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「Catch up Premier League」~ウェストハム編~ 2022-23 season

 ウェストハム、22-23シーズンの歩み。

目次

第1節 マンチェスター・シティ戦(H)

アタッカーのスピード感を生かす仕組みとライン間の凶悪コンビ

 立ち上がりに押し込む機会を作ったのはウェストハム。敵陣でのクロスからセカンドボールの回収+セットプレーで一気に攻め立てる。ウェストハムはある程度高さがあることもあり、シティとしてはややビビらされる立ち上がりとなったといえるだろう。

 非保持においてはミドルゾーンに撤退するウェストハム。CBにはボールをもたせておく形でウェストハムの前線は中盤をケアする。シティはカンセロだけでなく、ウォーカーも絞りながら中央に人を密集させるアプローチを実施。SBが極端に絞るアプローチは昨年のCSでも見たやつである。

   去年の仕組みはメンディに偽SBとグリーリッシュの大外を回る役割を両方任せるぜ!なんだけども、今年はより流動性重視。ロドリ、ウォーカー、カンセロの3人がポジションチェンジを繰り返しながら駆け引きを繰り返していく。

 大外のレーンをむしろ有効活用していたのはWGの方。SBがインサイドに絞る分、ナローになったウェストハムの2列目の外側からボールを引き取り、運びながらアタッキングサードに迫っていく。フォーデン、グリーリッシュのコンビは加速しながら大外を駆け上がるのは向いている。何よりハーランドのダイナミズムを生かすには、やり直しを繰り返すよりもこうした動的な形でエリアに迫る方がよいという設計なのかもしれない。

 だけども、この日のウェストハムは2トップの周りでいくら人が動こうと気にせずコンパクトを維持。無駄に食いついてしまって、間延びしてしまう悪い日のウェストハムではなかった。こうなると開幕戦で精彩を欠いたシティでなくても崩すのは難しい。ロドリを中央に幽閉された形でシティはウェストハムの4-4-2攻略に挑むことになる。

 しかしながらシティは早い段階で攻略策を見つけることが出来ていた。大外レーンを空ける手法に加えて凶悪だったのはギュンドアンとカンセロのコンビ。いくらやり直しはしないといっても間を受けるのに顔を出す能力はやっぱりほしいところだし、この2人は出し手としても受け手としても別格である。

    そして、ブロックを崩す決め手になったのはハーランドのスピードである。ギュンドアンのスルーパスを受けたハーランドはアレオラに倒されてPKを獲得。途中交代で入ったアレオラにとってはいきなり試されるようなきわどいプレーになってしまったのは不運である。

 得点が入ってしまえば、ウェストハムが敷く低い位置でのブロックの意味合いも変わってくる。ただただ受けるだけでは得点のチャンスは巡ってこない。かといって前からのプレスに無理に出ていけば、今度は幽閉していたロドリが解放されることになってしまう。交代とはならなかったが、アントニオが着地の際に膝を痛めたのも不運であった。

 とはいうものの、結局高い位置から出ていくことに決めたウェストハム。しかしながらこの決断でゲームの流れを引き戻すことができない。後半は明確に4-2-3-1から4-4-2に変更するが、明確な変化はなし。60分手前に入ったスカマッカにとっては厳しいデビュー戦となった。

 一方のシティは縦に間延びしたウェストハム陣内で悠々とパスをつないでいく。グリーリッシュも前半に輪をかけて躍動しているし、なによりもこういう状況はデ・ブライネとハーランドにとってうってつけ。この2人が手を組むとこうなります!というお手本のようなゴールで2点目をゲット。シティが試合を完全に決める。

 コミュニティ・シールドでは厳しい内容とするファンが多かったシティだが、この日のパフォーマンスは保持でゲームを試合するゆったりとしたペースと一気に試合を決めにかかるハーランド仕様の仕上げの緩急が非常に効果的。アウェイでの難敵の開幕をものともせず、白星スタートを飾った。

試合結果
2022.8.7
プレミアリーグ 第1節
ウェストハム 0-2 マンチェスター・シティ
ロンドン・スタジアム
【得点者】
Man City:36′(PK) 65′ ハーランド
主審:マイケル・オリバー

第2節 ノッティンガム・フォレスト戦(A)

悪い流れを咎めて23年ぶりの勝利を手に

 ともに初戦を落としてしまった両チームの一戦。フォレストにとっては今世紀初めてのプレミアのホームゲームということになる。

 立ち上がり、セットプレーからチャンスを作ったのはフォレスト。ニアカテの存在感は抜群で惜しい場面を作り出す。一方で本職のCBがいないウェストハムは高さがなく、セットプレーは苦しい形になる。

 ウェストハムは序盤はあっさりと前線に蹴っていた印象。ただ、そこから直線的にゴールに進むことはフォレストのバックラインは許さず。フォレストは前3枚がハメに行ってはいたが、リトリートが間に合っていたので、ウェストハムはうまく加速ができなかったということだろう。

 サイドに展開した際のウェストハムの出来は左右で非対称。右サイドはややつまり気味でなかなか打開策が見出せない。昨年よりもややボーウェンに元気がなさそうなのは気がかりである。一方の左サイドはベンラーマが好調。彼がタメを作り、クレスウェルがクロスを入れる形でフォレストの守備陣を苦しめる。

 フォレストの反撃の手段はカウンター。ウェストハムのサイド攻撃がまごついたこともあり、フォレストは反撃の機会は十分得ることができた。WBの積極的な攻撃参加も光っており、早々にエリア内に放り込みながらチャンスを伺う。

 ただ、このクロスのタイミングがやや早かったように思う。エリア内の準備が整っていないうちにクロスを上げてしまったりするシーンが散見されており、ウェストハムからすると簡単にボールを捨ててくれたなという印象である。

 お互い一長一短な展開だったが、前半終了間際に流れを変える出来事が。アントニオがウェストハムがネットを揺らした場面でボールと関係ないところで相手を突き飛ばしゴールが取り消しになる。直前に判定にフラストレーションを溜めていたことがおそらく要因なのだろうが、あまりに稚拙なプレーだ。

 得点のチャンスをフイにしたウェストハム。悪い流れを断ち切るためにとりあえずハーフタイムまで逃れたいところだったが、それを許してくれないのがプレミアリーグ。珍しくボールをゆったり持てたフォレストは左サイドのトフォロに展開。カットインからエリア内に侵入するとフリーのリンガードが放ったシュートを最後はアウォニイが決めて前半追加タイムに先制点を挙げる。

 ウェストハムはトフォロへの対応がまずかった。ソーチェクとライスがサイドに流れてしまったことでエリア内でのタイトさがなくなってしまった形。トフォロを潰せなかったのは痛恨であった。

 後半、反撃に出たいウェストハム。左右にじっくり相手を振ることができればフォレストの非保持は穴が開く。これは前に3枚を残し、2CHで横幅を対応しようとしているため、じっくりやればやるほどきっちり穴を開ける仕組みになっている。

 しかし、試合は速いテンポがメインに。どちらのチームもチャンスを迎えるが得点には至らない。フォレストはオフサイドによってゴールが取り消しに、ウェストハムはハンドで得たPKをライスがヘンダーソンにストップされる。この試合ではヘンダーソンは大活躍。前日にデ・ヘアが散々だった次の日にこれ。これもいかにもプレミアである。

 なんとかゴールを手繰り寄せたいウェストハムだが、交代選手が流れに乗れず攻撃の勢いは停滞。非保持においても、フォレストの空中戦に対してズマ以外のバックラインが苦戦。跳ね返しての波状攻撃にスムーズに持ち込むことができなかった。

 要所で流れに乗るチャンスを逃したウェストハム。悪い流れの隙に漬け込んだフォレストがホームでおよそ23年ぶりのプレミアでの勝利を挙げることに成功した。

試合結果
2022.8.14
プレミアリーグ 第2節
ノッティンガム・フォレスト 1-0 ウェストハム
ザ・シティ・グラウンド
【得点者】
NFO:45+2′ アウォニイ
主審:ロベルト・ジョーンズ

第3節 ブライトン戦(H)

2節分を反映したような内容

 立ち上がりからペースを握ったのは無敗で来ているブライトン。ここまで流れをつかめていないウェストハムはまずはボールを持たせる形で伺う。トップ下のフォルナルスがアンカーのマック=アリスターをマークし、ブライトンのCBにはそこまで深追いをしない。

 ブライトンはマークを受けているマック=アリスターの周りの人を流動的に動かしながら助けに行く。前進の手順としてはまずは3バックからマック=アリスターの隣に入る人に縦パスを入れる。ブライトンがすごいのはもう一つ先でのパスまで見据えていること。2列目が降りることで空けた穴を通すところまではプランとして持っている。

 ウェストハム相手でも縦のパスから逃げない姿勢はさすがという感じ。本来であればインサイドが堅いウェストハムはサイドから溶かして行きたくなるところではあるけども、縦にパスを入れてもきちっと刺すことができておりブライトンの質の高さが窺える。おそらく、縦にパスを入れるタイミングを見計らうまでバックラインで下準備を整えられる根気強さと、縦方向にもギャップを作れるウェルベックやララーナの受け手のスキルの高さが大きいのだろう。

 ウェストハムはブライトンのパスワークのミスから一気にカウンターしか攻め手がない。高い位置からのミス待ちがなければボールの捕まえどころがちっとも見つからない。

 ボールもペースも握ったブライトン。勢いそのままに先制点を獲得。抜け出したウェルベックに対してケーラーが引っ掛けてしまいPKを献上する。ケーラー、ちょっとプレミアの洗礼を受けた感じ。スピードについていけず、出した足が届かなかった。

 後半のウェストハムは徐々にペースを取り戻す。ボールを握り、押し込む機会が増えたおかげで、サイドからのクロスでブライトンのエリアに迫っていく。だけども、エリア内での攻撃は全てブライトンのDFのシュートブロックが間に合っていた印象。ウェストハムはなかなか相手の思惑を外せるような動かし方ができない。

 圧力を高めていくウェストハムだったが、得点のチャンスまでは至らず。その隙に追加点を奪ったのはブライトン。グロスの神ポストで落としを受けたトロサールが一気にゴールまで迫っていきシュートを打ち抜いてみせた。

 交代選手が入ったウェストハムは前線の連携がチグハグで選手を入れ替えるほど機能性は低下。わずかなチャンスもサンチェスの好セーブに防がれてしまい万事休す。

 ここまでの2節の内容を反映したような展開でブライトンがウェストハムに干渉。ウェストハムはここまで3試合無得点全敗という昨年のアーセナルと同じ苦しい開幕3試合になってしまった。

試合結果
2022.8.21
プレミアリーグ 第3節
ウェストハム 0-2 ブライトン
ロンドン・スタジアム
【得点者】
BHA:22′(PK) マック=アリスター, 66′ トロサール
主審:アンソニー・テイラー

第4節 アストンビラ戦(A)

オープンな後半に流れを引き戻し連続記録はここでストップ

 ここまで唯一の全敗チーム。しかも今季ここまで無得点という苦しみを抱えているウェストハム。今節の相手はこちらも調子がなかなか上がらないアストンビラである。

 ウェストハムはこの試合においては3-4-3を採用。シャドーの2人は非常にナローなポジションを取るのが特徴で、ポストプレーに長けたスカマッカのそばにシャドーをおきたい狙いが見えた並びである。

 ウェストハムの守備は3-4-3~4-4-2~5-3-2の中間くらいのフォーメーションであり、結構陣形は流動的。しかしながら、プレスのスイッチが不明瞭なのが微妙なところ。WBが高い位置から捕まえにいくトライをしているものの、それに呼応して周りがパスコースを潰すなどの動きがない。そのため、アストンビラはホルダーがプレスには苦しむが、周りの選手がボールを受けるのに困ることはないという状況になった。

 アストンビラの保持はアンカーのカマラ、IHのルイスとCB2枚でボールを前に進めていきたいところ。だが、保持が左サイドに偏っている感じは否めず。さらにはこちらのサイドで深さを作れるラムジーや長いフィードを蹴ることができるミングスが不在だったため決め手に欠ける事態に陥る。

 ワトキンスやコウチーニョなどビラの左サイドは流れながらチャンスメイクを行なっていく。ただ、ワトキンスが流れる場合はエリア内に人が足りなくなる場合も多く、ビラは人員確保に苦戦した印象だ。それでもスカマッカとボーウェンのコンビネーションが数えるほどしかなく、WBの攻撃参加の有用性が見えてこないウェストハムよりは出来は悪くはなく、ペースは握っていたと言えるだろう。。

 迎えた後半、ベンラーマを投入したウェストハムは4バックにシフトして勝負に出ていく。このシステムがむちゃくちゃハマったか?と言われると難しいところ。というのも後半はやたら互いに危険なロストをかまし合う展開に。プレッシャーがかかってミスをするというよりは相手がいるところにパスを出してカウンターを食らうというなんとも気の抜ける状況が多い試合となった。

 そうした中で決定機を活かせないのがボーウェン。FKのカウンターから迎えた絶好期をはじめ、数多くのチャンスを得るがボールタッチとプレーの判断が遅く、ビラの守備陣が戻る時間を与えてしまう。

 それでも前半のビラペースから試合はフラットまで引き戻された感がある。そうした均衡を破ったのはウェストハム。左のハーフスペース付近に侵入したフォルナルスが右足で振り抜いたシュートは相手に当たりそのままゴールポストに吸い込まれた。

 なんとか8月ノーゴールを免れたウェストハムはここからビラの攻勢に耐えることに。特に右のベイリーのカットインからのクロスと左の大外で攻め上がるディーニュのコンボにはだいぶ手を焼いた。

 それでもギリギリ逃げ切ったウェストハム。無得点と未勝利という悪き連続記録に歯止めを欠ける今季初勝利を迎えることになった。

試合結果
2022.8.28
プレミアリーグ 第4節
アストンビラ 0−1 ウェストハム
ビラ・パーク
【得点者】
WHU:74′ フォルナルス
主審:デビッド・クーテ

第5節 トッテナム戦(H)

調子の上がらないソンとボーウェン

 前節ようやく今年初めての勝利を挙げることが出来たウェストハム。今節の相手は未だ負けなしのトッテナム。ここまでの戦績はやや対照的な両チームによるロンドンダービーである。

 ウェストハムのアプローチはCBにボールを持たせるという王道のトッテナム対策。ただし、ローブロックで組むのではなくミドルブロックで踏みとどまりラインはある程度高めに設定する。

 CBにボールを持たせることを許す分、CHにチェックは厳しくかけていくウェストハム。降りていくトッテナムのCHにライスがプレス隊を越えて最前線までプレスに行く姿もしばしばみられていた。

 トッテナムは中央から進めないため、外を迂回しながらのボール回し。左サイドのペリシッチを軸とした崩しから先制点を狙っていく。

   が、やはりこのチームの最大の脅威はカウンター。先制点は3トップのコンビネーションを生かした滑らかなカウンターが起点だった。カウンターに対して最後にOGという貧乏くじを引いたのはケーラー。PK献上といい、なかなか苦い加入序盤となっている。

 先制点を奪ったトッテナムはその勢いでウェストハムのゴールに迫る。だが、追加点を奪えない。ブレーキになっているのはソン。どうしても今季は決定力のところで波に乗ることが出来ずに苦しんでいる。

 対するウェストハムは左SHのフォルナルスのところからボールを引き取り一気に加速していくシーンが増えていく。アタッキングサードにおける攻略方法はミドルが主流。トッテナムのブロックに阻まれて仕上げの部分で苦戦する。

 ビハインドで迎えたウェストハムは大外からSBのオーバーラップを使いながら押し込みつつ攻撃を行う。トッテナムはそれに対して高速カウンターで対抗する。得意な形で早々と引き離したいのが彼らの目論見だろう。

 しかし、その目論見を打ち破って見せたウェストハム。アントニオのポストから抜け出したソーチェクが押し込んで同点に。スローインからのリスタートを有効に使ったウェストハムが追いついて見せる。

 ウェストハムはフォルナルスをWB気味に下げて5バックの迎撃に移行。トッテナムをローラインで迎え撃つように。トッテナムは右サイドの裏から放り込みを狙うがなかなかクリティカルなチャンスにはならず。今季好調なホイビュアからの縦パスが封じられているのが苦戦の一因だろう。

