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「もぎ取った2ゴールの意義」~2025.11.8 プレミアリーグ 第11節 サンダーランド×アーセナル レビュー

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レビュー

縦方向ダブルチームのメリット

 10月の頭から積み重ねてきた連勝とクリーンシートは8。快進撃を見せるアーセナルにとって11月のインターナショナルブレイク前に対峙するのはサンダーランド。こちらも昇格組として快進撃を続ける北部の雄。アーセナルにとってはアウェイ3連戦の最後の一戦となる。

 サンダーランドはここ数試合で見られている5バックを継続。アーセナルはボールを持つ側となるスタートとなる。まずはサイドで奥を取るアクションを見せるアーセナル。左サイドはトロサール-ライス、右はサカと流れるメリーノがコンビネーションを取りながら奥を取っていく。

 特徴として見られたのは右サイドのローテーション。サカがインサイドに入る動きとティンバーが右の高い位置を取るアクションをセットで行っていく形は徐々におなじみになってきたが、エゼやメリーノといったセンターラインの選手も右に降りながらサイドを押し上げていくのがこの日の特徴。まずは右サイドに安定してボールを供給しようという狙いがあったのだろう。

 サイドにボールを付けることができていたアーセナルだが、サンダーランドは帰陣が早く、自陣ではきっちり枚数が揃った状態で受けることができていた。特に右の大外のサカに対しては警戒が厳重。大外のヘイニウドに対して、SHのル・フェが後方待機する形のダブルチームを敢行する。

 こうした縦方向に2人を並べるダブルチームを敷いてくる相手はある程度1人目は抜かれる前提で陣形を組んでいるように思う。1人目を抜く際には大体はタッチが長くなるので、そのタイミングで距離を詰めてボールを刈り取ることができるという算段だ。1人がやるべきことは自分から進んで逆を取られないこと。2人目が奪ってくれるという割り切り方からきっちり抜かれる(もちろん止められるのであればいいけども)ことが重要だ。

 横並びのダブルチームの弱いところはエンドライン側からの突破のカバーに行きにくいこと。カットイン側に入り込まれる分には味方のカバーはしやすいが、エンドライン側からではカバーは難しいし、仮に出ていったとしてもボックス内のDFが動かされるケースが多く、リスクは高い。サカのような左右どちらにも入り込まれるアタッカーに対しては縦に並ぶ方があらゆる状況に対応できるかもしれない。

 その分、手前に陣取るSBをケアしにくいのが縦方向のダブルチームの難点。CHのサディクがスライドしてティンバーに出ていくことが多かったが、それでもパスを受けて出し先を探すくらいの余裕は持つことができていた。

 ただ、メリーノやエゼの重心が後方に寄っている分、サイドの奥を取る動きができなかったアーセナル。サンダーランドはマイナスの方向のパスにおいては圧力をきっちりかけていたし、サカとて2枚を一気に剥がすのは簡単ではない。ヘイニウド1枚であればファウルを奪うことはできていたので、大外から位置を移して1on1に持ち込んでのファウル奪取を敢行していた。

3人が縦に並ぶ定点攻撃

 押し込むアーセナルはセットプレーという副産物からゴールを狙いに行く。この日のプレースキックは直接ボックス内に入れるアクションだけではなく、短いパスを使いながら変化をつけていくやり方を見せていたのが印象的だった。

 ただ、アーセナルといえどもサンダーランドの守備陣は強固。総じて撤退守備をこじ開けるのはハードであり、チャンスはロングボールのセカンド回収や相手のパスミスなどトランジッションの成分が高いところに点在していた印象だ。

 サンダーランドは隙があればハイプレスに出ていくが、現実的にアーセナル相手に高い位置でボールを引っかけるのは難しい。よって、構えながら低い位置でスタートするカウンターで陣地回復をする必要があった。

 カウンターのキーマンとなったのはイシドール。ガブリエウ、サリバ相手でもそれなりにボールを収めつつ、トラオレの裏抜けという一発狙いの攻撃を成立することができていた。得点の可能性がそこまで高いプレーではないが、きっちりと敵陣に入り込む動線を引くことができたのは彼の安定したポストワークゆえだろう。

 イシドールのポスト以外にアーセナルの波状攻撃を抑える要因となったのは時折接触でプレーが途切れる点。結果的な話ではあると思うが、前半のATが9分になるくらい中断してしまうと、なかなか保持側のチームとしては押しこむ流れを作り続けるのが難しくなる。接触や負傷から流れがぶつ切りになることもアーセナルが圧力をかけ切れない一因となった。

 そうした流れの中で先制点を決めたのはサンダーランド。右サイドのロングボールを攻撃参加に出ていったバラードが押し込んで先制。アーセナルに久しぶりの失点を味わわせる。

 得点シーンはサンダーランドの選手が縦に重なる形で奥行きを作るのがハマった感。出し手も含めて3人の選手が縦に並び、真ん中の選手を囮として一番奥を使い、真ん中の選手は一番奥の落としを狙うというパターンでフリーになる形だ。

    バラードがあそこまで攻めあがっていたこととライスに先んじて動き出していることを踏まえると、あらかじめこの動きはロングボールでの得点の形として想定されていた可能性はあると思う。その根拠として、前半追加タイムにシュートを放ったシーンも真ん中の選手をムキエレにして同じような仕込みをしていた。いわゆるセットプレーの類のような仕込みでサンダーランドはアーセナルの守備網に穴をあけたといえるだろう。

