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「舗装された道の先」~2025.11.23 プレミアリーグ 第12節 アーセナル×トッテナム レビュー

プレビュー記事

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レビュー

5バック採用の狙いを読み解く

 土曜に開催されたプレミアでは上位勢が苦戦している第12節。アーセナルは勝てば2位に勝ち点差6をつけることができる。サンダーランド戦の引き分けで縮められた勝ち点を広げる大きなチャンスに迎えるのはノース・ロンドン・ダービー。エミレーツでのトッテナム戦での一番は重要な一戦となる。

 苦手としているエミレーツに5-4-1で乗り込むことを決断したトーマス・フランク。ただ、立ち上がりの姿勢を見ればベタ引きではなく、特にサイドにボールがあるときはスライドして前に出ていきたい姿勢が見える。

 シャドーのプレスの位置はややインサイドよりとなったトッテナム。5-2-3気味となった布陣に対して、アーセナルはティンバーが最終ラインに入る3バックから対角パスを駆使しつつ、WGがシンプルに勝負を仕掛けられる部隊を整える。

 一般論としてシャドーが前からプレスに行く5-2-3の弱みは大外のWBと相手のWGとのマッチアップにサポートに行きにくいこと。シャドーが前にプレスに行っている状態では、WGへのダブルチームや高い位置に出ていくSBを捕まえるのは難しくなる。そのため、左サイドのオドベールは右サイドのクドゥスに比べて、やや低い位置にとどまることが多かった。

 トッテナムのプレスは自陣では撤退型ローブロックを組みつつ、敵陣でボールを奪えたらいいな!という色気が見えるもの。よって、大きな展開で揺さぶられたときに主にサカへのダブルチームが間に合うかどうかが重要な指標になる。

 まとめると、高い位置で捕まえることができればトッテナムとしては最高。それができなければ、リトリート気味に構えてアーセナルにローブロック崩しを押し付けつつ、自陣を固めてロングカウンターに出ていくということができるかどうかがトッテナムの狙いということになるだろう。

 まず、ハイプレスに関してはほとんど機能しなかったといっていいだろう。この日のアーセナルもそうだが、最近ビルドアップに自信があるチームはあえて相手のプレスにかみ合うように(この日であれば3バック変形)DFラインの枚数を揃え、プレスをおびき寄せる傾向があるように思う。

 要は前に出てこられる圧力よりもコンパクトな陣形で縦パスを挟まれる状態のほうが嫌ということ。間延びした状態を作るためにむしろプレスには来てもらったほうが得ということになる。プレスをあえて誘い込む判断の基準は+1になるGKのビルドアップにおける貢献度と前に背負える選手がいるかどうか?ということになる。ラヤは+1としての貢献は当然期待できるし、この日はサカが相手を背負って収めることができていたので、アーセナルにはどちらの基準もクリアしていたということになる。

CHの背中活用が「ほぼすべて」

 相手のハイプレスを撃退したアーセナル。次なるステップはローブロックに対する攻略ができるかどうかがポイントとなる。序盤の動きは非常にシンプル。大外に立つサカをおとりにハーフレーンの裏抜けを狙っていく。

 しかしながら、シンプルにサカにボールを渡せれば問題ないと判断されたのか徐々に右サイドにボールを固める展開が続く。先に述べたようにトッテナムはハイプレスへの色気があった分、シャドーのプレスバックが間に合わず、サイドのフォロー用の枚数が足りないこととなる。

 そのカバーに出ていくこととなったのはCH。ベンタンクール、パリーニャの2枚は横に広く出ていくことを許容されており、サイドのカバーを頻繁に行っていた。

 端的に言ってしまえば、アーセナルがこのサイドに寄って来るトッテナムのCHを外し続けたことがこの試合のすべてといっても過言ではない。特に、前半においてはアーセナルが作ったチャンス、惜しいシュートはほぼこの形に当てはめることができる。