 カウンターに移行したウェストハムはなかなか厚みがある攻撃が出来ずに苦しむ。トッテナムはソンが不調だが、ウェストハムはボーウェンの調子が上がらない。フィニッシュの精度を欠き、今季はなかなか得点に絡めない。

 パケタをデビューさせたウェストハムはここからギアをあげて再び積極的なプレスに。保持に耐性のないトッテナムを苦しめながらゴールに迫る。両チームともゴールを打ち抜くチャンスがあった終盤戦。だが、いずれも得点に結びつくことはなく、試合はそのまま終了。ここまでの戦績でいえば対照的なのロンドンダービーは痛み分けに終わった。

試合結果
2022.8.31
プレミアリーグ 第5節
ウェストハム 1-1 トッテナム
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:55′ ソーチェク
TOT:34′ ケーラー(OG)
主審:ピーター・バンクス

第6節 チェルシー戦(A)

奥行きを作り出したチルウェルと灰色のジャッジが明暗を分ける

 なかなかブレイクスルーが掴めないチェルシー。この試合ではマウントとハフェルツを外すという荒療治と2トップ型の5-3-2のような布陣でウェストハムを迎え撃つ。3センターの関係性は左のIHに立つコバチッチは低い位置をとり、右のIHのギャラガーは比較的高い位置をとる左右非対称の形となっていた。

 ウェストハムのバックラインに対して、チェルシーは早い位置から捕まえに行きたい姿勢を見せる。だが、ややマーカーが定まっていない感じがあり、ボールホルダーに対して距離が遠くなってしまう状況が続いており、なかなか前から捕まえきれない。かといってウェストハムもそれを有効利用できているわけではないのだけども。

 ウェストハムは2トップで前から守備に行くよりも、中盤を噛み合わせる状況を優先。新加入のパケタはロフタス=チークをマークするタスクを命じられた。

 この中盤のマンマークに対して、チェルシーはスターリングなど前線の選手を中盤に落とすことでアウトナンバーを作りながら対応する。ライン間にボールを預けることができたチェルシー。だが、そこからサイドにボールを逃すとその先が詰まる。サイドのフォローが少し足りない分、いつもより攻め方が淡白な感じを受ける。

 ウェストハムも攻め手が見出せずに苦戦。序盤は左サイドに流れるアントニオのロングボールを軸に攻めて行ったが、だんだんと跳ね返されるように。パケタがもう少しカウンターのスイッチになれれば面白いのだが、そこはまた今後という感じだろう。

 前進が難しくなったなら、ハイプレスでなんとかしたい!というところ。だが、前から行けば行くほどチェルシーにあっさりボールを運ばれてしまうというジレンマにハマってしまっているように見えた。

 膠着している試合を動かすのは大きなミス、セットプレー、もしくはスーパーゴールのどれかであることが多い。この試合ではセットプレー。CKからのすったもんだからアントニオがこじ開けてウェストハムが先制する。

 リードを得たウェストハムはフォルナルスを最終ラインに下げる5バックで守る機会を増やす。つまり、ここからはチェルシーのブロック破壊チャレンジとなる。

 攻略のキーになったのはチルウェルだ。手前で引き取る動きが多いククレジャに比べて、奥行きを取る動きが多いチルウェルはこの試合にあっていたかもしれない。裏を取る動きから華麗な身のこなしを見せて同点弾を生み出す。

 逆転ゴールの立役者もチルウェル。追い越す動きを繰り返して局面を動かすとラストパスでインサイドにグラウンダーのパス。マウントがニアで潰れた先にいたハフェルツが決勝ゴールを決める。

 だが、直後にコルネが反撃ゴールを挙げてウェストハムが同点に追いついた。かと思いきや、これはメンディへのファウルでまさかの取り消し。個人的には今季ここまでのプレミアの中のナンバーワンでアレなジャッジである。同点ゴールを取り上げられたウェストハムは非常に大人な対応だったのが不思議なくらいだ。

 何はともあれ逃げ切ったチェルシー。まぁ、これがトゥヘルのプレミアラストゲームになるとは誰も思わなかったわけだけど。

試合結果
2022.9.4
プレミアリーグ 第6節
チェルシー 2-1 ウェストハム
スタンフォード・ブリッジ
【得点者】
CHE:76′ チルウェル, 88′ ハフェルツ
WHU:62′ アントニオ
主審:アンディ・マドレー

第8節 エバートン戦(A)

ようやくつかんだ初勝利で反撃態勢に

 共に今季は序盤から苦しんでいるチーム同士。両チームの勝利数はここまで足してわずかに1。何とか今季初勝利を挙げたいエバートンと降格圏から脱出したウェストハムの一戦が第8節のトリを飾る。

 どちらのチームも立ち上がりから過剰なハイプレスは行わなかった。エバートンは4-3-3、ウェストハムは4-2-3-1と両チームのシステムは微妙に違ってはいるが、中盤を噛み合わせながらトップまで深追いしない形はどちらも共通しており、大まかなコンセプトは同じであったといえるだろう。

 ただし、設定したプランに対しての強度は両チームにやや差があった。中盤がタイトでなかなか自由を許してくれなかったエバートンに比べると、ウェストハムのプレッシングはやや緩慢さが目立つ。エバートンの選手は保持時に中盤で自在に反転することが可能で、簡単にフリーになることができた。そのためサイドチェンジから敵陣深くまでお手軽に進むことができた。

 エバートンはワイドアタッカーを軸に、サイドでトライアングルを形成。裏抜けやペナ角付近のクロスなど敵陣に近い位置で攻撃に打って出ることが出来ていた。

 押し込まれることが多くなったウェストハムの攻撃は自陣の深い位置からスタートすることが多かった。バックラインはエバートンと同様に、ある程度幅を取りながらビルドアップする姿勢を見せていたのだが、とにかく蹴りだすタイミングが早い。アントニオの左流れなど前進のパターンもないわけではなかったが、前線が好調とは言えない今季において前にとりあえず任せる!というやり方は少し厳しいように思える。

 エバートンはトランジッションにおいても上々。特にイウォビの出来は日々向上しており、完全にエバートンに欠かせない存在になっている。タメから時間を作るプレーはもともとうまかったが、今季は攻撃をスピードアップさせるのもうまい。

 後半に生まれた先制点はまさにこのイウォビの良さが出た場面。ポジションの取り直しからフリーでボールを受けると攻撃を加速させて最後はモペイ。加入後初ゴールは貴重な先制弾となった。

 リードを奪ったエバートンは保持で時間を稼ぎながら時計を進める余裕が出るように。交代も中盤色が強い選手が増えていき、試合を落ち着かせる方向に進んでいく。

 ウェストハムは後半早々の落ち着かない時間帯でなんとか点を奪いたかったはず。しかし、落ち着いてしまってからは前進の術と仕上げのところで決め手にかける状態に。

 再びウェストハムにチャンスが出て来たのはコルネが入ってダイレクト志向が強まった時である。それでもチャンスを決めることができないウェストハム。なかなかボールが回ってこないスカマッカのイラ立ちはこの試合のウェストハムを象徴しているといえるだろう。

 スコアだけでなく内容も相手を上回ったエバートン。4試合連続ドローという沼から脱する今季初勝利。ここから反撃態勢に転じたいところである。

試合結果
2022.9.18
プレミアリーグ 第8節
エバートン 1-0 ウェストハム
グディソン・パーク
【得点者】
EVE:53′ モペイ
主審:マイケル・オリバー

第9節 ウォルバーハンプトン戦(H)

CBとのミスマッチを最大限に活用

 前節のシティ戦で勝ち点よりも貴重なCBを退場で失ってしまったウルブス。コリンズはここから3試合の出場停止。本職以外でCBを賄っていくウルブズのやりくりが今節からスタートする。今節、CBに選ばれたのはネベス。ジョニーとキルマンをワイドに置く5バックのような形も想定されるメンバーだったが、セメドをSHに置く4-4-2のような形だった。

 ウルブスのプレッシングは強烈ではないが、ミドルゾーンよりは前で我慢するような形。強度はそこそこ、ラインは高めと言った感じだった。ウェストハムは窒息させられる感じはしなかっただろうが、下手こいてボールを引っ掛けてしまうことはあったので、ウルブスにチャンスがないわけではなかった。

 サイドからクロスを上げる形からチャンスを作りたいウルブス。ポジションを入れ替えながら攻撃の形を作りにいくが、抜け出す選手を作ることができず、なかなかチャンスまで辿り着かない。独力で突破できるネトの負傷も痛手であろう。

 守備面でもウルブスは苦しい。CBに抜擢されたネベスは早々に警告。次節はチェルシー相手に累積警告で出場停止。早い時間で追い込まれた今節も出ることができない次節も厳しいやりくりになる。

 ウルブスのCBが本職ではないということでウェストハムは多少アバウトなボールを入れても前進することができた。スカマッカがこの試合でポストをしまくったことは相手との力関係を考えると、どこまで鵜呑みしていいかは微妙なところ。それでも、背負ってのポストからのターンが安定していたのは間違いない。

 先制点の場面もスカマッカのポストから。大きな展開で右のボーウェンまで展開すると、折り返れたスカマッカが撃ち抜いてゴールを決めてみせる。押し込んで、ローラインに追い詰めてもスカマッカへのロングボールで一気にひっくり返されるのがCBに本職がいないウルブスの悲哀である。

 後半にウェストハムは追加点をゲットした。後半から4-3-3に変更するウルブスを歯牙にもかけず前進。ブロックの外から打ったシュートが、ボーウェンの前に落ちたボールを押し込んで追加点をゲットする。今季不振に喘いでいたボーウェンにようやく結果がついてきた。

 反撃に出たいウルブスはここから攻勢に。ウェストハムは撤退ベースになると、やや危うさが出てきたのでウルブスにもチャンスはありそうなものだった。しかしながら、この日デビュー戦だったコスタは決定機をものにすることができず。押し込みつつもゴールに向かう迫力ももう一声といった感じで、得点力不足は未だ健在と言った様子である。

 下位で苦しむ中堅対決はウェストハムに軍配。CBとのミスマッチを活かしたスカマッカがウェストハムを勝利に導いた。

試合結果
2022.10.1
プレミアリーグ 第9節
ウェストハム 2-0 ウォルバーハンプトン
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:29′ スカマッカ, 54′ ボーウェン
主審:ポール・ティアニー

第10節 フラム戦(H)

二者択一だった主人公

 前節はエバートンに力負けし、なかなか不振を脱出できないウェストハム。今節の相手は開幕からの快進撃が少しトーンダウンしつつあるフラムである。

 試合の立ち上がりは今季ここまでの両チームの勢いを反映しているかのようだった。序盤こそウェストハムはボビー・リードがSBを務めるフラムの右サイドを狙ってはいたものの、徐々にフラムが反撃に出るように。密集に突っ込むウェストハムをロングカウンターで跳ね返してチャンスメイクする。

 その先鋒となったのがアンドレアス・ペレイラ。この日はカウンター時の運び屋となっていたケバノからボールを引き取ると、角度のないところから一気に撃ち抜いて見せた。

 このスーパーゴール以外にもフラムのロングカウンターは冴えていた。ウェストハムの攻め終わりをポジトラで突くと、一気に敵陣深くまで侵攻。チャンスを作り出していた。

 フラムはビルドアップでもウェストハム相手に攻め手を十分に見つけることができる。バックラインからの持ち運びやSBのオーバーラップなど、消極的でプレスをしてこないウェストハムの前線を押し込み続けることができていた。

 ウェストハムはライン間で前を向くパケタや左に流れるライスからチャンスを作ってはいたが、劣勢の状況は否めない。チャンスにおいてもスカマッカがヘディングシュートを決めることができず、ウェストハムは停滞感が漂う。

 その流れを変えたのが1つのPK判定だ。ドーソンを掴み、主審から注意を受けて明らかに目をつけられていたペレイラがそのままドーソンを引き倒しPK判定。そりゃそうだろ。これをボーウェンが決めて同点に追いつく。

 いいムードでボールを保持できていたフラムだが、このプレーで一気に試合は意気消沈。ウェストハムに対して急に有効打を打てなくなってしまった。

 後半もペレイラショックのチグハグ感から脱出できないフラム。徐々にライン間で存在感を発揮するパケタを中心にウェストハムが攻め込む機会を増やしていく。しかし、スカマッカがなかなか試合を決める決定機を沈めることができない。

 こうなると、ペレイラとスカマッカのどちらかが試合を決めるのがプレミアリーグが描きそうな台本である。二者択一の主人公候補から選ばれたのはスカマッカ。ゴールを決めた瞬間の本人の喜びのなさとその後のOFRを込みで「絶対ハンド」と見ている全員が確信したのだが判定はゴール。正直者には女神が微笑むということなのだろうか。これでウェストハムがリードを奪う。

 攻め込みたくて前がかりになるフラムに対してモイーズが送り込んだのはアントニオ。左サイドから裏を取る形で無限に陣地回復を続けるアントニオにフラムは非常に手を焼いていた。

 後半追加タイムには抜け出したアントニオがダメ押しゴールで試合は完全決着。いい試合の入りを台無しにしたPK献上で流れを失ったフラムは痛い連敗を喫することになった。

試合結果
2022.10.9
プレミアリーグ 第10節
ウェストハム 3-1 フラム
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:29′(PK) ボーウェン, 62′ スカマッカ, 90+1′ アントニオ
FUL:5′ ペレイラ
主審:クリス・カバナフ

第11節 サウサンプトン戦(A)

CB不在も内容は「勝ちきれなかった」

 前節、フラムと対戦した時のズマとドーソンが並ぶウェストハムの布陣を見て「ケーラーがSBに戻ることができるくらいCBに人がいて良かった」と胸をなでおろしてから一週間。今節のウェストハムのDFラインはクファル、ジョンソン、ケーラー、クレスウェル、エメルソンと見渡す限りのSBである。ってかよくこんなにSBいたな。

 というわけで非常事態感がとても強いウェストハムは3-4-3でサウサンプトンを迎え撃つ。こちらもチームとしてはなかなか上昇気流に乗れないサウサンプトン。今節の並びはメイトランド=ナイルズをアンカーに据える中盤ひし形の4-4-2である。

 序盤、ボールを持つことになったのはホームのサウサンプトン。ウェストハムのプレスは控えめ。もともとプレスをかける意識が強いチームじゃないし、その上このバックラインである。サウサンプトンにとりあえずボールを持たせる判断は妥当といえるだろう。

 サウサンプトンのボール保持はなかなか難儀なものだった。バックラインの横パスが延々と続き、なかなか縦にボールを入れるタイミングを見つけることができない。ボールを持つことは出来ていたが、ポゼッションを局面打開にスムーズにつなげられたかはまた別の話である。

 それでも右サイドはウォーカー=ピータースを軸に複数人の連携で奥を取ることが出来ていた。中央ではアダムスが奮闘し、ウェストハムのDFライン相手にポストや裏抜けで起点となる。

 そうした中央から右寄りの奮闘を得点につなげたのは左サイドの選手だ。プローのミドルはやや力のないものではあったが、ファビアンスキの守るゴールに吸い込まれて先制点をゲット。中央に絞ってのフィニッシュに貢献する。ウェストハムのボーウェンが主審に邪魔されたという意見も理解はできるが、ソーチェクのクリアミスが大きく響いたことは認めなくてはならない。

 失点後にボールを持てるようになったウェストハムは相手の守りが手薄なワイドから奥行きを作ることが出来た。しかしながら、こちらも安定したポゼッションではあるが、大外からだとアタッキングサードに攻め込むクオリティには疑問符が残る。

 むしろ、ウェストハムが好機を見つけられそうだったのはスカマッカやパケタなどのアタッカー陣に縦パスが入った時。ポストから前を向く選手を作り、急戦的に攻めることが出来たパターンの方が可能性を感じることができた。スカマッカのポストからパケタなんてシーンはこの試合のチャンスメイクを象徴しているかのようだった。

 後半はさらにウェストハムが攻勢を強める。パケタの裏抜けで立ち上がりからゴールに迫ると、ボーウェンを旗手としたカウンターやベンラーマ投入での4バック移行など次々と攻撃の手段を披露する。

