■勝者不在のルサイル・スタジアム
グループCでの現在の順位は3位と4位。今の状況で言えばともにグループステージ敗退ではあるが、混戦のグループCでは共に突破の可能性を残している。
勝利すれば自力突破のサウジアラビアの方が現状では厳しい状況。前線以外は各ポジションに離脱者が出ており、両SBができるアブドゥルハミドがCHを務めるという状況。欲を言えば、彼をあと2人両方のSBとして起用したいくらいやりくりが厳しい。ベンチメンバーの少なさがサウジアラビアのスカッドのハードさを表している。スカッドが苦しい上に引き分けでもOKの可能性があるというサウジアラビアに比べると、条件は厳しいが勝利しか道がなかったメキシコの方がやるべきことはスッキリしていたかもしれない。
ボール保持では互いにルートを見つけることができていた。メキシコはアルバレスがアンカーに下がり、バックラインは横に広く幅を取っていく。サウジアラビアのSHはメキシコのSBの動きについていったので幅を取るCBはフリーでボールを持ち上がることができる。このおかげでメキシコの保持はだいぶ安定していた。
サウジアラビアはメキシコの強気のプレスの裏をかく形。バックラインでのボール回しから、2列目を引き出すと中盤のギャップを活用しての前進を行っていた。
前線のキーマンになったのはカンノ。アバウトなボールでも収めることができるカンノのキープ力から厚みのある攻撃を繰り出していく。カンノとアブドゥルハミドは普段と異なる起用法ではあったが、問題なくクオリティを発揮することができるあたり、タレントとしての能力の高さを示している。
しかしながら、前進のきっかけをより作っていたのはメキシコの方。サウジアラビアのボール保持を咎めた結果のポジトラからチャンスを作る。メキシコの2列目の機動力は強烈で、サウジアラビアの高いラインの裏をかき回しながら決定機を創出し続ける。
ボールを保持している局面でもメキシコはサウジアラビアのラインの裏を狙っていく。ボールを回していく部分と背後を狙う部分、メリハリをつけながらメキシコは敵陣深い位置まで攻め込んでいく。即時奪回も決まっているメキシコに対して、サウジアラビアは自陣から脱出することが困難に。ペースは明らかにメキシコに傾いていた。
後方早々に結果を出したのはメキシコ。セットプレーからマルティンが押し込み、ようやく優勢な内容をスコアに反映することに成功する。
しかしながら、この段階で他会場ではアルゼンチンが先制。両チームにとって追い落とす対象がアルゼンチンからポーランドに変化する。となると、メキシコに重要なのは得失点差である。ここまで無得点のメキシコにとっては試合開始時点であった4という得失点差を埋めなくてはいけない。
というわけでラッシュをかけていくメキシコ。52分にはチャベスのスーパーなFKも飛び出して、スタジアムのムードはメキシコにとっては非常にポジティブなものになった。
サウジアラビアの状況もメキシコの後押しになる。彼らは他会場の結果に関わらず、勝利をすることができれば自力で突破が可能。2点ビハインドだろうが、前に出ていく姿勢は止める理由がない。むしろ、点差が開く分、欠けるリスクは大きくなっていると言えるだろう。前からのプレスはより強くなる。
両チームの利害が一致した共に間延びしながら攻め合うという状況は前線の機動力で明らかに有利なメキシコの土俵。サウジアラビアのハイラインをロサノを中心に食い荒らしながら得点のチャンスを量産。中にはネットを揺らす場面もあったが、これはオフサイドで取り消される。関係ないけど、テクノロジーがある分、メキシコの選手たちはオフサイドの後の次のプレーに集中できるように見えた。どの判定も副審のジャッジは正しかったのだけど、この辺りは選手たちの納得感が大事なのだろうと思う。テクノロジーが担保してくれるのは納得感だ。
ロサノのアジリティ、マルティンのターン、そして更なるチャベスのFK。あらゆる手段でサウジアラビアのゴールに迫っていくメキシコ。アルゼンチンの助けもあり、最後はあと1ゴールで突破ができる状況まで漕ぎ着ける。
だが、最後までその1ゴールを奪うことができないメキシコ。明らかにもうグロッキーだったサウジアラビアなんだけど、アルゼンチン戦のように限界となった状況から粘る力がすごい。95分に決めたゴールもメキシコの突破条件には理屈の上では影響はないのだけど、ガックリと来させる効果は十分にあった。
激闘の末に最後の1点を許してもらえなかったメキシコ。ルサイル・スタジアムには勝者がおらず、互いにグループステージ敗退となる両チームの悔しさだけが残る結果となった。
試合結果
2022.11.30
FIFA World Cup QATAR 2022
Group D 第3節
サウジアラビア 1-2 メキシコ
ルサイル・スタジアム
【得点者】
KSA:90+5′ アッ=ドーサリー
MEX:47′ マルティン, 52′ チャベス
主審:ダニー・マッケリー