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レビュー
移動で乱す人基準
週2試合が本格的にスタートしたこの1ヶ月もこの試合で最後。アーセナルはシティ戦で引き分けたものの、それ以外の5試合では全勝。うち4試合はクリーンシートを達成している。ウェストハム戦を勝利で終われれば充実の1ヶ月という位置付けで問題ないだろう。
そのウェストハムは前節に監督交代を敢行。ソリッドでシャープな方向性を取り戻すヌーノという人事はウェストハムというクラブ目線では合理的なようにも見えるが、アーセナル目線から見ればエミレーツで5戦4勝という圧倒的な勝率を誇るポッターを回避できたことは幸運かもしれない。
立ち上がりはウェストハムがチャンス。ロングボールから前進すると、そこから生まれたセットプレーでフュルクルクがヘディングシュート。強く吹いていた風の影響もあったのか、珍しくラヤがハイボールの目測を誤ってゴールは無人。ウェストハムとしてはいきなり先制パンチを食らわせる大チャンスだった。
立ち上がりはバタバタしたアーセナルだが、いつも通りに自分たちを取り戻す作業を敢行。アンカーに入ったライス、ウーデゴールが列を下り、インサイドにカラフィオーリが入る形から前進を狙っていく。ウェストハムの守備は基本的には4-2-3-1ではあったが、降りる選手たちを深追いすることはせず、アーセナルの後ろに自由にボールを持たせていく。
アーセナルはサイド攻撃に枚数をかけて前進。ウェストハムはプレビューの通り、基本的には枚数をかけることで人に人をつける形で守っていく。CHは機会があれば最終ラインを埋める。例えば、ギョケレシュのケアでキルマンが前に出ていけば、フェルナンデスがDFラインに入ったり、あるいはハーフスペースに突撃した選手にマガッサが付いて行ったりなど、常に5バックというわけではないものの、DFラインの枚数を担保する形でカバーに入っていた。
そんなウェストハムに対して、アーセナルは移動で対抗。サイドにエゼ、ウーデゴールといった両IHが大外低い位置のブロックの外に顔を出して、相手のマンマーク気味の守備の様子を見る。
特に移動が刺さった感があったのがアーセナルから見て右サイド。人基準とはいえど移動が多い分、つく相手は都度変わっていった印象。先にあげた大外のウーデゴールは位置的な話をすればディウフが大外にスライドすべきだが、ディウフはサカをリリースすることに相当抵抗があった様子だ。

ディウフがサカに引っ張られることでアーセナルは変に浮く選手が出てくるため、ここからチャンスメイク。13分のシーンでは浮いたウーデゴールがエゼの決定機に繋がった形となった。
さらには最終ラインを埋めるフェルナンデスの強度も怪しい。ハーフスペースを埋めているのであろうが、マークしているティンバーを逃してあわや失点に繋がりそうな場面もあったくらい。アーセナルは主に右サイドのギャップ(左サイドもローテはしていたが)からチャンスを作り、序盤から試合を優勢に進めていく。
悩ましいパケタの役割
ウェストハムにとっては序盤の瞬間以外は苦しい立ち上がり。フュルクルクへのロングボールは孤立気味でやや捨てているのかな?と思うくらい雑なボールが多め。周りに人がいないので仮に競り合うことができても収めることができず。収まった後に反転した運べるボーウェンにロングボールを当てる方がまだ1人でやりようがあったように見える。
ということで引いて受ける局面の連続だったウェストハム。プレスを高い位置から行うアーセナルに対抗する機会を生み出すことができず、陣地回復の機会は限定的となった。それでもサイドをなんとかしなければいけないウェストハムはパケタをより厳しい受け方になったアーセナルの右サイド側に派遣してカバー。アンカーのライスが浮いてしまうことは捨てて、ボールが出た先のカバーに走る。