 同点弾を呼んだのはベンラーマ。深さを作るドリブルでサウサンプトンのラインを押し下げるとミドルシュートをライスが決めてスコアを振り出しに戻す。

 なかなか後半はゴール前まで向かうことができないサウサンプトン。ハーゼンヒュットルは怒りの4枚替えを発動するが、それでも打開が個人頼みになってしまっているのは否めず、流れを引き戻すことができない。

 同点弾後もシュートを重ねていたウェストハムも最後の一伸びを欠いて結果はドロー。バックラインに人が揃わなかったウェストハムだが、この試合はあと一歩で勝ちを逃した試合といえそうだ。

試合結果
2022.10.16
プレミアリーグ 第11節
サウサンプトン 1-1 ウェストハム
セント・メリーズ・スタジアム
【得点者】
SOU:20‘ プロー
WHU:64’ ライス
主審:ピーター・バンクス

第12節 リバプール戦(A)

2人のストライカーの特性を存分に生かす

 ディアスに続いてジョッタも離脱。リバプールの前線の事情はだいぶ苦しいことになってきた感じがある。欧州カップ戦も掛け持ちしているというハードな状況において、かなりやりくりが難しくなってきたのは否めない。

 一方のウェストハムはズマがCBに復帰。今節はダウンズが中盤に入る形での少しアレンジを加えたフォーメーションでアンフィールドに乗り込む。

 ウェストハムのフォーメーションは4−3-3と4-4-2のハーフアンドハーフという感じ。非保持においてはボーウェンを前に残す4-4-2のような形の方が多かった。カウンターを見据えてボーウェンを前に出しておきたいということもあったのかもしれない。

 しかしながら、ウェストハムは非保持における4-4-2の形が歪。前に出ていく意識はあるものの、前後が分断気味になってしまいライン間をコンパクトに保つことができない。かつ、2トップはキーマンであるチアゴを管理することができないという厳しい状態に。ライン間が空いてくると輝いてくるのはフィルミーノ。相手が生み出した隙をつく達人であるフィルミーノに縦パスを入れてリバプールは前に進んでいく。

 もう1人のFWであるヌニェスも好調だ。バックラインのチアゴはダイレクトな裏へのパスでヌニェスを走らせながらゴールに直線的に向かうアプローチも敢行。ボールコントロールには難があるが、とにかくゴールに向かう力がとても強い男にはぴったりのアプローチである。

 持ち味を生かすことができた2人のFW。先制点を決めたのはヌニェスの方だった。チアゴが展開した左サイドからのクロスに合わせてウェストハムのゴールをこじ開けて見せる。

 リバプールに比べるとウェストハムはアタッカーの持ち味を生かすことができなかった。ボールを大事にする意識が強かったこの日のウェストハムはスカマッカにはボールを入れるチャレンジがそもそもなかなかできない状態に。基本的には触ってナンボのストライカーは完全に孤立してしまった。

 ウェストハムはより手薄なサイドの攻略に挑むが、この日のリバプールはエラーになることも多いアレクサンダー=アーノルドも食らいつきながら守る。前半終了間際にチャレンジが遅れたことで献上したゴメスのPKもアリソンがセーブ。追いつくことを許さない。

 後半、試合のテンポを上げていくウェストハムだがリバプールはフィルミーノを指南役としたハイプレスで対抗。カウンターのスピード感も十分でウェストハムに得点の隙を与えない。

 停滞感の割にはモイーズはアントニオの投入が遅かった感がある。74分に投入したアントニオで推進力を得ると最後の力を振り絞りリバプールのゴールに向かうウェストハム。左サイドを攻略したベンラーマから生まれた決定機はソーチェクのゴールをアリソンが阻んで得点には至らず。

 ストライカーの特性を活かして先制点を得たリバプールが2試合連続でMOM級の働きを見せたアリソンの貢献で逃げ切りに成功。公式戦3連勝で本格的な反撃の態勢に入った。

試合結果
2022.10.19
プレミアリーグ 第12節
リバプール 1-0 ウェストハム
アンフィールド
【得点者】
LIV:22′ ヌニェス
主審:スチュアート・アットウェル

第13節 ボーンマス戦(H)

上位互換でボーンマスを飲み込む

 ここまで見てきたように今節のカードはやたらと打ち合いが多いが、このカードは4-4-2での睨み合いという様相。悪戯に前からプレスをかけてこない相手に対して保持側がどうズレを作っていくかの勝負になったと言えるだろう。

 ボールを持つことになったのはウェストハム。しかしながら彼らはそこまで配置でズレを作るタイプのチームではない。よって、序盤はシンプルに背負いながら剥がすチャレンジを行う。しかしながらこのやり方はボーンマスには通用せず。力技では剥がせないことは立ち上がりすぐにわかった。

 ということで上下動を始めるウェストハムの面々。スカマッカ、ボーウェンなどの前線の選手が降りて受けることで、相手のマークがどこまでついてくるかを探る。

 ボーンマスの選手たちは降りていく選手にはついていくのだけど、上がっていく選手に関しては割と無関心。よって、ウェストハムは元のフォーメーションから縦関係の立ち位置を入れ替える形が有効だと判断。ボーウェンとジョンソンが逆に動くことでフリーの選手を作り出すことに成功する。

 一方のボーンマスはなかなか長いボールが刺さらない。ウェストハムは段々と縦パスに対して落としを拾う選手を準備することができていたが、ボーンマスはなかなかできていなかった。この部分で両チームには前進の精度に差があったと言えるだろう。

 サイドのドリブラーの質、前線のキープ力も含めて全体的にウェストハムはボーンマスの能力値の一回り上。似たような組み方のチーム同士の対戦は戦力差がくっきり出るという法則で、ウェストハムが優位に立つ。ボーンマスはネト、ソランケというセンターラインの主力を負傷欠場で失ってしまいさらに苦しくなることに。

 先制点は前半終了間際。セットプレーからズマがゴールをゲット。試合の流れを反映するように優勢だったウェストハムがハーフタイム前に均衡を破る。

 後半も流れは大きくは変わらず。ボーンマスはウェストハム相手に試合を能動的に動かすことができる手段がない感じ。リードしたウェストハムは前進を強引にする必要もないので、前に進まないポゼッションをのんびりできることもボーンマスにとっては悪い話だったと言えるだろう。ウェストハムはやばくなったらボールをあっさり捨てる割り切りも見せていた。

 ミドルゾーンで選手が捕まり、ロストが多いボーンマスはいつものように保持からリズムを作ることができない。ウェストハムの下手なロストで巡ってきたチャンスもカウンターでスピードアップがろくにできず。なかなかゴールに迫ることができない。

 長いボールが収まるスカマッカを軸にウェストハムは後半にポゼッションの時間を増やしながら相手のプレスを回避する。ボーンマスは逆転のきっかけをなかなか掴めない。

 一点が遠く、ウェストハムのゴールをこじ開けられないボーンマスは後半追加タイムにゼムラがハンドでPK献上。ベンラーマがこれを決めて完全決着。上位互換となったウェストハムがボーンマスを下し、勝ち点の確保に成功した。

試合結果
2022.10.23
プレミアリーグ 第13節
ウェストハム 2-0 ボーンマス
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:45′ ズマ, 90+2′(PK) ベンラーマ
主審:デビッド・クーテ

第14節 マンチェスター・ユナイテッド戦(A)

鉄壁のCB陣と「ラスボス」がゴールに鍵をかける

 ウェストハムはエリクセンのロストからベンラーマがチャンスを迎え、マンチェスター・ユナイテッドはダロトのクロスに入り込んだラッシュフォードに得点機。両チームの名前だけ見るとやや堅い入りになるかなと思ったが、立ち上がりから互いに決定機を迎える慌ただしい展開になった。

 マンチェスター・ユナイテッドは負傷者の影響とサンチョの温存でいつもと異なりWGが大外で仕掛ける形がほぼなかった。インサイドでストライカータスクを背負うラッシュフォードと斜めのランで相手のDFラインと駆け引きをするエランガの2人はアントニーとサンチョとは異なったタスクを背負っていたと言っていいだろう。

 その分、幅を取るのはSB。特に右のダロトの機を見たオーバーラップは効果的で、マンチェスター・ユナイテッドの攻撃のアクセントになっていた。

 一方のウェストハムはそのダロトの裏を狙うベンラーマがカウンターの急先鋒だ。加速力のあるドリブルで一気に陣地回復をする。ただし、周りがオーバーラップについてこれていなかったという部分もあるけども、球離れがいつもより悪いのは少し気になった。

 ウェストハムは保持においてもスカマッカのポストからの前進も。マンチェスター・ユナイテッドはいつもに比べると明らかにプレスの強度は抑えめ。大勝負となる木曜のソシエダ戦にある程度戦力とエネルギーを温存しているように見える節もあった。

 それでも30分を過ぎれば主導権を握ったのはマンチェスター・ユナイテッド。前半を通して攻めの機会は明らかにマンチェスター・ユナイテッドペースだったが、前半の終盤はさらに攻勢を強めた印象だ。

 そして、先制点もこの時間帯。右サイドからブルーノ・フェルナンデスとのパス交換から一瞬の隙を作り出したエリクセンがクロスを上げる。これをラッシュフォードが決めて均衡を破る。この試合ではなかなかチャンスを決められなかったラッシュフォードだったが、ようやく結果を出した形だ。

 後半は両チームとも得点までやや物足りない印象だった。マンチェスター・ユナイテッドは大きな展開から敵陣に迫っていくが、スモールスペースの攻略で詰まってしまう分、決定機まで向かうこともできない。ウェストハムもなかなかカウンターをゴール付近まで届けることができずに苦戦する。

 流れを変えたのは交代選手。アントニオの投入から攻勢を強めたウェストハムは終盤の主導権を握る。しかし、立ちはだかったのはマンチェスター・ユナイテッドの最終ライン。リサンドロ・マルティネスはほぼエリア内で相手を完封し続けたし、スタメン発表時は不安要素だったマグワイアも安定した守備で相手の壁になり続けた。

 そして、なんと言ってもデ・ヘアである。至近距離からの素晴らしいコースのシュートをことごとくファインセーブ。持ち味である超反応を生かしてウェストハムに立ちはだかるその姿はさしづめオールド・トラフォードのラスボスといったところだろうか。

 バックラインの奮闘でリードを守り切ったマンチェスター・ユナイテッド。上位追走のために貴重な勝ち点3を手にすることに成功した。

試合結果
2022.10.30
プレミアリーグ 第14節
マンチェスター・ユナイテッド 1-0 ウェストハム
オールド・トラフォード
【得点者】
Man Utd:38′ ラッシュフォード
主審:クリス・カバナフ

第15節 クリスタル・パレス戦(H)

二度の停滞感に抗ったパレス

 開幕から続いていた底を脱しつつあるウェストハムと強豪との連戦を抜けてようやく戦績が安定してきたクリスタル・パレスのロンドン・ダービーである。

 普段着はどちらもゆったりしたプレッシング。そんな中でも気合が入っていたのはクリスタル・パレスの方。いつもであれば、中盤が前線のプレスにヘルプに来ることはあまりないのだけど、この日はIHに起用されたオリーズがやる気満々。前からのプレスに加わっていく。

 時間を奪いにこられたウェストハムはやや慌てつつもポゼッションから解決策を模索。ただ闇雲にボールを放り込むだけでは、スカマッカを頂点とする攻撃ユニットは機能しないということだろう。確かにその認識は正しい気がする。スカマッカのポストを使うための縦パスを入れるコースを探しながら、ウェストハムは後方からポゼッション。ポストが入れば裏のボーウェンから一気に加速する。

 しかし、こうした縦パスはあまり多くは見られず、実際はボールを捨ててしまうポゼッションが多かった。先制点となったベンラーマのミドルはトランジッションの産物。ミドルを防ぐように立つことができなかったドゥクレにとっては悔いが残るプレーになってしまった。

 一方のパレスのポゼッション。ウェストハムのプレッシングは普段通りの緩やかなものだった。狙いとなっていたのは右サイド。オリーズを軸にした右サイドに人数をかけながらウェストハムの陣内を侵食していく。逆サイドはミッチェルがボーウェンの裏からボールを運べた時にチャンスメイクができていた。

 だが、ベンラーマのミドルが決まって以降はやや攻撃が単調に。アタッカー陣はドリブルなどを引っ掛けるようになってしまい、テンポを掴むことができない。

 その流れを変えたのがプレッシング。エゼがケーラーからボールをかっさらってそのままラストパス。エースのザハに渡ったボールはそのままゴールに蹴り込まれることに。停滞感があった中でゴールを決めて、パレスが前半のうちに追いつく。

 後半、ウェストハムはアントニオを投入して反撃に出る。正確なポストができるスカマッカから、ゴリゴリのアントニオへのシフトチェンジはアバウトであろうととりあえず前に収める機会を増やそうぜ!という意思表示だろう。

 しかしながら、ウェストハムの面々はそのオーダーに応えたとは言い難い。アントニオを入れてなお、前線にボールを入れるのに躊躇する場面が目立っており、なかなかボールを前に入れるトライに踏み切ることができない。

アントニオがようやく存在感をみせたのは80分。抜け出しからあわやPKをもらいかけた場面。OFRの末に主審はPKを認めなかったけども。

 アタッカーがより元気なパレスは後半も主導権を握る。なんなら後半の方がより支配的にウェストハムのゴールを脅かし続けたと言っても過言ではない。前線への信頼度は相当なもので、この試合のヴィエラは前線のメンバーを最後まで変えなかった。

 後半の頭はそれなりに得点チャンスがあったパレスだが、前半と同じく徐々に停滞し仕掛けが単発になっていく。このままドローで終了かと思われた矢先に試合を決めたのはオリーズ。放ったミドルが幸運なリフレクトからゴールに吸い込まれる。

 ヴィエラが最後まで信じた前線が期待に応えた後半追加タイム。2回の停滞感を打ち破ったパレスが土壇場で勝利を掴み取った一戦となった。

試合結果
2022.11.6
プレミアリーグ 第15節
ウェストハム 1-2 クリスタル・パレス
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:20′ ベンラーマ
CRY:41′ ザハ, 90+4′ オリーズ
主審:ポール・ティアニー

第16節 レスター戦(H)

らしさが滲み出てきたレスターがカウンター2発で完勝

 フォーメーション上ではレスターは4-3-3のような形だが、非保持においてはデューズバリー=ホールを1列上げる4-4-2のプレッシングを行う。そのため、どちらのチームも保持に回った時は4-4-2を攻略する手段を模索する試合となった。

 トップのプレスは過度ではないけども、バックラインはどちらのチームも降りる動きに対しては比較的強気でついていく。よって、降りる動きに合わせてつけられるパスには厳しく咎められる両チーム。久しぶりの出場となったトーマスも早い段階でインターセプトからチャンスを作れたため、自信いっぱいでプレスをかけられたと思う。次のプレーでは張り切りすぎて裏取られていたけども。

 裏をとるという部分で言うとどちらも左サイドから光を見出せていた。アマーティとカスターニュの間が空いていることが多かったため、そのサイドから逆サイドのボーウェンが裏を狙う!みたいなこともあった。

 しかし、結果を出したのはレスターの方。中盤でのこぼれ球を拾ったスマレから左サイドの裏を一発でとるバーンズへのパスでカウンターを発動。逆サイドまで展開し、最後はマディソンが沈めて先制点を奪い取る。

 ウェストハムのアンカーの管理が怪しかった分、裏を狙うために起点にしたい中盤でフリーの選手を作ることができたのはレスターの方。その分、きっちりと優勢に試合を進めた印象で、前半終了間際にはダカの抜け出しからPKを獲得する。しかしながら、これはファビアンスキがセーブ。ティーレマンスは絶好のチャンスを逃してしまう。

 流れに乗るチャンスを得たウェストハムだが、なかなか攻撃が活性化せず。特にスカマッカのポストを軸にした攻撃ができず、アタッキングサードにおける解決策が見つからない。

