■全てはあの一撃のために
開幕節でサウジアラビア相手にまさかの失態を繰り広げてしまったアルゼンチン。ベスト16常連のメキシコとの一戦は負ければ敗退というプレッシャーのかかる一戦となる。メッシの最後のワールドカップをこんなところで終わらせないためにも勝ち以外は見えない一戦だ。
メキシコからすると非常に難しい位置付けの試合になる。最終節の相手のサウジアラビアはこの試合の前にポーランドに負けたことで勝ち点は3。アルゼンチン戦の結果がどうなろうと、最終節に勝つことができれば上回ることができる勝ち点である。現状、アルゼンチン相手よりも多い勝ち点を稼いでいるメキシコからするとこの試合の結果は引き分けでも悪くない。状況は複雑である。
立ち上がりのメキシコはアルゼンチンのビルドアップをサイドに閉じ込める意識が強かった。3センターは極端にスライドし、アルゼンチンを片側サイドに閉じ込める。
アルゼンチンはサイドチェンジを仕掛けることはあまりなかったこともあり、この閉じ込めに対して脱出することができず。メキシコは2トップが中盤とサンドしながらショートカウンターを発動し、アルゼンチンがボールを持つ局面をひっくり返すことでゴールを脅す。ロサノやベガなどの機動力が豊かなアタッカー陣のスピードを生かし、敵陣に迫っていく。
対するアルゼンチンはメキシコのプレスをひっくり返すどころか、自陣から出ることすら難しい状況。メキシコの勢いに飲まれてもおかしくない立ち上がりだった。
しかしながら、この試合のメキシコのプライオリティは「負けないこと」にあったように思う。立ち上がりに主導権を握った後は無理に深追いをすることをせず、ブロックを組むことを優先したように見えた。
メキシコのスタンスの変化によりボール保持を許されたアルゼンチンだが、配置になかなか苦戦する。左のWGをベースポジションとするメッシは当然立ち位置を守ることはない。彼はフリーマンである。加えて、右のWGのディ・マリアもフリーダム。縦横無尽とは言わないまでも右サイドの低い位置まで降りながらボールを受けにくることはかなり多かった。悩ましかったのはマック=アリスター。降りてくるメッシに対してかなり気を遣ったポジションを取る工夫を行っていた。ブライトンで様々なポジションを経験している彼を先発させたのはこの試合では結構良かったのかなと思う。
WGが低い位置を降りてきてしまい、高い位置のレシーバーが不在というのは前節のサウジアラビア戦の問題点と一緒。あの試合はラウタロが1人で最終ラインとの駆け引きをしながらあわやゴール!というシーンまで持っていくことができていたが、この試合はラウタロ自身の動きだしもなし。後ろ重心の状況を打開するための材料がなかった。引き分けでOKなメキシコ側もこうした状況を打開しようとすることがなかったため、日本のファンにとっては眠い目を擦り続けるような前半になったと言えるだろう。
後半、ようやく試合は動き出す。両チームとも高い位置から組み合うことが増えて試合は活性化する。アルゼンチンがバックラインからボールを繋ぎ、敵陣深い位置まで進むことができる状況は前半になかった形である。
マック=アリスターはようやく適性の位置を見つけた感がある。逆サイドからの展開を3センターの脇で受けて、大外のアクーニャとPA内の仕掛けの両睨みができる立ち位置を取ることに成功。ややサイドよりの位置からチャンスを作るポジションを確保できるようになる。
ただ、試合は活性化したといってもようやく敵陣までスピード感を持った攻撃ができるようになった程度。シュートが飛び交うなどのような両チームともに得点の匂いがする状況にはなってはいなかった。
そうした状況を打開したのはここまで沈黙を守ってきたメッシである。右サイドでボールを持ったアルゼンチンはメキシコの3センターの脇で待ち構えるメッシに横パス。ここまで存在感は皆無だったメッシは左足を一振り。これが先制ゴールとなる。
この一撃で明らかにスタジアムの空気は変わった。重たかった空気はメッシとアルゼンチンを後押しする雰囲気に一変。負ければおしまいというプレッシャーを背負っていたアルゼンチンのイレブンにとってはあまりに大きすぎる一撃だったと言えるだろう。
逆にメキシコはこの状況でうまくギアを入れ直すことができなかった。アウェイ感が増す状況で、この試合ここまでほとんどやってこなかった強引に得点を取りに行くアプローチを急に始めるというのは難しいだろう。あるいは得失点差の観点から考えても1-0であれば、最終節に突破の可能性を残しうる。メキシコ側がどう考えたかは難しいところであるが、いずれにしても「得点をとりにいく」ということを一枚岩になって実行できている感じはなかった。
リードを維持するアルゼンチンは左サイドから追加点をゲット。交代でアンカーに入ったエンゾ・フェルナンデスがハーフスペース付近から技ありのミドルシュート。この大会では珍しい長いレンジのゴールを見事に沈めてみせた。
メッシの一撃で明らかに変わったアルゼンチンの空気。アルゼンチンの望みを繋いだこのゴールは、この試合どころかこの大会のアルゼンチンにとってターニングポイントになるかもしれない。
試合結果
2022.11.26
FIFA World Cup QATAR 2022
Group C 第2節
アルゼンチン 2-0 メキシコ
ルサイル・スタジアム
【得点者】
POL:64′ メッシ, 87′ フェルナンデス
主審:ダニエレ・オルサト