プレビュー記事
レビュー
リスク承知でのアンカーへのパス
どちらのチームもフォーメーションが読みにくいメンバー表となったこの試合。シンプルにライスをSBに入れたアーセナルと異なり、陣形までメスを入れたのはブライトン。CBを増やして5バックを採用。カラバオカップと同じくアーセナルには5バック！というスタンスを維持することとなった。
5バックを組んだブライトンではあるが、後方に陣形を重くするというよりはマンツー気味にハイプレスいくという形。プレビューでは「SBが内に絞ることで相手がついてくるかを探ってはどうか？」という旨を述べたが、実際のところズレを作っていたのは列落ちするウーデゴール。重心を落とした後はボールと一緒に進んでいく形でビルドアップを先導していく。
逆にブライトンの思い通りに行っていた感があったケースはSBを袋小路に閉じ込めることができたパターン。先に述べたようにこの日のアーセナルのSBは大外にフォーカスすることが多かったので、そこで縦を切りながら相手のプレスをくらうとなかなかハードという状況だった。
緊急起用となったライスはある程度仕方ないところもあるが、ルイス＝スケリーに関しては元々のポジションである上に、相手を引き寄せたところでのリリースがうまくいかず、単に球離れが悪くドリブルやパスをカットされてしまうケースが多かったのは気がかり。カラフィオーリの負傷に伴い、最近はチャンスが増えているが、なかなか苦しいところがある。縦への大きな展開で逃がす配球という点で光るものがあったのは確かだが、本来の彼の持ち味は今の時点ではなかなか出てきていないシーズンになっている。
ただ、繰り返しにはなるがサイドにボールを追い込まれてブライトンのロストに屈するだけでなく、中盤の司令塔を中心に散らすことでアーセナルはポゼッションから抵抗。ウーデゴールの降りるアクションに加えて、スビメンディが散らすところからプレスを回避する。
本来であればアンカー役が相手を背中に引き連れて降りてくる状況でボールをつけるのは御法度。しかし、ラヤは躊躇なくボールをつけるし、スビメンディはうまく捌いている。リスクがあるプレーであることは間違いないのだが、ラヤのつけるパスのコースや強度(速度よりはコントロールしやすさ重視？)、スビメンディの1stタッチのビジョンとキャリー能力の高さでアーセナルにとってはプラスになっている。今後このプレーでマイナスを吐くこともあるかもしれないが、マンツーを外す上で重要な武器になっていることは間違いないことは今のうちに頭に入れておきたい部分だ。
誘導通りか否か？
一方のブライトンの保持に対してアーセナルは強気のプレスでスタート。後方でこねるよりはブライトンは早めに縦に進んでいく手段をとっていく。WGと言えるキャラクターはこの日不在なので、ブライトンは前線のラターをターゲットにするケースが多かった。
ブライトンは前線に人を多く張らせて、セカンド回収からの縦に速い攻撃にかなり配置を設計したような形で攻撃を組んでいた。ただし、この形はリスクとも隣り合わせ。中盤がセカンド回収で前がかりになる分、セカンドボールの競り合いで負けてしまった場合は一気に加速を許してしまう。ウーデゴール、サカにボールが渡り、そこから一気にファストブレイクに行く。
ライスがSBに配置されてこのセカンドボール回収合戦に参加しなかったのはブライトンにとっては幸運だったが、それでもメリーノがいる分勝てないケースは多かった。このゲームプランは確実性があったとは言えないが、リスクを取ってでもこういう形で攻撃を組む！という落とし所だったのかなと思う。
アーセナルは途中からハイプレスではなく4-4-2のミドルブロックに構えることでブライトンのバックラインにボールを持たせる時間を作っていく。縦にパスを入れてブロックの中に入っていきたいブライトンだが、なかなかそのきっかけを掴めず。
要因となったのはアーセナルの守備だろう。本来、バックラインがプレッシャーを受けていないのであれば、ブライトンのCBは自由にパスをつけることができる。だけども、ウーデゴールは直接ボールを刈り取らなくても通されるコースを制限する。
そして、後方の選手たちはウーデゴールに合わせてポジションを細かく取り直し。縦パスを入れられたとしてもスビメンディは挟むことが想定できる立ち位置を取っていく。ブロックに入ってくる縦パスは1つのコースで想定できていけば問題はない。有効打になるときは下の図のように自分たちの想定とは異なるコースを通されてしまうこと。ウーデゴールの右を通されると決めたのであれば、左を通されてはいけない。