 レスターが後半早めにティーレマンス→ンディディの交代を実施した結果、重心がだいぶ下がったため、ウェストハムは押し込む機会を得ることになった。だが、固められた中央ではスカマッカを活かしたポストはできず。さらにはサイド攻撃もフォローが少なく、SBが孤立する形になってしまう。こうなるといい形でエリア内に入れるのは難しく、単調なハイクロスに注視することになってしまう。

 ボール保持をなんとか頑張りたいウェストハムはソーチェク→フォルナルスの交代を実施。しかしながら、交代で入ったフォルナルスのパスミスから、レスターがロングカウンターを発動。最後はバーンズが決めて試合は決着する。

 先発も交代メンバーでの修正も得点に結実しなかったウェストハム。ビルドアップの引き出しが増えて徐々にロジャーズらしさが見えてきたレスターとは対照的に苦しい状況が滲み出る敗戦となってしまった。

試合結果
2022.11.12
プレミアリーグ 第16節
ウェストハム 0-2 レスター
ロンドン・スタジアム
【得点者】
LEI:8′ マディソン, 78′ バーンズ
主審:ジャレット・ジレット

第17節 アーセナル戦(A)

幅を使った振る舞いで逆転劇を呼び込む

レビューはこちら。

「選択肢を突きつけるベン・ホワイト」~2022.12.26 プレミアリーグ 第17節 アーセナル×ウェストハム レビュー

ウェストハムは2列目のベンラーマが出てきていたため、アーセナルはベンラーマの背後を狙っていく。いつもであれば、右サイドまでクリーンにボールを運べばサカを軸に攻め切ることは容易なのだが、この日はウェストハムの左サイドの守備の粘り強さが際立った。ベンラーマのプレスバックの速さとクレスウェルとの受け渡しのうまさも良かったし、ライスのカバーも際立っていた。

得意のサイドからの攻撃はなかなか実らなかったアーセナルだが、その分狭い中央のスペースでの崩しでウェストハムを脅威に陥れる。主役になったのはウーデゴール。いつも以上に視野の広いパスで裏抜けのパスから決定機の演出を連発。立ち上がりのサカがネットを揺らした場面(判定はオフサイド)や、ジャカの裏抜けにあと一歩パスが合わなかった場面など一撃必殺のパスをいくつか決めかけていた。

細かいパスワークに注力するアーセナルに比べると、ウェストハムの攻撃はロングボールを主体とした対照的なものだった。アントニオ、ソーチェクなどロングボールのターゲットは中央やや右サイド寄りに流れる形を作り、ティアニーにつっかけていく。ボールを収めたあとはボーウェンにボールを渡して突破を託す。

ボーウェンから出てくるクロスは対面の相手を振り切ってからのニアの早いクロスと抜き切らないファーへのハイクロスの2択。縦に速い攻撃ではあったが、クロスに対しては逆サイドのベンラーマが必ず間に合っていたのが印象的だった。

ロングボールからウェストハムは先制点のチャンスを得る。アントニオがロングボールを収め、落としを受けたボーウェンが抜け出す。対応が遅れたサリバのタックルがPK判定に。ウェストハムはベンラーマがこれを決めて先制する。アーセナルはアントニオにスッと収めさせたところから歯車が狂ってしまった。

前半の終盤はやや狭いスペースの攻略に固執した感があったアーセナルだが、後半は再び幅をとりながら自在に攻撃を仕掛けていくように。同点弾は右サイドからインサイドに入り込む形でカットインしたウーデゴールから。一度幅を取ることでライスが開いた分、アーセナルはインサイドにウェストハムの選手がいない状態で攻め込むことができた。

ウーデゴールのシュート性のボールはサカの足元に。自分の方に飛んできたシュートを見事にコントロールしたサカは冷静にシュートを左隅に沈めてみせた。

勢いに乗るアーセナルは一気に逆転弾まで。左サイドから抜け出したマルティネッリが角度のないところから強引にファビアンスキのニアサイドを撃ち抜いてみせた。

両ウイングの得点に乗っかるようにエンケティアも3点目を決める。ポストで背負った状態から反転をし、強引にゴールまで持っていく姿はまさしくストライカー。ジェズス不在の穴を埋める活躍を見せた。

ビハインドでボールを持って崩さなくてはいけなくなったウェストハムは終盤には手詰まりに。ボール保持から相手を動かすことができず、プレスに行ってはアーセナルにスペースからの進撃を許してしまう悪循環に。逆転までは苦労したアーセナルだが、リードを奪ってからは首位らしい試合運びで再開初戦を勝利で飾った。

ひとこと

ジェズス不在の命題を解決できるかどうかに対して、ひとまず明るい材料が見えたのはアーセナルにとって大きい。あとはより深い時間で威力を発揮する交代策を携えることができるかどうか。ウェストハムは敗れはしたが、ソリッドな守備からのロングカウンターという本来のスタイルに復調の兆しが見えたのは良かった。

試合結果

2022.12.26
プレミアリーグ 第17節
アーセナル 3-1 ウェストハム
エミレーツ・スタジアム
【得点者】
ARS:53′ サカ, 58′ マルティネッリ, 69′ エンケティア
WHU:27′(PK) ベンラーマ
主審:マイケル・オリバー

第18節 ブレントフォード戦(H)

完勝に影を落とす懸念

18節のオープニングを飾るのはウェストハム×ブレントフォード。年末年始の3連戦は全てブレントフォードからその節が始まる時間割になっている。

どちらのチームもフォーメーションは3バックを採用。前節のアーセナル戦とややテイストを変えてきたのはウェストハムの方である。トップのスカマッカとリンクする選手を増やすためか、1トップ+2シャドーのコンビネーションを使いやすい3バックをモイーズは選択した。

実際、ウェストハムの攻撃のルートもスカマッカを生かしたもの。彼のポストから同サイドで前を向く選手を作り、細かいパス交換を繰り返していく。ロングボールを軸とした前節とは異なるテイスト。保持の時間もウェストハムの方が長い状態で試合は推移していくことになった。

一方のブレントフォードはトニーとムベウモへのロングボールを軸に。左サイドに流れていくFWにボールを当てるという方向性は前節と一緒。やり方を変えてきたウェストハムと対照的なアプローチでこの試合に臨むこととなった。ややテイストを変えてきたのはむしろ非保持の方。プレッシングを強力に行っていた前節とは異なり、迎え撃つ形でウェストハムの保持を受けるシーンが多かった。

ボールを持つ時間が長かったのはウェストハムの方だが、先制したのはブレントフォード。イェンセンのロングスローからゴールを奪う。ノアゴールのシュートは一度はファビアンスキにセーブされたが、トニーが押し込んで先制ゴールを決め切った。

先制するとブレントフォードはより重心を下げながら対応するようになる。ウェストハムはブロック攻略にシフトするようになる。しかしながら決め手がない状況で打開策が見つからず。停滞した状況をこじ開けるのに苦労するのはウェストハムのあるあるである。

即時奪回ができないのもウェストハムの弱みである。高い位置からボールを奪う際に陣形が間延びしてしまい、中盤が広がってしまうという状況が発生する。これでは圧力をかけての波状攻撃を生み出すことはできない。

ボールを持たれてもそこまで危険な状況を作り出されなかったブレントフォードは前半終了間際にロングカウンターを成功させる。トニーのポストから抜け出したダ・シルバのゴールで前半のうちに突き放すことに成功する。ウェストハムは2失点目を軽いスローインミスから相手ボールにされており、流れごと持っていかれたような前半であった。

後半、トランジッションからボーウェンがファウルを奪取したウェストハム。入りはそこまで悪くないものだった。しかしながら、少し時間が経てばボールを持てるけども敵陣での決め手がない状況に逆戻り。縦に速い攻撃でブレントフォードに反撃を受けるところまで前半と同じである。

2トップに移行し、パワープレーにシフトするウェストハムだが、撤退したブレントフォードを前になす術なし。ラヤのファインセーブは前後半合わせて何本かあったものの、最後まで打開することができなかった。

ほぼ完璧な勝利を決めたブレントフォードだが、終盤のトニーの負傷だけが気がかり。短くはない離脱になるであろうエースの負傷はチームの勝利に暗い影を落とすものとなった。

ひとこと

今のチームの状況を端的に表すスコア。ウェストハムはパケタをCH起用をテストしているが、今のところブレイクスルーになっていない。

試合結果

2022.12.30
プレミアリーグ 第18節
ウェストハム 0-2 ブレントフォード
ロンドン・スタジアム
【得点者】
BRE:18′ トニー, 43′ ダ・シルバ
主審:ダレン・イングランド

第19節 リーズ戦(A)

3センターでもライン間はコンパクトにならない

 迫り来る降格圏の足音。一向に調子の上がらないウェストハムは毎節のように試行錯誤を繰り返している。前節でいえばパケタのCH起用がそれに当たる。今節はパケタとソーチェクをIHに配置し、ライスをアンカーに置く形をテストすることとなった。

 ウェストハムはリーズのバックラインに対してそこまでプレッシャーをかけず、ミドルゾーンにおいてのプロテクトを優先する方針だったのだろう。だが、ラインを少しでも上げたいという色気も見え隠れしていたように思う。それにより、2列目の連携がバラバラに。どこにどのように相手を追い込むかに明らかに迷いがあった。

 さらにウェストハムを苦しめたのは動き回るリーズのCHのコンビ。行動範囲が広いアダムスとロカに対して、捕まえるのに苦労した上に遅れたタイミングで不用意に出ていくため、ライン間をコンパクトに保つのが苦しくなった。

 このライン間を狙っていたのがリーズの2列目。ライン間で前を向くサマーフィル、ニョントが加速装置となり、リーズはここから攻撃を一気に仕上げていく。ウェストハムが中央をコンパクトに保つことができてる時は、右サイドを軸にデュエルを行うリーズ。特にエイリングの攻め上がりはリーズの攻撃のアクセントとなっていた。

 リーズの先制点は右サイドからの侵入。ライン間に入り込んだニョントがワンツーから抜け出すと、そのまま冷静にシュートを沈めてみせた。ニョントにとっては嬉しい初ゴールである。ウェストハムはボールにわらわら集まってしまい、ボールをどこに追い込むかが共有できてなかった感がある。

 ウェストハムの攻撃はソーチェクへのロングボールが軸となっていた。IH起用という押し上げやすい状況を作っただけに、いつもよりも積極的にエリア内や高い位置に顔を出すことができていた。

 一方でタイトなリーズの中盤に対してはプレッシャーをうまく逃すことができず。安定した前進からチャンスを作るのは難しかった。それだけにピンボール気味に前を向く機会を得たスカマッカから前半終了間際にチャンスメイクができたのは幸運。左サイドを縦に進んだスカマッカからエリア内に入り込んだボーウェンがPKをゲット。これをパケタが沈めて前半の内に同点に追いつく。

 後半、勢いに乗るウェストハムは一気に逆転ゴールを手にする。パスミスを掻っ攫ったスカマッカがそのままゴールにミドルを叩き込み、リーズの後半の出鼻をくじく。W杯前の勢いがどこかにいってしまったアーロンソンがここでもパスミス。なかなか序盤戦のような勢いに乗ることができない。

 勝ち越したウェストハムは2列目が相手を捕まえる精度が向上。前半よりも高い位置からのプレスが効くようになっており、リーズの攻撃に蓋をする機会が増えた。

 しかし、名誉挽回を狙うアーロンソンを軸に右サイドから陣地回復を行うと、段々とリーズもリズムを取り戻していく。すると、70分には同点ゴールを奪い取る。ライン間に入り込んだハリソンへの縦パスが通ると、悠々と抜けたロドリゴが冷静に決めて追いつく。ウェストハムはまたしてもコンパクトに保てなかったライン間から失点を許してしまうこととなった。

 アントニオを軸にカウンターで反撃に出るウェストハムだが、最後まで勝ち越しゴールを決めることはできず。結果はともかく、ライン間に侵入を許しまくったウェストハムの4-5-1でのテストはうまくいったとは言い難い内容に終始した。

ひとこと

 地味にリーズのプレッシングの持続時間が短くなっている。中盤でのタイトさは失われていないけど、前線でのタレントが入れ替わったことによる機能低下なのだとしたらちょっと気になる部分。

試合結果

2023.1.4
プレミアリーグ 第19節
リーズ 2-2 ウェストハム
エランド・ロード
【得点者】
LEE:27′ ニョント, 70′ ロドリゴ
WHU:45+1′(PK) パケタ, 46′ スカマッカ
主審:デビッド・クーテ

第20節 ウォルバーハンプトン戦(A)

出足抜群のSBがウェストハムのラッシュをひっくり返す

 マンチェスター、ロンドンでそれぞれ熱い上位対決が行われている今節。だが、注目は上位だけではない。今節は残留をかけた熱い直接対決もある節である。モリニューで行われるのはロペテギ就任以降不思議な試合運びが目立っているウルブスと年末年始の連戦で全く浮上の兆しが見えなかったウェストハムである。

 ボールを持ちながら試合を優位に進めたのはホームのウルブス。ネベスが降りながら後ろを重くする形で組み立てるというのはウルブスのいつもの形である。このウルブスのいつもの形へのウェストハムの対応がイマイチ。WGがフラフラと前に出て行きながらワイドのCBを捕まえるような捕まえないようなという中途半端な形になっていた。前プレへの意識はあるから前には出て行くが、どこに追い込んでどれだけ人数をかけるのかが見えてこず、簡単に前に進まれてしまうという直近のウェストハムの悪癖が反映されていたといえるだろう。

 ウルブスはSBからボールをつなぎながら前進。ウルブスのSBの面々はこの日かなり冴えていた。特によかったのはセメド。攻め上がりの勘所を抑えており、上がりがガンガン効いていた。セメドは何カ月に1回くらいめちゃめちゃ冴えている日があるのだけど、まさにこの日のセメドはそれにあたった日といえるだろう。

 中央では先発デビューとなったクーニャが安定したポストプレーを披露。なかなか安定しない9番のタスクを背負える可能性が垣間見えたパフォーマンスとなったといえるだろう。

 ミドルゾーンで相手を捕まえきれないウェストハムは押し込まれながらの苦しい戦いを強いられることに。セカンドを奪って、縦に素早く進んでクロスという形で何とかチャンスメイクをしたいところだが、トップのアントニオがサイドに流れながら起点になる動きを見せており、中にターゲットを置く状況を作るのに苦労する。

エリア内で反転する鋭い動きを見せられるからこそ、アントニオはインサイドにいてほしいところ。そのためにはサイドからボールを運ぶ必要がある。逆にアントニオをインサイドに置いた状態でクロスまで行くことができれば、ソーチェクも飛び込めるためエリア内の受け手は充実していた。

 ボールを運ぶ動きができるようになったのは右サイド。サイドに張るボーウェンを中心にクロスから攻勢をかけてくる。ボーウェンのポストをSBが受けて裏抜けから動きなおして前進。時間の経過とともに徐々に盛り返していく。

 主導権を取り戻した後のウェストハムもプレスは大人しかったが、後半頭はパケタが列をあげてCBにまでプレッシャーをかけるなど前半よりも積極的なアプローチで得点を狙いにいく。目論見通り、ウルブスはロストからピンチを迎えるなど、ウェストハムの序盤のラッシュは効いていた。

 しかし、先制点を決めたのは反撃となる一発を沈めたウルブスの方。ロングカウンターの起点になってきたのはセメド。これをヌネスが運び、ポデンスが仕留める形でウェストハムの勢いを見事にひっくり返して見せた。

 ウェストハムはここから左右のクロスで主導権を握りながら同点ゴールに向けてテンポを上げていく。押し込む状況を作れたにも関わらず、クロスのターゲットになりうるソーチェクを早い段階で下げてしまったのはモイーズの采配の解せない部分である。逆に左サイドをゴリゴリ切り拓いていったベンラーマの投入は理解できる。ジョーカーとしての働きは十分だったといえるだろう。

 ウルブス側もアイト=ヌーリの投入がちぐはぐだった。ロングカウンター要員として起用されることが多いアイト=ヌーリだが、この日は1列前のSHとして起用される形だった。自分は攻撃的なSBを1列前で起用することどうなんだろう!派閥なんだけど、この日のアイト=ヌーリはまさにそんな感じ。ポゼッション時の立ち位置がぐちゃぐちゃで攻撃をノッキングさせる要因になっていた。