両チームにとって状況の変化に繋がったのはウーデゴールの負傷交代だろう。受傷してから交代まで時間が空いたが、その間ウーデゴールはプレスのスイッチ役を務めることができず。ウェストハムは無理せずにボールを運ぶことが少しずつできるように。サイドを攻め切ることはできなかったが、押し返すことで呼吸をすることはできるようになった。
アーセナル側にとって誤算だったウーデゴールの交代だが、ウェストハム側にも計算違いが生じたように見えた。狂わせたのは交代で入ったスビメンディである。パケタがサイドに注力することでスペースを埋めるという発想はアンカーがライスだからこそ。より配球力が高いスビメンディに対して、同じように放置をしていいかは難しいところ。ライン間に差し込むだけでなく、自らも高い位置を取り直して攻撃参加できるスビメンディは自由を与えると厄介な存在だ。
スビメンディの登場によりバランスが取れたかに見えたアーセナルの右サイド問題は再び混乱。そして、先制点はこちらのサイドから。サカをパケタが深追いした結果、浮いたスビメンディがエゼへの裏パスでディウフとフェルナンデスを置き去りに。最終的には古巣対決となるライスが押し込んだが、事実上はこの右サイドの攻略でウェストハムはどうなっても仕方ない状況に追い込まれたと言えるだろう。
やや押し込まれる時間もなくはなかったが、試合運びとしては相手のチャンスをシャットアウトしての先制点というのはほぼパーフェクトでいうことはなし。アーセナルは順調な前半を過ごした。
繰り返される右サイド侵攻
後半、ウェストハムはポゼッションから押し込んで行こうとするが、アーセナルはハイプレスを敢行しながらテンポを狂わせる。ボールを奪い返した後は自分たちのポゼッションからリカバリーを図っていく。
前半は右サイドの方が多かったアーセナルのサイド攻撃だったが、後半は左サイドにもフォーカス。ハイプレスをカットしたところからのトロサールの進撃や、ライスのポケット襲撃などから押し下げていく。単純な攻撃の側面だけなく、ボーウェンをサイドの深い位置まで押し下げるという副産物も含めて効果がある展開だった。
積極的にボールを奪い返そうとハイプレスを敢行するウェストハムだが、ファウルが多くなかなかクリーンにボールを奪い取れないシーンが続く。アーセナルは深さをとりながらあえて自陣にウェストハムのプレスを引き込むシーンも。縦に長くなった陣形の中でカラフィオーリが前と後ろのパイプ役として攻撃をうまく繋いでいた。
順調なアーセナルは再び右サイドの打開からゴール。再び浮いたスビメンディから先制点のエゼのように抜け出したティンバーがPKを奪取。このPKをサカが決めてリードをさらに広げる。ウェストハムとしては前半と同じ形での失点という非常に重たい形でのやられ方となった。
2点をリードしたことでアーセナルはプレータイム管理を優先した交代を敢行。連携しながらの前進はこれまでほどスムーズではなかったが、前線で体を張るギョケレシュによってアーセナルは陣地回復の手法は担保されていた印象だ。
90分手前には押し込む機会もあったウェストハムだが、わずかにあったチャンスを活かすことができず。問題なくクローズしたアーセナルが公式戦4試合連続のクリーンシートを達成した。
あとがき
多くの手札から押し切るこの試合のアーセナルは強く、同じ枚数を合わせたがっていたウェストハムの目論見を外していた。リバプールが負けたことで首位には立ったが、シーズンの一番最後にこの位置にいなければ今の首位など何の意味もない。今季のアーセナルは瞬間的な強さではなく、1年間このクオリティを維持できるかが重要。変わらないやるべきことを積み上げて、黙々と目の前の試合に取り組んでいくシーズンとして見守っていきたい。
試合結果
2025.10.4
プレミアリーグ
第7節
アーセナル 2-0 ウェストハム
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:38′ ライス, 67′(PK) サカ
主審:ジョン・ブルックス