■起点を作れない攻撃は反撃材料になる
J1の首位攻防戦となったこの試合。立ち上がりからロングボールの応酬となった。およそ10分ほどは両チームとも蹴り合いの状態が続き、試合は落ち着かない形となった。
そうなった理由の1つはこの日の日産スタジアムの芝だろう。夏のライブシーズンを過ごした後の芝は所々に茶色い土が表出しているかのような状況に。ビックマッチにおいて繋ぐのは危険という判断になってもおかしくはない。
ただ、そもそも鹿島側はこうした形で試合を進めたかったということがある。サイドに流れる鈴木優磨へのロングボールを軸として、長いボールを放り込んでいく形は開幕からそもそも行っていた形。それを尖らせる形でこの日は徹底していた。
互いにバックラインへのプレッシャーが強かったこともあり、無理のない長いボールの応酬となった序盤戦。その流れから徐々に脱出したのは横浜FMだった。左サイド大外に起点を作りつつ、エウベル、永戸を軸に喜田と西村が絡んでいく形でレーンを分けながら起点を作っていく。
この試合を通して言えることだが、とりわけ大外にボールがある時のホルダーへの選択肢の作り方は非常にスムーズ。左サイドに限らず、サポートする選手、横に立つ選手、抜け出す選手などホルダーに複数の選択肢を作りながら無理なくポジションを入れ替えて敵陣に迫っていく。この辺りはチームとして積み重ねた練度と言える部分だろう。
鹿島の攻撃はそれに比べると単調ではあるが、鈴木優磨はボールを収めて前進させることに関しては分かっていても止められないところがある。なんでもないロングボールでも相手に体を当てながら自分に有利な状況に引き寄せていく形からチャンスを作るのは流石である。
ただ、上田という典型的なストライカーを失ってなお、鈴木がサイドに流れまくる役割を担い続けてしまうと、ボックスでは誰が勝負するの?という点で疑問が残る。クロスに対しても鈴木はファーで待ちながら折り返すパターンが多く、彼のプレーは基本的にもう1人ストライカーがいる前提で動いている感じがしており、それがこの日のスタメンとはミスマッチ。土居やカイキは頑張っていたが、その役割を全うできたとは言い難かった。
そうした中で先制したのは横浜FM。スンテのゴールキックは今日の鹿島の戦い方を考えるとミスに分類されても仕方ないもの。これを岩田に跳ね返されてしまい、ロペス→エウベルとボールがつながり先制する。ゴールキック以降であえて指摘するのならば、ロペスに対応した関川か。個人的には外に流れるCBは他の選手に比べてクロスを上げさせてしまうことを許容できる水準がかなり高く設定したい。スクランブル対応気味とはいえ、このシーンではあまりにも簡単にクロスを上げさせてしまった。
この日の横浜FMは失点シーンの鹿島のような中途半端なアバウトさは素早いネガトラで全てカウンターとして反撃に持っていく力があった。ロングボールで明確な起点を作れない鹿島は段々と横浜FMにカウンターの機会を提供する流れになっていく。
個人的に不思議だったのはエヴェラウドを投入した時間を皮切りに鹿島はショートパス基軸の崩しにシフトしたこと。てっきりロングボールで主導権を握りにいくのかと思いきやそういうわけでもなかったのでちょっと気になった。人選とのミスマッチ感。
短いパスを使った崩しに関しては明らかに横浜FMに分がある。後半も鹿島のボールロストを起点としたスピードアップから多くの選択肢を作る。セットプレーが起点となった岩田のミドルの2点目以外にも、横浜FMは90分間を通して常にチャンスを作り続けた。
大一番で鹿島に決定的な違いを見せつけた横浜FM。スコア以上の差を見せつける形で、首位攻防戦を制した。
試合結果
2022.7.30
J1 第23節
横浜F・マリノス 2-0 鹿島アントラーズ
日産スタジアム
【得点者】
横浜FM:36‘ エウベル, 51′ 岩田智輝
主審:谷本涼