 前にスペースがあるときは良いのだけど、そうでないときにサイド攻撃の主軸を担うのは難しいのだろう。ウルブスのアタッキングサードはやたらとガチャガチャしていた。それでもネベスやヒメネスがゴールに向かう機会はあったけども。

 スカマッカの投入で4-4-2にシフトチェンジしたウェストハムだっただが、最後まで人垣を組んだウルブスのバックラインにシュートを当て続けるだけになってしまう。結局試合はそのまま終了。勝利したウルブスは残留圏に浮上し、敗れたウェストハムが降格圏に足を突っ込む形となった。

ひとこと

 采配、ガチャガチャ過ぎる同士だなと思った。SBの好調とCFのレギュラーに答えが出そうなウルブスには少し光が差した一戦。残留争いのライバルからもぎ取った勝ち点3の価値は言わずもがなである。

試合結果

2023.1.14
プレミアリーグ 第20節
ウォルバーハンプトン 1-0 ウェストハム
モリニュー・スタジアム
【得点者】
WOL:48‘ ポデンス
主審:シモン・フーパー

第21節 エバートン戦(H)

ランパードに引導を渡すボーウェン

 第21節に設定されたこのカードが降格圏内での対戦になると想像した人はあまり多くないだろう。抱えている戦力やクラブの規模を考えれば、降格は悪い意味でのサプライズになってしまう両チームの対戦である。

 フォーメーションはどちらのチームも3-4-2-1を採用。ミラー型のフォーメーションの組み合わせであり、前からのプレッシングを積極的に行いやすい形ではあるが、どちらのチームもプレッシングは控えながら様子を見る。プレスの開始位置はミドルゾーンでバックラインにはボールを持たせていく格好だ。

 ボール保持において比較的前進のルートを見出すことが出来ていたのはアウェイのエバートンの方。彼らの攻撃は結局イウォビとグレイが前にスペースがある状態でフリーでボールを持てればOKという方針である。そのためにはサイドから前進し、相手の陣形を片側サイドに寄せる必要がある。サイドに相手を寄せて、逆サイドの空いたスペースにイウォビかグレイに立ってもらいここまでサイドチェンジでボールを運ぶ。これがエバートンのプランである。

 一方のウェストハムはそうしたボール保持での方針はなかなか見えてこない。サイドから縦に進んでアタッカー勝負!と行きたいところだが、ポジション移動を多くするわけでもないので、なかなかフリーの選手を作ることができない。

 しかし、ウェストハムにはミドルゾーンからボール奪取という反撃の手段が残っている。自陣からの前進は難しくとも、敵陣での相手のミスに漬け込むカウンターから前進の機会を得るようになる。押し込み返しの手段を手にしたウェストハムはセットプレーの流れから先制点をゲット。一度は跳ね返されたボールを再び放り込み、抜け出したボーウェンが押し込むことに成功した。

 そして、2点目はボール奪取から。中盤でイウォビがロストすると、右サイドをアントニオがターコウスキをぶち破って爆走。クロスを再びボーウェンが仕留めて追加点を奪う。

 2点のリードを得たウェストハムはここから安全運転をスタート。無理にプレスにはいかずにブロックを組んでエバートンを待ち受ける。これまでのウェストハムであれば、こうなれば必勝パターンであるのだが、今季のウェストハムのブロック守備は残念ながらそこまで信用は出来ない。

パケタの背後、斜めのボールへの対応など、明確な弱点や後手に回る対応をリトリートでも補いきれず。エバートンの保持に対してはそれなりにピンチを迎えていた。それでもロングカウンターという反撃の手段を持っていたことはよかったことかもしれないが。

 この日のエバートンは縦に推進力はなかったので、ブロック守備の攻略に打開のポイントを絞る展開になった。3-5-2のWBをイウォビとマクニールという非常に尖った人選でウェストハムのゴールに襲い掛かっていく。

 初めは順調に圧をかけていたエバートン。しかし、60分を過ぎるとエバートンの攻撃は急激にトーンダウン。押し込むことは出来ているが、そこから先の攻め手がなくなってしまう。むしろ、得点の匂いはひっかけた後のウェストハムのロングカウンターの方が強いくらいであった。

 保持のプランはミスで崩壊。攻撃的なシステムにしても届かずにシックスポインターに敗れたエバートン。ランパードにとってはエバートンを指揮する最後の試合になってしまった。

ひとこと

 ビエルサ、マジかよ。やめとけよ。

試合結果

2023.1.21
プレミアリーグ 第21節
ウェストハム 2-0 エバートン
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:34‘ 41’ ボーウェン
主審:スチュアート・アットウェル

第22節 ニューカッスル戦(A)

いい意味で今年らしくない

 非常にバタバタした立ち上がりだったと言えるだろう。開始直後に接触で痛がっていたはずのウィロックが1分も経たない間にネットを揺らしていきなりニューカッスルが先行。かと思いきやこれがオフサイドで取り消される。

 際どいオフサイドをリプレイで検証していると、いつの間にか画面が切り替わり、抜け出したウィルソンが1on1を沈めて正真正銘の先制点が入る。ロングボールの跳ね返しから、ウェストハムのCBの間をかち割ったラストパスから抜け出すことができたようである。ガチャっとした立ち上がりながらニューカッスルが会心のスタートを決めることに成功した。

 だが、ウェストハムはこの落ち着かない展開の恩恵を享受していたように見える。バックラインからのロングボールから左サイドを中心に縦に速い攻撃でニューカッスルの固い守備を破りにかかる。

 トップのアントニオがこうした形で存在感を見せるのは実に久しぶり。開始直後の失点は想定外だろうが、その後のロングカウンターを軸とした形は従来のらしいウェストハムのパフォーマンスだったと言えるだろう。試合後にライスが「ここ数年のウェストハムのようだった」とコメントしていたが、見ている側の自分も同じ印象を持った。

 ニューカッスルは試合を落ち着かせようとしてもウェストハムはこれに徹底的に抵抗。より、調子がいいチームがリードしている状況を制御しようとしていたが、ウェストハムはそれを許さなかった。カラバオカップの一発退場でここから3試合欠場のギマランイスがいなかった影響もあるだろう。

 なんとかV字のポゼッションでウェストハムのプレスを回避したり、裏に抜けるウィルソンの動きで時間を確保はできていたが、追加点を見せる動きや相手を後手に回らせるプレーは限定的だったと言えるだろう。

 非常にエネルギッシュなウェストハムはセットプレーから同点に。再三チャンスを作っていたセットプレーからついに同点のゴールを決めてみせる。同点ゴールを決めて以降もウェストハムはスタンスを変えずに食らいついていく。アップテンポ、カオス。ニューカッスルの手のひらの外で試合を進めたいと言うのがウェストハムのスタンスだった。

 後半も構図は同じ。ニューカッスルはポゼッションを安定させながら左右のクロスを軸に勝ち越しのゴールを狙う。ウィルソンが裏に抜ける形を作っているのも、前半と同じ流れである。対するウェストハムも高い位置からのメリハリの聞いたチェイシングが非常に効いており、この試合の前半で見られたバランスで試合は進んでいく。

 このバランスを壊したのはニューカッスルの方だった。ウェストハムの攻撃終わりに素早いロングカウンターから決定機を徐々に作り出すようになっていく。撤退守備に対しての効果的な武器になったのは新加入のゴードン。途中交代でサン=マクシマンに代わって左サイドに入ると、ボールのキャリーとラストパスの両面で攻撃を活性化。ギマランイスの不在でやや単調になりがちだったニューカッスルのアタッキングサードの攻撃を手助けする。

 ウェストハムは流石に終盤は息切れがあった。ニューカッスルの攻撃が終わったタイミングでも長い攻撃を繰り出すことができず。無理の効くアントニオからイングスにFWが代わった影響も無視はしにくいだろう。

 それでも追加点は許さずにタイスコアをキープしたウェストハム。いい意味で今年らしくないソリッドな90分でセント・ジェームズ・パークで勝ち点を得ることに成功した。

ひとこと

 モイーズは手応えを感じた90分になったはず。メンバーの層よりもコミット具合が問題であり、この日のパフォーマンスであれば、どこが相手でも勝ち点を狙えるだろう。ニューカッスルはギマランイスの不在の影響でテンポを落ち着かせられなかったのであれば、引き続き難しい舵取りになるだろう。なんとか解決策を見出したいが。

試合結果

2023.2.4
プレミアリーグ 第22節
ニューカッスル 1-1 ウェストハム
セント・ジェームズ・パーク
【得点者】
NEW:3′ ウィルソン
WHU:32′ パケタ
主審:ピーター・バンクス

第23節 チェルシー戦(H)

チェルシーの特性が良く表れた得点と失点

 流れとしては対照的な両チームである。今季なかなかパフォーマンスが上がらない中で前節ニューカッスル相手にきっかけをつかめそうな内容を見せたウェストハムと、巨額を費やしながらも決定的なブレイクスルーを掴めない状況が続いているチェルシー。共に上昇気流に乗りたいという点では共通しているロンドンダービーである。

 まず、ボールを持ったのはチェルシー。ウェストハムはCBにボールを持たせてOKというスタンスでスタートする。が、ウェストハムの守り方には難点があった。基本的には前3枚でプレスに行くのだが、後方がほとんどこれについていかないこと。前の3枚がCBにプレッシャーをかけようものならば、背後のスペースはあっさりと空いてしまいチェルシーは難なくボールを運ぶことができる。

 このウェストハムの慎重さはチェルシーの前線にとってはおいしい部分。降りてボールを受けたがるフェリックスや左の大外から背負ってからの反転で足の長いパスを送るのを好むムドリクにとってはウェストハムのバックラインの押し上げのなさは格好の的である。降りて受けて、彼らの足の長いパスから一気にチャンスを迎えるという形で序盤からチェルシーがゴールに迫る。エンソからのフェリックスのゴールはこの日のチェルシーの狙いが結実した形といえるだろう。

 が、そんなチェルシーも問題を抱えていることは明らかである。バック4に加えてCH、これにフェリックスやムドリクまで低い位置でボールを受けたがれば、必然的に後方は重くなる。先述の通り、ウェストハムはプレス隊に多くの人数を割かない上に、チェルシーの降りる動きに対してはほぼ無頓着。となれば、降りる動きが後方のスペースを作る動きの役には立っていない。

フェリックスやムドリクの縦への鋭いパスは武器としては威力は十分で、精度の高いものではある。だが、前線に人を送り込むシステムを伴わない一撃必殺型の武器であることも事実である。陣地回復の手段という観点ではチェルシーに足りないものがあるといえるだろう。

 チェルシーの陣地回復問題は非保持でも顕在化することになる。SHの守備のスタート位置が定まらない分、ズルズル下がってしまうのが彼らの非保持の難点である。特にムドリクはそうした傾向が強い。スペースを埋めることをサボらず勤勉なタイプではあるが、ラインを押し上げる動きやボールを刈りに行く動きには不満が残る。

 ウェストハムの同点ゴールのシーンなどはチェルシーの左サイドの消極的なクロスが原因になる。サイドでどこまでクロスを上げさせていいか?の話はインサイドの対空性能に拠るところもあるので、このシーンにおけるサイドの守備にどこまで責任を問うかは

難しいところだが、よりテンポが速いビックマッチにおいて、非保持での高い迎撃ができなければそれは足かせになりうるだろう。保持では存在感を放っているだけに早い段階での改善を求めたい。

 ウェストハムは前半の中盤からプレスの強度をあげることで相手のバックラインから時間を奪っていく。これが効くのだからチェルシーは難しい。後方を重くするビルドアップの正当性はこうした手詰まり感である程度証明されてしまうからである。ビルドアップの人数を減らして前に人を置こうぜ!というのは、少なくともこの時間帯のチェルシーを見る限りは難しい。

 後半も強気に出てくるウェストハム。ボールを奪った後に直線的にゴールに向かうアントニオはここ数試合の身体のキレの良さを維持していることを証明している。ソーチェクのあわやというゴールも含め、後半もウェストハムには得点のチャンスはあった。

 しかしながら、後半のチェルシーはポゼッションを増やしながら徐々に敵陣に押し込む時間を確保していく。ムドリク、マドゥエケという勝負できる両翼をポイントとして使えていたのは大きい。うまくいっていないと評判のムドリクとククレジャだが、WGのポジションがインサイドに絞るケースも後半はしばしばみられており、前半よりはうまくいっているという見立てもできるだろう。

 仕上げのポイントとなるのは裏への抜け出しというのは前半と同じ。左のSBに追い越す動きが得意なククレジャが入ってからはさらに活性化したことがこのポイントの重要さを裏付けている。

 終盤にはソーチェクのハンド疑惑という文句を言いたくなる場面もあったが、結果的にチェルシーはウェストハムのゴールをこじ開けられずに終戦。またしても勝ちを掴めないチェルシーは未勝利が続く中でCLのノックアウトラウンドを迎えることとなる。

ひとこと

 今のスカッドの強みも弱みも徐々に顕在化してきたチェルシー。どの特性がどこまで影響するのか、組み合わせにより増幅したり減衰したりするのかを早めに見極め、CLで適切な運用ができるように持って行きたいところだ。

試合結果

2023.2.11
プレミアリーグ 第23節
ウェストハム 1-1 チェルシー
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:28′ エメルソン
CHE:16′ フェリックス
主審:クレイグ・ポーソン

第24節 トッテナム戦(A)

入れ替わった役割を生かしたのは

 暫定ではあるが勝てばCL出場圏内に復帰できるトッテナム。対するはこちらも勝てば降格圏を脱出できるウェストハム。どちらも3ポイントが欲しい試合である。

 ともに3-4-3を採用した両チーム。ボール保持側はバックラインからズレを作らなくてはいけない状況であった。その状況に真面目に取り組んでいたのがトッテナム。CHの関係性を調整しながらフリーの選手を作ろうと画策する。しかしながらスキップは早々にイエローカードをもらってしまうなど、トッテナムにとっては中盤でやり合うのにはリスクがある状態に。

 ウェストハムはバックラインに強くプレッシャーをかけてくるわけではないので、バックラインから運ぶズレを作るというのもトッテナムにとってはあまりスカッドに適していない要求となる。

 というわけで前線から降りる動きを見せることでフリーの選手を作るトッテナム。降りる選手に対するケアが甘いウェストハムの守備陣に対して、この動きからズレをつけるという解決策を提示する。

 クルゼフスキがいる右サイドを中心に降りた選手からゲームを作りに行きたいトッテナムだが、クロスの精度とボールの繋ぎの部分で特筆すべき部分を出すことができず。特にクロスはあと1つ山を越えれば決定機になりそうな場面はあった。実際の決定機自体は少なかったが、比較的にゴール前に迫る頻度は高かったと言える。

 一方のウェストハムは早い攻撃から活路を見出していきたいトライを繰り返していく。特に右のサイドのハーフスペースから抜け出しを狙っていくソーチェクはアバウトなボールでも収めてくれる貴重な存在。

 だが、ここから先の決め手がないのがこの日のウェストハムである。守備面で後方の選手がトッテナムの前線をきっちり捕まえにいくというところは修正されていたが、それもまた攻勢に出るきっかけにはならず。序盤以外はなかなかゴールに迫れる時間が作れないままハーフタイムをスコアレスで迎えることになる。

 後半、ボール保持に舵を切ったのはウェストハム。前半のように縦に急いで攻めるのではなく、ゆったりとボールを持ちながらトッテナム陣内の攻略を狙う。

 これにより、トッテナムは必然的にカウンターを狙うように。ブロック攻略とカウンター狙いの担当を入れ替えて両チームは後半に臨むこととなった。

 役割入れ替えの恩恵を受けたのはトッテナムだった。自陣からのホイビュアの長いパスに素早い出足を見せたデイビスとエメルソンのWBコンビで攻撃を完結。エメルソンのフィニッシュにファビアンスキは一歩も動くことができず、スコアをようやく動かす。