Step1. トッテナムのCHをサイドに引き寄せる
Step2. 右サイドから横パスを入れて外に追いやろうとするトッテナムのCHの背後をとる
Step3. トッテナムのCHがいなくなったバイタルからミドルorボックスにボールを入れて仕上げる

 アーセナルは延々とこの動きからチャンスを作り続けた。アーセナルの横パスでCHが背中をとられた後、トッテナムはボックス付近を誰が埋めるかが不明瞭だった。中盤より後ろがサイドに出ていったCHのスペースをどのように埋めるかはほとんど設計されていないといっていいだろう。1トップのリシャルリソンは献身的に下がってスペースを埋めようとしていたが、なおケアしきれていない状況だった。

 外にカジュアルに出ていくCHは3センターのようなノリで守っていたし、DFラインから出ていかないCB陣は4バックっぽいような持ち場を守る意識が先行していたように思う。総じて、トッテナムの5-4-1はそれぞれのポジションにおいて適切な振る舞いができていなかったように思う。

 バイタル付近でフリーマンを作ることができたアーセナルはここから大暴れ。先制点の場面は右のハーフスペースでマーカーを引き付けたティンバーがトリガー。下がってボールを受けたメリーノが狙いすましたラストパスを送ることができる時間を作り出し、トロサールのアクロバティックな先制ゴールにつなげる流れを作り出した。

 先制点以降、このスペースで暴れまわったのがエゼ。ライン間で前を向く状況は右サイドのタメによってできていたので、あとはフリーでできることを存分に発揮するため、ドリブルを挟みながらミドルゾーンでヴィカーリオを打ち抜くことで、前半のうちにアーセナルはさらなる追加点を決める。

 一方的な内容で試合が進むノース・ロンドン・ダービー。アーセナルは2点のリードを確保した状態でハーフタイムを迎える。

ゴール以外でも光るエゼの貢献

 文字通りの滅多打ちの内容で終わってしまった前半を受ければ、当然テコ入れは必要なトッテナム。リトリートにいつもよりも重きを置いていたであろう5-4-1は2点のビハインドのという状況においてはすでに用なしであることは明らか。ダンソに代えてシャビ・シモンズを入れることで4-2-3-1にシフトする。

 この変更の狙いは理解ができるものである。前半のトッテナムはアバウトなロングボールでの前進に苦戦。かといって自陣の深さを生かしたビルドアップにシフトしてもアーセナルのプレスに飲み込まれてしまう。左サイドで縦パスをレシーブする選手がいなかったのは5-4-1へのシステム変更の弊害だろう。強引に左サイドに顔を出していた右SHのクドゥスを見ても、おそらくこの役割は必要という判断なのだろう。4-2-3-1でその役割をトップ下のシモンズに託すというのは前進手段の確保という意味では非常に重要なものである。

 しかし、その一方でこの変更はアーセナルに前半からひたすら殴られ続けていた右サイドへの対策にはなっていない。CHに2枚で横幅を担保してもらうという変わらない構造は後半開始1分も経たないうちにエゼに再び活用されてしまうこととなる。アーセナルは3点目のリードを得ることで後半の頭のトッテナムの巻き返しの意欲をそぎおとす。

 後半開始早々のゴールでピッチをお散歩できればOKのムードにエミレーツを持って行ったアーセナル。だが、そのムードに水を差したのはパリーニャとリシャルリソン。ややボールを持ちすぎたスビメンディをハイプレスでパリーニャがつぶすと、そこからカウンターでボールを受けたリシャルリソンは素早くラヤの背後を狙うロングシュートで反撃。高い状況察知能力と技術を兼ね備えた一撃でアーセナル一色のムードに待ったをかける。

 リードをしている中でのミスがらみの一撃はダービーにおいては流れを変えうる厄介なもの。スキルの伴ったスーパーなシュートという点も追い上げにむけての燃料ということにもなりえる。