 失点したアーセナルはややバタバタ。攻撃時でも相手のタイトなマークに苦しみ、ファウルをすることで流れを簡単に切ってしまう。長い追加タイムでもなかなかリズムを立て直せずにビハインドでハーフタイムを迎えることとなった。

息継ぎを咎めてワンサイドに持ち込む

 後半、アーセナルは保持でマイナーチェンジを敢行。サイドの攻撃の自由度を高めていく。右サイドで見られていたスビメンディを後方支援役としてティンバーが3人目として抜け出すようなアクションくらいの変化は今季これまでも見られたものではあった。

 より大きな変化を付けたのは左サイド側。ハーフスペースから抜け出したのはスビメンディ、ティンバー、サカなど。左サイドの選手ではなくセンターラインの選手の深い位置の選手や逆サイドの選手が顔を出していた。

    陣形を歪めながら攻めようとするバグを仕込んでいたアーセナルだったが、攻撃を完結することでこのバグを正当化。徐々にサンダーランドのボックス内の対応を苦しくしていく。

 それでもサンダーランドが呼吸をできていたのはバックラインから左右に揺さぶるポゼッションができていたから。保持局面に回れば自分たちの時間が作れるということで、一方的に攻められる展開を回避する。

 しかし、この「息継ぎ」を咎めたのがライス。降りてボールを受けたル・フェを潰すと、ここからのカウンターでサカが同点ゴール。見事にニアを打ち抜く一発回答でエースの貫禄を見せたといっていいだろう。

 後方でのビルドアップを咎められたサンダーランドは保持でもバタバタ。いよいよアーセナルはここから一方的に押し込む展開に。アーセナルがナローなスペースを攻略。右サイドではサカ、左サイドでは同数の相手でもタメを使いながら翻弄できるトロサールを軸にスモールスペースをこじ開けつつ、セットプレーからの勝ち越しゴールを狙っていく時間帯に突入する。

 サンダーランドは大胆な3枚交代で前線を総入れ替えしてエネルギーを注入。仕組み的にどうこうというよりは攻守にリフレッシュすることで流れを変えようと意識が見えた。

 54分の同点ゴールから流れを掴んだアーセナルは攻め切れないまま時間を過ごしてしまい、やや展開をサンダーランドに引き戻された感があった。しかし、そういう状況でもこじ開けられるのが今季のアーセナル。左サイドでボールを受けたトロサールは体重移動とカラフィオーリのフリーランを囮に使い、わずかに相手の重心をずらしてシュートコースを作ると、素晴らしい右足の一撃でゴールを生み出す。シュートの鋭さもさることながら、コースを作るための駆け引きでも完全にサディクを上回ったゴールだったといえるだろう。

 サンダーランドはヘールトロイダに代えてマイェンダを投入し5バック→4バックにシフト。先に入ったブロビーに加えて、前線の枚数を増やすことで敵陣でのパワーを増していく。

 アーセナルは徐々にサカ、ライス、スビメンディ(なぜかトロサールは最後まで元気だった)がバテてくる。前から追うことになれば間延びした中盤に縦パスを刺されるようになるし、プレスバックが間に合わなくなるケースもあった。

 84分のブロビーの決定機は実際には使われなかった大外に余っているサンダーランドの選手が1人。この場面を作られてしまっては間髪入れずにアルテタが5バックにシフトするのは無理もないだろう。アーセナルはモスケラを入れて逃げ切り態勢に入る。

 しかし、後半追加タイムにサンダーランドはパワープレーを完遂させる。スビメンディ、ガブリエウはそれぞれ体を寄せていたが、ラヤの飛び出しの判断のミスもあり、ボールはゴールの中に。

   激闘のスタジアム・オブ・ライトでの一戦は痛み分け。勝ち点1を分け合う形での決着となった。

あとがき

 前回、アーセナルが公式戦で失点したのはニューカッスルとのホームゲーム。ここ1か月半のアーセナルの失点はすべてタインウェア地方で喫したもの。非常に難儀な地域であることは間違いないし、そういうスタジアムでの試合を前半戦の内に消化できたことはポジティブかもしれない。

 先制点を入れられるという想定外の展開と苦しい前半をリカバリーした後半は手放しして素晴らしいといえるだろう。スモールスペースを攻略するためのバグの仕込みと、ハイプレスから相手の呼吸手段を奪い取っての2つのゴールはサンダーランドを窮地を追い込む地力の強さを見せたといえるだろう。後方から追っ手が迫ってくる状況ではどうしても失ったものばかりを数えてしまうが、手にした2つのゴールは奪い方も含めて強さを証明する意義が十分にあるものだと思う。

 中盤、前線の交代カードがあれば最終盤の結末は違ったかもしれないが、交代しないという選択も含めてアルテタの采配は理解ができるもの。前線に雑な時間の作り方ができるギョケレシュがいない状態だと、カラバオカップでプレッシャーがかかった状態のボールハンドリングに不安を見せたノアゴールを入れたくない気持ちはわかる。結果的に中盤の空中戦が欲しくなる失点になったが、それはまぁ後出しかなと思う。

 最後の最後で勝ち点を積めなかったのは残念ではあるが、今季のアーセナルは継続性勝負。2つ勝てない試合を続けないことは大事にしたい。大一番となるノース・ロンドン・ダービーに向けて爪を研ぎ澄ます2週間にしたい。

試合結果

2025.11.8
プレミアリーグ
第11節
サンダーランド 2-2 アーセナル
スタジアム・オブ・ライト
【得点者】
SUN:36′ バラード, 90+4′ ブロビー
ARS:54′ サカ, 74′ トロサール
主審:クレイグ・ポーソン

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