 苦しくなったウェストハムは保持に移って以降も攻撃の活路を見出せない状態となったのは同じ。打開できるポイントを見つけられないまま時間だけが進んでいくことに。

 トッテナムはオグボンナとの競り合いを制したケインがソンにアシストを決めて追加点をゲット。このゴールで事実上の完全決着。やや寂しい内容ではあったが、CL後の大事なリーグ戦を勝利で飾り念願のCL出場圏内復帰に成功した。

ひとこと

 ウェストハムの虚無ぶりはやや際立ってしまう内容。前後半でテイストを変えても何も起きなかったので、ウェストハムとしてはかなり重たい内容だった。モイーズの交代による手打ちの遅さもやや気になる部分だった。

試合結果

2023.2.19
プレミアリーグ 第24節
トッテナム 2-0 ウェストハム
トッテナム・ホットスパー・スタジアム
【得点者】
TOT:56′ エメルソン, 72′ ソン
主審:マイケル・オリバー

第25節 ノッティンガム・フォレスト戦(H)

サイド増員がゴールラッシュ開幕の合図

 どちらのチームもバックラインにはそこまでプレッシャーをかけないスタートとなった両チーム。よってまずは保持側がどのようなアクションをするかが大事なスタートとなった。

 ノッティンガム・フォレストはCBが大きく開く立ち上がり。アンカーのシェルビーに対してはイングスが監視を行っているため、なかなか簡単に使うことができない。よって、フォレストが選択したのは積極的なダイレクトプレーである。左サイドに流れながらのウッドのところを使う形で徐々に起点を作りながらボールを前進させていく。

 ライン間でギブス=ホワイトがボールを持てれば加速するというのは王道パターンなのだが、ウェストハムがこのあたりはきっちりと封鎖。ウッドへのロングボールへの対応も含めて抜かりなく、フォレストの攻撃が勢いづくことを許さなかった。

 一方のウェストハムはサイドから着実な前進を狙う。4-3-1-2のフォレストのフォーメーションで空きやすいSBからボールを運ぶことで、サイドの奥を取ることに成功。フォレストの陣内にボールを押し込むルートを確保することが出来た。

 よって、試合はウェストハムがフォレスト陣内で過ごす時間の方が長い状態だった。そうなると両チームに差が出てくるのはセットプレーの頻度である。ウェストハムはGK周りにガンガン背の高い選手をぶつけていくことで圧力をかけていく。一流のGKだが、上背があるわけではないケイラー・ナバスに対しては有用な対応のように思う。押し込まれながらもなんとかフォレストが凌ぎ続ける前半となった。

 ウェストハムが優位に進めながらもスコアレスで試合は後半に。やや押され気味のフォレストは少しサイドのプレッシャーのタイミングを早めることで対応していく。

 それでもウェストハムは中央へのパスを刺しこむ形でプレスを回避していく。フォレストのIHがサイドに出て行くことで空いたスペースをスムーズに活用しながら次のプレーに移行していた。攻撃の中心は相変わらずSB。左サイドにクレスウェルを投入したのはクロスをより殺傷力の高い武器にするためだろう。フォレストもオーバーラップしたウェストハムのSBの背後から侵入することで徐々に反撃の兆しを見せる。

 試合を大きく分けたのはフォレストの選手交代である。シェルビー→アイェウの交代でフォーメーションは4-2-3-1に移行。高い位置からサイドでプレッシャーがかけられる布陣を採用する。

しかし、これがフォレストにとっては裏目に。中央の密度が減少した分、ウェストハムはさらに容易なサイドチェンジを行うことができるように。手薄なサイドから攻め込めるようになったウェストハムはイングスのゴールを皮切りにゴールラッシュを幕開けする。

 特にフォレストの泣きどころになったのは右サイド側の守備。こちらのサイドは再三再四破られ続け、ウェストハムがエリアに攻め込むための足掛かりとされていた。ネコ・ウィリアムスにとっては非常に嫌な日になってしまった。

 ライスのミドル、アントニオの上から叩き込むヘディングと多彩な形でゴールを決め続けたウェストハム。4点差が付いた中での後半の7分の追加タイムは必要?と思わされたが、得点は入らずともゴールに迫る気概を見せたフォレストの姿勢は見るべきものだったかもしれない。

 試合は70分以降の大量得点でウェストハムの勝利。エバートンとボーンマスに変わっての降格圏脱出に成功した。

ひとこと

 なかなか得点が取れなかったチームにとってはメカニズムよりも勢いに乗った大量得点が助けになる場合もある。今季ここまで湿っぽい前線に得点が出て来たことは今後の残留争いに向けても朗報といえるだろう。

試合結果

2023.2.25
プレミアリーグ 第25節
ウェストハム 4-0 ノッティンガム・フォレスト
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:71′ 73′ イングス, 78’ ライス, 85′ アントニオ
主審:ジャレット・ジレット

第26節 ブライトン戦(A)

攻め続けられるメンタリティ

 立ち上がりはブライトンがボールを保持しながらスタート。バックラインは落ち着いてボールを持ちながら安定のポゼッションでウェストハムの様子を伺う。

 ウェストハムはミドルゾーンで構える形でスタート。4-1-4-1のフォーメーションからわかるように中盤を噛み合わせながら相手のCBにある程度の時間を与えながら守ることが狙いだっただろう。

 だが、この日のウェストハムのブロックは我慢が効かなかった。中盤プロテクトが優先のはずのパケタが1列前のCBにプレスに出ていくことが多く、ウェストハムはここからズレが発生。パケタがずれた分のプレスのズレを後方の選手が埋めることができなかったので、ブライトンはここから前進ができるように。SBを噛ませながらカイセドがフリーになるという事態が連発し、ここから前進のきっかけを掴むことになる。

 このビルドアップでの+1を使う正確性は今のブライトンの強みである。かつ、そこのズレがないときにマック=アリスターとファーガソンが前線から降りてくるタイミングが非常に的確。特にファーガソンはこの部分で非常に長足の進歩を遂げていると言えるだろう。

 そして自陣から脱出することができたらマーチと三笘の2人がアタッキングサードで待ち構えている。バックラインが中盤を引き付けながらWGにボールを届けるという流れを実践できていたので、三笘とマーチがボールを受ける状況は常に対面相手に仕掛けられる良質なものだった。

 先制点はこの2人から。逆サイドのマーチから大きな展開を受けた三笘が1stコントロールでジョンソンを交わし、代わりに対応したボーウェンがPKを見城。これをマック=アリスターが仕留めて先制する。

 ブライトンは先制点以降もペースを握っているが、ややつなぎの局面やスピードアップの状況で徐々にミスが出る。ウェストハムは23分にようやくこの試合初めての決定機を得ることができた。だが、ブライトンとしてはベースは保持で握れているので問題はそこまで大きくない状況。チームとしての目指す方向性を考えても精度を突き詰めていくしかないので、気にせず続けていくということだろう。

 後半は巻き返したいウェストハム。高い位置からボールを取り返しにいくが、なかなか反撃のきっかけを掴むことができずに苦戦。逆にハイプレスをハメ直してやり返すことで主導権をブライトンに握られ続けることとなった。

 後半のブライトンの攻め立て方は圧巻だったと言えるだろう。セットプレーでフェルトマンがボールを奪った時点で十分に試合の決着はついたように見えたが、この日のブライトンはひたすらに攻め続けることができていた。三笘のゴールももはや日常茶飯事である。

 三笘やマーチといった主力組が交代した後もギラギラした控え組が攻撃の手を緩めない。チームとして良い循環が回っていることを感じさせる終盤の攻め立て方。明らかにオーバーキルのウェストハムからすればいい迷惑である。

 試合は終了間際にウェルベックが素晴らしいゴールを決めて4-0で終了。内容に見合った大勝で上位追走に成功した。

ひとこと

 昔、「川崎は大量リードをしていても攻め続けられるという才能を持っている」というツイートを見かけたけど、この日のブライトンにはそのメンタリティを感じた。関係ないけど、バイエルンというかミュラーはこのメンタリティの遥か最先端にいるように思う。

試合結果

2023.3.4
プレミアリーグ 第26節
ブライトン 4–0 ウェストハム
アメリカン・エキスプレス・コミュニティ・スタジアム
【得点者】
BHA:18‘(PK) マック=アリスター, 52’ フェルトマン, 69‘ 三笘薫, 89’ ウェルベック
主審:スチュアート・アットウェル

第27節 アストンビラ戦(H)

後半は攻め手を見つけたハマーズだが・・・

 ともにエンジ色と水色を1stユニフォームとする両チームの対戦。イングスはどちらのユニフォームを着ているのかよくわからない。バーンリーにもいたのでエンジ色3兄弟完全制覇である。

 4-1-4-1で臨んだウェストハムはそこまで積極的にプレッシングにはいかず。アストンビラのバックラインにボールを持たせる選択を行う。その分、インサイドは非常に強固。中盤での縦パスは阻害し、インサイドで受けたがるアストンビラの2列目には自由を許すことはなかった。

 一方で、外側の守備には脆さが見えたウェストハム。アストンビラの左サイドはこのウェストハムの守備の習性をよく理解していたと言えるだろう。外に開くミングスや左サイドに落ちてくるルイスなどでボーウェンを釣ると、その背後に走り込んだモレノにボールを渡す。モレノは左サイドからドリブルでキャリー。この流れでアストンビラはかなり自由に相手を押し下げることができていた。

 先制点もこの形から。左サイドで自由になったモレノからのクロスをワトキンスが沈めてビラが先制。正直、まぁそうなるだろうなという感想を抱いてしまうくらいにはビラは左サイドから押し込むことができていた。

 ビラの非保持のスタンスもウェストハムと少し似ており、バックラインには強固なプレスをかけるわけではなかった。ウェストハムと少し違ったのはビラはサイドに対しても早い段階で圧縮をかけて自由を与えないこと。つまり、モレノが攻め上がるようなスペースはなかったということである。

 よってウェストハムのボール運びは非常に泥臭いものになった。スペースがない中でドリブラーがゴリゴリと陣地を回復。セットプレーから地道にチャンスを積んでいく形で挽回を狙う。

 ウェストハムの攻撃が実ったのはCKからの流れだった。シュートを押し込みきれなかったパケタが跳ね返りを追いかけ回したところをベイリーが倒してウェストハムはPKをゲット。これをベンラーマが決めてウェストハムは同点に追いつく。試合は振り出しに戻った状態でハーフタイムを迎える。

 後半、いい立ち上がりの入りをしたのはウェストハム。いきなりサイドに流れたパケタのクロスからベンラーマが決定機を迎えるなどマルティネスを脅かしてみせる。エリア内に入り込むタスクを担ったベンラーマは後半多くのシュートチャンスを迎えることとなる。

 保持においてはシンプルなクロスを入れる形と大外からラインの裏に抜ける選手へのボールを入れる形を使い分けながら前進。前半よりも明白に押し込む機会は増えることになった。

 プレッシングも4-1-4-1から4-4-2のシンプルな形に変更。よりバックラインに積極的にプレスをかけるように。ただ、こちらに関してはビラはそこまで苦にしている印象はなく、ボールを持てば前進をしつつウェストハムをズルズルと後退させることができていた。

 終盤になるとより勝ち点3が必要なウェストハムの必死さが際立つように。コルネの抜け出しはオフサイドになったが、ナチュラルにラインを上げがちなエメリのチームの裏をかく形としては悪くはなかった。

 だが、ウェストハムの攻勢も実らず試合はドローで決着。互いに得点は前半の1点のみで勝ち点1を分け合う結果となった。

ひとこと

 ウェストハムは終盤に気迫を感じたのは良かったが、攻め上がるモレノに関しては前触れがあっただけに早めに危険な芽を摘んでおきたかったなと思った。

試合結果

2023.3.12
プレミアリーグ 第27節
ウェストハム 1-1 アストンビラ
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:26′(PK) ベンラーマ
AVL:17′ ワトキンス
主審:クリス・カバナフ

第29節 サウサンプトン戦(H)

最下位を踏み台にジャンプアップ

 19位と20位という逆天王山を迎える両チーム。だが、今年の残留争いは1勝で順位がガラッと変わるほどチームの間隔が詰まっている。1勝すれば全てをひっくり返すことは十分に可能。特に、勝ち点的にはそこまではなれていないもののなかなか最下位から脱出できないサウサンプトンにとってはまたとない大チャンスである。

 立ち上がりはサウサンプトンのこの試合に臨む意気込みが表れているかのような展開だった。バックラインからボールを握り、ウェストハムの4-1-4-1ブロックの攻略に挑む。ウェストハムはサウサンプトンのビルドアップに特にプレッシングをかけて制限してくる様子がなかったので、前に進むフェーズはサウサンプトンは比較的問題なくこなすことが出来ていた。左右に揺さぶる対角パスと中央に刺すCFのポストの合わせ技でサウサンプトンはウェストハムのブロック対してアプローチを行っていく。

 だが、終盤の仕上げがアバウトだったのは玉に瑕である。バックラインからの前進はスムーズだが、アタッキングサードにおける侵入がこの日のサウサンプトンはイマイチ。押し込んだ後に攻め切ることができない。

 ウェストハムは序盤のプレッシングこそ勢いがあったが、徐々に押し込まれてトーンダウン。自陣深い位置からの陣地回復ができない状態が続いてしまい、一方的に攻撃を受け続ける時間が続くことになってしまう。

 しかし、試合はそんな流れに逆らう形で動く。ワンチャンスを決めてリードを奪ったのは劣勢のウェストハムの方だった。セットプレーからアゲルトが決めて先制。きわどい抜け出しだったために長いVARルームでのチェックとなったが、最終的にはゴールが認められる。

 ゴールが入ったことでウェストハムはペースをフラットに戻すことができた。自陣に押し込まれて呼吸ができない時間を回避できた感覚だ。ポスト、サイドからの裏抜けなど徐々にゴールに迫る場面が増えていく。

 失点後もサウサンプトンは保持こそできていたが、ゴールに迫るのに苦労。左サイドのプローのシュートがようやくきれいな形でゴールに迫れるシーンだった。

 追いかける格好になったサウサンプトンは後半もボール保持から攻略を探る。途中交代で左サイドに入ったスレマナはそれなりにアクセントになっていた。

 ウェストハムは後半は色気を出さずに徹底的にスペースを消す形で抗戦。PA内にCHが常駐するなど低いラインできっちりと迎え撃つことで色をくっきり。攻撃はロングカウンターからのイングスという割り切り方で優先事項を整理した印象だ。

 総攻撃を仕掛けるしかないサウサンプトン。タワーとしてオヌアチュを投入し、パワープレーに打って出る。しかしながら、シュートチャンスを生かすことが出来ないまま試合は終了。逆天王山はウェストハムが逃げ切り勝利。最下位脱出を狙ったサウサンプトンを踏み台にして、一気にジャンプアップを決めた。

ひとこと

 セットプレーからワンチャンスを生かしての徹底抗戦。ここに来てようやくウェストハムらしい相手にとって嫌なかち方ができるようになってきた。

試合結果

2023.4.2
プレミアリーグ 第29節
ウェストハム 1-0 サウサンプトン
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:25′ アゲルト
主審:ポール・ティアニー

第7節 ニューカッスル戦(H)

帰る観客の正しさを証明してしまう

 序盤から主導権はガッチリとニューカッスルが握る展開。そして、その主導権は試合終了まできっちりとニューカッスルの手の中に入ったままだった試合だった。

 ボール保持に対してウェストハムは中盤のケアを優先する。バックラインにはボールを持つことを許しながら中盤をコンパクトにする。

 だが、ウェストハムの守り方はやや難があった。SHがCBにフラフラと出ていくせいで、ニューカッスルはあっさりとSBがウェストハムのSHの背後にボールを持って立つことができていた。

 よって、サイドから敵陣にボールを運ぶことができていたニューカッスル。セットプレーからあっさりと先制点奪取に成功する。右サイドのサン=マクシマンの突破による二次攻撃から、クロスを仕留めたのはウィルソン。これで試合を楽に進められることに。

 自陣に押し込められてしまい、ウェストハムには反撃の手立てがない。ボールを持てない、取れないという苦戦が続き、ニューカッスルの攻撃を一方的に押し込まれる場面が続くことになる。

 ニューカッスルの2点目のゴールはウェストハムの守り方の根幹を揺さぶるもの。シェアのフィードからジョエリントンが抜け出す形で独走を作りゴールを生み出す。CBは放っておいていいというウェストハムのプランをシェアがぶっ壊すというおまけ付きでリードを広げる。