 失点直後のアーセナルはそれまでは見られなかったパスミスが出てくるなどバタバタしていたように思えた。だが、徐々にセーフティ寄りにパスの選択肢をシフトさせることで安定感を取り戻していく。

 特に大きかったのは60分付近のクドゥスのキャリーをつぶしたエゼの守備。ここで内と外を入れ替わられてしまった場合、この試合で一番の活躍をクドゥスに許してしまった可能性は高い。出ていった中盤(この場合はスビメンディ)のスペースを守備で埋め、その位置でこのような働きができるというのはアーセナルの前線においては必須スキル。流れを相手に渡さないために、絶対行かせたくない場面でエゼは大きな働きを見せた。

 失点以降、相手に渡した流れを細かいプレーで取り返していくアーセナル。徐々にテンポを取り戻すと、カウンターから追加点。トランジッションが増えてきた展開の中でリシャルリソンへのロングボールをインカピエが跳ね返したところからカウンターを発動する。

 メリーノのポストからのトロサールの裏へのパスはやや弱かったようにも思えたが、トロサールが前に大きくコントロールをすることで何とかスピードをキープ。左足ですかさずマイナス方向の選手を選択するリリースまでが非常に完ぺきな一連となっており、お膳立てとして芸術的なプレーだった。

 この折り返しをエゼが決めてアーセナルは再び3点差に。エゼはこれでハットトリックを達成する。

 シモンズがギャップでパスを受けることまではできていたトッテナムだが、アーセナルの4点目のようにスピードに乗った状態からゴールまでをよどみなく持っていくシーンはあまりなかった。スピードに乗ってもどこかで遠回りをさせられてアーセナルのローブロック攻略に移行させられてしまうなど、縦への速さは意図しない形で削られてしまった感があった。

 コロ・ムアニの投入による前線のツインタワー化は前半よりもオープンだった場においてよりダイレクトな攻撃を成立させるための一手だろう。ユナイテッド戦ではやや左流れが多い役割をリシャルリソンが担当していたが、この日はその役割はコロ・ムアニ。やや右側に立ってインカピエを背負う形をリシャルリソンが狙っていく。

 おそらくではあるが、この日のトッテナムの流れを考えればリシャルリソンに打開を託していきたいはず。だが、その目論見もはずれ。リシャルリソンとインカピエのマッチアップで敗れてしまったことでアーセナルの4点目につながるなど、逆に失点のきっかけとなってしまった。

 対策を打つトッテナムをことごとく上回ることに成功したアーセナル。わずかな揺らぎも試合の中で克服し、ノース・ロンドン・ダービー4連勝を収めた。

あとがき

 立てた対策を跳ね返して、前半のうちに元の陣形に戻させるという試合の流れはアーセナルとしては完璧。スビメンディのミスは確かに余計ではあったが、反撃を受けた状態からの流れを渡さなさは逆にアーセナルのスキのなさを裏付けるものにもなった。

 エゼのシュートはスーパーで理不尽だったが、ほかの選手のスキルの高さやチームとしての狙いたいエリアがクリティカルであることが最後の仕上げの前段でできていることでチームとしての強さは担保できていると考えられる。絶景が待つスポットに舗装した道を建設できているのが今のアーセナルである。守備で存在感を示したように、エゼがフィニッシュワークでの働きで貢献できていることも明らかに前向きな材料だ。

 プレビューでも触れた通り、フランクのトッテナムは強固なプレス態勢と守備をスタンダードに整えることで時間をかけてじっくり強くなっていくようなアプローチを仕掛けているように見受けられる。このダービーで仕掛けた5バックはその文脈からは外れたもの。強化の文脈を度外視してチャレンジしてきたライバルをへし折ったアーセナルは例年の11月とは異なる強さを見せている。

試合結果

2025.11.23
プレミアリーグ
第12節
アーセナル 4-1 トッテナム
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:36′ トロサール, 41′ 46′ 76′ エゼ
TOT:55′ リシャルリソン
主審:マイケル・オリバー

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