ブロックを組んだアーセナルはこの前線の誘導と後方のポジション修正が見事。ブライトンはCBが自由だったにもかかわらず、インサイドにボールを入れることができないという苦しみがあった。本来であれば強引なラターに向けた楔もこの日はほとんど見られなかった。ラターへのボールは背後へのボールが多く、このパスはアーセナルのDFにとっては一本道。背後を連携して問題なくカバーすることができていた。
ビルドアップの安定感でも差があった両チームだが、相手のミスに乗じたファストブレイクでも差が出てくる。アーセナルは右サイドのサカにボールをつけることができたら問題なし。特にデ・クーパーとの1on1をセットアップしやすい速攻では圧倒的優位。多少静止した状態からならやりたい放題という感じでサカはデ・クーパーを振り回す。
ブロックを組んだ局面であればブライトンはサカにダブルチーム。ただ、こうなってしまうとハーフスペースを背後に進んでいく選手と並行にサポートする選手の両方を咎めるのは難しい。これがここ数試合の傾向。14分のウーデゴールのシュートはまさにサカへのダブルチームを生かした形。躊躇なく足を振って得点を生み出した。
得点以降もブライトンはとにかくサカを止めることができず。対応が後手になるブライトンを尻目に延々と右サイドを中心にチャンスを作っていき、優勢のままハーフタイムを迎える。
わずかな隙間を通した意思
後半、ブライトンは2枚の選手交代を敢行。ミンテの投入は無理の効く状況でも打開できる攻撃の切り札。本来であればスターターから出るべき選手だが、直近の試合ではコンディションを落としていた。それでもこの試合では彼がいないと回らないと判断したのだろう。ウィーファーの右WBは前半にサカに歯が立たなかったデ・クーパーのところをカディオールで手当するという副次的な意味もあるだろう。
後半も似たような構図でありながらもブライトンは右サイドのミンテの馬力を生かすような形も探っていく形。正直、劇的な即効性はなかったものの、それでもいないよりは攻撃が成り立ちそうな予感があった。
ハイプレスからでもチャンスを作っていきたいブライトンに対して、アーセナルはスビメンディとウーデゴールコンビからの前進が成立。オウンゴールのきっかけになった直前の前進は見事の一言。保持から相手の心を折るようなプレーをしたいというプレビューで書いたテーマを見事に成立させたビルドアップ。
とにかくこの試合ではスビメンディとウーデゴールが抜群。前からのプレスに苦しんでのペースの失い方はなかったことは大きい。
ブライトンは苦しんでいたように見えたが、右サイドの細かいパス交換からアヤリがミドルをポストに当てると、そこからゴメスが押し込んで追撃。1点差に迫るゴールを決める。直後の押し込んだシーンのように本来はこのアヤリのシュートはブロックに阻まれることが多かったと思うが、わずかな隙間を通した意思が試合の流れを変えることに。
このゴールで一番大きかったのはミンテの目覚め。後半の勝負をわけたシーンでのシュートが決まっていれば最終スコアは違うものになっていたはず。腰を入れて枠に強いシュートを飛ばしたミンテも素晴らしかったが、この勝負はラヤの勝ち。アーセナルはリードをキープする。
終盤は押し込まれる場面もあったが、ウルブス戦のような中央を破られる形はなし。ジェズスの守備はブーストにはならなかったが、プレスバックで危険な位置を潰す危機管理能力は重要。高い位置から守備が機能しないことよりも中央低い位置でのロストが危険に繋がったのが気になった。
マルティネッリが素晴らしいパフォーマンスを見せた中で追加点が取れればもっと楽に進められたかもしれないが、試合は最小得点差で決着。アーセナルがブライトンを下して幕を閉じた。
あとがき
アヤリのミドルによって道を切り拓かれて苦しい思いをしたのは確かだが、試合運びとしては総じて悪くなかったのもまた確か。後方からのキャリーが安定している以上、相手にテンポを渡す形に引き摺り込まれるのはそこまで頻度が多くはならないと思う。
前半のようにボールを持たれても正しい誘導の仕方を繰り返していればピンチは増えないだろうし、ミンテやアヤリのスーパーなプレーがなければそう多くはゴールには迫られていない。ひたすら中央を破られ続けたウルブス戦に比べれば、悪くは無いアプローチはできている。完璧では無いかもしれないが、正しいプレーを都度積み重ねていきながら勝ち切っていく年末年始にしたい。
試合結果
2025.12.27
プレミアリーグ
第18節
アーセナル 2-1 ブライトン
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:14′ ウーデゴール, 52′ ラター(OG)
BHA:64′ ゴメス
主審:ジョン・ブルックス
