■降りる選手を無効化する両チームの壁
初ウェールズとドローで初戦を終えたアメリカの2戦目の相手はイングランド。英国勢との連戦という極めて珍しい状況である。激レアさん。一方のイングランドは連勝でグループステージ突破を決められる。アメリカに勝利し、突破一番乗りを果たすことができるだろうか。
まず、目についたのはアメリカのフォーメーション。前節は似たメンバー構成で4-3-3だったのだが、今節は明確にウェアを前に出しての4-4-2でのプレッシングとなった。イングランドのCBには比較的自由にボールを持たせる形にしている。
その分、アメリカが警戒するのは中盤にボールが入る形。FW-MF間にボールが入ればFWとMFで挟む形を作れるし、MF-DF間にボールが入ってもMFとDFで挟む形を作ることができる。これによってイングランドのトップの降りる動きはほぼ無効化されることとなった。
獅子奮迅の活躍を見せていたのはアメリカのCHの2人。アダムスとムサの2人はどこまで前に出ていくか、後ろに挟みに下がるかの匙加減が絶妙。特にアダムスは抜群のパフォーマンスで前後半を通してピッチのあらゆるところに顔を出しながら、イングランドの前進を詰まらせることに貢献していた。
となると、イングランドの前進のプランはプレッシャーのないCBからボールを前に運んでいくか、プレッシャーを受けてる選手たちが少ないタッチでコンビネーションを見せるかとなる。前者に関しては比較的絶望的だったので、期待がかかるのは後者。この日のフィーリングが良かったのは右サイド。トリッピアーの後方からのボールをベリンガム、サカが滑らかに繋いでチャンスを作ったシーンはこの日のイングランドの中でも有数の崩しであると言えるだろう。
しかしながら、こうした連携が見られるのは数える程。アーセナルファン目線からすると、サカは独力でも破壊力はあるけども、味方と連携することでさらに強くなれる選手。ベリンガム、トリッピアーとの関係性を増すことが先のラウンドで更なる活躍を見せる鍵になるはずだ。
降りる選手は捕まっており、時間をもらった後方の選手はその時間を使うことはできない。その上、裏抜けの動きが少ないとなれば攻撃の停滞は必然だろう。序盤の右サイドからの決定機以外はチャンスを作るのに苦心したイングランドであった。
一方のアメリカも似たジレンマに陥っていたと言えるだろう。イングランドのプレスが降りてくる選手たちに厳しいのも同じ。ライスとベリンガムという非保持で大いに貢献できるCHがいるのも同じ。降りるアメリカの選手は簡単に時間をもらえる状況ではない。
イングランドとアメリカの違いがあるとすれば、時間がもらえたCBがボールを運ぶことができたことである。主役となったのは左のCBであるリーム。バックラインからのドリブルでロビンソンと連携し、サカの前後のスペースを積極的に使っていく。
ロビンソンにフリーでボールを渡すことができれば、アメリカの左サイドにはズレが生じる。スターリングに比べて、プリシッチが前を向く機会が多かったのは、そこに至るまでのビルドアップルートも大いに関係があると言えるだろう。
左サイドから作った時間を使い右サイドに展開。ここからアメリカはクロスを上げていく。エリア内にボールを入れることができたアメリカだが、ここはイングランドのバックラインの強さが立ちはだかる。アメリカもまたアタッキングサードでは有効打を見つけられない状況が続いていた。
イングランドは前半途中にサカがポジションを下げる選択をしたため、アメリカは序盤にできていたズレを享受することができなくなる。後半はより前半よりも静的なポゼッションから前進する目は少なくなったと言えるだろう。
後半においてはトランジッションからチャンスを迎える両チーム。ライス、アダムスなど壁となる選手がより際立つ展開に。サイドにカバーに行くアダムスと折り返しのマイナスのクロスをことごとくカットしまくるライスは異なる形ではあるが両チームの壁として君臨していた言えるだろう。
バックラインから厳しく追う!という状況は続いていた両チーム。アメリカの対応で少し気になったのはケインに対しても普通のプレイヤーと同じくらいの警戒度で接していたこと。マウントにワンタッチで落としたシーンのように、ケインは1人背負うくらいであれば、こうしたプレーが簡単にできる選手。アメリカは降りる選手に対しては挟んで対応が理想だが、当然間に合わない時もある。それでもケインに対しては2人で挟むというVIP待遇を継続したかったところではある。アメリカの平等さは悪い意味で気になった部分である。
終盤、イングランドはグリーリッシュの投入でアクセントをつけていく。降りて受けて運ぶということに関して、少なくともイングランドのワイドアタッカーの中では最も優れている選手だろう。普段のプレーを活かして左サイドからチャンスを作っていく。なお、選手交代に関してはベリンガムを下げたことやフォーデンよりもラッシュフォードを優先したことには疑問の余地が残る人もいるだろう。
アメリカの対応も素早い。即座にムーアを突っ込むことで再び高い位置から捕まえにいく意識をアップ。イングランドの起点を潰しに行く素早い応手と言えるだろう。
両チームのCHを軸にしまった好ゲームとなったが、互いに決め手に欠いたのも事実。痛み分けという結果は内容を十分に反映したものと言えるだろう。
試合結果
2022.11.25
FIFA World Cup QATAR 2022
Group B 第2節
イングランド 0-0 アメリカ
アル・バイト・スタジアム
主審:ジーザス・ヴァレンズエラ