 ということで点差的にも仕組み的にもウェストハムはニューカッスルのCBにプレスをかけにいくしか無くなってしまう。プレスに出ていくウェストハムは徐々に敵陣でのプレータイムを増やし、アントニオを軸に中央のコンビネーションを構築して反撃を見せる。

 前半は無得点のまま終えたが、早い段階で反撃ができればまだ勝ち点の望みはある展開だった。しかし、得点を決めたのはニューカッスル。アゲルトがマーフィーのプレスに屈してしまい、ウィルソンにこの日2点目を決められてしまう。

 ウェストハムは後半、セットプレーから反撃をし再び試合は2点差に。しかし、3点目の取られ方に失望したのか、はたまた今季のパフォーマンスに納得がいかないのか、80分を前に席を立つファンが目につくように。

 そして、そのファンの判断は正しかったと言えるだろう。ファビアンスキの飛び出しのミスから生まれた4失点目はスタジアムに残ったファンを大いに失望させるものだった。

 ニューカッスルは終了間際にさらに1点を追加して得失点におけるアドバンテージをさらに追加。負荷的にも余裕をもった展開でミッドウィークの試合を消化することができた。

ひとこと

 スタジアムから帰ったファンの行動に納得感を持たせてしまうパフォーマンスは切ない。

試合結果

2023.4.5
プレミアリーグ 第7節
ウェストハム 1-5 ニューカッスル
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:40′ ズマ
NEW:6′ 46′ ウィルソン, 13′ 90′ ジョエリントン, 82′ イサク
主審:クレイグ・ポーソン

第30節 フラム戦(A)

泥臭くもぎ取った大きな勝ち点3

 立ち上がりは左サイドに流れることでポイントを作って攻め込んだウェストハム。だが、基本的にはフラムのボール保持が長く占める形で試合は進んでいく。

 CBが開き、GKを活用しつつグラウンダーのパスからボールを動かしていく。ウェストハムの2トップは中盤を受け渡しながら、変わる変わるフラムのバックラインにプレスをかける形。よって、実質フラムがボール保持を長くすることを許容する振る舞いだった。

 2トップの脇からボールを進めることができていたフラム。だが、その先のアクションにおいては物足りなさが残る。プレスには引っかからない。押し下げるフェーズも困らない。だが、ミドルゾーンより先に侵入していく手段がない。ウィリアンがボールを受けるスペースはないし、放り込んでも競り勝てる可能性があるミトロビッチはスタンドで虚ろな表情でピッチを眺めているだけである。

 よって、ウェストハムとしてはそこまで困るような流れではなかった。むしろ彼らが気にしなければいけないのは自らの前進である。サイドに流れるFWから泥臭くというのは前進という武器の強度としてはフラムと似たような精度であり、得点のチャンスをなかなか生み出すことができない。

 苦しい最終局面での粘りから得点を捻り出すことに成功したのはウェストハム。コーファル、ボーウェンという右サイドの深い位置での突破からオウンゴールを誘発。ほぼノーチャンスの攻め手から抜け目なくゴールに辿り着く。

 フラムにとってはより厳しい展開に。ウェストハムは撤退の意識を高めた分、フラムはさらに深い位置に進むことが許されたが、インサイドの守りはさらに強固に。セドリックのクロスをヴィニシウスに届かせること頼みという得点パターンはゴールをこじ開けるにはあまりにも乏しい。

 後半もフラムがボールを持ちながらこじ開けるトライをする流れは継続。2枚の選手交代で右に移動したウィリアンを軸にトライアングルからチャンスを作る形を模索するが、なかなか解決策を見つけることができない。

 一方のウェストハムの狙いもそのウィリアン。降りていきながらボールを受けたがるウィリアンに対してちょっかいかけてカウンターを誘発する。

 フラムはこのカウンターを迎撃するのにファウルで相手を止める場面が多く、押し込まれたウェストハムも同じくドリブルからファウルを犯すケースが多かった。よって、後半のチャンスのほとんどはセットプレーによるものだった。

 この状況はリードしているウェストハムにとっては歓迎だろう。セットプレーからの怖さを感じるプレーも少なく、問題なく守れる時間が続く。終盤はラインが間延びするせいでフラムがライン間への縦パスを入れてからのチャンスが出てくるように。

ウェストハムは冷や汗をかく場面もあったが、最後はファビアンスキが凌いでリードを守り切る。またしても前半の先制点をキープしての逃げ切りでウェストハムは大きな連勝を決めた。

ひとこと

 ブロック守備を敷いての逃げ切り勝利。カウンターの精度は寂しさはあるが、徐々にウェストハムはらしさが出てきた。

試合結果

2023.4.8
プレミアリーグ 第30節
フラム 0-1 ウェストハム
クレイヴン・コテージ
【得点者】
WHU:23‘ ハリソン・リード(OG)
主審:ジャレッド・ジレット

第31節 アーセナル戦(H)

プレスから握り返したウェストハム

 レビューはこちら。

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 立ち上がりはほぼ完ぺきなアーセナルペースといっていい試合だろう。前から中盤を捕まえに来るウェストハムに対して、アーセナルのバックラインはショートパスの連打で応戦。トーマスが華麗な体捌きから前を向くと、ライン間のウーデゴールから一気に勝負をかけていく。

 縦に長いレンジのパスから前進のエネルギーを得たアーセナルは敵陣深い位置でWGとの1on1を作ることに成功。ウェストハムはプレスバックが間に合ったときにはSHとSBのダブルチームでサカに対応していたため、基本は2人でWGを見たかったのだろう。

 しかしながら、縦に早いパスを付けることが出来たアーセナルに対して、ウェストハムはキッチリと守る状況を用意しきれず。バタバタのバックラインに対して、アーセナルは右サイドで解放されたホワイトからファーのジェズスにアシストを決めて先制する。

 息をつくひまもなくアーセナルはさらに追加点。今度は左サイドで1on1の機会を得たマルティネッリがこれを制してファーのウーデゴールにアシストを決めた。

 完璧だったアーセナルの試合運びは徐々にバックラインのショートパスの怪しさでかげりが見えるように。インサイド、アウトサイドのどちらに立っていてもパスが単調で速度が足りていないティアニーのロストから段々とウェストハムがカウンターからチャンスを作るように。

 前線の起点となるアントニオはこの日非常に目立ったパフォーマンスを披露。ホールディング相手に簡単にラインを上げさせないはたらきを見せていた。

 そして、極めつけはトーマスへのプレス。このチャレンジにライスが成功するとPAのパケタへの対応でガブリエウがPKを献上。このPKをベンラーマが決めてウェストハムが反撃に打って出る。

 このゴール以降、アーセナルは比較的簡単にボールを捨てるようになってしまう。ウェストハムとの肉弾戦に臨むことになる機会が増えたアーセナルは徐々に主導権を喪失。セットプレーの嵐に耐え忍ぶ時間が続くことになる。

 後半も同じ流れが継続すると、ウェストハムは同点のゴールをゲット。セットプレーの二次攻撃から右サイドを破ったボーウェンが角度のないところからラムズデールを打ち抜いて見せた。保持で迷子になっていたティアニーはここでも裏を取られてしまうなど、この日の出来は散々だった。

 アーセナルはジョルジーニョを投入し、保持から主導権を握る。だが、保持に主導権を握ることに気を取られてしまってか、トロサールやウーデゴールは過剰に降りていく展開になってしまい、エリア内の人数が足りなくなっていく。PKという3点目の絶好のチャンスを逃したサカはどこか覇気のないパフォーマンスに終始する。

 リバプール戦と同じく2点リードの状況から勝ち点3を逃したアーセナル。追ってくるシティとの勝ち点差は4に縮まることとなった。

ひとこと

 アーセナルのダメさが先に来てしまいがちだけどプレスから主導権を握り返したウェストハムは普通に立派。

試合結果

2023.4.16
プレミアリーグ 第31節
ウェストハム 2-2 アーセナル
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:33‘(PK) ベンラーマ, 54’ ボーウェン
ARS:7’ ジェズス, 10‘ ウーデゴール
主審:デビッド・クーテ

第32節 ボーンマス戦(A)

守備的布陣が実らずまさかの大差に

 残留争いの最激戦区の少し上にいる両チーム。沼の上からは上半身は出ていて、余裕を持って呼吸をできる状態くらいだろう。この両チームの一戦は差し詰め残留争い完全脱出ダービーといったところだろうか。

 いつもと風情を変えたフォーメーションを組んでいたのはボーンマス。4バックではなく後方は5枚である。以前にもこの形は採用したことはあったが、今回はWBの片方にスミスを置く形であり、前回よりも守備的な傾向が強い形である。

 今回のこのボーンマスの形ははっきり言えば裏目に出たといっていいだろう。ボールを持てない、前に運ぶことができない。そしてウェストハムにサンドバックにされる。苦しい状況の連続である。

 そして、先制点を決めたのは一方的に押し込んだウェストハムだった。2トップ脇からボールを運び、セットプレーからあっさりとアントニオが先制ゴールをゲットする。

 追加点もあっという間だった。右サイドのタヴァニアのロストからクロスをシンプルに上げてパケタがゲット。すぐに突き放しにかかる。

 ボーンマスは全く持って全体を押し上げられず。WBが攻め上がる時間を作ることができず。ソランケが全く時間を作ることができなかったのは非常に珍しい。強引に攻め上がったWBからクロスを上げるも、高さのあるウェストハムのバックラインに弾かれてしまい、クリティカルな攻め手にならない。

 20分になると少しずつボーンマスは保持の時間を増やす。だが有効打を打てていたのはウェストハムの方。右のボーウェンからゴリゴリと押し込む形でエリアに迫っていく。ボーンマスはパケタを前にグイっと押し出すウェストハムの4-4-2を前に打開策を見つけることができなかった。

 そして、セットプレーからライスが追加点をゲット。前半のうちに3点差をつけたウェストハムが完全に試合を決めてしまう。

 後半、ボーンマスはムーアを投入し4-4-2に移行。リズムを作りたいところだが、無用なファウルが足を引っ張ってしまい、押し込んでの攻撃が機能しない。さらなるアタッカーの増員で最終的にはアンソニーをSBに入りするが、最後までテンポを戻すことができなかった。

 引きこもってのロングカウンターに専念するウェストハムは72分に追加点をゲット。メファムのパスミスからまたしても右サイドからのクロス。これをフォルナルスがスコーピオンで決めて試合の最後を飾る。パケタのゴールが認められなかったのは本人にとっては残念だろうが、特に問題にはならないだろう。ウェストハムが大勝で残留争いから遠ざかることに成功した。

ひとこと

 ここまで一方的になるとは思わなかったが、言われてみれば全体的にウェストハムがボーンマスの上位互換な気もする。

試合結果

2023.4.23
プレミアリーグ 第32節
ボーンマス 0-4 ウェストハム
ヴァイタリティ・スタジアム
【得点者】
WHU:5‘ アントニオ, 12’ パケタ, 43‘ ライス, 72’ フォルナルス
主審:アンソニー・テイラー

第33節 リバプール戦(H)

TAAの中央移動は花開きつつある

 なかなか上位陣が勝ち点を落とさず、CL出場権争いは厳しい旗色になっているリバプール。しかし、EL出場権を獲得するためにもまだ手を緩める意味合いはどこにもない。

 リバプールは最近お馴染みになっている3-2-5の形を採用。アレクサンダー=アーノルドをインサイドに置く形で組み立てを行っていく。ウェストハムは意外にも高い位置からのプレッシングで勝負に出た。リバプールのバックラインに引っ掛けさせるアクションをするなど、ウェストハムのプレスの手応えはそこまで悪いものではなかった。

 ウェストハムはさらに自陣からのロングボールからチャンスを作って先制点を得る。左サイドに流れたアントニオとベンラーマで深さを作り、マイナス方向に入ったミドルを放ったパケタが先制点をウェストハムにもたらす。

 しかし、リバプールもすぐさま反撃。アレクサンダー=アーノルドのインサイドへの縦パスから起点をつくると、ライン間に入り込んだガクポが同点ゴールを仕留める。両チームともそれぞれの崩しの良さを作ったゴールシーンだった。

 ゴールシーン以降も両チームの攻撃の良さは出ていた。SBの裏をとるWGと中央でロングボールの起点となるアントニオを軸として長いボールを使うウェストハムも、押し込む機会を増やすことで後方のリベロ役と右サイドへの突撃からよりフィニッシュに近いところでの働きという二面性をアレクサンダー=アーノルドが見せたリバプールも、どちらも理想的な攻撃はできていたと言えるだろう。

 後半、いい流れを掴んだのはウェストハム。サイドを軸として早い攻撃を完結すると、先にネットを揺らすことに成功する。しかし、これはボーウェンがオフサイド。スコアはイーブンからは動かない。

 一方のリバプールはポゼッションに固執しすぎていたか中央に攻撃が偏る展開に。チアゴの投入でさらにその成分は高まっており、押し込むがなかなか結果を出せない焦ったい状況が続く。

 そうした悪い流れを変えたのがセットプレーだった。勝ち越しゴールを決めたのはマティプ。直前に大きな決定機を外した彼にはすぐにリカバリーのチャンスが訪れるという幸運が。これを見事に決めてこの日のヒーローに躍り出る。

 終盤、攻め込む機会を作ったウェストハムとしてはチアゴのハンドをとってもらえなかったことは文句をつけたくなったはず。レフェリーチェックの間はヒヤヒヤしたリバプールの面々だが、このハンドがお咎めなしになったことで無事に逃げ切り成功。上位追走の3ポイントをなんとか確保した。

ひとこと

 結果はヒヤヒヤだっただろうが、アレクサンダー=アーノルド型の3-2-5が徐々に形になりつつあることは好印象だ。

試合結果

2023.4.26
プレミアリーグ 第33節
ウェストハム 1-2 リバプール
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:12′ パケタ
LIV:18′ ガクポ, 67′ マティプ
主審:クリス・カバナフ

第34節 クリスタル・パレス戦(A)

ザハ復帰のパレスが乱戦を制する

 激烈な冬場の過密日程を乗り越えて以降は残留争いとは無縁のシーズンを送っているクリスタル・パレス。今節はその立場に一歩でも近づきたいウェストハムとの一戦である。

 パレスのメンバーにおけるトピックはやはりザハの復帰だろう。後方のアンデルセンから放たされるザハへのフィードは彼への信頼感と、前節は懲罰交代気味にベンチに下がることとなったアンデルセン自身の復調のしるしとしての意味合いがこもっていたように思う。

 ボール保持の機会はパレスの方が少し多かったように思えたが、先制したのはウェストハム。セットプレーからのソーチェクの一撃で先手を奪う。その直前のボーウェンのドライブも好プレー。強みをかみ合わせるいいゴールで先にリードを得る。

 しかしながらパレスはすぐに同点。右サイドに君臨するオリーズからのパスをアイェウが沈めてあっさりと追いつく。ウェストハムはこのゴールの直後にズマが負傷交代。いい入りを台無しにする踏んだり蹴ったり展開に苦しめられることになる。

 パレスは勝ち越しゴールも右サイドから。オリーズとアイェウが右から作り最後はザハ。復帰を自ら祝うゴールを決めて、前半の内にパレスが逆転する。

 さらにはパレスは30分にソーチェクのロストから発動したカウンターから3点目。決めたのはシュラップ。パレスはここまでの30分で3本のシュートを全てゴールにするという効率のいい形でウェストハム相手に得点を積み重ねていく。

 苦しい状況のウェストハムだが、アントニオがセットプレーからゴールをもぎ取り1点差に。後半に望みをつなぐことに成功する。

 ウェストハムは攻め手を探る後半。だが、リトリートで落ち着いて受け止める機会が増えたクリスタル・パレスに対して、なかなかシュートまでの道筋を作ることができない。

 むしろ、パレスはカウンターからチャンスを迎えるように。どちらかといえば得意な形から反撃することが出来ていたパレスの方が優勢な後半だったといえるだろう。

 そんな優勢なパレスが再び突き放したのは66分。エゼが自らの突破で生み出したPKを沈めて試合は再び2点差に。

 これで勝負の大勢は決まった。ウェストハムは72分にセットプレーからアゲルトがゴールを奪うが、流れの中からさらなる得点を奪うことが出来ずにそのまま終戦。中位をさまようロンドンダービーは上位のパレスが撃ち合いを制した。

