直接つながらなかったが、等々力のサポーターが得点の匂いを感じるには十分だった。
そして、追加点に繋がった場面も敵陣のプレスから。大島が負傷しながら味方に手渡したボールを最後は伊藤が流し込んでリードを広げることに成功する。
大島が負傷した影響で最後は10人になった川崎。4-4-1ベースで時折宮城がWBに落ちる5-3-1を使うことで自陣をきっちりとプロテクトする。
数が減るというアクシデントを何とかしのぎ切った川崎。大きな2点のアドバンテージを手にして、日立台に乗り込むこととなる。
あとがき
やはり、この試合のポイントはクローズのところだろう。リードはしているが、押し込まれての失点で内容も苦しい。押し込まれた状況で相手に怖さがなかった湘南戦とも10人だろうと押し込める可能性がある相手だった京都戦とも異なるタイプの試合展開である。
アクシデントが引き金とはいえ、リードをしている中で75分に交代カードを使う采配はどちらにも転がりうる。そうした中で埋める守備から押し返す守備に転じて押し返す采配は見事のひとことだ。
押し込まれ続ける展開が続いたとすると仮に2-1のまま終われても柏に「ホームで逆転できる」という手ごたえを与えてしまう。点が取れなかったとしても最低限もう一回川崎が持ち直すというのがおそらく3枚交代に込められたシナリオだったはずだ。HTに多くの枚数の交代を行った柏はどこか後半で一息入るはずという予測も長谷部監督の背中を押す材料だったかもしれない。三浦と大島の負傷は残念ではあるが、等々力での90分はスコアで見れば最高の結果を引き出したといえるだろう。
試合結果
2025.10.8
Jリーグ YBCルヴァンカップ
Semi-final 1st leg
川崎フロンターレ 3-1 柏レイソル
U-vanceとどろきスタジアム by Fujitsu
【得点者】
川崎:10′ 山本悠樹, 23′ ファン・ウェルメスケルケン・際, 85′ 伊藤達哉
柏:62′ 小泉佳穂
主審:山本雄大