ひとこと

 ザハが帰ってくるとワンランク破壊力が高まる感じがする。

試合結果

2023.4.29
プレミアリーグ 第34節
クリスタル・パレス 4-3 ウェストハム
セルハースト・パーク
【得点者】
CRY:15′ アイェウ, 20′ ザハ, 30′ シュラップ, 66′(PK) エゼ
WHU:9′ ソーチェク, 35′ アントニオ, 72′ アゲルト
主審:クレイグ・ポーソン

第28節 マンチェスター・シティ戦(A)

先制点のノッチさえ入れば

 優勝に向けて連戦連勝でアーセナルを追い詰めていくマンチェスター・シティ。過密日程ながらもその勢いは衰えを知らず、連勝街道を邁進している、今節の相手はすでに残留の地位を固めつつあるウェストハムである。

 当然シティがボールを持ってウェストハムが撤退守備ブロックを組むものと思われたのだが、実際のピッチ上の光景はやや想像と異なる部分もあった。それはウェストハムが高い位置からのプレスに対して色気を出していたこと。狭いサイドに閉じ込め、縦パスのコースが見えてきたら一気にプレスをかけてとらえていく形を狙っていく。

 そして、相手が下がったらラインを回復するために深追いをするプレスにもシティは積極的に対応。ストーンズが1列前に出て行く形の3-2型に対して思ったよりも動きのある対応でプレッシャーをかけていく。

 シティはバックラインで2列目を引き付けながら、その穴を利用していく形で前進する形でウェストハムのプレッシングを無効化していく。左サイドから押し上げる形で中央のミドルを積極的にはなっていくシティ。だが、ウェストハムもプレスと撤退守備の使い分けが十分でシティにスペースを与えないことに専念する。

 ただし、その分ウェストハムの伝家の宝刀のロングカウンターもシティに見切られている感がある。自陣でクリーンにボールを奪い取り、あっという間に自らの攻撃のターンに移行して押し上げるアクションまでたどり着くことができるのはシティならではという感じである。

 試合は後半早々にセットプレーで動く。先制点を奪ったのはシティ。アケのゴールでついに均衡を破る。

 こうなるとウェストハムは難しい。よりボールを奪い取るアクションを増やさなければ勝ち点を獲れる可能性はなくなってしまうからである。ボールを奪い取りに行くアクションを見せるが当然シティからボールを取り上げることはできない。

 得意のセットプレーから勝ち越しを狙うウェストハムだが、これもまた不発。ボールを奪うこと、つなぐことと苦手なことをずらりと並べられてしまうようになった。

 逆に先制点以降からシティはだいぶ楽になった。ウェストハムは得意な状況ではない部分に追い込まれているし、シティ単体を見てもこうしたオープンな打ち合いは歓迎だろう。のびのびとプレーできるようになったシティはカウンターからのハーランドでさらに追加点を奪う。

 仕上げはフォーデンがダメ押しゴールを決めたシティ。後半は堰を切ったようにどーっと人が流れとなり、ウェストハムを撃破。優勝争いにおいてまた一歩ゴールに近づく1勝となった。

 ウェストハムも流れは悪くなかったが、やはり先制点を奪い取られたとことからだろう。苦手なことを強いられた結果の失速は残念だが、納得感はある。

ひとこと

 ウェストハムも流れは悪くなかったが、やはり先制点を奪い取られたとことからだろう。苦手なことを強いられた結果の失速は残念だが、納得感はある。

試合結果

2023.5.3
プレミアリーグ 第28節
マンチェスター・シティ 3–0 ウェストハム
エティハド・スタジアム
【得点者】
Man City:49′ アケ, 70′ ハーランド, 85′ フォーデン
主審:ジョン・ブルックス

第35節 マンチェスター・ユナイテッド戦(H)

デ・ヘア痛恨のミスが尾を引く敗戦

 試合は少し意外な立ち上がりだったといえるだろう。マンチェスター・ユナイテッドが自陣からレイオフを連打で前進するのはそれなりに想定内である。いつもに比べると、ややポストプレーを使う割合は多かったかもしれないが、トップ下的にベグホルストを使うという時点でそうしたプランは十分に想像できるだろう。

 より意外だったのはウェストハムである。細かいパスワークからマンチェスター・ユナイテッドのプレス隊を引きつけてからリリースをしながら前進するというビルドアップを行っていく。あまりキャラではないと思うのだが、時間とスペースを前に送るような形はマンチェスター・ユナイテッドの守備陣に対してそれなりに通用していた。

 ウェストハムの意外性は面白かったが、より前進が確実だったのはマンチェスター・ユナイテッドの方だろう。ベグホルストの前にラッシュフォードがいることでポストからフリーマンを作った後にフィニッシャーを創出するのが無理なくできる。右サイドにはアントニーもいて、高い位置で相手の最終ラインを固定しながらマイナスのパスからミドルシュートのチャンスを作る場面もあった。

 ビルドアップも最終ラインが代わる代わる列上げをするという変則的なもの。ウェストハムは徐々にプレスの積極性が失われていき、少しずつ前進の機会が奪われていく流れとなった。

 そんな中で先制したのは意外にもウェストハム。根性でつないだボールはカウンター気味にベンラーマの下に。抜け出し切れていた状況ではなかったのだが、ひとまず打ったシュートをデヘアがこぼしてしまいそのままゴールイン。マンチェスター・ユナイテッドとしてはかなり可能性の薄いところからの失点となってしまった。

 その後もベンラーマは単発で攻撃の機会をウェストハムに提供。マグワイアはあわやハンドを取られてもおかしくないシーンがあったが、VARが下した判断はおとがめなしだった。

 リードをしたこともあり、ウェストハムは後半もロングカウンター主体のスタイルを継続。マンチェスター・ユナイテッドはつなぎのポイントを作りながらシュートパス主体の前進で少しずつ前に進んでいく。

 ウェストハムはセットプレーからの追加点と思わしきシーンもあったが、これはアントニオのファウルでノーゴール判定。それでもカウンター主体で攻撃に出る機会は十分に確保できていたとするべきだろう。

 ベグホルストの交代以降は前進のスムーズさにかけたマンチェスター・ユナイテッド。最後は空中戦に打って出るがこれも不発。逃げ切り体制に入ったウェストハムの背中を最後まで捉えることが出来ず、痛い黒星を喫してしまった。

ひとこと

 デ・ヘア、たまにこういうのありますよね。

試合結果

2023.5.7
プレミアリーグ 第35節
ウェストハム 1-0 マンチェスター・ユナイテッド
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:27′ ベンラーマ
主審:ピーター・バンクス

第36節 ブレントフォード戦(A)

逆転のカンファレンスリーグ出場を目指して

 トップハーフの座を固めてわずかながら欧州カップ戦の出場枠の残り1席の権利が見えてきたブレントフォード。カンファレンスリーグに出場できる可能性が彼らには残されている。今節の対戦相手は残留をほぼ手中に収め、今季のプライオリティをそのカンファレンスリーグに移しつつあるウェストハムである。

 序盤から両チームのスタンスは対照的。ブレントフォードがローライン気味に構える4-5-1を敷いている一方で、ウェストハムは比較的高い位置から追いかけていく立ち上がり。ブレントフォードの大きく開くCBとGKのところからのボール保持を積極的に阻害していく。

 ブレントフォードは高い位置からのウェストハムのプレスを余裕を持って回避。強いプレスにも屈せず、広い距離を取り続けたため、大きく横に振るアクションにウェストハムがついていけなくなる。

 ウェストハムのボール保持はなかなか活路が見出せない。ブロックの外でボールを持つ選手ばかりで、肝心のブロックの中に侵入できるアクションがなかなかない。キッカケを掴めない中で強引にインサイドに繋いだボールからショートカウンターを発動させたブレントフォード。ムベウモが仕上げを担当し、先制ゴールを奪う。

 1失点目を喫したことでハイプレスを行っていきたいウェストハム。だが、ボールを取れる手応えがなかったのか、失点の少し前から徐々にプレスの出足は鈍っていくことに。失点をトリガーに再び敵陣で追いかけ回すアクションを行うことはできなかった。

 押し込むとサイドラインからのロングスローという擬似セットプレーを行うことができるブレントフォード。追加点はそのロングスローから。ウィサのゴールで前半のうちにリードをさらに広げる。

 2点のリードを得たブレントフォードだが、後半はさらに強気にウェストハムを高い位置のプレスから攻め立てる。押し込んでのワンサイドゲームを作りながら、セットプレーで更なる得点を狙いにいく。

 前から出てきてくれた分、ウェストハムにはカウンターのチャンスが出てくる。ブレントフォードの背後のランができるよう、前線の選手をリフレッシュしながらカウンターの機会を伺っていく。

 その前線ではベンラーマのクロスからイングスがネットを揺らすことに成功する。しかしながら、直前にシュートを放ったムバマがハンドを犯しており、これは取り消し。ゴールを掴むことはできなかった。

 テンポアップしてハイプレスも再開したウェストハムだが、ペースを引き寄せることはできず。試合は残り時間も着実に過ごしたブレントフォードが逃げ切りに成功。欧州カップ戦に望みをつなぐ1勝を手にした。

ひとこと

 手堅いショートカウンターから先制点を奪い、したたかにセットプレーから追加点を重ねる。トニー不在でも地力のある試合運びを見せたブレントフォード。その姿はさしづめ数年前のウェストハムのようだった。

試合結果

2023.5.14
プレミアリーグ 第36節
ブレントフォード 2-0 ウェストハム
ブレントフォード・コミュニティ・スタジアム
【得点者】
BRE:20′ ムベウモ, 43′ ウィサ
主審:マイケル・オリバー

第37節 リーズ戦(H)

終盤は身動きが取れず

 残留争いに向けて崖っぷちのリーズ。ビッグサム就任でやたらと雰囲気は明るくはなったが、いまだに勝利はなく監督交代ブーストをかけられたとは言い難い。ひと足先に残留争いの苦しみから脱出したウェストハム相手にはなんとか勝ち点3を取りたいところだ。

 それぞれのスタンスから前進のきっかけを見つける立ち上がり。ウェストハムはサイドからのズレを使いながら相手のSBを手前に引き出しつつ、背後を狙う動きを見せる。

 一方のリーズはより直線的。CFのバンフォードを最終ラインのサイドの背後に送り込むことで、一気に前進を狙っていく。

 先手を取ったのは押し込んでからのセットプレーを生かしたリーズ。お馴染みとなりつつあるマッケニーの変則ロングスローにバンフォードが合わせる形で喉から手が出るほど欲しかった先制点を決めた。

 ウェストハムは失点の少し前の時間帯から徐々にボール保持の時間を増やしていった。CHがサイドに流れたり、2列目が降りてくるアクションを見せるなど、先に示したサイドのギャップ作りに力を入れていた。だが、逆サイドを使うなどの相手の守備を広げるアクションがないため、やや窮屈さが目につく。

 それでもワンツーから動力をつかんで相手の陣内に侵入することに成功したボーウェンが同点ゴールのお膳立て。大外に合わせるライスをエイリングが捕まえることができず、リーズは同点を許す。さらにはこのプレーの直後にバンフォードが負傷交代。リーズは同点ながら追い込まれた雰囲気が出てくる。

 中央に起点を作れなくなったリーズは左右にボールを振りながらのチャンスメイクを行う。しかしながら、ウェストハムのサイド封鎖の守備は完璧。閉じ込め方が秀逸でリーズはここからクロスを上げることができなかった。

 同点以降は一方的にボール保持ができたリーズだったが、ポゼッションが主導権に繋がらない。追いついたウェストハムの巧みさが際立つ前半だった。

 後半もリーズがペースを握れない展開が続く。ハリソンがサイドから抜け出すタイミングを探るなど、変化をつけながらきっかけ作りを狙っていく。

 リーズはそれに伴って前からのプレスも強化。だが、これもウェストハムがゆるりと回避してロングボールに繋げるなど勝ち越しゴールに向けた後押しにはならなかった。

 60分を過ぎるとウェストハムは反撃に打って出る。押し込んでからのクロスとセットプレーの連打で徐々にリーズ陣内に入り込む時間を増やしていく。

 押し込んだウェストハムはライン間のイングスからボーウェンの抜け出しに合わせて勝ち越し。ギリギリオフサイドにならないタイミングの抜け出しからついにリードを奪い取る。

 2失点目で苦しくなったリーズは捨て身のプレスで終盤をオープンに持ち込んでいく。しかしながら、この状況をうまく活用したのはロングカウンターでの武器が充実しているウェストハム。決定的なカウンターの機会を作りながら、リーズ以上の質と量のチャンスを作り出していく。

 そしてトドメを刺したのはランシーニ。追加タイムの一撃でリーズの勝ち点奪取を完全に打ち砕いて見せた。

 破れたリーズは18位で最終節に突入。ホームでトッテナムに勝たなければ残留の道は無くなってしまう。

ひとこと

 先制できた直後に雑談で爆笑していたビッグサムは死亡フラグ過ぎた。

試合結果

2023.5.21
プレミアリーグ 第37節
ウェストハム 3-1 リーズ
ロンドン・スタジアム
【得点者】
WHU:32′ ライス, 72′ ボーウェン, 90+4′ ランシーニ
LEE:17′ ロドリゴ
主審:ピーター・バンクス

第38節 レスター戦(A)

封じられた歓喜

 残留には他会場の勝敗が絡むことになっているレスター。まずは最低限自分たちが勝つことをしなければ扉は開かれることはない。

 プレッシングに関しては非常に慎重な入りだった両チーム。どちらもCBにボールを持たせつつ、アンカーはきっちり管理するというスタンス。レスターは後方の司令塔役としてティーレマンスをアンカーに置く布陣だったが、ここをウェストハムはきっちりと封じて見せた。

 そうした状況のため、打開をするのにはバグが必要になってくる。両チームの中で最もバグとして機能しやすかったのはレスター右のWGであるマディソン。インサイドに入り込み、中盤の4人目として顔を出すことでウェストハムの基準をずらす。

 ここから少ないタッチでボールを展開するレスター。ウェストハムも降りるパケタをきっかけに攻撃を仕掛けていくが、よりその先の展開を作れていたのはマディソンの方だった。

 中盤にズレを作った後はいかにワイドにいい形でボールを届けるか合戦。その点で成功したのはレスターの方だった。イヘアナチョを壁に使ってワンツーで抜け出したのはバーンズ。苦しい試合でも少ないチャンスを生かしてきたバーンズの一撃でレスターは先行する。

 リードを得たレスターは4-5-1フラットの陣形で受けに回る。ウェストハムは苦手なボール保持に挑まなければいけない構図を突き付けられることに。これはレスターにとっては理想的な展開だろう。

 レスターはウェストハムのポゼッションを受け止めつつロングカウンターで反撃。マディソンをカウンターの運び屋として使い、ウェストハムより多くのチャンスを作り出していく。

 するとセットプレーからレスターが追加点。ファエスのゴールでリードを確固たるものにする。

 だが、直後にホームファンの歓喜は鎮まることに。エバートン先制の一報が入ったのだ。これにはノリノリのウェストハムファン。彼らのテンションに呼応するようにフォルナルスがゴールを決めて1点差に追い上げる。

 以降はレスターががっちりと保持して試合をコントロール。しかし、グディソン・パークからの吉報は届くことなくそのまま試合終了のホイッスル。勝ったものの残留の要件を満たせなかったレスター。プレミア優勝も経験したプレミアライフについに別れを告げることとなってしまった。

ひとこと

 今日よりも前の日に後悔が残るレスター。最終戦の内容をもう1回どこかでできていれば結果は違ったかもしれない。

試合結果

2023.5.28
プレミアリーグ 第38節
レスター 2-1 ウェストハム
キング・パワー・スタジアム
【得点者】
LEI:34′ バーンズ, 62′ ファエス
WHU:79′ フォルナルス
主審:サイモン・フーパー

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